目次
1、中朝同盟回復を演出した習・金首脳会談
2、金正恩、習近平に米国への不満訴える
3、北朝鮮核問題介入を明確にした習主席の寄稿文
4、米国、硬軟の二面作戦で対北朝鮮対応
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中国の習近平(シーチンピン)国家主席は6月20日、中朝外交樹立70周年に際して北朝鮮の平壌を夫人と共に国賓として訪れ、25万人の平壌市民の出迎えを受けた。
午後には金正恩委員長との会談を行った後、夕方には金正恩委員長主催の歓迎夕食会に出席し、習氏訪朝に合わせて特別に準備されたマスゲーム・芸術公演「不敗の社会主義」を観覧した。21日には「中朝友誼塔」を訪問し花籠を供えた後、金正恩夫妻と昼食を共にするなど一連の行事を終えて帰国した。
中国の最高指導者の訪朝は14年ぶり。中国は通商交渉が、北朝鮮は非核化協議が、米国とそれぞれ難航し苦境にある。中朝首脳はお互いの利害から、米国を牽制する必要に迫られ、今回の習近平訪朝が実現したと思われる。
1、中朝同盟回復を演出した習・金首脳会談
北朝鮮の朝鮮中央通信は21日、20日午後に金正恩委員長と中国の習近平(シーチンピン)国家主席が平壌の錦繡山(クムスサン)迎賓館(新たに建設された迎賓館で、習近平夫妻が最初の賓客)で会談したと報じた。両首脳は、朝鮮半島情勢をはじめとする重大な国際問題や地域情勢について幅広く意見交換したとしたが、同通信報道では非核化に関する報道はなされなかった。
金正恩委員長は会談で「今回の訪問は朝中友好の不変性と不敗性を全世界に誇示する決定的な契機になる」と強調。両首脳は「国際・地域情勢に深刻で複雑な変化が起こる環境の中で、両党、両国の関係を深く発展させることは両国共通の利益に合致し、地域の平和と安定、発展に利する」と評価した。
会談には、朝鮮側から政治局常務委員会委員で朝鮮国務委員会第1副委員長である最高人民会議常任委員会の崔龍海委員長、政治局委員で朝鮮国務委員会委員である金才龍内閣総理、政治局委員で朝鮮国務委員会委員である李容浩外相、政治局委員で朝鮮国務委員会委員である李洙墉党副委員長、政治局委員で朝鮮国務委員会委員である朝鮮人民軍の金秀吉総政治局長が参加した。統一戦線部を率いて対米交渉を行ってきた金英哲党副委員長は会談から外された。
中国側からは、中国共産党中央委員会政治局委員で書記処書記、弁公庁主任である丁薛祥氏、同政治局委員で中央外事事業委員会弁公室主任である楊潔篪氏、中国国務院国務委員兼外交部長の王毅氏、中国人民政治協商会議全国委員会副主席で国家発展・改革委員会主任である何立峰氏、中国共産党中央委員会対外連絡部長の宋濤氏、中国商務部長の鍾山氏、中国中央軍事委員会政治事業部主任の苗華氏が参加した。
この会談による中朝関係の強化によって、金正恩の文在寅政権を通じた米国との交渉推進とトランプ大統領攻略作戦は終わりをつげ、今後は中国を介した対米攻略作戦が展開されるものと思われる。20日の夕食会で習氏は「中国は、金正恩委員長の指導で(北朝鮮が)新たな戦略的路線を実践し、半島問題の政治的解決過程に拍車をかけ、自主発展の立派な環境を作ることを確固支持する」と述べた。
この会談の結果、北朝鮮のこれまでの統一戦線部主導の対米交渉は、中国を積極的に活用した外務省中心の交渉体制に変更されると予想される。
2、金正恩、習近平に米国への不満訴える
金正恩国務委員長は、習近平主席との会談(6月20日)で、北朝鮮が核問題解決のために積極的な措置を取ったにもかかわらず米国が対北朝鮮制裁を緩和しないことについて、不満を表明したという。
中国国営の中国中央テレビ(CCTV)によると、金委員長は、習主席と錦繍山迎賓館で首脳会談を行い「過去1年にわたり、朝鮮半島情勢の緊張を避け、状況を管理するために積極的な措置を多数取ったが、関連する当事国(米国のこと)の積極的な呼応が得られなかった」として「北朝鮮はこのようなことは見たくない」と述べた。
金委員長は「忍耐心を維持する」とした上で「同時に、関連当事国と向き合って、各国の安全保障上の懸念について合理的な解決案を探り、政治的解決プロセスが進展することを願う」と述べた。
金委員長は、朝鮮(韓)半島の非核化過程での中国の役割を高く評価しており、中国との意思疎通を強化して、朝鮮半島非核化のための政治的解決の新たな進展を実現し、朝鮮半島の平和・安定を維持すると強調した。
習主席は、今月28-29日に日本の大阪で開催される主要20か国・地域首脳会議(G20サミット)で米国のトランプ大統領と会談することで合意しているが、そこで金正恩のこうした不満をトランプ大統領に伝える可能性がある(朝鮮日報日本語版2019・6・20)。
3、北朝鮮核問題介入を明確にした習主席の寄稿文
この会談に対する中国側の意義づけは、会談に際して労働新聞に掲載された習近平主席の寄稿文の中で示された。6月19日の朝鮮労働党機関紙「労働新聞」は、20日から訪朝する中国の習近平国家主席による寄稿を掲載した。北朝鮮メディアに中国の最高指導者が寄稿するは異例だ。
この寄稿文では、中朝の国交樹立70周年を契機とした関係強化を訴え、米朝の非核化交渉を念頭に「朝鮮半島問題と関連する対話と交渉の進展を共に推進し、地域の平和と安定に積極貢献する」と強調した。
その骨子は、
「私たちは、金正恩委員長同志の正しい決断と、当該各側の共同の努力によって、朝鮮半島に平和と対話の大勢が形成され、朝鮮半島の問題を政治的に解決することができる、簡単でない歴史的な機会が設けられることで、国際社会の普遍的な認識と期待を獲得したことに対して満足しています。中国側は、朝鮮の同志たちと共に手を取り合って努力し、地域の恒久的な安定を実現するための壮大な計画を共に作成する用意があります。
私は今回の訪問を通じて、金正恩委員長同志と朝鮮の同志と共に中朝友好協力関係を設計して、伝統的な中朝親善の新しい章を散りばめ刻もうと思います。(そのために)
―戦略的な意思疎通と交流を強化し、お互いが学びながら、伝統的な中朝親善に新しい内容を付与していくでしょう。
―親善的な往来と実務的な協調を強化して中朝関係発展に新たな動力を吹き込むでしょう。
―意志疎通と対話、調整と協力を強化し、地域の平和と安定のための新たな局面を切り開いていきます。
中国側は、朝鮮側が朝鮮半島問題を政治的に解決する正しい方向の堅持を支持し、対話を通じて朝鮮側の合理的な関心事を解決することを支持します」となっている。
この習近平の寄稿文で、注目すべきは、「朝鮮半島の問題を政治的に解決することができる歴史的な機会が設けられることで、国際社会の普遍的な認識と期待を獲得したことに対して満足しています」との部分だ。政治的解決とは、お互いが譲歩する解決のことを意味する。
今後中国は、中国の国益に合致する「同時並行的段階的交渉」を後押して米朝交渉に積極的に介入し、貿易戦争をはじめとした対米交渉を有利に進めようとするだろう。それとともに台湾、香港問題への米国の干渉を排除する材料とするに違いない。
中国は「非核化」をめぐる北朝鮮の対米闘争に積極的に介入する意向を明確にし、北朝鮮に対する経済支援をはじめとしたさまざまな支援を行うと表明しが、すでにこのところ北朝鮮の対中貿易は再び増加の兆しを見せている。習近平訪朝に合わせた中国側からの北朝鮮への物資輸送は急激に膨らみ中朝国境の橋にはコンテナトラックで渋滞が発生しているほどだ。
中国が自認した積極的役割は、今後の非核化交渉をより難しくさせかねない。
4、米国、硬軟の二面作戦で対北朝鮮対応
米国は、習近平の中朝首脳会談を横目で見ながら、トランプの「親書ゲーム」と「対北制栽強化策」を並行して進めている。G20サミットで米中が対北朝鮮制裁強化対制裁緩和でどのような外交を展開するかが注目される。
1)トランプ・金正恩の親書ゲーム続く
金委員長は、習近平主席に米国に対する不満を漏らす一方、トランプ大統領には「親書」を送り、トランプ大統領からの返書に満足の意を表すという複雑な行動を取っている。
労働新聞2019年6月23日付は一面で、金委員長がトランプ大統領からの親書を読んでいる写真を掲載し、「立派な内容が含まれているとしながら満足の意を表し、トランプ大統領の政治的判断力と格別な勇気に謝意を表するとしながら、興味深い内容を慎重に考えてみると発言した」と報じた。
このトランプ大統領の親書については、ポンペオ米国務長官が6月23日、北朝鮮の非核化に向けた協議再開に道を開くものとの期待を示した(ロイター6/24)。
ポンペオ長官はトランプ親書の内容について語らなかったが、米側は米朝首脳会談が決裂した後も協議の基礎づくりに取り組んでいたと説明。「われわれはこれまでより良い立ち位置にいる」とした。実務者レベルの協議が近く始まるのかとの問いには「北朝鮮側の今朝の発言を見ればその可能性は十分あることが示唆されている。われわれの用意はできている。北朝鮮が協議の準備があることを示せばわれわれは即座に対応できる」と強調し柔軟的対応を示唆した。
米国務省のスティーブン・ビーガン北朝鮮特別代表も19日(現地時間)、ワシントンのアトランティック・カウンシルと東アジア財団が主催する戦略対話の基調演説で「両国(米朝)は公開・非公開を問わず、直接または第三者を通じて多くの疎通をしている。(米国は)金正恩委員長の重大政策発表と公式声明を慎重に検討し、実務交渉再開時に進展を容易なものにする建設的な構想に注目している」と話した。あわせて「両国は柔軟なアプローチが必要だという点を認識している」と強調した。
トランプ親書に対する金正恩の発言にはさまざまな憶測が生まれた。米紙ワシントン・ポスト(WP)は6月22日(現地時間)、一部の専門家が、トランプ大統領が29-30日に韓国を訪問した際、「板門店で金正恩委員長との会談を試みる可能性がある」との見方を示していると伝えた。韓国政府もそうしたことを望んでいたが、トランプからも金正恩からも一蹴されたようだ。24日、韓国大統領府の当局者は、南北首脳会談も米朝韓3カ国首脳会談も行う計画はないと明らかにした。
2)米政権は引き続き制裁を強化
トランプ米大統領は6月21日、北朝鮮に対する米国独自の制裁を継続する方針を議会に通告した。法律に基づき、1年ごとに判断することになっている。北朝鮮の核・ミサイル計画などが米国の国家安全保障や外交政策、経済にとって「特別な脅威」であり続けているとの見解を維持したことになる。北朝鮮は制裁解除を求めているが、トランプ政権は非核化の実現まで制裁を維持する構えだ。
また米財務省は19日、ビーガン氏の演説から3時間後、北朝鮮の制裁回避と国際金融システムからの資金調達を支援したとして、ロシアの金融機関「ロシア・フィナンシャル・ソサエティー」を米国独自の制裁対象に指定したと発表した。このタイミングでの発表は、習近平主席の訪朝をにらみ、非核化実現までは北朝鮮に対する制裁圧力を緩めないとするトランプ政権の立場を強調する狙いがあるとみられる。この制裁の発動は、米財務省が金正恩国務委員長の専用車ベンツ輸入業者を含む中国海運会社2社を追加制裁した(3月21日)ことに対して、トランプ大統領が翌日撤回命令を下してから3カ月目となる。
制裁に指定された「ロシア・フィナンシャル・ソサエティー」は、過去2年間、既存の制裁対象である朝鮮貿易銀行ロシア支店代表ハン・ジャンスと貿易銀行が所有している中国貿易会社「丹東中城」に外国為替口座を開設した容疑を受けている。シガール・メンデルカー財務次官(テロ・金融諜報担当)は「財務省はロシアだろうが他のどこであろうが、北朝鮮の不法貿易に便宜を図る個人・機関を今後も取り締まっていく」と警告した(中央日報日本語版2019・6・21 )
同日米国務省関係者は、前日行われた金正恩委員長と習近平中国国家主席の首脳会談に関する米国の声(VOA)のコメント要求に対して「米国はパートナー国と同盟国、そして中国を含む国連安全保障理事会の常任理事国と共にFFVDという共通の目標に専念している」と述べた。
3)シュライバー米国防次官補、中国に圧力
シュライバー氏は、中朝首脳会談直後の20日(現地時間)、米国防総省の庁舎での韓国・東亜(トンア)日報との単独インタビューで、中朝密着による制裁緩和の憂慮について「中国はより多く忠実に対北制裁の履行を」と迫った。そして、「習近平国家主席が首脳会談の非公開の席上で金正恩委員長と交わした対話の中で、『非核化への意思と目標意識を持って交渉に復帰せよ』という内容が含まれたことを望む」と強調した。
シュライバー氏は、米国務省のビーガン北朝鮮政策特別代表が最近、核交渉の柔軟性に言及したことについて、「非核化の過程での柔軟性であって、目標地点(非核化)に対する柔軟性ではない」とし、「北朝鮮と現実的な時刻表について議論することができる」と強調した。
さらに、「ファーウェイの所有構造上、中国共産党指導部と連携している」とし、「同盟国がファーウェイの製品を使うことになれば、安保が脆弱にならざるを得ない」と強調した(東亜日報日本語版2019・7・24)。
以上