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韓国社会から排除され始めた従北朝鮮(従北)勢力

南北関係研究室
2014.2.28

 統合進歩党(統進党)の李石基(イ・ソッキ)議員、52)による内乱陰謀事件について審理を行ってきた水原地裁刑事12部(キム・ジョンウン裁判長)は2月17日、「李議員が、暴力的な方法によって韓国の体制を転覆させようとした地下革命組織『RO(Revolutionary Organization)』の総責任者として、構成員らと共に内乱を企て扇動した」として、検察の起訴事実を全て認めた。また「革命同志歌」の斉唱や利敵表現物の所持などといった国家保安法違反罪での起訴事実についても有罪と判断し、李議員に対し、懲役12年、公民権停止10年の判決を言い渡した。現職の国会議員が内乱を企て扇動したとして、裁判所で実刑判決を受けたのは韓国政府樹立以来初めてである。
 地裁は判決理由について「李議員らは、戦争の危機が高まっていた昨年5月、韓国の体制転覆を目的とし、首都の中心部で武装して暴動を起こす準備を進めるなど、重大な犯罪を犯した」と述べた(朝鮮日報2014/02/18 )。李議員と一緒に起訴された6人にはそれぞれ懲役4?7年、資格停止4?7年が宣告された。
 今回の判決で従北朝鮮(従北)勢力は大きな打撃を受けた。 これがそのまま従勢力の壊滅には至らないだろうが、しかし今後、李石基グループのように、政党を掌握して国会に進入できる従北勢力が根を張る可能性は低くなった。 その意味で、今回の事件は従北勢力の歴史的終焉を告げる始まりと言えそうだ。 韓国社会は民主主義運動を健全化させる大きな第一歩を踏み出したといえる。

1、従北勢力除去を進める朴政権

1)李石基議員の逮捕を裁可し統進党の解散審判進める

 昨年8月30日、水原地裁は「内乱陰謀罪」などの疑いのある統合進歩党(統進党)李石基(イ・ソクキ)議員に対する拘束前被疑者尋問(令状実質審査)を行うための逮捕同意要求書を検察に送った。法務部は同要求書を受け取り、国務総理室に提出。海外歴訪から帰国した鄭ホン原(チョン・ホンウォン)首相が9月1日に決裁した。
 これを受けて2日、朴槿恵(パク・クネ)大統領は、事前拘束令状(被疑者をすぐに拘束することが不可能な場合に検察が請求する令状)が請求された李石基議員の逮捕同意要求書を裁可した。また9月4日午後4時25分、李石基議員逮捕案は国会でも採決された。姜昌熙(カン・チャンヒ)国会議長は「投票289人のうち賛成258票、反対14票、棄権11票、無効6票で可決されたことを宣言します」と逮捕同意案に対する無記名投票の結果を発表した。
 歴代国会で逮捕同意案が可決されたのはこの日が12回目となるが、しかし内乱陰謀容疑をめぐる表決は初めてだった。国会で初めて「従北」に追放決定を出したという意味は大きい。統進党の議席(6議席)を勘案すると、棄権・無効を含む「事実上の反対票」(31票)は予想より多かったという指摘もあるが、与野党の合意で258票という圧倒的賛成の結論には重いものがあったといえる。
 朴槿恵大統領の決断は、過去の金大中・盧武鉉政権下では考えられないものである。また李明博政権も従北派整理作業を等閑視していたことを考えると、韓国の民主主義運動健全化への大きな決断であったといえる。
 朴政権は従北派の牙城、統進党に解散を命ずる作業も開始した。韓国憲法では、政府は民主的基本秩序に背く活動を行なう政党の解散を憲法裁判所に求めることができる。朴政権はその手続きも進めている。今回の判決は、憲法裁判所で進められている統合進歩党に対する違憲政党解散審判にも大きな影響を与えるものとみられる。

2)従北勢力の「全教組」にも断固たる措置

 朴槿恵大統領は大統領選中に、「理念教育で教育現場を混乱に陥れる「全国教職員労働組合(全教組)」と絆を強めることが何の問題もないということですか。子供たちが政治に振り回されてはならないと考えます」と文在寅(ムン・ジェイン)候補と全教組との関係を批判していたが、大統領就任後もこの姿勢には変化はなかった。
 朴大統領は当選後の昨年年2月、雇用労働部を通じて全教組に労組規約の「是正」を 命令した。「解雇者も組合員だ」という民主労組の原則を貫いてきた全教組に対し、解雇者を組合員から排除するようにとの行政命令を下したのだ。全教組はこの命令を拒否したため、朴政権は9月23日に、「10月23日までに規約を変えなければ労組の設立を取り消す」という「労組失格条件是正命令」の最後通告を行った。しかし、全教組がこれを受け入れなかったために法令違反を理由に労組資格を取り消して全教組を非合法化した。
 またこれと関連して朴政権は10月21日に、検定合格した高校用歴史教科書8種に計829カ所の修正を求めた。うち1種は、従北派が、親日的だ、歴代独裁政権の美化だなどとして合格取り消しを求めていた「初めての保守学者らによる教科書」だった。朴政権は合格取り消し要求に応じず、親北朝鮮史観に基づく7種を含め、全ての教科書に修正要求を出して歴史教育正常化作業を進めた。
 修正要求の対象には、韓国の国家的正統性の否定、南北分断の責任が韓国にあるかのような記述、北朝鮮体制の美化などが含まれていた。修正を求められたある教科書などは、金世襲独裁のための主体思想に関して、「北朝鮮学界の主張によれば主体思想は人間中心という世界観で、人民大衆の自主性を実現するための革命思想」と北朝鮮の宣伝をそのまま引用したものだった。教科書執筆者らの修正要求反発を排除して韓国政府が歴史教科書の親北朝鮮記述の是正を命じたのは今回が初めてだ。

2、朴政権が進める統合進歩党解散審判の行方

 韓国法務部は昨年10月に韓国憲政史上初めてに統合進歩党(統進党)の政党解散審判を請求することにした。憲法裁判所法第55条は、政党の目的や活動が(自由)民主的基本秩序にそむくとき、政府は国務会議の審議と議決を経て、憲法裁判所に政党解散審判を請求できると規定している。韓国法務部はこの請求と共に、統進党を李石基の「RO」が主導権を握った組織、つまり「主体思想」を指導理念とし、北朝鮮式社会を指向する「北に従う(従北)勢力」と規定した。李石基に対する今回の判決は法務部のこの主張を認めたものである。
 「統進党」は李石基が昨年拘束されたとき、李議員を除名せず、積極的に彼を擁護したことで運命共同体となり、李石基=RO=統進党との図式を自ら立証した。したがって、李石基事件の判決は、統進党に対する憲法裁判所の判断に直接影響を与えることになる。韓国の現行法上、憲法裁判所は、審判請求が提起された日から180日以内に解散の可否を決定しなければならない。
 政党解散請求は、憲法裁所長を裁判長とする7人以上の裁判官が出席した裁判部で審判せねばならず、6人以上の裁判官の賛成を以って政党の解散を命ずることができる。
 解散決定が宣告されると、政党法第42条の規定によって、統進党の代表と幹部は、解散させられた政党の綱領や基本政策と同じ、または類似の代替政党を作れなくなる。政党法第41条3項によって、国庫補助金などの統進党の財産はすべて国庫に帰属することになる。
 政党解散審判請求があったときは、憲法裁判所法第57条によって憲法裁判所は、請求人の申請又は職権で最終宣告まで、被請求人(統進党)の活動を中止させる決定(仮処分決定)ができる。憲法裁判所が統進党に対する政府の仮処分申請を受け入れれば、統進党に入る国家予算も遮断される(昨年末に統進党に支給されてた国家予算は約7億円)。
 統進党議員などの資格喪失の可否については、中央選挙管理委員会が有権解釈を下さねばならない。政党解散の場合、議員職維持の可否に対しては憲法に明文規定がないからだ。
 統進党が解散されれば、国内外の従北勢力はもちろん、朝鮮労働党にも大きな打撃となる。解散請求の裁可にあたっては今後従北勢力と北朝鮮側の猛反発が予想される。

統進党が存在した背景

 北朝鮮に朝鮮労働党という唯一党 があったため、韓国での従北勢力は別途の独自的な政党を作らず、「民主主義民族統一全国連合」のような統一戦線体で活動する方法をとった。それに比べてPD(民衆民主革命派)系列は内部に視点の相違が一部存在したものの、韓国革命の独自性を重視し独自の政党建設に重きを置いた。この違いが、民主労働党(民労党)建設初期段階でPD出身の魯会燦(ノ・フェチャン)、チョ・スンウなどが中心的役割を果たした理由である。
 しかしその後従北NL(民族解放民主主義革命派)の一部でも公開政党の民労党に参加し始めた。いつからかは定かではないが、2000年代序盤に「民族民主革命党(民革党)事件」で拘束されていた主要な関連者らが釈放され、徐々に民労党に参加するようになり2000年代中盤には民労党の党権を掌握するようになった。
 「民革党事件」関連者らの判決文によれば、1990年代後半まで彼らは「選挙と議会の重要性がいくら高まるとしても、これを絶対化し選挙変革と議会主義を主唱するならば、これは変革運動の基本原則を破る修正主義への脱線であり、投降主義の罠に落ちる」と考えていた。
 こうした彼らが合法政党として大量に進出したのには、総じて二つの理由からだと判断される。一つは、検挙された後、身元が捜査機関に露出し地下活動に障害が生じたたこと、もう一つは、韓国の民主化が進み、議会と合法的手段を通じた政権掌握の可能性が過去に比べ高まったことである。
 2012年「4・11総選挙」に最高リーダー格の李石基本人が直接比例代表に挑戦し当選したのは、野党連帯を通した議会闘争で政権掌握を指揮するためのものと思われる。
 北朝鮮は2011年に2012年の大統領選挙を見据え、民労党を中心に野党勢力の力量を拡大し、野党大統合政党を建設せよと指令を下していた。この方針に従って民労党は2012年の「4・11総選挙」を前にした2011年11月20日に、柳時敏(ユ・シミン)率いる「国民参与党」とシム・サンジョン、魯会燦が率いる「統合連帯」と統合し、統合進歩党を結成した。この時の状況について柳時敏は、李石基が「統合党建設に対し周辺からの反対が多かったが、これを自分の力で退けた」と語っていたと述べた。北朝鮮の指令と李石基らの動きが一致していたのである。
 しかし2012年の「4・11総選挙」以降に表面化したように、彼らは「北朝鮮体制、指導者世襲、北朝鮮人権、主体思想」 など北朝鮮の核心的問題について回答を回避するなどの態度を示したことで、韓国国民の前に従北勢力の実体をあからさまにする結果をもたらした。

3、今後の焦点は統進党の解散問題、民主党にも大きな影響

 韓国左派系メディアも今回ばかりは「李石基議員擁護は無理」と判断している。「国民の目からは李議員はすでに国会議員の資格を失っている。盲目的で時代錯誤な発想を持つ人物を国民の代表として認めることはできない」(ハンギョレ新聞社説)と突き放した。
 今回の判決を受け、今後の焦点は、政府が憲法裁判所に求めた統合進歩党(統進党)に対する違憲政党解散審判に移る。 韓国の憲法第8条には「政党は国家の保護を受ける」と明記されている。その一方で「政党の目的や活動が民主的な基本秩序に反する場合」には政府が憲法裁判所に提訴することができ、憲法裁判所の決定によってその政党に解散を命じることができるとの規定がある。
 一部保守派からは「従北勢力撲滅」を訴える声が上がっている。しかしこの問題はそう簡単ではない。李石基がリーダー的存在である地下革命組織(RO)が政党ではないからだ。仮に韓国大法院が「RO」に対して内乱陰謀罪を犯していたとして「利敵団体」と結論づけた場合でも、現時点では政党でもないこのグループを強制的に解散させる方法がない。これは「利敵団体」という言葉はあっても、これを解散させる法的根拠がないからだ。
 これまで大法院で利敵団体との判決が下されたケースは13件あるが、そのうち「祖国統一汎民族連合(汎(はん)民連)南側本部」や「ウリ民族連邦制統一推進会議」など5団体は今なお同じ団体名を使い、以前とまったく同じ活動を行っている。これまで国会には反国家団体や利敵団体との判決を受けた団体やグループを強制的に解散させる法案が3回提出されたが、与野党ともこの法案の成立に積極的ではなかった。
 従北勢力を韓国社会から排除するためには、反国家団体や利敵団体の解散を命じる新たな法律が必要なのだが、それが簡単でないのが韓国社会の現実である。こうしたことから李石基の有罪が最終確定したとしても、彼を徹底擁護したとの理由で統進党を違憲政党として解散させるまでにはさまざまな曲折が予想される。
 今回の判決が民主党に及ぼす影響も無視できない。ある意味こちらの影響の方が韓国政治に与える影響が大きいかもしれない。2012年の「4・11総選挙」で「連帯の誘惑に負けた」(朝鮮日報)民主党は、統進党と連立を組んだが、今回の判決で、統進党との「政治的連帯回避」という消極的な対応では済まされない状況となってきた。 国家を転覆しようとした勢力と連帯した責任問題が浮上するからだ。
 反共的保守派からは「今、国民は民主党に要求せねばならない。李石基など従北勢力を庇護し統進党と連帯してきたことについて国民に謝罪し、関連責任者を除名せねばならない。李石基一党よりももっと悪いのはこの怪物を育てた従北の宿主だ」「もはや国民も決心せなばならない。統進党を庇護してきた政治勢力を、選挙を通じて審判し、統進党と李石基勢力を進歩と宣伝してきた言論メディアを膺懲せねばならない」などの声が上がっている。
 安チョルス新党の旗揚げ間近な状況で、民主党がその対応を一歩間違えば、政党の存続にも影響を及ぼしかねない。今後の動向が注目される。

以上

 
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