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金総書記の外交戦略と朝日国交正常化交渉

2002.10
コリア国際研究所所長 朴斗鎮

金総書記の外交戦略と朝日国交正常化交渉@

 9月17日、「朝日首脳会談」がもたれることによって、朝日国交正常化が日程に上り、韓米日の対北朝鮮政策の変数が増えることとなった。これによって今後、共通の利害を持ちながらも微妙に利害の異なる三者が、どう北朝鮮に対応するかによっては、窮地に陥った北朝鮮を利することもありうる。なぜなら、北朝鮮は一貫して米国と韓日間の利害の隙間に楔を打ち込みながら米国を孤立させ、朝米交渉を有利に展開しようとしているからである。こうした点をふまえ金総書記の外交戦略と朝日国交正常化交渉の行方を探って見ることにした。

「朝日交渉再開懸案」を「よど号犯の拉致問題」に置き換えようとする北朝鮮

北朝鮮が朝日首脳会談に応じてきた背景について、日本のマスコミはさまざまな解説を行っているが、その内容はおおむね経済破綻した北朝鮮が日本の資金欲しさに譲歩し出したというものである。勿論ブッシュ政権の「相互主義と検証」の対北朝鮮政策が効を奏したとの的を得た指摘もある。
これらのマスコミ報道で注目すべきは、朝日間の交渉再開最重要懸案が「日本人拉致問題」にあるかのような報道である。この問題が発生した根本原因に対する問題提起はあまり見られな。こうした問題の捉え方は「第18富士山丸問題」の時の「金丸訪朝団」や「小沢訪朝団」(1990年)の構図と何ら変わっていない。すべての現象は本質から発生するものである。したがってこの本質が何であるかをつきとめ、それを取り除くことをしなければ「拉致問題」の根本解決は望めず、ただ問題の発生形態を変化させるだけだ。それでは真の「朝日友好」はもたらされないであろう。
北朝鮮が引き起こすさまざまなトラブルは、首領独裁による軍国主義独裁体制にあることを忘れてはならない。この体制を変化させず、そこから出てくる現象だけを解決しても朝日関係で、日本の主権を侵害する事件はなくならないだろうし、今後予想される日本の北朝鮮援助も北朝鮮国民の利益につながらない。 
金総書記は日本の世論が「拉致問題」で大騒ぎしていることを利用し、朝日間の交渉再開懸案を自己の「体制」維持に影響を与えない「拉致問題」に集約しようとしている。「ミサイル問題」や「核査察問題」「生物化学兵器の問題」など真に朝日国民の根本利益に関わる問題を「朝日国交正常化交渉」からはずそうとしているのだ。
こうした狙いから金総書記は「よど号犯」と「拉致」を結びつけ、この問題がいかにも日本人同士の問題であるかのように誘導しようとしている。このことは「八尾恵」なる人物が「有本さん問題」を提起して以来、「拉致問題」が微妙に変化したことからも窺い知れる。今回の「小泉訪朝」がこうした背景のもとに進められたことを見落としてはならない。

対北朝鮮外交で守るべき原則

一部の人たちは「朝日国交正常化」に伴う経済協力が、7月からの北の「経済措置」と連動し、北朝鮮の市場経済化を促進することによって金総書記の軍国主義路線と首領独裁の政治体制に何らかの変化をもたらすのではないかと期待をもっている。そしてこの期待感を今回の「朝日国交正常化交渉」の「大義名分」の一つにしようとしている。 
勿論この「経済措置」に結びつく経済援助が、ある程度の市場経済化をもたらすかもしれない。しかし百歩譲って多少市場経済を取り入れたからといって軍国主義がなくなる保証はどこにもないし独裁政治がなくなる保証もない。市場経済化が必ず民主主義を保証するなら、過去のヒトラーの独裁も、日本の天皇制に基づく軍国主義もなかったはずである。市場経済化は民主主義の必要条件であるが絶対条件ではない。ましてや「先軍政治」、「唯一思想」、「自立的民族経済」を叫び、経済を軍事の従属物にしている金正日体制においてはなおさらである。
こうしたことを考えれば、今後朝日国交正常化をどのように進めるべきかについても明確な方針を持つことができる。両国の国交正常化が北朝鮮の軍国主義の強化につながってはいけないのはもちろん、日本の一部政治家の「野心」や「名誉欲」や「利権作り」に利用されてもいけない。あくまで両国の平和と民主主義に貢献するものでなければならない。この原則で朝日国交正常化が進められてこそ過去の不幸な時代に対する「清算」も日本の「謝罪」も両国民の利益に合致し、アジアと世界の人々から歓迎される。

金総書記の外交戦略と朝日国交正常化交渉A

戦争の恐怖煽るのが基本

9月17の朝日首脳会談は金正日政権の危険性を全世界に知らしめた。北朝鮮はこれまで「日本人拉致」は絶対にない。日本当局のでっち上げだとしてきたが今回一転して「犯行」を認め、金総書記自らが謝罪した。
金総書記はこれで「拉致」を北朝鮮の犯行として認めただけでなく、拉致された日本人のなかに「田口八重子(李恩恵)さん」がいたことから、はからずも1987年の「大韓航空爆破事件」が北朝鮮の犯行であることも認める羽目となった。まさに「テロ国家」「ならず者国家」だったことが証明されたわけである。

金正日外交の基本

韓日の一部マスコミと政治家が行う金正日外交の分析で欠けている視点は、それが「先軍思想と先軍政治」に基づくものであり、対外交渉の背景にはいつも「長距離ミサイル」や「核開発」そして人口の10%を占める膨大な軍隊といった軍事力が背景にあるということである。北朝鮮がさまざまな分野で変化しても、この点で変化しない限り変化とはいえない。
では金総書記の外交戦略の基本は何であろうか。それは一言で言って「軍備拡張」と「戦争瀬戸際政策」で「戦争の恐怖」をあおり、それに基づいて「平和外交」を際立たせ、「譲歩」を勝ち取ろうというものである。そして大国の利害対立を利用することでこれを補強してきた。
金総書記は、中国とロシアを味方につけヨーロッパ諸国とは友好関係を保ちながら、米韓日外交に専念してきた。先米国、後韓国、そして日本という優先順位をつけて韓米日の利害対立と矛盾点を利用しながら朝米国交正常化を最大の目標として外交を展開してきたのである。この外交戦略はクリントン政権の時にもっとも効果を表した。
北朝鮮の「核疑惑」とNPT脱退による1994年のカーター元大統領訪朝後の事態はこのことを如実に物語っている。この後、窮地に陥っていた北朝鮮は生き返ることとなった。1999年の5月、ペリー調整官が北朝鮮を訪問し、「ペリープロセス」を米国の「対北朝鮮政策」の基本に据えることによって、金大中政権の太陽政策に弾みがかかり、金総書記はその外交的勝利を信じてやまなかった。2000年10月の「オルブライト訪朝」は北朝鮮外交の勝利を確定するかに見えた。日本が朝日国交正常化で最もあせっていた時期がこの時期である。

「戦争恐怖症」を利用する外交戦略

この金総書記の外交戦略はいわゆる「戦争恐怖症」にかかった人たちに最も効果をあげている。こうした人たちは金総書記が少しでも「対話」や「平和」のポーズを見せるとうれしそうにすりよって何か大変化が起こったように騒ぎ立てる。こうした人たちの言動は、北朝鮮の人々に「先軍政治」という「戦争瀬戸際政策」がやはり正しいと写らせるのである。「韓国や日本は勿論、米国までもが金総書記を恐れている。金総書記は偉大だ」となるのである。だから会談の行方がどうなろうとも、こうした報道がなされるだけでも北朝鮮の外交は国内体制の維持に役立つこととなる。そこから何か具体的援助が得られればその「偉大性」宣伝は一層の効果を表す。「偉大な将軍様は、交渉のテーブルにつくだけで相手はお金と食料と援助物資を差し出す」と。 
2000年6月15日の「南北共同宣言」以降の推移がこのことを如実に物語っている。「南北共同宣言」発表で金大中政権はほっと胸をなでおろし「これで戦争を回避できる」として韓国国民の安保意識だけでなく、韓国軍の「主敵規定」までも留保させた。
はなはだしくは金正日政権の「思想弾圧憲法」や「人権無視の政治体制」、それに「武力統一路線」をそのままにして、一方的に「国家保安法」の廃止にまで手をつけようとした。また北側が交渉のテーブルについただけでこれといった見返りもなしに多くの外貨と物資を北朝鮮に運んだのである。
この間、金総書記が韓国に与えたものは「約束」の繰り返しと、「交渉のテーブル」につくことであり、わずかばかりの離散家族の交流や南北の文化交流であった。肝心の軍事的緊張は何一つ緩和されていないばかりか、休戦ラインに配置した100万の軍隊とミサイルの開発、核開発はそのまま続けられている。

金総書記の外交戦略と朝日国交正常化交渉B

巧妙に仕組まれる「素朴」さと「大胆」さ

日本の世論調査によると朝日首脳会談に対する評価は「会談を持ったこと自体はよかった」しかし「金総書記は信用できない」したがって「交渉は慎重に」というものであった。この結論はおおむね妥当な評価ではないだろうか。しかし一方では「平壌共同宣言ありき」だったのではという疑惑も指摘されている。特に小泉首相が午後の会談で謝罪を受けたときの感想を「よくここまで言ったなと。大転換だなと」感じ入った(9月22日のフジテレビ「報道2001」)と述べている。この「驚き」がその後の追及を忘れさせたのかもしれない。
金総書記の外交を分析する上で注意しなければならない点は、この「素朴」さや「大胆さ」を演出することによって、「驚き」を与え、もっと大きな「ウソ」や「本心」をカムフラージュするところにある。

素直さの裏にはもっと大きなウソが隠されている

2000年6月の「南北首脳会談」直後に金総書記は北朝鮮を訪問した韓国の新聞社主たちと会話する中で「過去の朝鮮戦争は米ソ冷戦の結果起こったもので板門店は1950年代の遺物である」と述べたが、これが「過去の戦争に対する素直な反省だ」として一時話題になったことがある。
しかしこの戦争はロシアの資料からも明白なように、金日成がスターリンと毛沢東との連携のもとに起こした戦争である。金総書記はその事実を隠すためにこの戦争を米ソ冷戦の「悲劇」に置き換えた。そしてその責任を米ソ両国にかぶせ、金日成の戦争犯罪を覆い隠したのである。だからこそ元朝鮮労働党の書記であった黄長Y氏は「金正日が素直に何かを認める時はもっと大きいウソを隠す時だ」とその本質を指摘している。
今回の朝日首脳会談で「拉致」を認め「謝罪」したことを「素直」さと「大胆さ」として評価する人たちがいるが、そのことと引き換えにもっと大きな「秘密」を隠すためのものであることを見落としてはいけない。そこにはいかにも洗いざらい「素直」に「謝罪」したように見せかけ、これで「拉致問題」に幕を下ろしたいという金総書記の意図が垣間見える。「近くて遠い関係は20世紀の遺物になるだろう」という言い回しは「板門店は50年代の遺物である」という表現と一脈通じるものがある。

「拉致問題」の幕引きで隠したいもの

金総書記が「拉致問題」を「幕引き」することで得たいものは勿論「朝日国交正常化交渉」の早期開催と正常化に伴う日本からの「経済援助」であろう。しかしそれだけではない。この幕引きによってこれ以上の追求を遮断し、隠蔽しようとしている問題もある。それは例えば、日本や韓国に存在する北朝鮮の「秘密工作組織」をあげることができる。
金総書記がいかなる犠牲を払っても温存したいのは軍隊と対南、対日工作組織であることはいうまでもない。そういう意味では日本の一部マスコミが報じているように死亡とされた8名の人たちは、秘密工作組織の中に深く組み込まれているため殺害された可能性とともに「秘密組織温存」の方法として「死亡」ということで処理された可能性も十分に考えられる。
今回も金総書記の「意外性」と「驚き」の外交テクニックはすでに効果を上げている。それは「素直さ」に惑わされ、「金総書記は本当に『拉致』を知らなかったのではないか」とする主張が一部の人たちによってなされていることである。北朝鮮の重武装された工作船の活動や、「日本人拉致」といった国際紛争をもたらす行為を、金総書記の知らないところで行えると考える人たちは、余りにも北朝鮮の体制を知らないか、民主主義社会で「平和ボケ」になった人たちといえるだろう。
北朝鮮で金総書記の許可なく行動することは国家反逆罪として銃殺に処せられ、一族すべてが滅族させられるのである。そのような危険を冒してまで何のために「英雄主義や妄動主義」を犯すのか。北朝鮮ではありえないことである。

金総書記の外交戦略と朝日国交正常化交渉C

「平和ボケ」を利用せよ

金正日外交で特徴的なのは、自らの軍事独裁体制は変化させず、相手の「平和ボケ」を最大限に利用して「武装解除」させようとすることである。このことは韓国に対する彼の戦術の中に如実に現れた。
金大中政権の「太陽政策」とその「結実」である「南北共同宣言」第二項の利用がそれである。金総書記はこの「南北共同宣言第二項」といわゆる「民族的大団結」のスローガンを「平和ボケ症候群」と結びつけることで韓国の親北朝鮮勢力の「合法化」に成功した。
その結果現在、韓国の一部「知識人」の中では、金正日独裁政権を無条件支支援することが「進歩勢力」で、「国民的合意」と「相互主義と検証」という原則的立場で南北交流を主張する人たちを「保守勢力」などという訳の分からない主張がまかり通っている。

「平和ボケ」した人たちの「親金正日」ぶり

こうした一部「平和ボケした勢力」と金大中政権が「ノーベル平和賞」を盾に「南北和解による平和の定着」を宣伝していた矢先、それをあざ笑うかのように金国防委員長は「西海武力挑発」を敢行した。この事件は、はからずも金大統領の「ノーベル平和賞」受賞が時期尚早であったことを韓国民に知らしめた。
6月29日の「西海武力挑発事件」で、韓国の一部親北派の人たちは、北に謝罪と厳格な対応を求める世論に対して「戦争をしようというのか」と、またもや飛躍した論理で迫り「親金総書記」ぶりをあらわにした。この武力挑発に対して韓国MBCテレビなど一部マスコミも正確な事実調査もせず「韓国漁船の侵犯が原因」などと北の主張を代弁するというとんでもない報道を行い、韓国国民のひんしゅくを買った。
そして一転、北朝鮮が自らの主張をひるがえし「遺憾」の意を表明すると、今度は「金総書記は知らなかったのではないか」という話にもならない説まで飛び出すありさまである。北朝鮮の権力中枢で金日成と金正日をつぶさに観察してきた黄長Y氏はこのような説を流布する人たちに対して驚きを通り越してあきれている。

「ウソ」の追求を忘れさせるテクニック

金総書記の「平和」攻勢は「戦争」を恐れる度数が強ければ強いほど効果を増す。「戦争恐怖症」に陥ると毅然とした対応が取れなくなるだけでなく、「対話に応じてきただけで「ほっとする」精神状態になる。こうした精神状態は「ウソ」に対しても、それを厳しく問い詰めるより、「平和的雰囲気」を歓迎する余り、むしろ変化したことに評価の基準が移り、「ウソ」を糾弾する事を忘れさせる。
例えば1983年のラングーンでの「アウンサン廟爆破」や1987年の「大韓航空爆破」などのテロ事件、韓国にたいする度重なる「潜水艇侵犯事件」、日本近海での「不審船事件」などについての北朝鮮の「ウソ」の弁明が判明しても、問題視するどころか、「変化」の兆しなどと「肯定的」に報道することとなるのである。
6月29日に起こった西海での北朝鮮の「武力挑発」の時も、北は最初、韓国の挑発だの韓国が先に攻撃したのと非難していた。しかしそれが韓国民の強烈な反発と国際世論の厳しい非難をもたらした途端、わけのわからない「遺憾」の意を表明した。自らが「ウソ」を認めたのである。だが不思議なことに北朝鮮が「遺憾」表明をするや、金大中政権は待ってましたとばかりにこれを「謝罪」と受け取るとして、北の思惑どおり「南北閣僚会談再開」などの要求を受け入れた。そして早々と肥料10万トン米40万トン(当初予定は30万トン)を送り、北の要求に応じアジア大会での「太極旗」取り下げなどを決めただけでなく、大会に参加する北朝鮮選手団の費用まで負担すると申し出た。
日本でも今回、金総書記が小泉首相と会談するとしただけで大騒ぎとなり、「拉致」は絶対無いとしていた金総書記がその「ウソ」を自ら認め、「謝罪」したにも関わらず、それに対する追求はおろか、今にでも朝日国交正常化が実現するかのような騒ぎがかもし出された。こうした現象は、金正日外交がいかに「平和ボケ」した人々に効果を上げているかの証左となる。

金総書記の外交戦略と朝日国交正常化交渉D

朝日国交正常化交渉の狙い

6月29日の韓国西海における「武力挑発」に対する「遺憾」表明から今回の「朝日首脳会談」での日本人拉致「謝罪」に至る金総書記の外交には、これまでの「核」と「長距離ミサイル」による「脅し」を前面に出した外交とは異なる手法が見られる。これは昨年9月11日の米国における「同時多発テロ」以降の国際的枠組変化と、ブッシュ政権が「悪の枢軸」と名指しした「対北朝鮮政策」が大きく影響を与えている。

先米、後南、後日外交の転換

「米国同時多発テロ」以前では「核」と「ミサイル」の保持は、それぞれの国家主権に関する問題として米国単独での「制裁」行動には無理があった。だからこそ金総書記は「対米交渉」の有効な手段としてこれを利用してきた。しかし「同時多発テロ」以降においては、それらが「テロ集団」と結びついた場合、武力によって物理的に除去してもよいという「国際的コンセンサス」が形成された。その結果テロ集団アルカイダと結びついたアフガニスタンの「タリバン政権」は除去された。
このことは北朝鮮の「核」と「ミサイル」も「テロ集団」と結びつけば「物理的に除去」できる国際環境が生まれたことになる。米国が北朝鮮を今も「テロ国家」と規定していることを考えれば、北朝鮮にとって真に危険な状況が生まれたことになる。
また「同時多発テロ」を契機に米国は反テロ闘争を「戦争」と規定することによってテロ国家やテロ集団との戦いを「自衛権の発動」として位置付けた。自衛権の発動となれば国際的協調は必要だが国連などの国際的合意は必要ない。ここにも北朝鮮が米国から武力攻撃をうける新たな状況が生まれたのである。
こうした変化が金総書記の「先米、後南、後日外交」すなわち、まず米国との国交正常化を実現して主導権を握り、北主導のもとでの南北統一に結び付け、日本との国交正常化を思い通りに仕切ろうとする「外交戦略」に根本的変化を与えたのである。その結果金総書記は受身の外交を余儀なくされることとなった。
「核」と「長距離ミサイル」を維持したままアメリカに攻撃の口実を与えない「外交」への転換、すなわち「朝鮮半島の緊張緩和」と「テロ国家からの決別」を世界に印象付け、米国の武力行使を出来なくする外交への「転換」を迫られたのである。

朝米国交正常化への新たな挑戦

今回金総書記が「朝日国交正常化交渉」を急ぐ狙いの第一は、米国の武力攻撃を阻止して対米交渉でいかに主導権を奪回するかである。金正日政は「核」と「長距離ミサイル」を保持したまま「朝米国交正常化」をなんとしてでも実現したいのである。
西海での「武力挑発」から一転しての「遺憾の表明」はこの方針転換を効果的に演出しようとしたものであったし、それまで渋っていた南北鉄道の連結や南北閣僚級会談、離散家族の再会などに急きょ応じてきたのも、また「日本人拉致」を認めて謝罪し、世界にサプライズを与えたこともこの脈絡の中にある。
しかしこの「思惑」が実現するかどうかは米国の出方いかんにかかっている。主導権は米国に渡ったのである。しかし日本の「朝日国交正常化交渉」がどの程度米国との協調のもとに行われるかによって、それは変化する可能性がある。もしも小泉政権が突出した行動をとれば金正日政権の「延命」と北朝鮮住民の「苦しみ」は長期化することとなるであろう。
10月3日からのケリー次官補の「訪朝」と北朝鮮との会談は、金正日政権が政権の命運をかけた新たな交渉の始まりであり、南北の「和解促進」と「朝日国交正常化」という変数を加えることによる必死の「対米挑戦」であるといえる。この会談で北朝鮮が核保有を認めたことはこのことの証左である。
こうした中で、小泉政権が、何らかの「野心」と「名誉欲」を満たすチャンスとみて金正日政権の「融和戦略」に飛びついたり、自国にだけ有利に利用しようとする「偏狭なナショナリズム」で対応するならば、それは真の朝日国民の友好と平和に反する行為となるであろう。

金総書記の外交戦略と朝日国交正常化交渉E

朝日国交正常化交渉の狙い

 宴は終わり、「金総書記欺瞞外交」の茶番劇も幕を閉じた。10月16日、米国務省は声明を発表し、先に平壌で行われた米朝高官協議の席上、北朝鮮が、高濃縮ウラン製造施設建設を含む核兵器開発を進めていると、米側に認めたことを明らかにした。これによって2000年6月15日の「南北共同宣言」発表から2002年9月17日の「朝日平壌宣言」に至る金総書記の「欺瞞パーホーマンス外交」は幕を閉じ、彼本来の「脅し外交」に戻ることととなった。

日本から核兵器開発費用をせしめよ

これまで金総書記は一貫して、核をもたない韓日両国と核大国米国との利害の不一致を利用してきた。この利害の不一致は、今回国際協約を違反しながら、核開発を進めた北朝鮮に対する反応の中に明確に現れた。韓国の金大中政権が最も北朝鮮寄りで、米国が最も厳しかった。日本は最大の脅威を受ける立場にありながら、即刻抗議するのではなく、朝日国交正常化交渉の中で解決するなどと「のんき」なことを言っている。日本の資金で核を開発し、日本を核攻撃の標的にしようとしているにも関わらず。  
こうしたことからも明らかなように、今回の「朝日国交正常化交渉」の第二の狙いは、核におびえる日本を自分の側に引き寄せ、日本の資金で破綻した経済のテコ入れを行い、核兵器開発を促進することにある。
日本の世論が、朝日間の問題を「核」や「ミサイル」といった金正日体制の根幹に関わる問題から「拉致問題」に傾斜したと読んだ金総書記は、よど号犯を犯人に仕立てて逆利用し、正常化の「プライスダウン」を行って、功名心にはやる小泉首相を利用することで一気に「朝日国交正常化」を実現しようとした。 
また「七・一経済措置」や「新義州経済特区構想」などをぶち上げ、いかにも日本の経済協力資金が、平和的分野に使われるかのごとき環境も作り上げた。しかし日本からの援助資金は、あくまで軍事力強化のための資金集めにあることは明らかだ。

「太陽政策」を補強し、李会昌をつぶせ

今回の「朝日国交正常化交渉」の第三の狙いはは、「融和政策」の有効性をかもし出し、対北朝鮮政策でブッシュ政権と同じ「相互主義と検証」を掲げる、ハンナラ党の李会昌大統領候補を孤立させようとしたことである。金総書記の外交戦略にとって、金大中政権の「太陽政策」は、世界を欺瞞する上でも、資金の捻出を図る上でも、対米対日外交の道案内をさせるにも、必須不可欠の構成部分となっている。
六・一三の韓国地方選挙と八・八補欠選挙で、ハンナラ党が大勝したことで「李会昌大統領出現」に危機を感じた金総書記は、その後労働新聞や朝鮮新報などを動員して李会昌孤立化キャンペーンを大々的に繰り広げた。韓米間でブッシュ―李会昌ラインが構築されれば北朝鮮はこれまでのような離間策がつかえなくなり、計り知れないプレッシャーを受ける。また自己の外交戦略を再構築する必要にも迫られる。  このブッシュ―李会昌ラインの遮断のためにも、早期の朝日国交正常化が必要であった。 
また金総書記に最も協力的な金大中大統領の在任中に、韓国―北朝鮮―日本ラインを構築しないと、金正日軍事独裁の早期崩壊もありうるとする判断もあっただろう。小泉首相が北朝鮮との国交回復を「安く」仕入れることばかり考えていると、むしろ高い代価を支払うことになるに違いない。

(おわり)

 
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