金委員長の軍事力崇拝を崩せ
韓国は米日協調路線に復帰せよ
昨年9月の第4回6カ国協議で採択された「共同声明」を読みながら、この文書がはたして北朝鮮核問題を平和的に解決する順調な会談進行の担保となるのだろうか?との疑問を抱かずにはいられなかった。
それは1972年以降、約600回にわたる南北会談で、数十の合意書を採択したものの、その用語を北朝鮮は、対南(韓国に対する)戦略―戦術に合わせて歪曲解釈し、協議の進展を妨げる遅延戦術として使い、結局死文化させてきたからだ。筆者はそれを身をもって体験した。
憂慮していた通り、共同声明発表から24時間も経たないうちに「…米国が信頼構築の物理的担保である軽水炉を提供しないかぎり、われわれがすでに保有している核抑止力を決して放棄しない…」という北朝鮮外務省スポークスマン声明が発表された。
6カ国協議「共同声明」の弱点
こうしたことを踏まえて、第4回6カ国協議の共同声明文の中で北朝鮮が逆手にとる可能性のある用語(words)一つ二つをあげてみる。
共同声明の第一項には「北朝鮮は、核兵器及び既存の核計画を放棄し、核拡散防止条約(NPT)と国際原子力機構(IAEA)に復帰しなければならない」と明記され「米国は、朝鮮半島において核兵器を保有しないだけでなく、核兵器や通常兵器を用いて、北朝鮮を攻撃したり、侵攻したりする意思がないことを確認する」と記されている。
この文章の意味は、米国には北朝鮮を武力で攻撃する意思は一切ないので米国の武力侵略を云々しながら核開発を続けることをやめ、核放棄に応じよという意味である。
しかし、北朝鮮側は「本当に侵略の意思がないのであれば、直ちに駐韓米軍を撤退し、北東アジア(朝鮮半島以外の地域)で米軍が保有している核兵器を放棄する措置を取れ、そうするなら米国を信じて核を放棄する」と解釈するだろう。結局、駐韓米軍の撤退や「米側が先にとるべき措置」の名目として逆利用すると考えられる。
第1項の末尾に記述されている「北朝鮮の原子力の平和的利用権尊重」と「適切な時期」についても、その時期が「今日」になるかもしれないし、「明日」になるかも知れないので、今すぐ軽水炉を提供せよと要求し、すでに明らかになったように「先軽水炉後核放棄」という論理に変えている。
第5項の「約束には約束」、「行動には行動」という用語は「北朝鮮式の相互主義(相手には相互主義を要求しながら自らはそれを拒む)」論理展開の根拠に利用するだろう。「完全で検証可能かつ後戻りできない核の放棄(CVID)」に応じるのでなく、数々の段階を設け、段階ごとに「先補償後措置」の論拠に歪曲するはずだ。こういった会談戦術は南北会談でいやになるほど見せつけられた。
筆者は6カ国協議継続の問題もさることながら、北朝鮮が度々見せる戦争瀬戸際戦術への対応の難しさから、意思と行動を共にしなければならない韓米日3カ国の亀裂が一層深まるのではないかと心配である。
共同声明に包括的に記されている核問題解決方法や、朝鮮半島における平和体制構築の原則的問題、そして至急実行しなければならない問題とその後の問題を区分整理し、ロードマップを作成して実践案をどう設定するのかについての問題などで北朝鮮との激しい対決が予想されるため、今回の共同声明が本来の使命を全うできるかどうか心配である。
亀裂が深まった韓米日の協力体制
それにもまして心配なのは、6カ国協議期間中、参加国の間で異見が露呈し、北朝鮮の説得に難関が作り出されたことである。
特に、韓米日3国が確固たる意思と結束で北朝鮮問題に全力を注いでも目的が達せられるかどうかわからない状況で、北朝鮮核問題に対する認識の違いを露呈させ、異なる交渉戦術によって、北朝鮮側を利する状況を与えたという後日談が漏れ伝えられるにつけ、このありさまで果たして交渉を通じた北朝鮮問題の解決が可能なのだろうかと疑問がもたれる。
この間、韓国政府の言動が三カ国の協力体制に否定的な影響を与えたのは周知の通りだ。例えば盧武鉉大統領自らが「核が自衛手段という北朝鮮の主張には一理ある」と発言し、北朝鮮の核開発が正当であるかのような印象を匂わせ、鄭東永統一部長官も「核の平和的利用は主権国家の権利であり、北朝鮮の核平和利用は当然許されるべきだ」とした。
問題は、こうした発言が、米朝が軽水炉提供問題で激しいやり取りを行っている最中になされたことにある。米国が韓国側に対して不満を持つのは当然なことであろう。
そうかと思えば、青瓦台関係者は、「韓国が韓米日南方3カ国同盟を支える軸の一つであった北東アジアの秩序は、冷戦時代に作られたものであり、われわれがいつまでもこの枠組の中に閉じ込められるわけにはいかない」とし、もはや周辺の国際情勢は、韓国が韓米日3カ国共助にとらわれる時期ではないとも受け取れる発言を行った。
これらの発言は何れも6カ国協議期間中に行われており、その後3カ国の協力関係にひびが入り始めた。
一部で、韓米日の関係回復は難しいといわれているが、こうした状態で中国とロシアの協力を引き出せるだろうか。中国とロシアの協力は韓米日の協力体制が強固であると判断されて始めて得られるものである。「韓国でさえ我々の主張に賛成しているのに友好国の中国とロシアがアメリカの肩を持つのか」と北朝鮮が主張した場合、中国とロシアはどう返答すればよいのか。
筆者は、6カ国協議の直前に、「3対3(韓米日VS北中ロ)協議になったとしても核問題を平和的に解決できる可能性はあるが、韓国政府が『仲裁役』を云々しているところをみると、『2対4(米日VS南・北中ロ)協議』になりかねないと指摘し、こうなれば、核問題解決のための6カ国協議は失敗に終わる可能性が高い」と警告したが、残念ながら第4回協議を終えた現段階では「2対4」の状況になってしまったように見受けられる。
核問題解決の戦略を変えよ
現状をみる限り、北朝鮮の核問題を平和的に解決できる可能性は薄れてきたように思われる。では、北朝鮮核問題の平和的解決はあきらめるべきだろうか。そのように落胆するにはまだ時間がある。今までの考え方や戦略を変えて新しく策定すればいいのだ。
では、どこに焦点を合わせるべきか。筆者は、金正日委員長の「軍事力への信仰心」に狙いを定める新しい戦略を練ることを勧める。彼は「私の権力は軍事力が源泉だ」と話している。「先軍後党」の「先軍政治」は共産党一党独裁国家の政治原理をも否定したもので、軍事至上主義者のドグマから出た統治理論である。
金正日委員長が年間の現地指導の大半を軍部隊視察にあてている理由は、軍事力だけが信頼できる体制維持の手段だと信じているからだ。彼の軍事力に対する認識は宗教的な信仰に近いといえる。それ故、軍事力の最高手段ともいうべき核兵器開発を諦めるはずがない。数十万の国民を餓死させてまで核開発に莫大な資金を注ぎ込む理由がそこにある。
だから、彼の軍事力に対する信仰心が間違っていると気づかせることが核問題解決の鍵となる。ではどうするのか。それは簡単なことだ。彼がいくら核開発に専念しても数千数万の核兵器を保有する国には太刀打ちできないと認識させることだ。言い換えれば核兵器を保有して韓国をはじめとする米日などの自由国家を脅かすと、「政権崩壊」という取り返しのつかない災難をもたらすということを物理的に示すことである。
筆者は1976年8月、板門店で米将校2人を斧で殺害した北朝鮮軍に対し、韓米が取った作戦を思い出す。戦争の一歩手前だった状況の下で、韓米両国は空挺部隊を投入し、事件の発端となったポプラの木を切らせた。力には力で応える確固たる決意をみせたのである。そうしたら、金日成人民軍総司令官の使節団が出てきて遺憾を表明することとなり事件は落着した。
筆者は金正日国防委員長の軍事力に関する判断は明晰だと考える。したがって核開発に突っ走る彼の軍事至上主義を放棄させるためには、米軍の軍事力を示すしかない。戦争の危機を乗り越えるためには、戦争の一歩手前まで持っていく覚悟が必要だ。
北朝鮮当局者は、「北朝鮮が核を保有しているから韓国の安全が保障されているのだ」と、臆面もなく奇弁を弄し脅迫をするようになった。
今年はイラク問題に縛られてきた米国が、ある程度柔軟性を回復する時期だ。11月に中間選挙を控えているブッシュ大統領としては、いつまでも北朝鮮の引き延ばし戦術に付き合ってはいられない。6カ国協議を打ち切って国連安保理に持ち込むか、または六カ国協議を続けながら別途にそれなりの措置を考えるかも知れない。
昨年10月、マカオの北の外貨送金窓口であったバンク・デルタアジア銀行北朝鮮口座の閉鎖、そして北朝鮮資産凍結の発表や12月にソウルで開催された「北朝鮮人権国際大会」が意味するところは、これまで北朝鮮に貼られているレッテルーならず者国家、悪の枢軸、圧政国家、犯罪政権、反人権独裁国家―の実像を明らかにすることだ。
今年はこうした米国の北朝鮮への圧力がいっそう強まると予想される。そうだとしたら韓国の政策当局者は、昨年のように親北反米的な言動を繰り返してよいのだろうか?もしそういった言動を続けるならば、北朝鮮核問題の解決はもちろん、韓米同盟の基に国家安保が担保されている韓国にも著しく害が及ぶだろう。
我々は今日の北朝鮮情勢を直視しなければならない。韓国を始めとする周辺国の支援なしでは今すぐにでも「困難の行軍」に入らなければならない北朝鮮だ。飢え苦しむ国民のことを尻目に核開発に資金を注ぎ込む金正日政権をこれ以上庇う必要などない。
金正日委員長の戦略的決断を促すためには、北の核問題の「棚卸し」をし、対話と制裁の2者択一の優先順位を再検討しなければならない。今年はそういう年になるべきだと強調したい。