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内容乏しい北朝鮮の最高人民会議と欧米外交

北朝鮮研究室
2014.10.1

 張成沢粛清後、「人事いじり」と「恐怖政治」で統治してきた金正恩第1書記だが、自分色を出す政策遂行段階で、早くも健康悪化をもたらし、今年2度目の最高人民会議第13期第2回会議を欠席した。またこの間、姜錫柱書記と李スヨン外相を欧州と国連総会に送り出し外交的閉塞の突破と外資の導入を図ろうとしたが両者とも手ぶらに終わった。
 ただ韓国東亜日報によると、李洙スヨン外相が27日午後(現地時間)、潘基文(パン・ギムン)事務総長と面談した席で、潘氏に金正恩第1書記の親書を伝え訪朝を公式に要請したという。国連事務総長室も同日、報道資料を出し、「潘事務総長が金第1書記の親書を受け取り、李外相に感謝を表明した」と明らかにした。 外交の閉塞を国連事務総長の訪朝で突破しようとの狙いのようだ。

1、盛り上がらなかった最高人民会議

 1)金正恩の欠席

 9月に入って金第1書記が姿を現したのは、3日に李雪主夫人と共に万寿台芸術劇場で牡丹峰楽団の新作コンサートを鑑賞した時だけだ。あまり表に出てこなかった金正日とは違い、目立ちたがり屋の金正恩が、ほぼ1カ月も姿を見せないのは異常である。「体制が安定したのでそれほど重要ではない会議には出席しなくても良いと判断したのではないか。これからは表に出る回数も少なくなるだろう」と推測する学者もいるが、これはこじつけに近い説明と言える。
 また「金第1書記は現体制になり4回開かれた最高人民会議にすべて出席してきたが、父親である故金正日総書記が同会議に2回に1度の割合で出席していた前例に従っているのではないか」とする分析も出ている。しかしこれも納得できるものではない。なぜなら今金正恩が行っているパフォーマンスは、金正日色を薄めて自分色を出すものであるからだ。そのために張成沢の粛清も行ったのである。
 こうしたうがった見方はどれも説得力がない。やはり素直に健康悪化説をとるべきであろう。
 金第1書記が7月には右足を、9月には左足を引きずる様子を見せるなど、健康に問題があることはこれまで把握されている。また、金第1書記の足の治療をするため海外から医療関係者が北朝鮮に入ったとの情報もある。健康に問題があることは間違いない。足を引きずってでも姿を見せていた金正恩が、重要会議に出てこないと言うのは、症状が悪化したからと見るのが自然だ。
 30日付けの朝鮮日報日本語版によると、29日に最近北朝鮮を訪れた有力な北朝鮮消息筋が「金正恩氏は今年6月に現地指導に出向いた際、右足首にけがを負い、これを放置していたら両足首の骨にひびが入ったと聞いている。9月中旬にポンファ診療所で手術を受け、現在は特別室病棟でリハビリ治療を受けているようだ」と伝えたという。しかしこれもあくまで伝聞だ。北朝鮮当局が認めたものではない。単純な骨折ではなく内臓疾患がらみのものかもしれない。
 問題は、その症状がどの程度のものかということである。そこが重要な点である。注視していく必要がある。
 こうした健康状況よりも深刻なのは、足を引きずる姿を平気で報道する北朝鮮の変化した宣伝感覚である。
 指導者の健康は、どの国にとってもトップシークレットだ。それにも関わらず、朝鮮中央テレビは「不自由な体にも関わらず人民のための指導の道を炎のように歩み続ける元帥様」などとお涙頂戴とも受け取れる報道を行った。北朝鮮の宣伝機関としては、金第1書記がこんなに頑張っているのだから、国民はもっと頑張れと叱咤しているつもりであろうが、これは全く逆効果をもたらすプロパガンダと言える。国民は不安を感じるだろうし、世界は体制の弱体化と見るだろう。金正日時代にはこうしたミスは犯さなかった。

 2)内容の乏しい議案

 9月25日の最高人民会議第13期第2回会議の第2議題は、「忠臣」の黄炳瑞(誓)を、国防委員会副委員長に「任命」することであった。金第1書記は彼に箔をつけるためにも会議に参加したかったはずだ。父親の金正日は、張成沢を国防委員会副委員長に就任させる時は欠席しなかった。
 黄炳瑞任命の問題だけではない。崔竜海や張正男を解任し、抜けた後を返り咲いた玄永哲(ヒョン・ヨンチョル)人民武力部長と李炳哲(リ・ビョンチョル)航空・防空司令官で埋め、国防委員会の新体制を誇示する会議でもあった。その会議に欠席することは、国防委員会の補充人事を軽視することにもなり、国防委員会の権威を貶めることにもつながる。欠席に至ったのはやはり、健康状態は予想以上に悪いと見るべきだろう。
 今回会議では、国防委員会委員の新たな人事とともに、第1議題として、2012年9月25日に採択された12年制義務教育制度の執行状況についても確認が行われた。しかし、これは成果を誇示するのでもなく何か取ってつけたような議題である。重要な議題が準備されていたが、金正恩の参加なしには行えないので、急きょ議題を差し替えた可能性もある。

2、空振りに終わった欧米外交

 1)儀礼的対応でいなされた姜錫柱国際書記

 NHKは9月19日の「ここに注目!北朝鮮 積極外交の狙いは?」との解説コーナーで「北朝鮮外交には2人のキーパーソンがいるのですが、その動きを見ていますと、何らかの変化があるように思えます。まずカン・ソクジュ書記。先週から今週にかけてドイツ、ベルギーなどEU諸国を精力的に回っています。この人、北朝鮮に最初の核開発疑惑が持ち上がった時、アメリカとの交渉にあたったタフネゴシエーターで、この春、外交全体を統括する党の国際担当書記に抜擢されたばかりです。
 もうひとりのキーパーソンは、リ・スヨン外相。
 キム・ジョンウン第1書記がスイスに留学していた当時、現地の大使をしていた人物で、先月、ミャンマーで岸田外務大臣とも会っています。ニューヨークでの国連総会に出席するのではないかと見られており、実現すれば北朝鮮の外相としては15年ぶりのアメリカ訪問となります」(NHKオンライン2014年09月19日 出石 直 解説委員)と報道した。
 出発する前までは、岸田外相の訪欧と重なったことや、各国首脳の国連総会(16日から開幕)参加もあったので、NHKが報道したように北朝鮮外交に注目が集まった。
 まず姜錫柱書記は6日、北京を経由して欧州に出発した。核問題や対米外交など北朝鮮の外交政策を主導しているとされる姜氏が、北朝鮮を留守にして欧州を訪れるのは極めて異例だと見られた。そうしたことから、経由地の北京で中国要人と接触するのではと思われていたが、中国側は何の行動も起こさなかった。姜氏は、空港の出国ゲートを出ないまま欧州便に搭乗したとみられる。
 姜氏はドイツ、ベルギー、スイス、イタリアを歴訪し、政党、議会との交流を行い、外交の幅を広げて国際的孤立を脱し、投資誘致など経済難からの脱却に向けた働き掛けを行う予定だった。
 しかし、最初の訪問国、ドイツで面会したのは社会民主党の国際委員長ら政党関係者のみだった。9日にはベルギー・ブリュッセルで欧州議会外交委員長のエルマー・ブロック氏と会談しものの、北朝鮮の核や人権問題に対する欧州の批判的な立場を確認する場になった。
 続けて姜氏は11〜13日にスイスを訪問し、同国のイヴ・ロシエ外務次官と会談した。スイス外務省はVOA放送に対し姜氏との会談は「国交がある国との定例政治対話であり、異例なことではない」と説明した。
 姜氏は16日までに、ドイツ、ベルギー、スイス、イタリアの4カ国の訪問を終えた。スイスを除く3カ国で政府高官と会談できず主に政党関係者と面会しただけだったとVOA放送は明らかにしている(聯合ニュース2014/09/16 10:20 )。イタリア外務省は15日、VOA宛ての電子メールで「いかなるイタリア政府当局者も姜氏と面会していないとした
 VOAは、北朝鮮の国際部門の実力者とされる姜氏が10日間に及ぶ欧州訪問期間中に各国高官と対話ができなかったのは異例だとしている。
 帰路に北京で中国要人との接触があるかと思われたが、これもなかった。

 2)手ぶらで帰ってきた李スヨン外相

 15年ぶりに国連総会に出席ということで注目された李スヨン外相も手ぶらで帰国した。
 21日に米ニューヨークに到着して6日が経過する間、目立った活動もなく、国連総会に集中するために、サンディエゴで開かれた北東アジア協力対話(NEACD)にも参加しなかった。
 197の国連加盟国が出席する総会であるため、李外相はこの機に、2国間、多国間会談など様々な活動をするものと予想された。 しかし、他国との会談は全く報道されなかった。 米国とも接触できなかった。24日、朴槿恵大統領が総会演説の時、北朝鮮代表団と共に最前列に座り、最初から最後まで見ていたのが注目された唯一の事例だった。
 李外相のニューヨーク行きには、米国主導の「北朝鮮人権高官級会議」に参加する目的もあった。 国際社会に向かって、「北朝鮮に人権問題は存在しない」と広報する機会と考えていた。 しかし、米国から「北朝鮮は国連人権委員会の勧告事項を受け入れていない」として参加を拒否された。 北朝鮮が書簡で、「私たちの参加を拒否すれば、核問題を含め朝鮮の対米政策を全面的に再検討する必要が生まれるだろう」と警告したが、受け入れられなかった。
 李スヨン外相は27日(現地時間)に基調演説を行い、米国の対北朝鮮敵視政策を批判した上で、北朝鮮核問題の解決には米国が北朝鮮の自主権や生存権に対する脅威をなくすことが必要だと訴えた。米国が主導する西側諸国の対北朝鮮制裁については、「米国の一方的な制裁と貿易・金融封鎖を一日も早く撤廃すべき」と主張した。

 ロシア訪問で成果を出せるか

 李外相は帰国途中、ロシアを訪れ、協力を誇示すると見られる。 特に、李外相の訪問を控え、ロシア政府が「北朝鮮も中距離核戦力全廃条約(INF)に加入しなければならない」と述べ、注目される。 これは、北朝鮮を核兵器保有国と認めると共に、米国主導のミサイル防衛(MD)体制に対する非難の意図があると見られる(東亜日報2014・9・27 )。
 インタファクス通信は26日、在ロシア北朝鮮大使館の話として、北朝鮮の李スヨン外相が30日からロシアを訪問すると伝えた。タス通信によると、北朝鮮外相の訪露は2010年12月以来で、北朝鮮の核問題をめぐる6カ国協議の再開についても協議するとしている。李外相の訪ロに対しては、ロシア外務省も26日、モルグロフ外務次官と北朝鮮の金衡俊駐露大使が会談し「高いレベルの接触」を協議したと発表し、事実上確認した。
 核・ミサイル開発をめぐり北朝鮮と中国の関係が冷え込む一方、ロシアとの関係では今年に入り高官の往来が活発になるなど経済面を中心に関係が緊密化している。両国は既に貿易代金のロシア・ルーブル建て決済などでも合意。李外相の訪露ではロシアが埠頭の使用権を持ち、石炭積み出し港として稼働を始めた羅津港のある北朝鮮北東部、羅先経済特区の開発促進などが議題になるとみられる。(産経2014.9.27 00:32)
 しかし、ルーブル建て決済一つ見ても実現までには時間がかかる。またロシアといえども、北朝鮮が「核武器建設と経済建設の並進路線」に固執する限り、おのずとその経済協力には限界がある

*          *          *

 金正恩の健康が悪化し始めたのは確かだ。ストレスで暴飲暴食しているとの噂もあるが、負けず嫌いの金正恩である、外交的孤立もストレスを増やす一因となっているだろう。そればかりか、金正恩がオールインした黄炳瑞総政治局長と金元弘国家保衛部長や崔龍海書記との確執情報も出てきている。こうしたこともストレスを募らせているに違いない。
 もしも痛風系の疾患によって引き起こされた足の異常であればストレスは大敵である。その他の内臓系疾患と重なっていればなおさらである。どちらにしてもあの体では対症療法で一時的に回復したとしても再発は避けられない。根本治療のためにはダイエットが必要だ。
 しかし、あの太りすぎスタイルでパフォーマンスしてきた金正恩である。ダイエットは権威の失墜につながりかねない。残る道は、治療を受けながらストレスを解消する環境をつくるしかない。ますます日朝協議に対する北朝鮮の期待値は高まることになる。
 こうしたプレッシャーを感じてか、29日に中国の瀋陽で行われる日本との政府間協議に出席するため、現地に到着(27日)した北朝鮮の宋日昊大使は、空港での記者団の取材に対して、「このところ、日本で、われわれの期待に合わない報道が多く出ており、それについて今回の協議で確認する。日本側の立場が分からない」と不満を吐露した。
 この発言には、共同通信だけでなく、武貞秀士氏のようないわゆる「保守論客」までも懐柔して北朝鮮に呼び寄せ(8月末)、北朝鮮なりの「マスコミ・世論工作をやってきた」のに、うまくいっていないとの苛立ちも込められている。
 こうした北朝鮮の読み違いは、抑えの後見人(張成沢・金慶喜)を粛清したことで、政策調整機能が低下したこととも関係している。調整機能は恐怖を与えるだけでは解決しない。金第1書記は、今後指導者としての資質を本格的に試されることになるだろう。

以上

 
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