コリア国際研究所
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[コラム] 明確になったヒルとライスの力不足

2007.5.25
コリア国際研究所所長 朴斗鎮

 「あと2、3日間は忍耐強さを示す」。6ヵ国協議2・13合意から60日が過ぎた4月14日、米国首席代表のヒル国務次官補はこう語った。また、「われわれはいつまでも待てない」と述べ、2、3日が過ぎれば何らかの「対抗措置」を取るかのような態度も見せた。しかしあれから40日が過ぎても何の進展も見られない。
 この間「来週には」との発言を何回繰り返したことか。これが昨年の米国中間選挙での共和党の敗退とイラクでの泥沼化がもたらした結果といえばそれまでだが、成果を急ぐヒル国務次官補の力不足であることも確かだ。
 今回の「合意」を主導したヒル国務次官補−ライス国務長官―ブッシュ大統領ラインの粗雑で甘い対応と、功名心にはやるヒル国務次官補の能力不足は、北朝鮮の「引き伸ばし戦術」に格好の材料を与えている。それはまた、韓国親北政権にもスキを与え「北朝鮮支援」の「先走り」を許している。

 あざ笑う金正日

 5月11日付朝鮮日報(日本語版)は、6カ国協議合意前日の金桂寛(キム・ゲグァン)外務次官報告の形を取った風刺漫画(東アジア財団の英文学術誌「グローバル・アジア」最新号が掲載)を紹介した。作者は1993年と94年北朝鮮による核開発問題当時のクリントン政権で北朝鮮との交渉を担当した米国外交問題評議会(CFR)のサモア副会長だ。
この風刺漫画は、あまりにも今の状況を的確に風刺している。その内容は次のようなものだ。
「敬愛する指導者同志。またも勝利しました。人情味のない中国は核実験を中断させることができると考えていますが、われわれは彼らの目の前で核実験を行い、彼らはあまりに も驚いて何の措置も取れませんでした。米国はバンコ・デルタ・アジア(BDA)の秘密資金を返還するしかなく、こちらが核資産を保持したまま凍結することを受け入れました。ありがたいことに心が広くてだましやすい南朝鮮の兄弟たちはこちらが何をやっても資金と食料を送ってくれます。
指導者同志の承認を得るためにご報告する6カ国協議での合意内容草案は素晴らしい協定です。こちらが行うべきことは国際原子力機関の監視の下で60日以内に寧辺の核施設を閉鎖・封印することだけです。5メガワットの原子炉を閉鎖するのは何の問題でもありません。
無能力化は1994年のジュネーブ合意で受け入れた廃棄よりも簡単です。危機の瞬間にはいつでもくつがえすことができる無能力化の方法をエンジニアの李(リ・グン北朝鮮外務省米国局長か)に考えさせます
敬愛する指導者同志はおそらく、新しい協定はすでに保有しているプルトニウムや核兵器の廃棄を明確に要求しているものではないことをご存じのことでしょう。今回の合意で放棄するものはほとんどなく、あらゆる可能な選択をそのまま残すことになります。もし米国が無礼な行動を取れば核プログラムを再び稼働して核実験を行うこともできます。科学者たちも今度はしっかりと核実験を行うことができるでしょう。
もし代償が十分なら原子炉の無能力化や濃縮ウランの購入目録を申告することを選択することができます。あるいは2年間手詰まり状態を維持して次の米国大統領が選ばれるのを待つこともできます。どのような状況であれブッシュ政権からは毒を抜き去りました。ブッシュ政権は非常に弱くて分裂しており、こちらに危害を加えることはできません。蛇酒で祝杯を挙げましょう!」
米国に責任を転化したまま、韓国大統領選挙戦の絶妙なタイミングまで初期段階合意履行を引き伸ばせ、いつでも代償の食い逃げができる今の状況は、この風刺漫画が指摘するとおり金正日にとって願ってもない追い風である。
北朝鮮外務省はその間「資金送金が実現すれば、われわれはすぐに6カ国協議での合意にともなう核施設稼動中止措置を取る用意がある」と繰り返し、合意履行が遅滞しているのはBDA凍結資金を送金できない米国の責任だと示唆し続けている。北朝鮮核実験であれだけ騒いでいた国際世論も今は嘘のように静かだ。

 愛国者法と国際金融システムに疎かったヒル

 6ヵ国協議の2・13合意がいまだに守られない最大の責任は、合意内容にないバンコ・デルタ・アジア(BDA)資金凍結解除を「履行前提」に持ち出し、その凍結資金の受け取りを米国銀行経由で行わせて「国際金融取引」への復帰までも狙う北朝鮮の狡猾な対応にあるが、それを許したヒル国務次官補とライス国務長官の「甘さ」と「無能さ」にも責任の一端がある。
1月のベルリン会談で、BDA凍結資金を解除すれば5万トンの重油援助と引き換えに寧辺核施設の凍結とIAEAの査察を受け入れ、次の段階では核の無力化にも「同時行動」の原則で応じるとの北朝鮮側提案にヒル国務次官補は飛びついた。この提案を早速中東に滞在していたライス国務長官に報告し、ライスはこれをチェイニー副大統領抜きにしてブッシュ大統領に直接報告し決済をもらったという。 この時点で6ヵ国協議の2・13合意はできあがっていたのである。その後北京での6ヵ国協議で、重油200万トンだやれ100万トンだと騒いだのはほとんど「デキレース」に近かった。
このことを裏付けるように、最近北朝鮮内部から得た情報によると、米朝ベルリン会談の直後、北朝鮮のある部署を訪れた金正日は、鉄、セメント、油の調達について語り、油は年末に使ってあまるほど入ってくると「うっかり」もらしたという。これがその後6ヵ国協議で合意された重油100万トンを意味したことは言うまでもない。2・13合意は、すでにベルリンで固められ、その後ニューヨークで再確認されていたのだ。
しかしヒル次官補は「反テロ戦争」を遂行するためブッシュ政権が作った愛国者法の「威力」を見落としていた。
ヒル次官補は3月19日、凍結されていた北朝鮮関連資金約2500万ドル(約29億円、52口座)を北朝鮮に返還することで米朝が合意したと発表し、これで6ヵ国協議は順調に進むと考えた。だが、そのさ中、米国財務省はバンコ・デルタ・アジア(BDA)を愛国者法(反テロ法)311条の「資金洗浄の主要な懸念先」に確定し、418日には、北朝鮮による資金洗浄などの不法行為を放置していたとして、BDAとすべての米金融機関との取引を禁止する「制裁措置」を発動した。
米国務省とヒル次官補は現在、米銀の仲介を可能にする法規制の「抜け道」を必死に探している模様だが、同法311条は大統領の執行免除権限すら適用されないという。また、米刑法には「犯罪に絡む1万ドル以上の金融取引への関与を試みる」だけでも処罰の対象とする規定もある。
ヒル次官補が汗だくになって解決しようとしている国際送金は、米国の銀行を通さなければならないが、この「愛国者法」の適用を恐れてどこもこれを請けようとしないのである。ロシアやイタリアの銀行への送金が成功しなかったのはこのためだった。
*ドルの国外送金は通常、送金元の銀行が送金先の銀行に直接現金を送るのではなく、双方が米国の金融機関に保有している決済用口座を通じて行われている。そのため規制を受けていない東南アジアの銀行も米国の銀行を経由せざるを得ないのでBDAへの制裁が続く限り送金は事実上不可能になる。
現在、コルレス(送金の取り次ぎ)バンクの役割を果たしたことがある米準大手銀行のワコビアが、国務省からの依頼を受け、送金業務の受け入れを検討しているという。しかし同行も「監督当局の承認なしには要請に同意しない」として、財務省の同意を求めている。日本の一部政治家や韓国の高官が「今週中に解決」「来週には進展」をいくら繰り返しても送金を受ける米国の銀行が出てこない限りこの問題は一歩も前に進まない。

 ヒル―ライスでは朝鮮半島の非核化は実現しない

 ではこうした局面を作り出したクリストファー・ロバート・ヒル(Christopher Robert Hill, 1952年生)なる人物はいかなる経歴と実績の持ち主なのか。
彼は2005年4月から現在の職責である東アジア・太平洋担当国務次官補を務めている。
外交官としては、当初東ヨーロッパやバルカン半島などを担当し、後に大韓民国大使となった。1996年から1999年まで駐マケドニア大使、2000年から2004年まで駐ポーランド大使を務めた。ヨーロッパ諸言語に通じているといわれる。ボードイン・カレッジで経済学士、1994年に米国海軍軍事学校で修士号取得している。
ヒル国務次官補の主な実績は、コソボ紛争(旧ユーゴスラビア、セルビア共和国コソボ自治州でおこった内戦・紛争。2000年にセルビア軍がコソボから撤退し、一応の終結を見た)解決で若干の手腕を見せただけだ。韓国大使を経験したものの北朝鮮問題にはほとんど素人の状態で6ヵ国協議米国首席代表となっている。
にも関わらず、彼はコソボ紛争解決の実績を「過大評価」し「自信過剰」のまま「功名心」にはやり対北朝鮮交渉に当たった。中東問題で手一杯のライス国務長官が、彼に北朝鮮問題を委ねざるを得なかったことが「功名心」を助長し、ブッシュ大統領が彼に大幅な権限を与えることでそれは増幅された。だが、こうしたタイプを「利用」するのは北朝鮮が得意とする所だ。
北朝鮮に新たな口実と余裕を与え、ブッシュ政権の政策に打撃を与えている「ヒル―ライス」の国務省ラインでは、数十年間大国間の矛盾を利用し、したたかに独裁国家を存続させてきた北朝鮮外交に対抗するのは無理であろう。
「融和政策」に転じたブッシュ政権下での「朝鮮半島非核化」は、よほどのハプニングが起こらない限り実現は不可能と思われる(了)。

 
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