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武力行使せずに北朝鮮独裁体制を崩壊させる戦略

2003.6
黄長Y元朝鮮労働党書記

(1)金正日独裁体制を崩壊させるためには武力を使う必要がない

北朝鮮は、深刻な経済危機に直面しているが、しかし長い間、戦力増強と戦争準備に全力を傾けてきた結果、強大な軍事力を持つに至った。大量殺戮兵器を大量に持っているだけでなく、全国土を難攻不落の要塞に作り上げた。通常武器だけで短期間の内に北朝鮮での軍事作戦を終えるのはほとんど不可能だといえる。
そればかりか、北朝鮮と親善友好関係を引き続き維持している中国とロシアは、北朝鮮と国境を接しているため、北朝鮮の強固な後方基地として多面的な支援が可能である。こうした点で北朝鮮はイラクのような対象ではない。
イラク戦争で見られたように、戦争が少しでも長期化すれば反戦運動が高まり、米国政府を苦しめることとなるのは明白である。そうなれば、現在米国政府がイラク戦争で得た勝利による肯定的な影響力までも失う結果となり、大統領再選にも否定的影響を与える可能性がある。
それゆえ、現段階で米国政府が取るべき最も緊要な措置は、イラク戦争の正当性を十分に納得出来るように宣伝し、戦争を勝利へと導いた政治的功績を引き続き浮き彫りにする必要がある。それとともに、次の戦略的目標を定める前に、戦いの名分を立てる作業をしっかりと先行させ、イラク戦争時のように反米反戦運動が起こらないよう徹底的に対策を講じる必要がある。

(2)人権擁護の旗を掲げ、金正日独裁集団の許しがたい人権蹂躙の罪状を暴露糾弾し、北朝鮮統治集団を政治道徳的に孤立させる活動を優先させなければならない

 一部の人たちは、大量殺戮兵器の有無をもって、独裁国家を倒す名分としているが、大量殺戮兵器が悪というよりは、それを民主主義に反対し、人権蹂躙に悪用する独裁統治者が悪であるということを明確にする必要がある。イラクのフセイン政権や北朝鮮の金正日政権は、民主主義に反対し、人権を蹂躙する犯罪集団であるから大量殺戮兵器を所有してはならず、武装解除の対象とならなければならないという点を強調しなければならない。
もしも、独裁国家の大量殺戮兵器所有について、人権蹂躙の悪い目的に利用する危険性があるので懲罰の対象とするというなら、実際に人権を蹂躙し、人民を大量殺戮している独裁政権の犯罪に対してはどうして懲罰しないのかという問題が発生する。これは殺人強盗を犯す銃器を持っている者には危険分子として処罰するが、実際に殺人強盗を犯している現行犯に対しては目をつぶるということと同じである。
北朝鮮独裁集団は、数年間で300万人以上の住民を餓死させ国全体を監獄に作りあげた。彼らは人権を残忍に蹂躙しているだけでなく、多くの人々を直接間接に今もなお殺害している。それゆえ北朝鮮独裁集団の大量殺戮兵器開発と所有を糾弾する前に、独裁集団の過酷な人権蹂躙と住民に対する大量殺戮の蛮行を暴露糾弾しなければならない。
北朝鮮の統治者は、北朝鮮に社会主義の地上の楽園を建設したとうそぶいてきたが、数百万の住民を餓死させ、数十万の脱北者を作り出すことによって、それが真っ赤なウソであったことを白日の下にさらけ出した。それにもかかわらず、彼らは引き続き強盛大国を建設すると騒ぎ立てて人民をだましている。この事実一つを取ってみても、北朝鮮統治者の虚偽欺瞞宣伝がいかに想像を絶する破廉恥なもので、北朝鮮の現実がいかに想像を絶するほど歪曲されているかを推測できる。こうした欺瞞宣伝によって、世界各国の良心的な人々までが北朝鮮独裁集団の正体を見破れず、むしろ小さな貧乏な国と同情している。嘆かわしくは、北朝鮮独裁集団の崩壊に死活的利害関係を持たなければならない韓国ですら、少なくない人たちが北朝鮮の狡猾な統一戦線戦術に引き込まれ、北朝鮮との民族共助を叫び、最も頼るべき民主主義の同盟国である米国を排除する方向に動いているありさまだ。
このような状況下では、北朝鮮統治集団の人権蹂躙蛮行を暴露し、「悪の枢軸」としての正体を暴くことが、何よりも重要だということは言うまでもない。
米国が進めている反テロ戦争と反独裁戦争が、民主主義を擁護し、世界人民の人権を擁護する偉業となるためには、世界人民を納得させる名分の確立を最も重要な課題として提起しなければならない。

(3) 北朝鮮が改革解放の道に進むよう国際社会の協力を強化しなければならない

生命線である中国を協力者に変えるべき

 北朝鮮を改革開放の道に導くためには,国際社会の協調と協力が切実に求められる。
第一に重要なことは、北朝鮮の同盟国である中国との協調を強化することである。中国との同盟は、北朝鮮独裁集団の生命線であるといえる。しかし現在北朝鮮との同盟は中国側の負担となっている。
複雑で困難な戦いを通じてソ連式社会主義独裁を克服し、改革解放の道を切り開いた中国人民は、誰よりも北朝鮮統治体制の不当性を正しく認識している。それにも関わらず、中国が北朝鮮と同盟関係を引き続き維持しているのは、金正日独裁政権が崩壊し、韓国主導で朝鮮半島が統一された場合、米国とその同盟国である日本と韓国の民主主義的影響力が鴨緑江にまでおよび、直接対峙する事を憂慮していることと関係している。もしも米国とその同盟国が中国のこうした危惧をなくしてやれば、北朝鮮を改革解放に導く上で中国を協力者に変えることが出来る。
米国は過去第2次世界大戦末期にもたらされた国際情勢に対応するため、朝鮮半島の半分を旧ソ連の社会主義勢力圏に譲歩した。現在改革解放に向かっている中国は、資本主義的民主主義を多く取り入れている新しい社会体制であり、旧ソ連の独裁体制と質的に区別される。万一北朝鮮が首領独裁体制を捨て中国式の改革解放に向かうなら、朝鮮半島における冷戦の残滓は終局的に清算され、北朝鮮と米国の関係は正常化されるだろうし、朝鮮半島を取り巻く列強の関係が全般的に正常化されるであろう。これは何よりも中国の利益に合致するものである。
北朝鮮がなおも首領独裁と軍国主義路線に固執するときは、北朝鮮と米国の関係、北朝鮮と米国の同盟国との関係が、引き続き悪化するだろうし、それは結局日本と台湾の核武装につながっていくだろう。それゆえ中国が北朝鮮の核武装を放棄させることで米国と協調するのは、原則的にも正当であるばかりか中国の利益にも完全に一致する。
これはまた韓国の利益にも完全に一致する。北朝鮮が中国式改革解放に向かえば、事実上首領独裁から北朝鮮住民が解放されることを意味する。南北間の民族統一を妨げている基本的障害物が除去され、南北間の全面的協調と協力の新しい局面が開かれることになる。この時から南北が直ちに連邦制を実施し、政治経済文化のすべての面で、緊密に連携すれば、民族分断でもたらされていたあらゆる苦痛が全面的に除去されることは言うまでもなく、民族の平和的統一も短期間にスムーズに実現されるということは疑いない。
北朝鮮を改革開放に誘導するにあたって、中国を協力者にすることが出来れば、ロシアも北朝鮮との不当な親善関係を断つであろうし、韓国内の親北勢力は急速にその影響力を無くすだろう。こうなれば、北朝鮮民主化を推進する国際的協調勢力は大きく強化されることとなる。

制限された範囲でも経済改革の実施誘導

第二に重要なのは、北朝鮮統治者が初歩的な経済改革を早く行うように、国際社会が北朝鮮に対する経済援助と経済交流を調整することである。北朝鮮に対する経済援助は、民主主義の原則から出発し、北朝鮮民主化の助けになるように与える必要がある。
金正日は、経済改革を進めることが生き残る道だということを知りながら、首領の絶対的地位と権威を維持しつつ問題を解決しようと企んでいる。それゆえ、はじめは金正日の首領としての地位を脅かさないように極めて制限された範囲で経済改革を行う必要がある。
北朝鮮の統治者たちにとって死活的意義を持つのは食糧問題である。食糧問題は、農村経営を個人農経営に改革しなければ解決されない。
農村が個人農化されれば住民の約40%である農民の自由な経済活動が保証され、市場が大々的に拡大されることによって多くの人々が集まり交流できる可能性が作り出される。小規模生産者である農民の経済活動の自由が許されれば、自然と小商人や手工業者の経済活動も自由化されるのは明らかだ。
こうした制限された経済改革自体は、首領独裁体制に直接的影響を及ぼさないが、北朝鮮独裁体制を内部から崩壊させる必須条件となる。現在のように人々が互いに接触し、自由に意見を交わすことが出来ない状態では、人権擁護思想や自由民主主義思想が北朝鮮住民の中に入っていくことが出来ない。それゆえ首領独裁体制を直接脅かさない制限された範囲でも経済改革を実施するように誘導することが大切だ。そのためには、独裁政権の軍事力強化と経済技術的自立性を高めるための経済援助を制限するだけでなく、食料援助なども必要以上に与えて独裁体制の強化につながることのないように透明性を保たなければならない。

内部の民主勢力を支援
中ロに脱北村建設

 第三に重要なのは、北朝鮮内部の民主勢力を支援し、北朝鮮の民主化を推進する活動を大々的に展開しなければならない。
北朝鮮の民主化を促進するには、民主主義的国際社会が北朝鮮との人的交流を強化する必要がある。いかに才能に恵まれたボクシング選手も接近しなければ相手を倒せないように、独裁体制に対する民主主義体制の絶対的優越性を北朝鮮住民に認識させるためには、彼らが民主主義社会と接触できるように人的交流を強化しなければならない。特に南北の人的交流を活発に進めることが大切である。
民主化で脱北者たちの役割を高めることは重要な戦略的意義をもつ。北朝鮮のような過酷な独裁国家で、厳しい警戒網を突破して脱出することは生やさしいことではない。100人が脱北することに成功したとしたら、北朝鮮内にはそれと同じ境遇で脱北を希望する人たちが数千人いると思わなければならない。また脱北者たちがすべて金正日独裁の不当性を思想的に自覚した人たちでないとしても、彼らが死線を越えて脱北した勇気のある積極分子であるという点を評価しなければならない。彼らは北朝鮮独裁体制が反人民的で非人間的であるということを骨の髄まで体験しているだけでなく、民主主義社会の幸せな生活も体験している。それゆえ彼らは北朝鮮を民主化する上で先鋒隊としての役割を十分に果たすことが出来る。
当面して緊要な問題は、脱北者の人権を擁護する国際的世論を喚起し、中国に脱北者を難民認定させ、脱北者を北朝鮮に強制送還することを中止させることである。
将来中国とロシアが北朝鮮を改革開放に誘導し、北朝鮮を民主化するのに積極的に協力するようになれば、中国やロシア領内に立派な脱北村を建設し、それを拠点にして北朝鮮を民主化する活動を展開する必要がある。
これと関連して最も理想的な地域は中国東北地方の延辺地区であると言える。この地区は延辺を中心に100余万の朝鮮族同胞が集中的に住んでおり、彼らは北朝鮮住民と深い連携を持っている。もしも米国の主導のもとに韓米日が協調してこの地域に最新式の工場や企業所と文化施設などを数多く建設し、全中国の中でも最も発展した地域の一つとして現代化した後、脱北者たちを大々的に収容してこの地域を拠点に北朝鮮を民主化する活動を繰り広げるならば、北朝鮮で独裁体制を崩壊させる問題は数年のうちに完全に成功するだろう。
北朝鮮で金正日独裁体制が除去され改革解放に向かう政治体制が樹立されることは、わが人民の民族的宿願を解決する上だけでなく、東北アジアの平和と民主化偉業の遂行においても偉大な歴史的勝利となることは間違いない。

 
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