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2010.2.13

「南北首脳会談」は開催されるか

南北関係研究室

 韓国の李明博大統領は、スイス・ダボスの世界経済フォーラム(WEF=ダボスフォーラム、1月27〜31日)に出席し、南北首脳会談に対して英BBCのインタビュー(1月29日に放送)に答え、「有益な対話でなければならず、北朝鮮の核問題について十分な話ができなければならない」との前提をつけたものの「私は、金正日委員長に会う準備が常にできている。韓半島の平和と核問題の解決に役立つ状況になれば、年内に会わない理由はない」とはじめてその時期に言及した。
  この「年内発言」がさまざまな憶測を呼んだため、大統領府はその「火消し」に乗り出し、李大統領自身は大前提と原則を表明することとなった。
  李東官(イ・ドングァン)大統領広報首席秘書官は1月31日、「(李大統領の発言は)過去のように1回だけの政治的イベントで首脳会談をすることに意味があるのかという根源的な反省から出発し、必要ならいつでも会って対話できるという意味だ。それを逆に言えば、政治的イベントとしての会談なら、任期中に(南北首脳会談を)しなくてもかまわないというのが、李大統領の考えだ」と話した。李首席秘書官はまた「(北朝鮮が)片手に核を持って民族和解と南北平和を言うことは矛盾している」と述べた。
  李首席秘書官はさらに、「互いに真摯に民族の将来に向けて対話できるなら、条件や時期は副次的なことだ。李大統領は、このような流れをすべて知っているため、感覚的に話したと考えればいい。しかし、私たちがタスクフォース(TF)を作って推進している具体的な動きはない。(ただ)原則的に、今年でも原則に則って、条件が満たされる場合には可能だという点を言ったのだ」と説明した。

1、李大統領が明確にした南北首脳会談の大前提

 李明博大統領が「南北首脳が会うのに条件があってはならない」「金正日国防委員長に会う準備は常にできている。年内に会わない理由はない」と発言したことから南北首脳会談の年内開催説が急浮上し、さまざまな憶測が飛び交っていたが、2月2日李大統領自らがその大前提と原則を明確にした。
  李大統領は2日午前の閣議で、「首脳会談のための代価はあってはならないという大前提の下で、南北首脳が会わなければならない」と述べ、この原則を譲歩することはないと宣言した。特に、首脳会談をめぐる報道が相次いでいることを取り上げながら、「南北首脳会談は確固たる原則の下で推進できるもので、原則が満たされない場合は実現し得ない」と断言した。
  こうした発言は、金大中・盧武鉉政権との違いを強調するとともに、青瓦台(大統領府)関係者が近ごろ何度も強調している「パラダイムの転換」を改めて確認したものと受け止められている。
  2000年の金大中政権時、2007年の盧武鉉政権時の南北首脳会談に対しては、「裏取引」で代価を与えて会談を行なったとの批判が根強い。李大統領の「代価はあってはならない」との発言はこうした前例を踏襲しないとの点を明確にしたものである。それはまた南北関係を過去のような「同じ民族」という枠組みだけではなく、普遍的な国際関係の一つとして扱うということを意味する。
  また、「原則が満たされない場合は(会談が)実現し得ない」との発言は、政界やメディアなどで3〜4月の会談開催の可能性までが取り沙汰されていることに対する「鎮火」の意味もあるようだ。
  玄仁澤(ヒョン・インテク)統一部長官は2月3日、李大統領の提示した首脳会談開催の条件に対して「大統領が首脳会談を行う2つの条件を提案した。北朝鮮の非核化問題を具体的に議論できなければならず、(解決しなければならない)人道問題もあるということだ」と話した(韓国国際交流財団が各国の駐韓大使を招待して開催した非公開の朝食会フォーラムにおいて)。
  玄長官は、特に、「北朝鮮にいる多くの国軍捕虜と関連して、北朝鮮が人道主義の立場から協力を示すべき時だ。首脳会談が行われることになれば、これらが重要な議題にならなければならない」と強調した。 ただ、玄長官は、「まだ首脳会談に関連して、決定されたことは何もない」と話した。
  李大統領は前提と原則を明確にする一方で、開催場所や時期などについては柔軟に対応する姿勢を見せている。また首脳会談前でも肥料支援はできるという立場も示唆している。
  これについて韓国政府当局者は「食糧は軍への転用可能性が高いため支援は難しいが、肥料について大きな問題はないと思う」と話した。大統領府の関係者は「昨年10月、韓国が北朝鮮にトウモロコシ1万トンを支援するとしたのも、コメに比べ軍隊に転用される余地が少ないためだ」と語った。北朝鮮がなかなか受け入れなかったトウモロコシ1万トンを最近受け入れるとした背景には、「トウモロコシを受け取らない限り、ほかの支援(肥料など)は不可能だという韓国側の立場が伝わった」との事情があるという。北朝鮮は、農作業に支障を来さないためには遅くとも3月までに肥料を受け取る必要がある。韓国側が最後に肥料支援を行ったのは2007年のことだ。

2、李大統領発言の背景と原則を強調する理由

李大統領発言の背景

 李明博政権下における南北首脳会談実現の動きは、昨年8月、北朝鮮の「金大中弔問団」(団長金己男)が金正日委員長のメッセージを李大統領に伝えてから具体化した。
  その後、昨年10月にシンガポールで、韓国の任太熙(イム・テヒ)労働部長官と北朝鮮の金養建統一戦線部長が秘密に接触し、国軍捕虜と拉致被害者1人の送還や故郷訪問について一定の合意に至った。それに続き11月には開城で2回にわたり、統一部(K局長)と統一戦線部(元東淵副部長)が極秘の協議を行い、核問題、韓国軍捕虜問題、拉致被害者問題などの取り扱いを話し合った。しかし、双方の見解の相違を埋めることはできなかった。韓国側が送還または訪問の人数を10人以上に引き上げたため、会談が決裂した」とされている。北朝鮮側は、「送還」よりも最小限の人数の「故郷訪問」を考えていたらしい。
  この流れを受けて2010年北朝鮮3紙共同社説は南北関係については次のように主張した。
  「われわれは昨年、悪化した北南関係を改善し、祖国統一の画期的局面を開くため、主動的でおおような措置を講じながら誠意ある努力を傾けた。われわれが講じた措置は内外の大きな支持と共感を呼び起こし、北南間に対話と協力の雰囲気をもたらした。
  (中略)
  われわれは今年、「北南共同宣言の旗のもとに全民族が団結し、祖国の統一を一日も早く実現しよう!」というスローガンを掲げていくべきである。 北南関係改善の道を切り開いていかなければならない」

  この共同社説の主張には珍しく李明博大統領に対する非難はなかった。南北首脳会談を意識してのことであったと思われる。
  これに対して韓国の李明博政権も肯定的反応を見せた。1月4日、李明博大統領は新年の国政演説で「今年、南北関係に新たな転機を整えなければならない」と述べ、南北間で常時対話ができる機関を設置することを提案した。また、今年は朝鮮戦争60周年であることから、「今年は北朝鮮と対話を通じて、北朝鮮に埋められている国軍勇士の遺骨発掘事業を推進する」という意志も明らかにした。
  こうした流れの中で前述した李明博大統領のスイス・ダボスの世界経済フォーラム(WEF=ダボスフォーラム)でのBBCインタビュー発言が飛び出したのである。

李大統領が前提と原則を強調する理由

 李大統領が南北首脳会談の前提と原則を強調する背景には、過去の首脳会談に対する反省と教訓がある。
  過去に2回行われた南北首脳会談では、権力の中核にいた大統領の側近が、政府の公式な指揮系統とは別に独自で交渉を行った。そのため、北朝鮮は会談に応じるだけで莫大な現金や数々の支援を手にした。
  このことについて米国の「インサイド・ワールド紙」孫忠武(ソン・チュンム)編集長兼発行人は「金大中は南北首脳会談をするために、8億ドルを金正日に渡しており(5億ドルは公式に確認されている額)、金正日はその資金でロシアとカザフスタンから戦闘機、タンクを購入しただけでなく、パキスタンの核物質や技術を導入するために使用した」と2001年1月から一貫して主張している。
  その事実は最近米議会調査局によって裏付けられた。米議会調査局が1月28日に議員に配布した「米韓関係議会の課題」という報告書は、「金大中政権は1999年〜2000年6月にかけて、秘密の方法で北朝鮮の金正日に10億ドルを提供した」と記している(「韓国経済」2月1日付報道)。
  また、CRSの『議会韓米関係懸案報告書』は、金大中元大統領と盧武鉉前大統領時代の1998〜2008年の10年間に、韓国が北朝鮮に約70億ドルの経済協力を提供し、このうち29億ドルは現金で支援した」と暴露している。
  報告書では、「北朝鮮は1999年当時、核兵器用ウラン濃縮技術を海外から購入するようになり、2000〜2001年には技術調逹を加速化した」と指摘し、「北朝鮮が韓国の支援資金を核兵器の開発に転用した」と断定しているが、核開発に転用された資金の主なる出所としては、金剛山観光事業と開城工団事業を通じた支援をあげている。
  報告書はそれ以外にも、「北朝鮮が(韓国から受け取った)現金を軍事目的に使用しているのではないかと、米軍の関係者は1999年から疑っていた」と述べ、「現代峨山(アサン)が1999〜2000年に公開・非公開の形で10億ドル以上の現金を北朝鮮に提供した時、北朝鮮は高濃縮ウランプログラム用の部品と材料を海外から購入するために、外為の使用を急速に増やした」と分析した。
  ワシントンポスト(WP)も去年12月に、北朝鮮に核技術を伝授したと言われているパキスタンのアブドゥル・カデル・カーン(73)博士が、「北朝鮮が2002年までに3千台またはそれ以上の遠心分離機を利用して、小規模にウランを濃縮したようだ」と語ったと報じている。
  こうした裏取引によって南北首脳会談が進められたために、その主導権はいつも北朝鮮側が握ることとなり、韓国は北朝鮮の先軍政治に必要な資金と物資の供給先に転落してしまった。
  李大統領は、南北関係の主導権を確立するためにも、国民の批判を避けるためにも、金大中・盧武鉉政権が行なった「見返りを与える南北首脳会談」、「核問題を抜きにした南北首脳会談」はなんとしてでも避けねばならないと考えている。

3、南北首脳会談実現の可能性

 韓国大統領府は、首脳会談の必要性を認識しているが、内心は複雑なようだ。そこには越えなければならない困難な問題がいくつも横たわっているからだ。
  南北首脳会談実現で越えなければならない一つ目の問題は、必ず可視的な成果を上げなければならないということだ。
  会談場所はソウルでなくてもいいという李大統領の言及は、首脳会談の場所をめぐる名分争いよりも、会談の内容がより重要だという実用的な判断によるものだが、保守陣営からは、今回の首脳会談はソウルで開くべきだとし、李大統領の訪朝に反発する可能性が高い。保守陣営のこのような反対を和らげるには、核問題や国軍捕虜、拉致被害者の送還問題で、必ず可視的な成果を上げなければならない。これまでのように「宣言」だけで終えることはできないのである。
  李大統領が英BBC放送とのインタビューで、「南北の和解と協力のためには、開かれた心で会うことに事前条件があってはならない」とした発言も、北朝鮮に対し、過去のように首脳会談の見返りを望まず、真摯に出てくるよう求めたものと分析される。事前に何かを取り引きするのではなく、首脳同士が虚心坦壊に話し合い、核問題の解決と経済支援問題を議論しようということだ。李大統領が先月30日、米CNNとのインタビューで、「グランドバーゲン(核一括妥結案)について協議できる」と明らかにしたことも、同じ脈絡から出た言葉だ。
  可視的な成果で最も重要な鍵は、北朝鮮が果たして核を放棄する意志があるのかどうか、これをどのように確認するのかという問題だ。実践が確実ではなく、宣言だけで経済支援をするなら、過去と変わりはないという批判に直面するだろう。実際、昨年11月7日と14日、2度にわたり、統一部のK局長と統一戦線部の元東淵(ウォン・ドンヨン)副部長が開城の某ホテルで秘密接触を行った時も、北朝鮮は、「核問題の進展」といった表現のみ可能だという態度を堅持したという。「核問題の進展」といった表現で韓国国民が納得するはずはない。結局、首脳会談の実現の本質は、李大統領が言及した通り「内容」にかかっている。その内容を盛り込むのは容易な事ではない。
  南北首脳会談実現で越えなければならない二つ目の問題は、6ヵ国協議再開との連携だ。
  李大統領は、南北首脳会談を「同じ民族」という枠組みだけではなく、普遍的な国際関係の一つとして扱うと述べているが、そうであれば当面6ヵ国協議再開問題と関係せざるを得ない。
  2月1日、李明博大統領が表明した南北首脳会談推進の立場について、米国務省クローリー次官補は「米国は南北間の対話を支持する」との立場を示した。その一方で、2月3日、韓国を訪問した米国国務省のカート・キャンベル東アジア太平洋次官補は(ソウルの外交通商部庁舎で、韓国・外交部のイ・ヨンブ次官補と会談した後記者らに会い)、南北首脳会談の前に北朝鮮は6カ国協議に復帰すべきという意思を伝えた。
  キャンベル次官補のこうした発言は、南北対話を進める際には、核問題の進展を連携させて動くべきという原則を、韓国政府に強調するためのものと考えられる。南北関係の改善に関する議論が非核化交渉の足かせになってはならないと懸念しているということだ。
  こうした米国側の意向を受けて、韓国・外交通商部の柳明恒(ユ・ミョンファン)長官もあるメディアとのインタビューで、「南北首脳会談の問題は、周辺国との協力が非常に重要である。米国だけではなく日本や中国、ロシアなど6カ国協議の参加国との話し合いも重要であるため、外交部が協議している」と話した。
  北朝鮮の6ヵ国協議復帰問題が南北首脳会談と連携されればその開催の時期や内容についても多くの制約がでてくる。
  三つ目の問題は北朝鮮が韓国側の要求をどこまで受け入れられるかということだ。
  昨年の秘密接触で北朝鮮は首脳会談の見返りに金剛山(クムガンサン)および開城(ケソン)観光の再開と大規模な食糧支援を望んだという。韓国の外交安保ライン関係者は1月29日、「北朝鮮が首脳会談にしがみつく最も大きな理由はカネだ」とも断言している。  
  韓国からの資金援助が思うように見込まれない場合、北朝鮮は首脳会談に応じるだろうか。特に昨年11月30日の「デノミ」以降、北朝鮮経済が混乱の様相を呈している。2月2日にはデノミを主導したとされる朝鮮労働党計画財政部長の朴南基(パク・ナムギ)が解任されたとの情報も流れてきている。もしもこれが事実であれば、デノミ失敗は確定的であり、北朝鮮にとって資金と物資の確保が緊急課題となる。こうした状況も「見返りなしの南北首脳会談」を困難にするだろう。
  それに加えて、南北間で「非核化問題」を討議するとなると、これまでの北朝鮮外交戦略に根本的変化をもたらす。北朝鮮はそうした変化に応じられないであろう。
  以上で見たように李明博大統領の提示した「南北首脳会談」実現の条件にはいくつもの難関が待ち構えている。もしも李大統領の要求どおり「南北首脳会談」が実現するならば、朝鮮半島情勢は一気に平和へと向かい、統一に向かって大きく前進するであろう。


 
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