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金正恩の2017年新年辞を読み解く

コリア国際研究所 朴斗鎮
2017.1.5

 今年の朝鮮半島は、北朝鮮の金正恩委員長が「新年の辞」で核・ミサイル能力の向上を誇示したかと思えば、韓国では新年の記者懇談会で朴槿恵大統領が、「弾劾訴追案」を全面否定する対応を見せた。崔順実容疑者に操られ「お告げ外交」をしていたなどとする朴大統領に対する「デマと誤報」などが明らかにされるにつれて左派中心の「ろうそくデモ」に対する右派のデモも熱を帯び始めている。
 右派の論客趙甲済氏は「今韓国はセオル号のように左に傾いている。この結果をもたらしたのは朴大統領の失政もあるがデマと誤報を垂れ流したメディアによるものだ」としながら、憲法裁判所が朴大統領弾劾訴追案を棄却すれば、今以上の左暴風が予測される。また、承認されればわれわれは戦わなければならない。決戦場は大統領選挙だ」と檄を飛ばした。年末の韓国デモでは左右の対決が激化する気配を見せる中、一部デモ隊の衝突で右派側に負傷者まで出ている。
 韓国が混乱する今年、北朝鮮の挑発が露骨化することが予想されている。韓国外交部の尹炳世(ユン・ビョンセ)長官は2日、新年を迎え記者団と懇談し、昨年に続き北朝鮮の挑発の可能性が高くなるとの認識を示した。
 朝鮮半島の激動は避けられない状況となった。朝鮮半島の民主主義勢力が強化され東アジアの平和と安定が促進されるのか、それとも混乱に乗じて独裁勢力が緊張を激化させるのかは今のところ不透明だ。どちらにせよ一つの分岐点にさしかかっていることは間違いない。
 こうした情勢の中で北朝鮮金正恩委員長の「新年辞」が注目されていたが、相変わらず核ミサイル一辺倒で新しいビジョンは見当たらなかった。ただ自分の能力不足を認めるような発言があったことは驚きだ。しかしこれも幹部に対する自己批判(粛清を含む)を促したものと推察される。

1、新年辞で言及された昨年の成果

 金正恩委員長は1日正午(日本時間午後0時半)、朝鮮中央テレビを通じて今年も読み上げる形で「新年の辞」を発表した。
 金委員長は昨年について、2016年はわが党と祖国の歴史において特記すべき革命的慶事の年、偉大な転換の年だとしながら、朝鮮労働党第7回大会が開かれたことを「成果」の最初に挙げた。そして成果の具体的内容については核実験やミサイル発射を繰り返したことを挙げ、「昨年、主体朝鮮の国防力強化で画期的転換が成され、わが祖国はいかなる強敵も攻撃することのできない東方の核強国、軍事強国にそびえ立つことが出来た」と述べた。
 また、「核戦争の脅威に備えた初の水素弾(水爆)実験とさまざまな攻撃手段の発射実験、核弾頭爆発実験が成功裏に行われ、ICBMの発射実験が最終段階に達した」と説明した。
 *米国務省は1日(米東部時間)、同省のアナ・リッチーアレン報道官が聯合ニュースの論評要請に答え、金委員長が大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験準備が最終段階に入ったと主張したことについて、あらゆる手段を動員し違法行為には代償が伴うことを悟らせると警告した。
 金委員長が新年の辞でICBMの発射実験に言及したことから、北朝鮮は近く米本土を射程に入れる大陸弾道弾ミサイル「KN-14」の発射実験に乗り出すとみられる。
 金委員長はまた、昨年、米国と、米国に追従する韓国による核戦争挑発策動で、朝鮮半島情勢の緊張が高まったと指摘。その上で、北朝鮮が米国を完全に制圧できる強力な核戦争抑止力と、地上、海上、水中、空中、サイバー空間に及ぶあらゆる領域で自衛のための国防力を保有しているため、敵対勢力は戦争の導火線に火をつけられなかったと主張した。
 一方、経済建設では、「70日戦闘」「200日戦闘」の成果を強調したものの、北東地域の大水害や制裁の強化などで経済成長が再び鈍化しマイナス成長に陥ったことで、目玉の「黎明通り」の建設も経済改革も思うように進まず、言葉だけの「成果誇示」に終わり数字は一切示されなかった。ただ成果としては「一心団結」と「自彊力強化」の成果が強調された。

2、新年辞で提示した今年の課題

 今年の課題としては、昨年不振だった「国家経済発展5カ年戦略」の遂行に総力を集中することが強調され、経済各分野の課題が羅列的に提示された。
 また85周年を迎える人民軍の強化を強調する一方、「一心団結」「自彊力強化」を強調し、党と勤労団体の中で官僚主義と不正腐敗を根絶し、敗北主義、保身主義、形式主義、要領主義をなくさなければならないと訴えた。こうした訴えは金日成時代から何度も繰り返されてきたが、最近は一部で市場経済化が進み「賄賂」が横行し、腐敗と官僚主義が結びつくことで金日成時代には見られなかった思想意識の低下と道徳心の低下が見られることと関係している。
 韓国に対しては、韓国の政治状況について具体的に言及しないというこれまでのタブーを破り、「昨年の(韓国における)“全民抗争”は、保守当局に対する、積もり積もった怨恨と憤怒の爆発」と述べ「今年は(2007年の南北首脳会談における)10・4宣言の発表から10年になる年。全民族が力を合わせて自主統一の大通路を開いていかなければならない」とし、さらに「破局状態の現在の北南関係を、手をこまねいて傍観するなら、どの政治家も民心の支持は得られない」と主張した。これは、朴槿恵政権の後を継ぐ韓国の次期政権に向けたメッセージだと解釈できる。
 そして「北南(南北)関係改善を望む人なら誰とでも手を組んで進む。民族の統一に逆行する反統一勢力の挑戦は踏みつぶすべき」と従来の主張を繰り返した。
 さらに、韓米合同軍事演習などの戦争演習をやめなければ、核を軸とする国防力と先制攻撃能力を引き続き強化していくと威嚇した。そして「民族の統一志向に逆行する内外の反統一勢力を踏みつぶさなければならない」として、真っ先に「朴槿恵のような反統一事大売国勢力の蠢動を粉砕するための全民族的闘争を、力強く繰り広げなければならない」と主張し、韓国保守勢力の弱体化と左派・親北政権の登場を促進する対応を見せた。
 金委員長が朴大統領の実名を口にしたのも、今回が初めてだ。韓国統一部の元関係者は「朴大統領弾劾と政権交代は確定的と判断した結果」と語った。
 アメリカに対しては、朝鮮民族の統一意志をしっかりと認識し、南朝鮮の反統一勢力を同族対決と戦争へとけしかける民族離間策にこれ以上執着してはならず、時代錯誤的な対対北朝鮮敵視政策を撤回する勇断を下さなければならないと牽制した。そして米国が圧迫を続ければ「国防力と先制攻撃能力を高める」として、核保有国の地位を認めて関係改善に乗り出さなければ、高い代償を払うことになるとのメッセージを送った。しかし今月20日に発足する米トランプ政権については言及しなかった。

3、新年辞でのサプライズ

 今年の新年辞にはこれといったサプライズはなかったが一つだけ大きなサプライズがあった。それは「気持ちだけで能力が伴わない」と金正恩委員長が「反省まがい」の異例の発言を行ったことである。また背広姿で金日成・金正日バッジを付けずに登場し、これまでの棒読みスタイルから脱皮する努力も注目された。
 金正恩は「どうすればわが人民を神聖に、より高く尊べるかという憂いで心が重い」「いつも気持ちだけで能力が伴わないというもどかしさと自責の中で、昨年1年を過ごした」と語った。首領が神格化され「首領の無謬性」が支配する北朝鮮において、「首領」自ら公の席で能力不足を認めるのは極めて異例と言えるが、これが謙尊なのか一層自分を高める修飾語なのかは今のところ定かではないが、この発言を持って幹部の自己批判と粛清が進むことは間違いない。
 また金正恩委員長は自分が政権を取った今より、金日成時代の方がよかったと認めたのか、「全人民が“この世にうらやむものはない”と歌っていた時代が、過ぎ去った歴史の中の瞬間ではなくこんにちの現実になるようにするため、献身奮闘する。人民のまことの忠僕、忠実なる僕(しもべ)になることを厳粛に誓う」と語った。
 これについて韓国統一部は、分析資料を発表して「成果の不振に対する非難を回避し、『人民重視』を金正恩時代のブランドにして大衆的(支持)基盤を構築しようとする狙い」と解釈した。キム・スン元統一部長官政策補佐官も「愛民の指導者というイメージを浮き彫りにしようとするもの。経済強国建設の失敗に伴う非難を弱めようとした」と語った。このほか韓国の「ろうそくデモ」に危機感を抱いたという分析もある。

今年の金正恩「新年辞」を読み解く上で昨年7月に韓国に亡命したテ・ヨンホ元駐英公氏の証言が参考になると思われるので、その内容のいくつかを以下で紹介する。なお、韓国主要メディア(韓国版)には記者会見全文など多様な証言内容が掲載されている。

【資料1】
テ・ヨンホ元公使、記者会見で「一見強固な金正恩体制、内部は完全に腐敗」と語る

 今年7月に韓国に亡命したテ・ヨンホ元駐英北朝鮮公使は27日「金正恩(キム・ジョンウン)体制は一見すると堅固なように見えるが、内側は完全に腐り切っている」「幹部らは(金正恩氏の)気が狂ったような言動を目の当たりにしながら『太陽に近づき過ぎれば死ぬし、遠くなり過ぎれば凍え死ぬ』と考えながら日々を過ごしている」と述べた。
 テ氏はこの日ソウル市中心部、光化門の政府庁舎でメディア関係者らの前で講演し、金正恩体制において北朝鮮エリートたちが味わっている恐怖心について「今のような奴隷生活が今後40-50年、ひ孫の世代まで続くのではないかと心配している」とした上で上記のように語った。テ氏はさらに「北朝鮮住民らのこのような現状を金正恩氏はよく知っているため、幹部や住民らの一挙手一投足を厳しく監視している」「少しでもおかしな言動が見られれば、直ちに処刑する恐怖政治をまさに実践している」などとも明らかにした。
 続いてテ氏は「金正恩氏による核兵器開発政策を放棄させられるかどうかは(北朝鮮に与える)インセンティブの質や量とは関係ない」「金正恩氏が存在する限り、北朝鮮は絶対に核兵器を放棄しない。金正恩政権がまさに核兵器そのものだ。1兆ドル(約120兆円)、10兆ドル(約1200兆円)を与えても、絶対に核兵器を手放さないだろう」などとも指摘した。テ氏は「北朝鮮は金日成(キム・イルソン)主席や金正日(キム・ジョンイル)総書記の時代から、核兵器開発を中断したことは1回もなかった。金正日総書記の時代に進められた『朝鮮半島非核化』という各国との合意後も、核兵器開発はひそかに進められていた」とした上で「北朝鮮は米国のオバマ政権による『戦略的忍耐』を核兵器開発の免罪符と見なした」とも明らかにした(朝鮮日報2016/12/28 09:53)。

【資料2】
テ・ヨンホ氏、「金委員長の核の野心を阻止する唯一の道は北朝鮮住民が蜂起すること」

 駐英北朝鮮大使館の公使だったテ・ヨンホ氏は昨年12月29日、東亜(トンア)日報とのインタビューで、「金委員長の核の野心を阻止する唯一の道は、北朝鮮の人々の心を動かし、幹部と住民が金委員長に反対して蜂起するようにすること」と強調した。また「外部から情報を積極的に注入し、北朝鮮住民の心の中の金委員長一家の神格化を壊し、金委員長を捨てて統一することが住民の未来を担保する道であることを教えなければならない」と主張した。
 テ氏はインタビューで、北朝鮮の主要政策の過程などこれまでの外部の見解とは異なる様々な情報を伝え、ソウルで新しい生活を始める所感も語った。テ氏が本格的な外部活動を始めると北朝鮮の対韓国メディアは昨年12月30日、テ氏を名指しして「特級犯罪者」と批判した。それだけテ氏の活動と発言が北朝鮮体制に大きな脅威になるということだ。
 (東亜日報日本語版2017・1・2周成河記者)

【資料3】
テ・ヨンホ元公使が証言「昼は金正恩万歳、夜は布団かぶって韓国映画」

 韓国に亡命した北朝鮮のテ・ヨンホ元駐英公使は昨年の12月27日、韓国メディアとの会見に初めて応じ、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の暴政のもと、地位の上下に関係なく「陽奉陰違」(表向きは信奉する振りをしながら、内心は違うこと)が身に染み付いている北朝鮮エリート層の実像について証言した。

■金正恩氏の「恐怖先行政治」

 テ・ヨンホ氏は「金正恩体制は今、内部的に腐敗が進んでいる。昼間は金正恩万歳と叫ぶが、夜は布団をかぶって韓国映画を見ているのが北朝鮮の現実だ。人々のこのような言動をよく知っている金正恩氏は、住民や幹部を監視する恐怖統治をしている。金正恩政権は親子間の最も崇高な愛さえ利用、海外駐在職員は子どものうち1人を北朝鮮に人質に取られている」と述べた。
 テ・ヨンホ氏は「金正恩氏の恐怖政治は金正日(キム・ジョンイル)総書記を上回る」とも言った。その一例として、金正日時代の大規模行事では保安要員が丁寧に住民たちの身分証をチェックしたが、金正恩政権以降は軍服姿の保安要員が機関銃を突き付けて身分証を確認するという。同氏はこれを「恐怖先行政治」と呼び、「人が持つ恐怖心をまず刺激し、絶対に反抗できないようにするものだ」と言った。
 その上で、「監視はあらゆる(領域の)末端まで及んでいる。10人もいない公館には専任の監視要員が付かないので、公使が大使の監視役をする」と語った。しかし、「人がやることなので、仲間を監視して報告するなんて話にならない。韓国ドラマを見ていることを知りながらも、お互い目をつぶっている。北朝鮮の一般住民はもちろんのこと、エリート層も日和見主義的に生活している」と吐露した。
 そして「私も『金正恩万歳』と叫ばざるを得なかったし、日和見主義的に生活するしかなかったことを恥ずかしく思っている。英国で違う階層の人に会うと、ほとんどが『あんな北朝鮮の体制をどうやって広報するのか』と聞いてくる。職務上、北朝鮮体制を擁護しなければならないため、非常につらい日々だった」と告白した。

■組織部副部長もCNN見られず

 テ・ヨンホ氏は「北朝鮮は外部情報の流入が徹底的に遮断された状態で存在している。これは誰にとっても例外ではない」と言った。韓国メディアや海外メディアは対南関係機関と外務省の一部職員にだけ限定的に許可されているだけで、朝鮮労働党の中核エリートである政治局委員でさえ接することができないという。同氏は「(高官クラスも)国から提供される『参考通信』や『データ通信』などのフィルタを通した情報しか見られない。(朝鮮労働党で最も力のある)組織指導部の副部長が外務省に行っても、米CNNが見られる部屋には近寄れない」と語った。
 そう言いながらもテ・ヨンホ氏は「金正恩(政権)は終わりだと断言できる」と言い切った。「政権樹立から70年たった今でも恐怖政治と処刑が続いている社会に未来はない。住民はもちろん、エリート層も北朝鮮のこのような世襲体制に未来がないと思っている」と言い、「外部情報の流入」の重要性を強調した。「北朝鮮は外部情報の流入を遮断するためありとあらゆる措置を取っている。私のような外部に出た人々は知っているが、北朝鮮に戻ると何も言えない。外国暮らしをして戻った子どもたちにも監視を付ける」と言った。

■貧しい北朝鮮の外交官たち

 北朝鮮外交官の給料を聞くと、テ・ヨンホ氏は「話すのが恥ずかしい。それでどう暮らせばいいんだと言うほど少ない」と答えた。イギリスでは大使が900-1100ドル(約10万-13万円)、公使・参事は700-900ドル(約8-10万円)だったという。「北朝鮮社会自体が兵営で、大使館は北朝鮮社会の縮図だ。大使館では家族が集団生活をしている。電気代・水道代などは国が出してくれ、外交官は衣食住の費用だけ使うので生活できた」と証言した(朝鮮日報日本語版2016/12/28 09:54)。

【資料4】
テ・ヨンホ前公使が「万歳」を叫んだ理由

 テ・ヨンホ前公使は「万歳」を叫んだことについて次のように語った。
 「飛行機で韓国に到着する時万歳を呼ぼうと思ったが…。飛行機から降りたら記者が誰もいなかった」
 テ・ヨンホ前公使は去年 12月 27日記者懇談会で万歳を叫んだ理由についてこのように説明した。
 テ・ヨンホ前公使は 「私は長年の心理的葛藤と準備を経て韓国へ来た。韓国に足を踏み入れた瞬間、奴隷から解放された喜びを万歳を通じて大韓民国国民に見せたかった」と語った。
 しかし出迎えた関係機関要員たちが 「今は万歳をする時代ではない」と言ったという。
 テ・ヨンホ前公使は 「私の心情を知らせる機会がなくなった」と残念がり、こうした思いがあったからこそ公開記者懇談会で万歳を叫んだと説明した。
 しかしこうした姿に対する批判に接して驚いたりもしたという。
 彼は 「ネチズンの 反応をちょっと見たが、‘よく来た、歓迎する’と言う言葉よりは ‘誰の指図を受けたのか、なぜこの時点で記者懇談会をするのか、政府が万歳をしろと言ったのか’という反応がもっとたくさん目に入ってきた」とし、それでこれだけはきちんと明らかにしなければならないと言う気がした」と語り万歳を呼んだ事情を説明した。
 彼は 「まだ韓国の実情や情緒が分からなくてもっとたくさん勉強するべきが、本当に私の心は万歳を呼びたい」と付け加えた(東亜日報韓国語電子版2017・1・2)。

以上

 
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