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6カ国協議合意をどう見るか
金正日政権に騙されるな

2007.2.21
北朝鮮民主化同盟委員長 黄長Y

 6カ国協議とか、そういう外交的な折衝は、各国それぞれの目的があるので、これを一概に評価することはできないと思います。ただ金正日の独裁に反対する立場から言えば、6カ国協議で核兵器問題などを取り上げて、そこに集中して論議するのは金正日の値打ちを高める結果しかもたらさないだろうと考えます。
 彼(ブッシュ)が満足だと?満足したらいいでしょう。何も、私たちは、それに対して反対する必要はありません。
 だだ金正日政権を除去することが北朝鮮問題を解決する根本的な視点であり、そこに焦点を当てるべきだというのが私の考えです。そういう観点からすれば、これは(6カ国協議の合意は)北朝鮮問題解決にプラスになるのではなくてマイナスになると考えています。つまり、金正日政権を弱体化させる作用をするのではなくて、それを強化する作用になると思っています。
 金正日は今後も6カ国協議を「引き延ばし戦術」として利用するでしょう
 ブッシュ政権が共和党政権で、これまで民主党よりも厳しい対北朝鮮戦略を立てていたので6カ国協議を引き伸ばして民主党に変わるまで待つ。それがひとつの目標でした。もう一つは、ここ(韓国)で親北反米的な機運が高まるのを待つことです。これまでの金大中政権、盧武鉉政権、それに続く親北政権を維持するために引き伸ばすのです。彼にとって引き伸ばすことで悪いことはひとつもありません。引き延ばすことによって、援助も得られ、引き伸ばすことによって、自分の目的も達成することができるからです。

金正日政権の真の狙いは韓国の親北政権維持

 なぜ核問題を焦点として考えるのか初めから私は疑問に思っています。それはアメリカの考え方であって、北朝鮮人民を解放する立場からすれば、また韓国の民主主義を擁護する立場からいえば、それはちょっと的が外れていると思います。何故か、ソ連の社会主義体制が崩壊し、中国が改革開放の道を歩くようになってから、北朝鮮の対南(韓国)戦略が少し変わったからです。それは、世界的な力関係の変化と共に、中国が断固、南進戦争を反対しているからです。中国は絶対に南進戦争を許しません。その代わり、北進戦争も許さないと、こういう立場を明らかにしています。
 それと、中国と北朝鮮の同盟関係は、イデオロギー的関係ではないということをきっぱり宣言しました。それは、北朝鮮に対してだけではなく、キューバをはじめ、他の共産主義国家に対してもはっきり明言しました。だから、思想を共にするという関係はありません。
 中国は、南進戦争に反対する確固たる立場から、韓国と中国の外交的な関係を正常化しました。これに対して北朝鮮側は、死活問題だとして中国に猛烈に反対しました。どうしても駄目なら1年間でも延長してもらいたいと要求しました。しかし、中国は、北朝鮮とあれほど近い関係を誇示しながらも、きっぱりとそれを断りました。それは南進戦争に反対し、朝鮮半島における平和の維持、現状の維持に対する彼らの立場が確固たるものであるからです。
 そういう中国の変化を背景として、金日成・金正日は、武力による南朝鮮の占領は当分見込みがないと判断しました。これまでは、アメリカに反対する、いわゆる統一戦線戦略を第2次的な、補助的な方法として考えていたけれども、今はそれを基本戦略として認めるべきだと考えるようになりました。つまり、南朝鮮に、親北反米的な容共政権を立てることを基本戦略にしなければならないと考えが変わったのです。
 この変化を考慮した時、金正日が核を持ったとか、持つようになったということ自体を問題にするよりも、勿論それは悪いことであり、それを反対することも意義がないとはいえないのですが、民主主義擁護の立場から言えば、それよりもそれを武器として南朝鮮人民を威嚇し、それを通じて南朝鮮に戦争の恐怖を呼び起こし、そこに親北反米的な容共政権を作ろうとするその意図、その政策、その危険性に焦点を置かなければなりません。
 今でも、金正日政権は、もしも南朝鮮でハンナラ党が政権を取れば核戦争が起こると脅迫しています。アメリカではなく北朝鮮が核戦争を起こすといっているのです。つまり彼らは、もしここ(韓国)で、左傾的な容共政権が倒れ、再び保守的な民主主義政党が政権を取れば核戦争をするぞと、そういうふうに威嚇しているのです。親北政権の維持、北朝鮮側が狙っているのはそれです。
 金正日は、私が朝鮮労働党にいた時、その時すでに核兵器は開発されたと言っていたのです。1996年からは、ウラニウム235を使って、大々的に生産するようになり、同じ年にパキスタンとの協約も結びました。いつ生産を始めたかということについては知らないまま私はここ(韓国)に来ましたが、彼らは核開発に対しては全力を注ぐので、多分すぐ生産に入ったと思います。それ故、核兵器は使って余りがあるくらい備蓄していると私は推測しています。
 しかし、それは問題になりません。なぜでしょう?それは核兵器を使うことができないからです。戦争をすること自体が不可能なのに、核兵器を使う、それは考えられないことです。ただ核を使わない、金正日は戦争をしない、こう言うことを盛んに言えば、南朝鮮の人民がもっと平和ボケになり、金正日を警戒しなくなるのが心配ですが、だからといって南の人民を騙すわけにはいきません。
 私が初めにここ(韓国)に来た時(1997年2月)は、戦争は起きない、戦争を起こすことにはできないと言うと、周りの人たちは、そういうふうに言ってはいけません、戦争の危険があるということをしきりに強調しなければなりませんと、そのように私に要求しました。しかし、今は、真実は真実として語らなければならないのではないかと考えます。
 ここ(韓国)の、相当の権限を持った人でさえも、核兵器を持ったこと自体がとても大きな障害のように、あたかもそれが東北アジアでの軍事的な均衡を破壊し、日本を始めとした国々が核兵器を持つ運動を起こすのではないかと人々を脅かしています。これは間違っていると思います。金正日政権の狙いは核兵器の使用にあるのではなくて、それを人民を威嚇する武器として使いながらここ(韓国)に親北容共的な政権を立てることなのです。
 金正日政権は、共産主義者たちが当初作った政権に比べれば、それはもう本当に堕落した政権です。本質的な面ではほとんど共通性がないと思われます。しかし、根本は、やはり共産主義です。共産主義的な独裁、それが悪化すれば首領独裁となり、首領独裁がもう一段悪化すれば、首領絶対主義に変わるわけです。だから、金正日の政権がいかに共産主義的理想から離れ、金正日自身が共産主義の本当の原理を知らないとしても、その根本はやはり共産主義政権といえるでしょう。
 そういう視点で見るならば、南朝鮮における知識人たちが金正日を支持し、親北的で反米的な政権を立てようとするこの思想的な土台、そこにはやはりマルクス主義的な、共産主義的な―彼らはそれ(マルクス主義)をよくは知らないんですが―そういうふうな気分が横たわっていると見て差し支えないと思います。そういう意味で、今度のこの事件(2・13の6カ国協議合意)は、金正日政権を強化し、ここ(韓国)の左翼的な、親北容共的な勢力を強化する方向で作用したということは十分に考えられます。

重要なのは寧辺核施設の閉鎖ではなく金正日の戦略を打ち破ること

 私は技術的な問題には触れたくありません。彼らはいつも真っ赤な嘘ばかり言っているので、そういう問題に対して述べたくもありません。
黒煙炉によって、プルトニウムによって核を開発したのはずっと以前です。私が(朝鮮労働党に)いる時に、金日成がまだ生きている時ですが、核実験を行う準備を完了してから金正日に報告したことがあります。それは私が直接体験したことです。その時いくつ作ったかは正確には知りません。しかし、核兵器を何個か作ったのは確かです。その時の(北朝鮮の)総理なども、5個だの6個だのと言っていました。その正確な個数は分からないが作ったことは確かです。
 その後、96年以降10年間に彼らが作った数は相当な数にのぼると思います。それを今金正日が正直に明示しない状況の下で、寧辺(ヨンビョン)でのことは何ら意味のないことだと私は考えます。それはただ、騙す材料にしかならないと私は考えています。だから、私は、そういう技術問題に対しては触れたくもないのです。
 今重要なことは彼らの戦略は何か、だから、これと戦うにはどのような態度が必要なかというのが問題であって、閉鎖したらどうなるというような技術問題が重要ではないと考えます。
 私が強調したいのはアメリカが1938年のミュンヘン会談を参考にして欲しいということです。頭の狂った人たちがヒトラーと4者会談をして平和的方法で勝利したと万歳を叫びました。それと同じです。その直後ヒトラ−は39年にはポーランドを侵攻しました。
 アメリカが反テロ戦争を明言した時は私も感激しました。これが地球での最後の戦争になるかもしれないと思ったからです。しかし虎を描こうとして猫を描いたようなものです。
 ミュンヘン会談までさかのぼる必要はありません。
 ベトナムでの教訓を見ても明らかです。ベトナムの共産主義者はずっと文明的です。ホーチミンと金正日を比べれば比較にもなりません。そのホーチミンは73年キッシンジャーとの会談で平和をもたらしました。色んな約束をして(キッシンジャーは)平和賞まで授与されました。しかし4カ月も経たないうちに全面攻撃を行い75年ついにサイゴンは陥落しました。ホーチミンですらこうでした。金正日の言うことを聞くなどとはまともではありません。
 今回金正日は大きな効果をあげました。現在この政権は、95年、96年、97年のような危機ではないにしても、まだまだそういう瀕死状態から逃れていない状態にあります。そうした中で今回の合意は大きな援助になるでしょう。これほど大きな賭博での利益がどこにありますか。私は目をつぶっても金正日の狙っているものが見えるのですが、ここ(韓国)の金持ちたちには見えていないのか、でなければ自分たちが有利だと過信しているからでしょうか、(金正日の狙いが)よく分かっていません。
 金正日が常に言っているのですが、最も騙しやすいのはアメリカ人だと。最も騙しにくいのが、中国人だと言っています。騙しやすいのはアメリカ人、その次は日本人だと。今、こういうふうにしてアメリカが自ら進んで騙されているのですから、彼らはアメリカをもう恐れるに足らないと考えているでしょう。
 彼らの最も重要な狙いは、ここ(韓国)に親北容共政権を作ることです。彼らには日本を攻撃しようとする意図はないと思います。あるはずがありません。ましてやアメリカを攻撃しますか。彼らがアメリカを憎んでいるなら、重病者の幹部たちを、みなアメリカに送って治療をさせますか?また、アメリカの医者を招聘して治療をさせますか?
 彼らはアメリカと南朝鮮の関係が悪くなるように仕掛けているのです。ここ(韓国)で、反米的なデモをし、米軍撤退のデモをし、暴力デモをし、そういうふうに仕掛けてアメリカ人がカンカンに怒って、韓国人というのは、恩も知らないやつだ、そういうふうに憎むようにさせて、一方で自分たちはアメリカとは親しくしましょうと、こういうふうに仕掛けているのです。
 アメリカを攻撃するよりはむしろ中国をしきりに非難しています。なぜならば中国の影響が入るようになれば、中国式の改革開放の影響、つまり、首領独裁体制を否認し、市場経済を導入するようになるからです。こうなれば金正日の立つ瀬が、立場がなくなってしまうからです。中国式改革開放は承認しないでしょう。
飢え死にする人を救うために農業を資本主義に変える問題―これは中国でもやったしベトナムでもやった―それさえしない人が韓国に対する侵略的野心を捨てたと考えるのはばかげています。
 ここ(韓国)へ来たとき、金正日は農業改革をする、自由認めるだろうと私は言いました。しかし米・韓が援助をするので、その改革さえもしていません。
 彼の唯一の目的は、前で述べたようにここ(韓国)に親北政権を作ることです。そのために住民を犠牲にした先軍政治に全力を挙げています。だからわれわれは、北朝鮮に対して食料援助とか、医薬品とか、軽工業品を援助するのは悪くないと考えます。それが金正日にも助けになるが金正日が返りみない人民の利益にもなるのでわれわれは反対していません。だが、彼らに電力を与えるなどとは馬鹿げたことです。電力というのは、それこそ直接軍需産業と関係しています。それは、金正日首領独裁制度を強化するための、その軍国主義、絶対的な軍国主義を強化するための、ここ(韓国)を掌握するための最も重要な援助となります。

日本の役割がきわめて重要

 少なくとも、日本国民は冷静に考えて欲しいと思うのです。なぜならば、今のところわれわれが期待をかけるのは日本だからです。日本だけでも正しい態度を、取っていくべきだと思います。アメリカは大きな国です。南朝鮮の運命などは、実際この踵(かかと)ぐらいにしか考えていないでよう。しかし、日本の運命はそうではありません。日本が、ここ(韓国)に親北政権ができて、金正日が支配するようになれば、それは中国には有利だけれども、日本には相当きつい障害になります。日本には逃げるところがありません。アメリカは帰ってしまえば、それで済みますし、彼らは、人口にしても領土にしても、いくら後退したところで世界的な大国としての存在を維持することができます。しかし、日本はどこに逃げますか?日本列島を背負って逃げられますか。いやでも朝鮮の民主主義者たちと運命を共にして、北朝鮮の非人間的な共産主義独裁と戦わなければならない運命にあると思います。
 私は、日本にもっと大国的な態度を取ってほしいと願っています。拉致問題の解決なくして援助は出来ないとする立場は正しいと思います。しかし、拉致問題だけに焦点を当てて朝鮮問題の解決を図ろうとするのは、大国としての日本の国民にはふさわしくないと思います。もっと大きく世界平和のために、人権のためにという大儀を立てて、その中で拉致問題を位置付け、われわれは金正日に援助することは出来ない、こうした金正日政権を助ける援助には賛成することはできないと主張した方が良いのではないかと考えます。反対する根拠を、堂々たる根拠に置くべきだと思うのです。
 アメリカの立場が変わり、中国が協力すれば、核問題を含めた北朝鮮問題は簡単に解決されます。そのためにも、日本が民主主義的な立場を強化し、しっかりとした大儀名分を掲げ、アメリカ、中国に働きかけるべきではないでしょうか。

                       2007年2月16日 ソウルにて

*この文章は、2月16日テレビ朝日とのインタビューを、コリア国際研究所が整理したものです。なおこの中で南朝鮮と表記されているのは、韓国のことです。

 
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