米国のサブプライムローンに端を発した世界金融危機は、世界恐慌の様相を呈しながら、北朝鮮の経済とその統治体制にも深刻な打撃を与えている。また米国のオバマ新政権の政策優先順位も、テロや核問題から経済問題に移ることが予想され、核問題をテコにした北朝鮮の対米戦略はこれまでのような効果を得られない状況となりつつある。
世界経済危機で打撃を受ける北朝鮮経済
中国系の香港紙「大公報」が11月18日付けで報じたところによると、最近北朝鮮と中国の国境貿易が大幅に減少しているという。同紙は、「この20日間、鴨緑江下流の丹東から豆満江下流までの1334キロを確認した結果、このような事が浮き彫りになった」とし、特に国家間貿易統計には含まれない両国国境地域の住民による「辺民互市(中国政府が辺境の住民のために設置した市場)貿易」は事実上、取引がほとんど行われていない状態だと伝えた。
最も深刻な打撃を受けているのは、鉱物資源貿易だ。今年3、4月までも1キロ当たりそれぞれ60人民元(約1万2000韓国ウォン)、100人民元(約2万ウォン)で取引された黄銅と紫銅は最近、値段がそれぞれ12人民元、24人民元まで下落した。6ヵ月で70〜80%も急落している。 同紙によると、輸出資源の価格が急落したため、北朝鮮・恵山の銅鉱山は最近輸出を中断したという。
今年初め、3〜4人民元だった鉄鉱石の価格も最近は1.2人民元で70%近く下落した。
北朝鮮が中国を通じて韓国に輸出する品物も大幅に減った。ウォン安の影響で韓国の輸入が減少したことで、主に南北の間で仲介貿易を行ってきた吉林省琿春市は、この7ヵ月間で貿易額が昨年の同期より36.9%が減少した。
龍井のある国境貿易商人は、「先月から世界金融危機の波が辺境貿易まで急ピッチに押し寄せている。北朝鮮からモノを持ってくるのも難しいが、中国のものを買いにくる北朝鮮貿易商はもっと少なくなっている」と話した。
韓国統一部ホームページの南北貿易現況資料によると、10月の貿易額は1億6306万5000万ドルで、昨年同月の2億1237万8000ドルに比べ23.2%減少した。前月の1億6782万1000ドルに比べても2.8%減っている。今年6月と7月、9月の月間貿易額も前年同月に比べ減少(1.5〜5.6%)しているが、10月は今年初めての2けた減を記録した。
南北間の貿易も縮小している。
10月の南北貿易は、商業的取引(全体の約97%)が1億5808万7000ドルと、前年同月に比べ12.7%、対北朝鮮支援が中心の非商業的取引は497万8000ドルで同84.1%、それぞれ減った。統一部当局者は貿易額減少の背景を、「ウォン安など韓国経済を取り巻く全般的な状況や、北朝鮮・金剛山観光の中断などが反映された」と分析している。
北朝鮮は、李明博政権との対決姿勢を強めることが予想されるため、今後一層南北間貿易は縮小されるものと思われる。
こうしたことから、「テロ支援国家指定解除」がなされたにも関わらず、ロンドン金融市場の北朝鮮債権は、1ドル額面の値段が、三ヶ月前まで25セントだったものが12セントに暴落した(現在、北朝鮮が西側諸国の銀行に返済しなければならない債権の負債は16億ドルといわれている)。
経済危機で枯渇する金正日統治資金
金正日政権にとって一番重要なのは北朝鮮の国民経済の成長ではなく「政権維持費用の確保」だ。この費用は、外貨でなければならない。
まず金正日国防委員長周辺に布陣した党と軍の 200人位の最側近グループを管理する費用が必要だ。また労動党や保衛部と保安省の人員を現水準で維持しなければ統治体制がもたない。その費用は年間おおよそ5億ドルと見られるが、いまこの調逹に大きな支障が生じている。
北朝鮮はこれまで、この5億ドル相当をミサイル販売と麻薬・偽装紙幤・偽造タバコなどの不法輸出で稼いでいた。ところが現在 PSI(大量破壊兵器拡散防止構想) などによってミサイル密売がままならず、2005年 9月のバンコ・デルタ・アジア問題などで不法資金の調達もままならなくなった。
それで金正日委員長は現金確保のために「金剛山観光」に加えて、韓国の人々がバスに乗って市内観光をする開城観光までやり始めた。しかし、李明博政権が「太陽政策」に距離を置き金正日政権の思い通りにならないため、「金剛山観光」に続きこの事業も来月1日から全面遮断すると韓国政府に通告した(24日通告)。これで北朝鮮の当面の外貨収入はいっそう減少することとなる。
*昨年12月5日からスタートした開城観光は今月23日までに10万9540人が利用し、次第に活気を帯びていたが、今回の北朝鮮側の措置でこれまでの努力が水の泡になる。先々月は7348人、先月は5034人以上の観光客が開城を訪れ、今月は4200人余りが予約していたが、それが0となる。
次に軍事部門である。軍隊の維持は、外国からの援助と国内生産でしのぐとしても、核やミサイルなどの兵器の生産は外貨なしでは維持できない。米国のCIAは、北朝鮮の推定軍事費を年間50億ドル(1ドル=120円)程度と見ているが、そのうち30億ドル程度を核・ミサイルに集中配分している。また、石油も外貨なしでは調達できない。石油の一部は6ヵ国協議での非核化プロセスの「行動対行動」で手に入れているものの、それだけで十分でないのは明らかだ。この30億ドルの調達を金正日委員長はこれまで、韓国から5億ドル、ファンドなどの資金運用や在外公館からの送金で10億ドル、あとは第一次産品の輸出などで調達してきたと推察される。
この調達資金に大きな穴があいたのである。北朝鮮が「6・15宣言」特には「10・4首脳宣言」の履行を必死に求めるのは、こうした経済事情が大きく関係している。
了