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2014年上半期北朝鮮国内情勢概観

北朝鮮研究室
2014.7.7

1、迫力がなかった金正恩の2014年「新年辞」

北朝鮮の金正恩第1書記は1月1日、国営報道機関を通じて、今年の施政方針である「新年の辞」を発表した。発表形式は昨年同様金第1書記が肉声で演説するものであったが、27分あまりの演説で本人の映像が出たのは前後合わせて2分47秒にすぎなかった。ほとんどの画像は、朝鮮労働党庁舎の写真であった。

  抽象的内容で一貫した昨年の総括

 この中で、金第1書記は、党内の宗派(分派)汚物を一掃する断固たる措置を取ったことを昨年の成果として真っ先にあげた。これは張成沢を粛清処刑したことを指すものである。しかし、2013年に掲げた経済目標については「人民経済多くの部門、単位において生産的高揚が起き、自立経済の土台がよりしっかりと固められ、農業部門の職員と勤労者たちが、難しい条件と不利な自然気候の中で農業生産で革新を起こし、人民生活向上に貢献しました」と抽象的に言及されただけだ。人民生活の何がどう具体的に向上したかは一切言及されなかった。
 また昨年主攻目標に掲げた軽工業と農業においてもどのような成果があったかは全く述べなかった。石炭、電力、金属、鉄道運輸を先行させ経済を活性化させるとの方針や、畜産・水産部門で掲げた目標も結果についての言及がなかった。「新世紀産業革命」で経済強国建設の転換局面を造りだすとの「野心的目標」も言及されなかった。経済運営を推進する「経済指導管理」がどのように改善されたかも一切語られていない。
 具体的成果として指摘されたのは、「馬息嶺速度」が造り出され「馬息嶺スキー場」が完成したとぐらいである。そしてそれを補う形で語られたのが文化部門での成果であった。
 昨年の公約が達成されなかったのは、すべて「張成沢一派の責任」だということを言いたかったのであろう。

今年の課題遂行では節約を強調

 金第一書記は、今年の闘争方向を「栄えある朝鮮労動党創建70周年を輝かしく飾る大祝典場につながる勝利者の進軍」とした。
 経済建設の中心課題としては、農業部門と建設部門、科学技術部門を挙げた。昨年は農業と共に軽工業を中心課題の中に入れていたが、今年は軽工業が抜けた。
 農業の課題では金日成が50年前に発表した「社会主義農村テーゼ」と結びつけて、その正当性と生活力の証明となるようにせよとした。なんとも時代錯誤的課題の提示である。
 次に掲げた課題は、建設で新しい繁栄期を切り開こうというものだ。引き続き平壌リニュアールを推進し、地方も特色を出していくようにと指示した。
 三番目の課題は科学技術の発展が強盛国家建設の原動力だとし、そこに人民の幸せと祖国の未来がかかっているとして、知識経済の推進を強調した。そして金属、化学工業、電力、石炭工業などの基礎産業の先行、軽工業、水産業の強化、地下資源と山林資源、海洋資源の開発などの課題をあげ、教育をはじめとした文化の建設を強調した。
 この課題遂行のために、金第1書記は、「全社会的に節約運動を強化して1ワットの電力、1グラムの石炭、1滴の水も極力節約するように」と「節約」を強調した。現在の実情が垣間見れる言葉だ。
 国防建設では「今日人民軍を強化する上での中心課題は、軍隊の基本戦闘単位であり軍人たちの生活拠点でもある中隊を強化することであります」と中隊の強化を強調する一方、国防工業では、軽量化、無人化、知能化、精密化を掲げた。
 そして各課題の遂行を成功裏に進めるには党の唯一的良導体系の確立と革命的規律が必要だとしてそれを厳格に打ち立てなければならないとの言葉で締めくくった。

2、後見人体制から金正恩「親政体制」への移行

 1)米韓に対する挑発から始まった金正恩「親政体制」

 張成沢粛清で後見人体制から金正恩親政体制に入った北朝鮮は、まず米韓に対する挑発行為から行動を開始した。
 2月下旬から3月末にかけてノドン2発(26日未明)を含む92発の多連装ロケット砲及び短・中距離弾道ミサイルを東海(日本海)に発射し、3月31日には西海(黄海)で500発の海岸砲を発射、そのうち100発がNLLの南側韓国地域に落ちた。韓国軍はこれに対して3倍の300発を打ち返している。
 この一連の挑発には、米韓の合同軍事演習(キーリゾルフ・フォールイーグル)や4月下旬のオバマ大統領の訪日と訪韓をけん制する政治的目的も込められていた。
 米韓日はこの間にオランダのハーグで首脳会談(3月26日)を持ち、北朝鮮核問題や核拡散防止問題などで意見を交わし、「対北朝鮮で団結は不可欠」との認識で一致していた。
 4月の米韓日首脳会談後、北朝鮮は、新年辞で呼びかけた「南北関係改善」方針を忘れたかのように韓国の朴槿恵大統領を名指しで非難し始め、ノドン発射後の国連安保理非難談話(28日)に対しても強く反発し、4回目の核実験を匂わせる外務省声明(3月30日)を発表した。
 こうした中で、なぜか日本にだけは柔軟に対応し、3月30・31日の日朝局長級会談では「真摯に」な話し合い(2日で計8時間)を行い、会談の継続にも合意した。韓・米に挑発し、他方で日本との会談を続ける北朝鮮の狙いは、日中と対立する日本を「拉致問題」で引き込み経済援助を引き出し、米韓日連携の分断を図ることで国際的包囲網を突破しようとするところにあるといえる。

2)恐怖政治で求心力を強めようとする金正恩

 金正恩第1書記にとっての最大の悩みは業績不足である。業績があれば張成沢をあのように殺しはしなかったであろう。「業績」のない彼は、いま「恐怖」を与えることで「一人独裁」を維持せざるを得ない状況にある。
 内部からの情報によると、張成沢派に対する粛清処刑はいまも続けられている。粛清の調査対象として12万人がピックアップされ、中堅以上の幹部たちは戦々恐々としているという。
 警備も一段と強化された。北朝鮮を往来する人の話によると、金正恩周辺の警備は5倍ほど強化された。平壌では、ホテルは勿論あらゆる施設に盗聴・盗撮装置が設置され、街中も人々が集まるポイントには盗聴・盗撮装置が張りめぐらされているという。
 特に携帯電話に対する統制は強化され、盗聴可能な機種への変更が義務付けられた。情報の外部流出には異常なほど神経を尖らせており、脱北者には容赦のない処罰が課せられ、場合によっては射殺してもかまわない指示されている。こうしたことと関係して強制収容所も拡大された(衛星写真で確認済み)。
 監視統制体制を強化する一方で、10年ぶりの思想活動者大会を開き、昨年6月に改定した「労働党の唯一的領導体系確立の10大原則」の学習を徹底させた。そして幹部に対する熾烈な思想点検が進められた。
 この思想統制強化の中で、文景徳平壌市責任秘書をはじめ、党副部長のパク・チュンホンとリャン・チョンソン、盧成実(ロ・ソンシル、2008年3月に委員長に選出)女性同盟委員長、リム・ナムス前石炭工業相、朴ミョンソン人民奉仕総局長(女性、副総理級)、建設建材大学の学長、2重労力英雄の錦城学院(英才教育を行なって少年宮殿に人材を送るところ)院長など多くの幹部が粛清された。高級鉄板焼きで日本のテレビ局が大々的に宣伝したハマナス(ヘダンファ)館の社長は収容所に送られ死亡し、妻の副社長・韓明姫は銃殺された。そのほか、内務軍楽団は解散させられ、モランボン楽団のバイオリニスト1名も新たに粛清された。
 現在も消息が途絶えた人たちや降格される人たちが後を絶たない。叔母の金慶姫書記、統一戦線部長の金養健、国際書記の金英日などが姿を見せていない。また崔龍海は降格され勤労団体書記となった。最近では人民武力部長の張正男も職務を解かれた。内閣では軽工業省が廃止され、多くの相(大臣に当たる)が交代した。

3)組織指導部への依存を高める金正恩

 金正恩が父金正日から受け継いだ2大遺産は、「核とミサイル」と「組織指導部」といえる。この組織指導部権力こそ、金正日が築いた首領独裁システムの中核である。この権力があったからこそ金正恩は、軍を抑え国家保衛部を意のままに動かし張成沢を粛清できた(軍元老グループなどという訳の分からない権力が動いたのではない)。張成沢粛清後、組織指導部は行政部を吸収し、その権力は一層強化された。
 組織指導部は、中央の書記たちを管理する本部党(金正日時代の責任者は金正日)が中心となり軍・政府を掌握している。いま注目されている黄炳瑞も組織指導部の副部長だった。かれは最近、組織指導部第1副部長に昇格したかと思えばすぐさま軍総政治局長、次帥に昇進し(4月26日の中央軍事委員会拡大会議)、超スピード出世を遂げた。
 しかし、彼がトントン拍子に出世したのは、一部で騒いでいる「三池淵グループ」に入っていたからではない。
 「三池淵グループ」とは、張成沢粛清直前の2013年11月29日、金正恩第1書記が、最北端の白頭山地域を訪問したときの随行者のうち、5人の副部長を指しているのだが、この時随行したのは8人である。すなわち金元弘(キム・ウォンホン)国家安全保衛部長、金養建(キム・ヤンゴン)党統一戦線部長、韓光相(ハン・グァンサン)部長、朴テソン副部長、黄炳誓(瑞)組織指導部副部長、金ビョンホ宣伝扇動部副部長、洪ヨンチョル機械工業部副部長、馬元(園)春財政経理部副部長の8人だった(労働新聞の発表序列のまま)。
 しかし黄炳瑞はあくまで組織指導部(出身)の黄炳瑞であり、「三池淵グループ」の黄炳瑞ではない。
 黄炳瑞が総政治局に転出したころ組織指導部副部長の朴泰成も平安南道の責任書記に転出した。平壌市党の責任書記も軍総政治局局長出身なので、現在の金正恩体制はある意味組織指導部体制とも言える。
 現在本部党をはじめとした党組織全般を担当している第1副部長は趙ヨンジュン、軍を担当している第一副部長が金慶玉であり、そのほか若手としては崔輝副部長が台頭している。

4)再び軍の人事いじりを始めた金正恩

 7月1日のラヂオプレス(RP)によると、北朝鮮メディアが今年上半期に伝えた金正恩第1書記の動静報道は計94件で、故金正日総書記の上半期動静で最多だった2010年の78件を3年連続で上回った。分野別では、軍関係が45件で半数近くに上った。
 金第1書記の側近幹部の随行回数では、5月上旬に朝鮮人民軍総政治局長への就任が確認された黄炳瑞氏が64回で最も多く、総政治局長を解任された朝鮮労働党の崔竜海書記が36回で2位だった。昨年1年間の随行回数では、崔氏が1位、黄氏が2位だった。
 金第1書記の動静報道は、昨年上半期は103件、12年上半期は81件だった。(2014.7.1 17:20 共同)
 それに伴い、再び軍首脳の交代が頻繁に起こっている。
 現在の軍関係人事はつぎのようになっている。

総政治局
局長 黄炳瑞次帥
組織局長 朴ヨンシク中将(新)
宣伝局長 金ドンハ中将

人民軍
総参謀長 李永吉大将
第1副総参謀長 辺仁善大将(作戦局長兼任)
副総参謀長 朴ジョンチョン上将

人民武力部
部長 玄永哲(元総参謀長、返り咲き)
張正男は更迭

機械(軍事)工業部
部長 朴道春(書記兼部長)
副部長 ホン・ヨンチョル、ホン・スンム

5)党・政府を金正恩親政体制に改編

 北朝鮮では3月9日に第13期最高人民会議代議員選挙を実施し、3月17日には金正恩が出席して党中央軍事委員会拡大会議を開き一部委員を交代させた。それに基づき4月9日には第13期最高人民会議第1回会議を開催、金正恩を国防委員会第一委員長として推戴するなど国家機関における主な人選を終えた。
 これに先立つ4月8日には党中央委員会政治局拡大会議が開かれた。政治局拡大会議では最高人民会議第13期会議に提出する国家指導機関構成案が討議され、党の機構補強問題と2013年3月の中央委員会全員会議以降の政治変動に合わせた人事が行われ、政治局委員・候補委員をはじめ党の部長と市、道党責任書記の一部異動があった。この党政治局拡大会議には党中央委員会政治局常務委員、政治局委員・候補委員が出席し、内閣副総理や党中央委員会部長、第1副部長、副部長などが傍聴した。
 この一連の会議を通じて金正恩親政体制が確立したとみられる。上半期の北朝鮮情勢では、最も重要な内容の一つと言える。しかし対外関係の動静は、1月上旬に米プロバスケットボールNBAの元スター選手デニス・ロッドマンが企画したバスケの米朝親善試合を観戦した1件にとどまった。

3、一向に改善の兆しが見えない北朝鮮経済

 張成沢粛清で揺らぐ金正恩政権の命脈を握るのは経済問題である。金正恩が経済再生に成功しなければ第2第3の張成沢事件が起こるだろうし、政権の瓦解は進むだろう。昨年の経済成長が1.3%で改善の方向にあるとの韓国銀行(中央銀行)の情報もあるが、われわれが内部から得ている情報とは大きな落差がある。北朝鮮の実体経済は今もなお改善の兆しを見せていない。
 金正恩第1書記は、2014年新年辞で今年の課題を提示しながら現在の苦しい経済状況を次のように吐露した。
 「人民経済のすべての部門で、生産的潜在力と内部の余力を残らず引き出して生産を増やすとともに、節約運動を力強く展開しなければなりません。節約はすなわち生産であり、愛国心の発露です。全社会的に節約運動を強化して1ワットの電力、1グラムの石炭、1滴の水も極力節約するようにし、すべての人が強い愛国心と主人としての態度を持し、国の経済管理を几帳面に行う気風を確立しなければなりません」。6月17日の労働新聞の社説は、金正恩のこの言葉を引用して、一層強く節約闘争を呼び掛けた。
 昨年の張成沢処刑の判決文でも「経済」が8回、「経済と人民生活の破局」という表現が2回出てくる。表向きは張成沢氏の罪状の説明だが、それはそのまま北朝鮮経済がまともに機能せず、人民生活の悪化を認める形にもなっている。
 判決文ではまた「張成沢が首都の建設と関連する事業を混乱させ、(中略)平壌市建設を意図的に妨害した」という文言がある。これは張成沢が中心となって2009年から進めてきた「平壌市10万世帯住宅建設運動」が、資金不足が原因で2万世帯しか建設できなかった責任を追及したものである。言い換えれば「2012年までに強盛大国を建設する」という約束が実現できなかったことを認める形となっている。
 張氏についてはさらに「2009年に万古逆賊の朴南基(パク・ナムギ)をあおり、数千億ウォン(数百億円)に上るわが国の資金を乱発した上に、経済面で甚だしい混乱を引き起こすことで、民心を苦痛に追い込んだ。(張成沢は)それを背後で操った張本人だ」とする責任転嫁もあった。
 金正恩が後継者となった後の経済政策の失敗は、すべて張成沢に背負わせた格好だ。しかしこうしたプロジェクトを張成沢が独断で進められるはずがない。金正日が承認したからこそ進めたプロジェクトである。最近の情報では、金正恩もそれを承認していたとされる。

1)非生産的浪費が続く

 張成沢粛清は、北朝鮮の苦しい経済状況、特には枯渇する外貨と金正恩の非生産的浪費がもたらした矛盾の爆発であり、それはとりもなおさず「経済建設と核武力建設併進路線」の非現実性を示したものだ。
 昨年北朝鮮は、農業生産において若干の改善があったもののその他の経済状況ではほとんど改善が見られなかった。その主な原因は金正恩の浪費と外貨の枯渇にあった。
 金第一書記は、非生産的部門に莫大な資金を投入し続けている。
 『労働新聞』を2012年1月分から2013年6月分まで分析した結果、金第1書記は金日成主席・金正日総書記など金氏一族に関する銅像や壁画、記念塔といった政治的シンボルが、新たに141件建設、あるいは改修・補修された。父親の金総書記が権力を握っていた2010−11年中の件数(72件)に比べおよそ2倍に増えている。
 死体保管所(錦繍山太陽宮殿)の内外部全般のリニュアールとフランスのベルサイユ宮殿を真似た大規模庭園も造園中である。そのために募金を集めの基金まで設立し、それを管理する施設まで新築した。国民に寄付を強要しているだけでなく朝鮮総連職員にも寄付を強要している。また北朝鮮全域で「芝生植え」の熱風が熱を帯び江原道地区に新しい大規模牧場建設が推進されている。平壌市を中心としてさまざまな娯楽施設の建設にも軍部などの労働力が動員させられた。元山馬息嶺スキー場、平壌美林乗馬クラブ、ルンラ遊園地、文繍プ−ル遊戯場、柳京苑(浴場)万景台・大城山遊園地、統一通りヘルスセンター、ヘダンファ(はまなす)館、ヘマジ(日の出迎え)など40余箇所の娯楽・サービス施設を短期間に建設し、一部は今も建設中である。最近では元山に大規模な少年団野営所をオープンさせたが、その他の付帯設備は江原道の負担となるので道の幹部は頭をいためているという。
 金正恩政権はこのような偶像化・展示物建設に2億3000万ドル、娯楽施設など展示効果のある施設に3億ドル計5億3000万ドルを投入したがこの金額は、北朝鮮全住民の5か月分の食料であるトウモロコシ140万トンを購入できる金額である
 これに対し、鉄道や道路、発電所など社会間接資本(SOC)の建設は大幅に減った。金総書記がまだ生きていた2011年、北朝鮮は520キロの道路を新たに建設したが、金正恩政権となった2012年は、4キロを新設しただけだった。鉄道も、11年は新たに33キロ敷設したが、昨年は5キロにとどまった。発電容量も、11年は7万キロワット分拡充したが、昨年は3万キロワット分の拡充だった(朝鮮日報2013/11/12 )。
 しかし最近建築中のアパートが崩壊したことでわかるようにその工事の多くが資材横流しによる手抜き工事となっている(内部情報では、金正恩が贈り物にした科学者向けのアパートもつづけて崩落したが、こちらは当局がひた隠しに隠しているという)。

2)幻想であった主体鉄、主体肥料、主体繊維、CNC化

 北朝鮮の政治局拡大会議は昨年12月8日、張成沢元政治局員(行政部長)兼国防委員会副委員長が「国家財政管理体系を混乱に落として国の貴重な資源を捨値で売ってしまう売国行為を行なった」とする一方で「主体鉄、と主体肥料、主体ビナロン工業を発展させることに対する偉大な首領様と父なる将軍様の遺訓を貫徹することができないようにした」と指弾した。はからずも大宣伝してきた主体鉄、主体肥料、主体繊維が何らの成果を収めていなかったことを自ら暴露した。
 また金第1書記が2009年北朝鮮の後継者に登場した時「自国の地にしっかりと足をつけ、目は世界を見ろ」と金属工業と軽工業工程の「CNC(コンピューター数値自動)化」を目玉政策とし重要課題とて提示した。そしてその後、技術革新を通じて「ニョンハ機械」と 「熙川(ヒチョン)工作機械工場」で生産された水準の高いCNC 設備は、海外へ輸出するまでになったと宣伝された。
 しかし、それは全くの虚偽宣伝であった。むしろ今はこのような CNC 設備と自動化工程が北朝鮮の工場企業所で‘厄介者’に転落している。模範として建設された「羅南炭鉱機械工場」すら CNC工程を稼動できないでいる。この「羅南炭鉱機械工場」第3職場(鋳鋼職場)ではCNC 工程化が完成し、以後多くの工場企業所の工作機械も「数値操縦盤」に入れ替えられたと北朝鮮は宣伝していた。
 CNCを稼動しようと思えば電気と電力(周波数)が正常に保障されなければならない。しかし北朝鮮の電力生産能力(300万Kw/h弱)では需要をまかなえない。電力不足による突然の停電と電圧の不安定はコンピュータープログラムにエラーを続出させ外国産部品の故障を頻発させた。こうした北朝鮮の劣悪な電力事情によって「羅南炭鉱機械工場」のCNC 工程は‘無用の長物’になったのである。CNC 工程を取り入れた他の工場企業所も事情は同じだ。

3)遅々として進まない「6・28措置」

 金第1書記は、新年辞で農業部分を第一の課題として言及「経済建設と人民生活向上のための闘いで、確固たる姿勢で農業に主打撃方向をむけ、農業にすべての力を総集中しなければならない」と強調した。食料の増産が体制維持の生命線と捉えている証左であろう。しかし、昨年に開始した農業改革は早くも挫折の憂き目を見ている。
 農業部門では、昨年8月から「6・28措置(2012年)」を実施に移し、農業に対する国家的投資を増やす一方、必要な設備と肥料、燃油、電気、水などの人的物的資源を保障し、穀物生産を増やせるようにしながら、農場で生産された農産物を一定量(70%)を国家に収め、分組単位で処分できるように対策を講じた。
 しかし国家の投資が約束どおり進まず、農村では必要な設備と肥料、燃油、電気、水などの人的物的資源の確保がうまくいかなかったために、改革はすでに破綻に直面しているという。その結果、農業改革で核心的部分である「7:3分配制(7割を国家に収め3割の分配を受ける)」が守られていない。
 今年に入って北朝鮮を襲った干ばつも大きな被害をもたらしている。内部からの情報によると、農民は秋の収穫を非常に心配している。朝鮮中央通信は6月23日「干ばつが続く黄海道の大部分の地域と開城市、江原道などでは依然として雨が降っていない。農業部門では深刻な灌漑用水不足現象が発生している」「数万ヘクタールの田が割れて農作物の生育に支障をきたしている」と報道した。その一方で、今度は「咸鏡北道、ゲリラ豪雨で山崩れ」(6・27デイリーNK)という報道もあった。

以上

 
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