1. ‘スーパーノート‘とは何か?
貨幣を偽造しようとするものは、高い原価でするわけはない。たとえば10円硬貨の納品価格は20円以上かかっている。20円以上かけて10円硬貨をつくることはありえないだろう。したがってノート(note)すなわち、紙幣を作ることになる。外形だけ作るのであれば、子供でもできる。ところがここに偽造紙幣があるとしよう。
本物と比べて見分けがつかず、尚且つ識別機さえも通してしまうほどの物がある。このようなものを“スーパーノート”または“スーパードル”という。したがってわかりやすい概念で“スーパーノート”とは“超精密偽造紙幣”のことをいう。
2. どの国の紙幣でも精密に偽造されれば“スーパーノート”と呼ぶのか?
世界で最も多く偽造されている貨幣は米国ドル(US Dollar)である。
その理由は第1に、世界のどの国でも流通可能な紙幣であるためだ。偽造紙幣は世界各国で流通可能だ。紙幣識別能力が劣る非先進国や紛争地域、犯罪多発国家などで使うと安全に(?)流通させられる。
第2は、米ドルには100ドル紙幣がある。これは相当な高額券であり、万一偽造に成功すれば莫大な利益を得ることができる。したがって偽造犯、それも大きく儲けようとする犯罪者らは米ドルをターゲットとすることになる。このようにスーパーノートは“精密に偽造された米国ドル紙幣”をいう。
3. 20ドル、50ドルの“スーパーノート”もあるのか?
勿論、20ドルや50ドル、しいては1ドル紙幣さえもあるが“スーパーノート”とは“米100ドル券超精密偽造紙幣”をいう。
4. 正確にはどのくらいの物を“スーパーノート”とよぶのか?
明確な基準はない。近来“‘スーパーノート‘級に該当する”といわれるほどの偽造紙幣製造能力が格段に高まった。スーパーノートは発見された年度によりスーパーノート(1994年)、スーパーk(2003年一連の番号がkから始まるため)と呼ばれグレードアップされている。
‘スーパーノート‘がはじめて発見されたのは1990年代の始めである。それ以前の100ドル紙幣は作りが粗雑で識別機でより分けることができたが、最近のスーパーノートは簡単に通過してしまう。そうであれば識別機さえ通過すればスーパーノートというのか?かならずしもそうとはいえない。
偽造を防ぐため各国の紙幣には、さまざまな防止技術を駆使してきた。日本では偉人の肖像画を表にしているが、裏の白い空間をかざすと透かしてある、隠れた絵が見える。 これが識別機を通過したといって、スーパーノートといえるのか? 最初はそう呼んだが、今は違う。 また、偽造紙幣防止技術として特定の文字や数字、点字等を出っ張らせて印刷することができる。触って初めて感じるほどの出っ張り、このような特殊な印刷技術を備えて作られた紙幣もスーパーノートとはいえない。近頃の偽造犯らは、この程度はこなしてしまう。
最近の‘スーパーノート‘は、紙幣の中に隠された微細な文字―一般的な印刷機では消えてしまうーを備えると共に、見る角度により色が変化する技術を備えている。このような特殊なインクを‘時変角インク‘といい、大変な高額で購入経路も非常に厳格に管理されている。今のスーパーノートを作る犯人らは、このインクを購入する能力を備えているということである。
より進んで、最近発見された‘スーパーノート‘は紙幣の一連番号まで全部別々だ。これは驚愕的なことである。普通一般的な偽造紙幣は紙幣の番号がみな同じだ。これは、同じ版に紙を複写するためだ。 ところが番号が全て違うということは、版をそれだけ大量に備えているということだ。これほどの財力と途方もない規模の施設を運営することができるということは、ある個人ではなく集団、それも相当な水準の組織力を備えた集団でなければ不可能なことである。ここに至り、アメリカ財務当局も座視することはできないと決断したという。
5. スーパーノートを“北朝鮮製超精密100ドル券偽造紙幣”と断定してもいいのか?
前までの1,2,3,4番を総合してみよう。
単純な意味での‘スーパーノート‘とは、超精密100ドル券偽造紙幣のことを言うのが社会的概念だ。ところが最近では、‘現実的な‘概念として‘北朝鮮製‘という意味が追加されてきた。北朝鮮以外でスーパーノートが製造されると疑われる個人や集団が現れれば状況が変わるが、現在北朝鮮は世界で唯一‘スーパーノート製造処‘と呼ぶことの出来る国家である。
6. それが北朝鮮で作られたという証拠があるのか?
証拠には‘状況証拠‘と‘物的証拠‘がある。多くの場合、この二つを検証、積み重ねたものが総合的な証拠となる。
例をあげてみよう。殺人事件がおきた。警察が現場についたとき、Aという男が血のついた刃物を持ったまま被害者の死体の横に立っていた。 Aを犯人といえるのか?
様様な状況上、彼を犯人として逮捕調査しうる妥当性があると思われる。しかし彼を真犯人と決め付けるには、さらなる追加証拠が必要である。刃物に付いた血が被害者のものなのか確認すべきだろう。Aは食肉店経営者で近くの店で肉を切っている途中、悲鳴を聞いて駆けつけて来た可能性もあるのだ。
刃物に付いた血と、被害者の血が同一ならばAが犯人なのか?いや違う。Aは偶然現場にいあわせたところ、犯人がわざと刃物を彼に握らせて逃亡したことも考えられ、あるいは悲鳴を聞いて駆けつけ無意識のうちに刃物を手にしたとも考えられる。 または、悲鳴を聞いてかけつけて見たところ、倒れている被害者に普段から恨みを持っていたため、死んだ被害者をさらに何度か刺したのかも知れない。 いずれにせよ様様な見方によりAが単独犯か共犯か、主犯か従属犯か、もしくはAも被害者である可能性までも検証すべきであろう。
‘スーパーノート‘が北朝鮮製だというと“証拠を出せ”と声を荒げる人々は、冷静に考えてほしい。今まで北朝鮮は“殺人現場で血の付いた刃物を持って立っていた人”と同じだ。
‘スーパーノート‘が大量に摘発されたところには必ず北朝鮮人がいた。それも‘北朝鮮外交官旅券‘所持者である(逮捕者は数知れない)。実際、このことひとつだけでも状況証拠としては十分である。特に最近アメリカは、北朝鮮が時変角インクと特殊印刷機、特殊用紙などを購入した証拠を持っているという。
“もっと確実な証拠を出せ”という人がいるが、通常殺人事件の容疑者と断定する場合、犯人が殺人を犯す場面の写ったビデオを証拠として決めるのではない。状況証拠が十分で、容疑者が自白し犯行を認めれば眞犯人といえるのである。
北朝鮮が偽造紙幣を製造している‘明白な証拠‘を出せという人々は、北朝鮮の印刷工場で偽造紙幣を作っている現場を見なければ信用できないと言っているのか何なのかわからない。
7. 北朝鮮は強く否定しているが?
状況証拠は十分だが、容疑者が強行に自分の犯行を否認する場合、これを認めさせるには2つの方法がある。 “この容疑者が真犯人”である、と一般的理性を持った人間であれば誰でも信ずるに足りるような証拠を出すことだ。犯人がどのように否認しようが法的審判を免れることは出来ない。
もうひとつの方法は、犯人を懐柔することだ。最後まで否認して強い処罰を受けるか、または素直に自白し‘情状酌量‘を受けるか選択するよう求めるのだ。
今、アメリカの対北朝鮮政策は上の二つを結び付けている。主要国に北朝鮮の偽造紙幣製造関連証拠を提示し、北朝鮮を圧迫する一方、北朝鮮を処罰するのでなく 不法行為を中断させるのだといいながら、“いままではいいから、これからは見逃さない”という強いメッセージを送っている。
したがって、いま金正日は重要な選択の岐路に立たされている。▲その間の‘状況証拠‘について明確な解明をする方法 ▲一部盲動分子の所業と言い訳してもともかく認め、今後はしないと宣言する方法 ▲ただ黙って偽造紙幣を作らない方法 ▲かまわず偽造紙幣を製造する方法。
金正日が正常な判断能力を持つ人間であれば、偽造紙幣製造を止め、ほとぼりが冷めるのを待つ方法を選択するであろう。 アメリカは近いうち新たな100ドル紙幣を発行する予定だ。これにさえ偽造スーパーノートが出回るのかどうか、‘北の変化‘の判断基準となるだろう。
1996年 アメリカは100ドル紙幣の図案を68年ぶりに変えた。‘スーパーノート‘のためだ。今回また変える。また‘スーパーノート‘のためだ。アメリカにとって北朝鮮は頭の痛い連中である。