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2008.6.1

[北の食糧難の真実] "大量餓死はない"…市場の統制が価格急騰の‘主犯’

文星輝記者(慈江道出身, 2006年入国)
デイリーNK[2008-06-06 14:48 ]

 一部の対北支援団体が北朝鮮の'大量餓死説'を主張し、政府の対北支援政策にも様々な情報が影響を及ぼしたが、最近WFP(世界食糧計画)を通じた支援が検討されている。現在、北朝鮮の食料事情は北朝鮮政府が市場を統制しなければ、米の価格は'市場の手'によって動くと考えられている。デイリーNKが最近、北朝鮮の内部消息筋5人と、脱北NGOの情報提供者2人、北朝鮮内部と連携した脱北人権活動家、ハナ院の関係者、最近韓国に入国して、ハナ院で教育を受けている脱北者4人に、北朝鮮の食糧難の事実について取材した。北朝鮮の食糧難の企画'食糧難の真実'を連載します/ 編集者 註

◆ 4月末~5月中旬の米の価格、どうして高騰したか? = 4月末から半月ほど、北朝鮮の食糧の価格が急騰した。これは絶対的な食糧不足も原因の1つだが, それよりは北朝鮮政府に食糧難に対処する能力がないというのがより大きな理由だ。


 食糧の価格が上昇したのは、4月末からだった。4月中旬に中国政府が国内の食糧が不足したため、北朝鮮との食糧の取り引きを中断した。また、北朝鮮政府が'李明博を手懐ける政策'の一環として、対南誹謗に集中した。
 この時期、北朝鮮の食糧の価格を上げた張本人は、市場の米の販売者たちだった。外国の食糧支援が途絶えると、販売者は暴利を得るために、既存の米の価格1500ウォンを2000ウォン以上に上げて売った。
 北朝鮮の食糧危機説が高まった5月17日~18日に、記者はハナ院の分院で、最近北朝鮮を脱出してすぐに韓国に来た脱北者たちに会った。彼らは北朝鮮の米の価格上昇の主な原因として、刈り入れ期の秋から食糧を独占した販売者たちの影響が大きいと語った。脱北者たちは、"北朝鮮の販売者は、昔(2003年以前)とはずいぶん違う"と口をそろえた。'買い占めと売り惜しみ'で暴利をむさぼることを学んだという。
 実際に、最近北朝鮮の市場はわずかな金持ちによって、食糧をはじめとする生活必需品が独占され、彼らによって価格が定められている。
 市場の米の価格が急騰すると、北朝鮮政府は大々的な市場の統制措置をとり、検閲組を動員して、食糧の流通を禁止させた。また、白米の価格を2000ウォン以上に上げることができないと公示までした。だが、こうした措置は火に油を注ぐ結果を招いた。米を手に入れなければならないのに、市場からは米が消える。そのため、販売者が家で寝転がって4000ウォンで売っても、飛ぶように米が売れていった。
 北朝鮮の内部消息筋も、“政府の市場統制のため、1日で米の価格が1000ウォン以上上がることもある”と言い、“検閲隊員たちが市場で売る米の出処を調べ、食糧の価格を上げることができないようにしたら、かえって米の価格が一気に上がった。市場の取り締まりは販売者の腹を満たしたに過ぎなかった”と話した。
 事態が更に悪化すると、とうとう北朝鮮政府はしばらく市場の食糧統制をしてはならないという指示を下した。5月中旬には、市場の検閲隊員を撤収させた。
 消息筋は、"最近咸境北道であった国防委員会の検閲は、金正日の後継者にあげられている金ジョンチョルが責任者だった。金ジョンチョルは今回の検閲で民心が悪化すると、検閲をやめてまた労働党内部の事業に戻ったと聞いている"と伝えた。

◆ 北の米の価格は'バブル' = 北朝鮮で米の価格が上昇したのは、中国の米の価格の上昇と対北輸出の中断が決定的な要因.

 去年の9月末~10月初め。国境地域である会寧や茂山、恵山一帯の中国産の白米の価格は、北朝鮮の貨幤でおよそ900ウォンだった。当時、中国の人民元1ウィアンは北朝鮮の貨幤で400ウォンで、中国の人民元で白米1kgは2ウォン40銭だった。
  だが、人民元の価値が上昇して北への食糧の輸出が中断し、国境の都市で1ウィアンが北朝鮮の貨幤で480ウォンになった。更に、中国内部の米の価格が上がり、北朝鮮に渡る米(密輸米)の価格が1kg当たり人民元で3ウォン20銭まで急騰した。このため、住民の間で食糧危機説が高まり、中朝国境の都市で密輸が大々的に行われた。5月現在、北朝鮮の主な密輸品であるあかがね1kgの価格が北朝鮮の貨幤で2万4千ウォン、アルミニウムは5千ウォン、古鉄は900ウォンだ。
  密輸をする人が渡される中国の白米は25kg1袋が80ウィアン、北朝鮮の貨幤で3万7600ウォン(1kg当たり1,540ウォン)だ。去年の秋には900ウォンだった中国米が、今は'公式価'でも1キロ1,540ウォン以上する。
  それだけではない。密輸をする時、国境警備隊に保護費1万ウォン(密輸に目をつぶってもらう対価)を払わなければならない。また、密輸をする人が販売者に米を渡す時、1kg当たり150ウォンの手数料を加える。したがって、密輸した時に25kg3万7600ウォンだった米が、警備隊と密輸をした人を経て、販売者の手に入る時には、5万1350ウォン、すなわち1kg当たり最低2054ウォンになる。更に、販売者が1kg当たり150ウォンを加えると、1kg2,204ウォンになる。
  言い換えれば、1kg当たり2,204ウォンを基準にして、あちらこちらで米の価格が膨らむ。更に、国境から内陸の都市に、都市から農村に送られる時に加えられる価格が、現在の北朝鮮の食糧の価格になる。
  したがって、去年の秋に900ウォンだった米が、今年5月に急に数倍上がったと単純に主張するのは、一種の'情報操作'、または'事実の歪曲'であるか、正確に北朝鮮の内部事情を知らないからだといえる。

◆ 北朝鮮の食糧は'庶民の基準'に合わせねば = 北朝鮮の食糧難について語る時に、逃してはならない重要な事項がある。食糧を庶民の目の高さに合わせなくてはならない。幹部階層や一部の食べられる人の基準に合わせてはいけないということだ。こうした人たちは、いつも米を食べている。

 だが、普段米の価格が高くない時も、農民や庶民はじゃがいもやとうもろこしが主食である。そのため、北朝鮮の食糧の価格の基準を白米の価格を中心に合わせるのが正しいのか、庶民がいつも食べているとうもろこし6、白米4の割合に合わせるのが合理的なのか、考えなければならない。

◆ 北, 大量餓死の発生はない = 最近、主要都市である南浦やピョンソン、スンチョン、咸興、恵山、清津などの米の価格は2,500ウォン前後と安定している。
  黄海北道と江原道は食糧難がひどいと把握されている。5月初めには、国家的に江原道の軍人を助けるために援護米が支援され、一部の都市の戦時備蓄米が江原道に送られた。
  だが、最近の食糧価格の暴騰にもかかわらず、‘大量餓死事態が発生する可能性があるか?’という質問に対して、北朝鮮内部の消息筋と脱北者の多くが、“可能性はない"と答えている。この人たちは、90年代半ばのいわゆる'苦難の行軍'のような状況ではないと言っている。韓国の一部で憂慮されている'6~7月初めに大量に餓死者が発生する可能性'は非常に低いという。
  実際に、北朝鮮で大量に餓死者が発生したら、春の端境期の真っ只中である5月が、最も多くの人が死んでいく時期であると言える。飢え死にする人が増えれば、都市に人が集中する。コッチェビ(浮浪者)になるのである。もし今、北朝鮮の農村が‘苦難の行軍’の時期のような状況であれば、農村で人が死ぬのと同じくらい、都市の駅前や市場の近くでも、遺体が沢山見られるはずである。だが、今はそのような状況ではない。
  特に、一部で言われている6月末~7月の大量餓死説も、北朝鮮の現状と合致しない。6月15日頃になれば、グリンピースなどが収穫でき、6月22日から咸鏡南北道や慈江道、平安南北道ではジャガイモや麦を収穫できるようになる。この時期になれば、食糧難が解消されるとまでは言えなくても、最低限餓死は過ぎ去ると思わなければならない。
  北朝鮮の住民が飢える理由は、北朝鮮政府が市場を統制するからだ。だが、一部の地域で餓死者が発生することに備えて、政府が市場の統制を緩和して、地域間の食糧の流通を許可する一方、餓死者が発生した場合、該当機関や地域の責任者を処罰するという指示文まで下したという。
  農場では、一部の食料がない世帯のために農場の幹部や班長、細胞書記までが乗り出し、絶糧した世帯を助けるための食糧募金を行っている。また、食糧の余裕がある世帯や労働党の入党対象者を対象にした、愛国米支援事業が活発に行われている。
  都市では人民班ごとに、飢えている世帯を調べて国家が支給する貯蓄米を支援している。5月20日頃からは、コッチェビを中等学院や愛育院(保育園)に送る措置が取られた。
  もちろん、一部で餓死者が発生するのを阻むのは難しいだろう。だが、一度に数千人、数万人もの大量餓死は絶対に起きないというのが、北朝鮮内部の消息筋などの共通した見解だ。

 
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