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ソウル市長補欠選挙結果と今後の韓国政局

南北関係研究室
2011.11.3

 10月26日、韓国でソウル市長補欠選挙の投票が行なわれた。立候補していたのは羅卿?(ナ・ギョンウォン、47)ハンナラ党最高委員、朴元淳(パク・ウオンスン、弁護士、55)美しい店常任理事、金忠立(キム・チュンリム、64)基督自由民主党代表、「一道(ペ・イルト、61)ソウル地下鉄公社労働組合委員長の4人だったが、実質的には羅氏と朴氏との一騎打となった。
 この選挙は、さる8月24日、ソウル市内の小中学生に対する無償給食を実施するにあたり、所得制限を設けるか否かが問うための住民投票が、所得制限を設けることに反対する野党民主党や市民団体の投票ボイコットにより、投票率が三分の一に達せず無効となり、呉世勲(オ・セフン)市長が辞任したことで実施されたものである。

1、親北朝鮮無党派候補の勝利

 開票の結果、市民運動家出身で親北朝鮮の朴元淳候補(無所属)がハンナラ党の羅卿?候補を抑えて当選した。1995年にソウル市長選挙が始まって以来、親北朝鮮無所属候補が当選したのは初めてだ。得票率は、朴候補が53.40%、羅候補が46.21%だった。

 *選挙人数:8,374,067名(全国3900万人の有権者数の5分の1強)
  投票者数:4,066,566名
  投票率:48.6%(前回投票率53.9%)

 先月6日にソウル市長立候補をにおわせ(後に朴氏支援に回る)旋風をおこした安哲秀(アン・チョルス)ソウル大融合科学技術大学院長の譲歩を受け、野党陣営(自由先進党は除く)のソウル市長候補競争で優位に立った朴候補は、民主党の朴映宣(パク・ヨンソン)議員との候補一本化選挙で勝利したのに続き、本戦でもハンナラ党の羅候補を抑え勝利した。
 選挙結果を地域別(25区)でみた場合、朴候補は21区で勝利、羅候補はハンナラ党の伝統的支持基盤である江南3地域(江南区、瑞草区、松坡区)と江北の龍山区の4区のみで勝利した。羅候補が勝利した江南区と瑞草区ではそれぞれ61.33%、60.12%の得票率を記録、朴元淳を大きく引き離した。一方、朴候補は冠岳区、衿川区、麻浦区でそれぞれ62.74%、58.42%、57.66%と高得票を記録したのを初め、江南3地域と龍山区を除くすべてで羅候補を上回った。世代別では、20〜40代で朴候補への支持(20代69.3%、30代75.8%、40代66.8%)が高く、50代以上ではナ候補への支持(50代56.5%、60代以上69.2%)が高く現れ、若年層は野党支持、中高年層は与党支持という「若野老与現象」が際だつ結果となった。
 今回の選挙結果は、現時点での李明博政権と与党ハンナラ党に対する有権者の評価を示す一定の尺度となるのは明らかで、最終的に現政権に対する有権者の反感が、それだけ大きいということを改めて示した。
 しかし、こうしたソウルの波は今のところ地方にまで及んでいない。基礎自治体(市区町村に相当)の長11人の再・補欠選挙では、野党が「釜山市・慶尚南道地域の橋頭堡(ほ)」として関心を寄せていた釜山市東区のほか、ハンナラ党が候補者を擁立した7自治体(江原道麟蹄郡、慶尚南道咸陽郡、忠清北道忠州市、大邱市西区、慶尚北道漆谷郡、忠清南道瑞山市、ソウル市陽川区)全てで同党の候補者が勝利した。だが民主党は、候補者を擁立した7自治体のうち、全羅北道南原市と同道淳昌郡で無所属を破ったものの5自治体で敗れた。
 今回の選挙結果について北朝鮮の「労働新聞」は、10月28日の論評で「南朝鮮(韓国)人民の気概を示したもう一つの市民革命」と評価した。また、市民勢力が与党ハンナラ党候補を圧倒的に抑えソウル市長に当選したとし、南北関係を破局に追い込んだ現政権に対する民心の厳格な審判だったと指摘。新政治、新社会、南北関係改善と統一を願う南朝鮮(韓国)人民の真の選択だと主張した。ところが、市長、区長、郡守を選ぶ補欠選挙については、野党(親北朝鮮)陣営が優勢だったと、事実と全く異なる内容を報じた。

2、ハンナラ党敗北の原因

 ハンナラ党と李明博大統領に対する韓国国民の批判が高まっていたたために、今回のソウル市長選敗北はある程度予測されたものだった。しかし(朴槿恵元代表が応援したにもかかわらず)7ポイント以上の票差は予想を超えるものである。
 ハンナラ党の敗北要因は大きく分けると1)貧富の格差拡大2)李明博大統領私邸問題3)若年層のハンナラ党離れなどがあげられる。これは4月に行なわれた国会議員再・補欠選挙での敗北要因と大きく変わらない。

 1)貧富の格差拡大

 1998年のIMF危機以降広がった韓国での所得格差は、李明博政権の下でも進行した。その背景には社会主義陣営崩壊後、米国をはじめとした資本主義国家が「新自由主義的経済政策」を蔓延させ、経済を「金融カジノ化」させたことがある。
 今年4月25日の韓国国税庁発表によると、総合所得税申告者のうち上位20%の1人当たりの所得額は99年の5800万ウォンから09年には9000万ウォン(約700万円)と10年間に55%も増えた。一方、下位20%の1人当たりの所得額は同じ期間、306万ウォンから199万ウォンへと54%も減った。上位20%の所得が下位20%に比べて45倍も多いのだ。総合所得税は事業・不動産・賃貸・利子などのさまざまな所得を合わせて課税する税金で、自営業者など個人事業者が申告者の大半を占める。
 階層別の所得比率を見ると、二極化はさらに克明に表れる。09年の総合所得税申告者の総所得金額は90兆2257億ウォンだった。このうち上位20%の所得金額は64兆4203億ウォンで全体の71.4%にのぼる。これに対し、中間層の上位40−60%所得者は7.7%、60−80%は4.3%、下位20%は1.6%にすぎない。
 二極化は会社員も同じだ。09年に勤労所得税を納付した年末調整者の総給与額は315兆7363億ウォンだった。このうち上位20%の所得が131兆1652億ウォンで41.6%を占めた。半面、下位20%の給与は25兆2242億ウォンで全体の8%にとどまった。
 韓国の実質国内総生産(GDP)の成長率は昨年、8年ぶりの高さとなる6.2%だった。しかし、所得分配が適切になされたかを示す労働所得分配率は過去6年で最低の59.2%だった。国全体で所得が伸びても、勤労者の取り分が減ったことを示している。
 サラリーマンを中心とする中産階級の割合は、1990年代の100世帯当たり75世帯から、最近は66‐67世帯へと減少した。代わりに増えたのは貧困層だ。貧困層は昨年、初めて300万世帯を超えた。その割合は経済協力開発機構(OECD)加盟国平均(10.6%)の2倍に達した。
 20代〜40代のスーツ姿のサラリーマンたちは出勤前、あるいは帰宅途中に投票所に長い列を作ったが、この風景は、国会議員再・補欠選挙で盆唐乙で見られた光景そのままだった。投票率が49%近くまで伸びたのもこうした若年世代が選挙に動員された結果といえる。

 2)李明博大統領私邸問題と安哲秀旋風による野党候補の一本化

 任期4年目を迎え、李明博政権に対する民心離脱が目立つ中で浮上した李大統領の「内谷洞(ネゴクトン)私邸」問題(大統領退任後の私邸用地を息子名義で購入し不動産実名制に違反していた問題)は選挙に決定的な影響を及ぼしたといえる。
 朴元淳候補の禹相虎(ウ・サンホ)報道官は26日、「経済状況などで怒りを感じている国民を内谷洞(ネゴクトン)私邸波紋がさらに刺激した」とし「政権とハンナラ党が断罪にあった」と述べた。
 また、旋風を起こした安哲秀ソウル大融合科学技術大学院長が選挙終盤の23日、朴元淳候補陣営を訪れたことも勝敗を決める要因として作用した。
 このことは世論調査の結果が証明している。10月15日の中央日報世論調査では両候補の格差は1ポイント(朴元淳40.8%、羅卿ウォン39.8%)だった。しかし25日の調査では4ポイント(朴元淳52%、羅卿ウォン48%)に広がった。「23日」を境に反転したのだ。
 野党圏が結集したのも朴候補には大きな力になった。自由先進党を除く野党陣営が候補を一本化したことで、反ハンナラ党・反李明博大統領勢力が悩まず選択できる環境をつくったということだ。
 選挙戦略も悲喜を分けた要因の一つだ。羅卿ウォン候補側は選挙序盤から激しく検証攻勢をかけた。中央選管委が22年ぶりに選挙過熱を懸念する警告書簡を出すほどだった。羅卿ウォン候補側は実際、これを通して2けたまで開いていた支持率を僅差に縮めた。
 しかしそこまでだった。選挙後半、朴候補側が羅候補を相手にネガティブ戦を繰り広げ、羅候補が追い込まれた。「羅候補が年会費1億ウォン(約700万円)のソウル江南(カンナム)皮膚クリニックに通った」というデマ情報は、羅候補にかなり大きな打撃を加えたというのが朴候補側の判断だ。羅候補側の関係者も「皮膚クリニック問題でネガティブにあったのが決定的だった」とし「特に庶民層は事実関係を確認せずに『羅卿ウォンはだめだ』と話す人が多かった」と語った。

 3)若年層のハンナラ党離れとSNS

 ソウル市長補欠選挙が行われた26日夜、朴元淳候補の当選が有力とのニュースが伝わるや、ソウル広場に集まった支持者らは歓声を上げた。支持者の多くは20〜40代だった。
 北朝鮮による度重なる挑発で若年層の保守化が取りざたされていたが、ハンナラ党の失政と李大統領の金持ち優遇政策が若年層を再び親北朝鮮陣営に押しやった形だ。若年層に、ハンナラ党でなければ親北朝鮮候補であってもかまわないとの感情を持たせてしまった。この感情を増幅させたのがSNS(ソーシャルネットワーク)である。
 「ツイッター」などのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を利用した新世代は、今回の選挙でもSNSを十分に活用し「水面下の選挙運動員」として活躍した。
 SNSのユーザーたちは、投票を呼び掛ける行為に対し取り締まりに乗り出した中央選挙管理委員会(選管)も冷やかしの対象にした。選挙当日にツイッターで「投票しよう」と呼び掛けるのは違法だが「投票した」と書きこむのは合法だ、という選管の発表に対し、ユーザーたちは「では『投票したか』と聞くのは合法か」などと応戦した。これに野党・民主党など既成政党も加勢し「SNSを利用した選挙運動で告発された場合、法律支援団を派遣し支援する」とあおった。国家の公権力の基本といえる選挙管理業務までも、SNSのユーザーたちにとっては冷やかしの対象でしかなく、彼らに便乗して選挙戦を有利に進めようとする政党にとっても利用する対象となった。
 韓国若年層の多くは、新聞やテレビの編集済みニュースになじんでいない。このため、偏向的かつ一方的な情報に振り回されやすい。新聞やテレビを通じて情報を入手し、考えを整理した後に自分の意見を主張する50〜60代とは、情報収集や交流の手法が完全に異なっているわけだ。韓国のSNS加入者は、今年9月現在で1500万人を超えた。
 SNSを通じ「自分たちだけの世の中」を作り出している若年層は、北朝鮮が引き起こした韓国海軍哨戒艦「天安」爆沈事件でも、多国籍調査団の報告書を認めず、SNSで自分たちだけのさまざまな結論を下している。

3、来年の総選挙と大統領選挙に与える影響

 政界に足を踏み入れて50日ほどしか経っていない朴候補が、新民党(1961年創党)と共和党(1963年創党)の一部を受け継いでいる民主党とハンナラ党の候補を抑えたことで、既成政党は大きな打撃を受け、韓国の政党政治が一つの曲がり角にさしかかっている。今後韓国政界に大きな変化が起こることが予想される。

 1)ハンナラ党の弱体化

 まず、ハンナラ党と李明博大統領はソウル市長選の敗北で大きな打撃を受けることになった。 李明博大統領のレームダックも加速すると予想される。選挙の過程で「内谷洞(ネゴクドン)私邸問題」が浮上し、羅候補にとって大きな悪材料として作用しただけに、李大統領に対するハンナラ党の不満も強まり、洪準杓(ホン・ジュンピョ)代表の辞任も取りざたされている。党が李大統領と距離を置く可能性も排除できない。
 選挙結果の余波は大統領府にまで及んだ。27日任太熙(イム・テヒ)大統領室長が、ハンナラ党が敗北した責任を取り、いつでも大統領室長から退く意向を李明博大統領に伝えたと言われている。 李大統領が任室長の辞意を受け入れる場合、与党も人的刷新に向かわざるを得ない。青瓦台の関係者は「任室長が退けば、ソウル市長選敗北の責任論から免れない洪準杓ハンナラ党代表も席を守るのは難しいだろう」と話した。 しかし任太煕(イム・テヒ)大統領室長は30日、聯合ニュースの電話取材に対し、「国政運営のためにやるべきことをやるのが責任ある姿勢」と述べ、青瓦台主要スタッフの刷新を事実上否定した。
 朴槿恵元代表の「大勢論」も揺れ始めている。次の大統領選挙でハンナラ党の最有力候補とされる朴槿恵元代表は、現政権発足後としては初めて、支援のための遊説に乗り出し「責任ある政治を行うには、党の後押しが不可欠だ」と述べ、ハンナラ党への支持を訴えた。しかしソウル市の有権者は朴元代表の声よりも「新しい時代を切り開く変化のスタート地点にしてほしい」と訴えた安哲秀(アン・チョルス)ソウル大学融合科学技術大学院長の話に耳を傾けた。そのため今回の選挙結果は、実際に出馬した羅ギョンウォン候補が敗れただけにとどまらず、羅候補を応援した朴元代表の敗北でもあると言われている。つまり李明博政権とハンナラ党全体が審判を受ける結果となっただけでなく、朴槿恵元代表の「大勢論」も揺れ始めているということだ。この流れがそのまま続くと来年の総選挙と大統領選挙に大きく影響することは間違いない。

2)民主党内で強まる親北朝鮮勢力の影響

 今回選挙での特徴は、ハンナラ党の敗北がそのまま野党第一党の民主党勝利となっていないことだ。民主党は昨年の京畿道知事選挙に続き、今回のソウル市長選挙でも独自候補を擁立することができなかった。つまり民主党は、今回の選挙では最初から最後まで脇役だったのだ。
 民主党がやったことといえば、朴候補がリードする状況がハンナラ党による検証攻勢でひっくり返りそうになったとき、羅候補に対するネガティブ攻勢に乗り出して最後の追撃を断ち切った程度のものだろう。候補も立てられなかった民主党は、ある意味でハンナラ党よりも惨めな敗北を喫したといってよい。
 「安哲秀旋風」の効果が今回の選挙で確認されたことで、今後民主党を含む野党圏では親北朝鮮系の市民団体勢力と親盧武鉉勢力の影響力が強まるだろう。こうした勢力は来年の総選挙・大統領選挙を控え、「全野党陣営を大統合しよう」として民主党に圧力を加えるとみられる。 来年の大統領選でも民主党は候補者を立てられないかもしれない。

 3)無党派層の政治勢力化による政界再編

 今回の選挙結果は、アジア通貨危機や所得の二極化による苦痛を身にしみて感じてきた20〜40代の有権者の怒りが、旧態依然とした政界に対する反感となって表れたといえる。これらの世代は、政界のダイナミックな変化を求めている。政治の第3勢力を形成する可能性は十分ある。
 こうしたことを踏まえ、来年の国会議員総選挙を前に、ハンナラ党や民主党も生き残りをかけて再編を断行するものとみられる。特にハンナラ党は全面的な再編が不可避となった。また、民主党は盧武鉉財団の文在寅(ムン・ジェイン)理事長を中心とした親北派との統合や、安哲秀・朴元淳両氏に代表される「無党派勢力」との統合、あるいは候補者の一本化などをめぐって駆け引きを余儀なくされるとみられる。
 北朝鮮との関係や安全保障よりも生活の改善を優先的に考える若年層は、新たな政治の枠組みを求めている。彼らのニーズに耳を傾け、中産層の復活を実現しないかぎり、韓国における親北朝鮮勢力の影響はなくならないであろう。それはそのまま北朝鮮の揺さぶりに韓国政治が悩まされ続けることを意味する。


 
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