現在、韓国が抱えている危機は三つある。
一番目は、北朝鮮の核実験によって南北韓の軍事力均衡が崩れた事。
二番目は、北に赤化統一環境を提供した米軍の作戦権委譲問題。
三番目は、今年12月の大統領選挙で、再び親北左派勢力が政権を握った場合、韓国が北朝鮮に食われる可能性が高まること。
国際関係も人間関係とまったく同じである。今回、米軍の戦時作戦権委譲合意を強く求めた現政権の行為は、スポーツゲームにたとえれば味方の応援軍団を自ら追い出したのと同様だ。
自由市場経済体制に基づいた自由民主主義の大韓民国が、いま建国以来最大の危機を迎えている。北が核をあきらめて改革開放に乗り出せば, 大きく歓迎して積極支援しなければならないが、しかし改革開放を拒否し、同胞の飢えの上で核開発に固執するならば, 断固たる圧迫と制裁を加えなければならない。
国民 3人に2人が(66%・去年 9月の韓国ギャロップ世論調査)が反対しても現(盧武鉉)政権は国民の世論を無視した。北朝鮮の核兵器放棄の見返りとして作戦権委譲を受けるべきだった。
韓米連合司令部が戦争を抑止して来たのは、有事に韓半島に投入されるアメリカの巨大な増援軍があるからだ。有事に69万人の増援軍と海軍の5個空母戦団など艦艇160余隻, 戦闘機を含んだ航空機 2000余機を支援する事がそれだ。しかし今回、米軍の戦時作戦権の委譲によってアメリカの戦時自動介入約束がそのまま守られるかは疑問である。この増援軍戦力の価値を金銭換算すれば1300兆ウォンの膨大な金額になる。
国全体が生き残るか死ぬかの戦争で、膨大な戦争費用を無償で得られる巨額な国家利益を自ら放棄したことになる。それに加えて、現在の在韓米軍 2万8000人中、歩兵2師団兵力 1万2500人が来年まで韓半島(韓国)から撤収する。予備役将軍と軍元老たちが戦時作戦権の早期還収を粘り強く反対して来たこともこうした安保空白を憂慮したからだ。
歴代の大統領が作戦権をアメリカに委譲した経緯は、国家の自主性を捨てたからではない。国防と軍事戦略の知恵だったのである。朝鮮時代の親中国政策も悪い意味では事大主義路線だと言われる。しかし、いい意味では弱小国が生き延びる為にやむを得ず選択した国防の知恵だった。つまり民族の懸命なる知恵だと再認識されている。
韓米連合軍司令部が消えれば、米増援軍の支援は不確実なものとなる。因みに現政権は“韓・米国防相会談で増援軍の確約を受けることにした”と言った。しかし今回の会談共同発表文に増援軍の支援約束は一言もなかった。各種連合作戦計画もすべて解消されることとなり、有事にアメリカの力を活用するシステムが停止してしまう危険性がある。
アメリカは 9・11 テロ以後、全世界の米軍を再編移動して、軽量化・迅速対応機動化し、新しい様相の戦争に対処する戦略を構築している。しかし、韓半島(朝鮮半島)は伝統的に大陸勢力と海洋勢力が衝突する戦略的な緩衝地域である。現在の休戦ラインは言わば両大勢力の均衡を支える緩衝ラインである。韓半島は世界で軍事力密度が一番高い火薬庫地域である。
だからこそ、北朝鮮の瀬戸際外交に対してアメリカのブッシュ大統領は“朝鮮半島地域は中東地域とは違って平和的に解決する”と言っているのだ。金正日も南北首脳会談で“韓半島が統一しても米軍の駐屯が地域の均衡と平和維持に役立てる”と発言したといわれている。
2012年4月17日を目処にした米軍作戦権の委譲合意によって 韓・米連合防衛の象徴性は破壊された。このままではあと5年後に大韓民国の安保基軸が崩れてしまう恐れがある。
つまり、金正日に、彼の宿願である韓国赤化統一の『決定的な時期』が近づいていると誤判断せる可能性が高まっているのだ。
国民の生命、財産を守るべき国防と軍事戦略は、左派、右派に関わらず誰が政権を握っても政治利用してはいけない。国家最優先の安保課題として慎重に決定しなければならない。
韓米連合軍司令部が解体されれば韓国軍と在韓米軍は「二家族一屋根体制」とは距離が遠い「二家族二つ屋根体制」となる。 おのおの独立した司令部を構成して韓国軍は韓国が, 在韓米軍はアメリカが、それぞれ作戦を指揮する二元的な構造になる。これでは效率的な連合作戦が成り立たたないのは言うまでもない。
南北統一は、あくまでも自由民主主義に基づいて平和的に行うべき民族の宿願である。
北朝鮮政権が自ら民主主義改革を行うことが望ましいが、もしも無謀な全面戦争を仕掛けて来るならば、韓国は超大国アメリカの力を借りて勝たなければならない。そのためにもアメリカとの軍事同盟を弱化させてはいけない。
2010年まで韓国の国防予算は年平均 9.9% 増加し139兆ウォンに達する。これは政府財政総額の 16.7%にあたる金額だ。2020年までは総額 621兆ウォンのうち空中早期警報機(AWACS) 導入などに 272兆ウォンを使う計画だ。‘自主軍隊’の対価はとても高く重い。
戦時作戦権の還収は、韓半島で戦争を勃発させ、民族共倒れを招来する危険性をはらんでいる。韓半島で戦争が勃発したら, 戦争初期段階が致命的となる。ソウル首都圏は北朝鮮軍の170ミリ長射程野砲をはじめ155ミリ自走砲と 240ミリ放射砲の射程距離に置かれているからだ。
米軍作戦計画 5027はその脅威を效果的に除去し、首都ソウルの防衛を保障し、攻勢作戦に移行して北朝鮮を撃滅するようになっている。しかし米軍が全力で韓国戦に介入できるか否かが不透明な状態では, まさに北朝鮮側の脅しどおりソウルが『火の海』になってしまうだろう。
戦争の勝敗が決まった段階で米増援軍が韓国へ来たとしても意味がない。選択肢はただ一つだ。今後5年の間に作戦権委譲を見直すことである。そのことこそ、韓国の生存が保障される近道であるからだ(了)。