コリア国際研究所
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米国の対北朝鮮政策と今後の展望

2004.8
コリア国際研究所所長 朴斗鎮

米国のイラクでの一国主義的行動に対する国際的非難の高まりと、先制攻撃論の根拠となっていた「大量破壊兵器」の未発見、特にはテロによる犠牲者の増大によって巻き起こった世界的反米機運の高まりは、当初ブッシュ政権が狙った軍事圧力による北朝鮮孤立化の狙いに大きな誤算をもたらした。そしてむしろ北朝鮮に米国孤立を仕掛ける余裕さえ与えた。しかし「核放棄」を迫る米国の外交、軍事両面での北朝鮮政策は、基本的にいささかの変化も見せていない。

米国の核解決はCVID

現時点での米国の対北朝鮮政策の基本は、いうまでもなく「核とミサイル問題の解決」である。特にブッシュ政権は、北朝鮮の金正日政権を「悪の枢軸」と呼び、クリントン政権の「融和的政策」とは対照的な姿勢を見せている。
七月二十一日、韓国を訪問したボルトン国防次官は「最初にだまされるのはだました方が悪いが、二度だまされるのはだまされる方が悪い」と述べこの問題で、クリントン政権の融和政策に戻ることはなく「ジュネーブ枠組み合意」のレベルでの解決はあり得ないことを示唆し、リビア方式でのCVID(完全かつ検証可能で不可逆的核廃棄)こそが米国の求める解決策であることを示した。
六月二十三日に開かれた(二十六日閉会)第三回六カ国協議で米国は、韓日との協調を維持するため、はじめて同時進行による包括的解決案を提示し、工程表を示して北朝鮮の保証要求にも一定の歩み寄りを見せた。そして北朝鮮との間で「検証を伴う核の凍結とその見返りとなる補償措置が必要との認識で一致」したと発表した。しかしこれは「CVID」要求の姿勢を崩したものではない。
このことはケリー米国務次官補(東アジア・太平洋担当)が七月十五日、上院外交委員会で証言し、北朝鮮側が示した「核凍結」提案を「具体策に欠け、多くの重要項目があいまいだ」と批判、「合意にはほど遠い」との厳しい見方を示したことからも明らかだ。

ブッシュ政権にとっての「六ヶ国協議」

ブッシュ政権の核とミサイル問題での対北朝鮮外交政策は、クリントン政権の轍を踏まないことであり、それは「二国間交渉」を行わないということだ。この意図するところは、北朝鮮核問題の国際化にある。すなわち北朝鮮核問題を国際化し、国連安保理決議を経て制裁に乗り出そうとするものだ。そこには勿論イラク方式の「軍事オプション」も含まれる。
ブッシュ政権にとって今進めている「六ヶ国協議」はそのための「手続き」であり、一つのセレモニーであるといえる。勿論これが「手続」であるとはいえ、この間に北朝鮮が核放棄に応じてくればそれはそれなりに対応していこうというものだ。そういうことから考えると六ヶ国協議の締め切りは、九月に予定されている第四回会議となる可能性が高い。
ブッシュ政権は、「手続き」としての六カ国協議を進める一方、北朝鮮制裁の「証拠固め」も着実に進めてきた。
この間、アフガンとイラク攻撃の効果を生かし、パキスタンとリビアを引き寄せ、北朝鮮が外貨獲得の手段としてきた「核とミサイルの闇市場」解明に力を注いできたのがそれだ。その結果、パキスタンは「カーン博士と北朝鮮の取引」という形で北朝鮮核開発、特にはウラン型核開発への関与を認め、ベナジル・ブット元首相は、在任中の九三〜九六年に北朝鮮から「長射程のミサイル技術を購入した」と証言した。これが北朝鮮への大きなプレッシャーとなっていることは言うまでもない。
また米国は「イラク効果」を背景にリビアのカダフィ大佐と交渉し、様々な見返りと引き換えに大量破壊兵器の放棄に踏み切らせ、北朝鮮との「核の裏取引交渉」を暴露させた。これによって米国は「核とミサイル問題」解決の具体的「手本」を示しただけでなく、カダフィ大佐の口から体制保証と莫大な見返りを語らせることで自らの「保証と見返り政策」に「ウソ」がないことを示した。
最近日本の小泉首相が平壌を訪問し「核の所有よりも核の放棄がはるかに大きな利益をもたらす」と金正日国防委員長を説得したのも、リビアの具体的事例があってのことである。当面米国はこの「アメ」の部分を北への「メッセージ」として送りつづけている。ライス補佐官が七月九日の訪韓時、この点を強調したこともこうした意図の表れであろう。
ブッシュ政権の北朝鮮核への包囲網は大量破壊兵器やミサイル関連物資の密輸阻止を目指す「拡散防止構想(PSI)」としても具体化され進められている。これは、核拡散防止条約の弱点を補うため、各国と協調し、疑念のある場合は、航空機や船舶への臨検をも行ない、具体的行動で核の拡散やミサイルの密輸を阻止しようとするもので、半軍事的オプションであるといえる。PSI構想には米英日豪仏など計一一カ国が参加しており、この合同演習も具体的に動き出した。

ブッシュ政権の対北軍事戦略

ブッシュ政権は、こうした外交的手段を強める一方、北朝鮮に対する軍事的圧力も強化している。
今年の四月、金正日総書記の中国訪問を一週間前にして、米国のディック・チェイニー副大統領は北京に入り胡錦濤(フー・チンタオ)主席や江沢民軍事委員会主席と会談した。チェイニー副大統領は江沢民(チャン・ツォミン)主席との会談で、北朝鮮が核を闇市場に輸出している証拠を確保した場合、北朝鮮に対する軍事行動もありうることを伝えたという。
このことは金総書記訪中時、江沢民主席から金総書記に伝えられ「そのような場合、中国は手を出せない」とクギを刺したといわれる。これが第三回六カ国協議を一歩前進させた背景でもある。
実際米国は、核の平和的解決が図れない場合、北朝鮮に対する先制攻撃を行う体制を着々と進めている。それは「海外駐留米軍再編計画(GPR―Global Defence Posture Review)」に沿った在韓米軍基地の再編縮小と在韓米軍兵力の削減として、また米日同盟の強化と在日米軍基地強化という形で顕在化している。
七月二十二日、米国防省庁舎で第一〇回未来韓米同盟政策構想(FOTA)会議が開かれ、基地縮小と龍山(ヨンサン)基地移転問題を集中的に討議し合意した。この合意により二〇〇八年末までに龍山基地はソウル南方四〇キロの平沢に移転される。また二〇一一年までに、在韓米軍の基地数を現在の四一カ所から一七カ所に縮小し総面積も約三四%縮小することとなった。
この会議に先立ち、七月六日にはソウルで韓米の公式協議が開かれ、米国側が在韓米軍兵力の三分の一に当たる一二五〇〇人を二〇〇五年十二月末までに削減する方針を正式に通告した。この計画は最精鋭地上部隊である第2師団(在韓米第八軍地上兵力二万八〇〇〇人のうち第2師団兵力は一万四〇〇〇人)兵力を撤退させるものであり、最前線からの米軍の撤収である。こうした基地と兵力の後方への移転は、一万にも及ぶ北朝鮮軍の長距離野砲や多連装ロケットからの第1撃の回避を狙ったものであり、北朝鮮に対する「先制攻撃体制」の強化であることは明らかだ。
韓国での基地の縮小と兵力の削減と平行して、日本の基地の格上げと米軍と自衛隊との一体化が急速に進められている。浮沈空母日本を軸に、米軍のハイテク武器とイ―ジス艦や巨大空母、原子力潜水艦などをフル活用し、ストライカー部隊を巡回配備すれば、韓国に地上部隊を常駐させなくとも北朝鮮抑止は十分に可能だとの思惑からだ。すでに米国は横須賀基地を拠点とする原子力空母キティホークに次ぐ、二隻目の空母を太平洋に配備する方針も明らかにした。
今回米国が防衛ラインを反米親北機運の高まる韓国から後退させ、日本本土を中心に再構築する目的は、より巨視的な見地からアジアの安全保障を見直す一方、朝鮮半島有事に対して韓国に縛られない先制攻撃体制を構築するところにある。これは「朝鮮戦争」の引き金となったといわれている一九四九年「アチソンライン」を彷彿とさせるものであるが、その本質は全く異なるものだ。

ケリー大統領出現でも基本政策に変化なし

北朝鮮は、ブッシュ政権のこうした外交軍事戦略に対抗する手段として朝中同盟の強化と、特には韓米日結束の弱体化で対抗しようとしている。
民族共助路線で盧武鉉政権を引き寄せ、「拉致問題決着」で小泉政権のテコ入れを行ない、早期の朝日国交正常化を促進することで日本からの莫大な経済援助をせしめようとしているのである。そして十一月の米大統領選結果を待っている。
金総書記が十一月の米大統領選に期待を寄せるのは、民主党のケリー候補が六カ国協議と平行して朝米二国間協議を推進すると主張していることがその根拠となっている。「大統領選まで回答を引き延ばし、ケリー政権登場なら再び二国間協議で譲歩を引き出し、ブッシュ再選なら次の選挙の心配がなくなったブッシュ政権が柔軟姿勢に転じるのを待つ」というもくろみのようだ。そして隣国アラブ諸国との完全な平和協定締結まで核拡散防止条約(NPT)に加盟しないと表明している「イスラエル方式」か、なし崩しに核保有を認めさせた「パキスタン方式」で決着をつけようとしている。
しかしこの期待ともくろみは裏切られるだろうとするのが専門化の分析だ。
米国のクリントン政権当時、国務省の北朝鮮担当官を務めたケノネス「インターナショナルアクション」朝鮮半島担当局長は七月二十六日、韓国与党である「開かれた・ウリ党」のイム・ジョンソク議員主催で開かれた「米国の大統領選と北朝鮮核問題の解決の見通し」討論会に出席し、「米国の目標は誰が大統領になるのかに関係なく、北朝鮮核の完全廃棄」としながら「米大統領選のケリー民主党候補が今回の大統領選で勝利しても、北朝鮮核問題をめぐる交渉が早期に妥結するのではない」と述べた。
また、「現在米国政府はイラクとアフガニスタンでの軍事的衝突のため、北朝鮮に対して軍事力の使用を考慮できずにいる」とし、「中東問題が整理されれば、状況は急変する可能性がある。また、ブッシュ大統領が再選すれば、外交的妥結の見通しはさらに困難になり得る」と述べた。
事実ケリー候補は昨年八月六日、ワシントン・ポストに寄稿した文章で「六カ国協議に誰が出席するかに関係なく、ブッシュ政権は北朝鮮と直接対話すべきだ。対話が成功するとは限らないが、対話をしなければ歴史は許さないだろう」としながら「外交的手段で解決できる保障はないが、米国が最後まで平和解決の努力を示せば、軍事的選択肢をとる場合にも、同盟国や世界は米国に対し信頼感を高めるはずだ」と述べ、軍事的選択肢を強調して注目された。

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北朝鮮の核問題は、九月に予定されている六カ国協議で、北朝鮮がいかなる対応を見せるかが一つのターニングポイントとなるだろう。ここで北朝鮮の対応に変化がなければ、いま小泉政権が前のめりに進めようとしている「朝日国交正常化」にも再びブレーキがかかるに違いない。また北朝鮮人権問題が世界的に浮上している中で国際的食料支援も細るだろう。そうすれば現在その兆しを見せている一九九四〜七年を彷彿とさせる食糧危機が再び北朝鮮を覆うことになるかもしれない。
前回は貧富の差が少ない中での飢餓であったが、今回は貧富の差が激しくなった中での飢餓となる。貧しい国民の疎外感は前回の比ではない。十一月の米国大統領選がどちらに転ぼうが、二〇〇五年は北朝鮮核問題解決で決定的局面を迎える年となるだろう。

 
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