コリア国際研究所
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米朝核交渉は次のステージへ向かうのか

2008.2.9
コリア国際研究所所長 朴斗鎮

 米朝核問題の交渉はこれまでも同じようなパターンを繰り返してきた。それは妥協−膠着(こうちゃく)−危機の繰り返しだ。これは6ヵ国協議が困難な争点を後にまわす「出口論」に基づいて進められているからである。今回もバンコ・デルタ・アジア(BDA) 問題が解決された2007年 6月から妥協局面が始まったが、2007年末からは核プログラムの申告問題を巡って米朝両国か再び膠着局面に入った。
 老朽化した北朝鮮の核施設不能化までは予測通りある程度スムーズだった。それは北朝鮮にとって痛くも痒くもない話だったからである。この段階で気の早い人たちは米朝国交正常化まで取り沙汰していた。だが「核プログラムの完全申告問題」が提起されると綱引きが始まった。

UEPの疑惑を否定し続ける北朝鮮

 問題の焦点はウラン濃縮プログラム(UEP)だ。この問題は2002年 10月の 第2次核危機をもたらし、1994年のジュネーブ合意を破棄に導いたが、その後の6ヵ国協議では「出口論」に基づいて後回しにされてきた。しかし次の段階に進むためにはどうしても疑惑の解明が必要となっている。
 そこで北朝鮮はアルミニウム鋼管の輸入事実を認めながらも、それはウラン濃縮プログラムとは関係がないことだと弁明する戦術に出た。そしてその証拠として洗浄したアルミニウム鋼管のサンプルを提供した。これでブッシュ政権をだませると確信したと思われる。それは丁度、骨を1200度で焼けばDNA鑑定はできないだろうとして渡した横田めぐみさんの「にせ骨事件」に似ている。しかしそれは通じなかった。北朝鮮が提供したアルミニウム鋼管から濃縮ウラン跡が発見されたのである。その内容は ワシントンポスト紙が報道した。
 濃縮跡が残った問題についてははさまざまな原因が考えられる。アルミニウム管を供給したパキスタンやあるいは実験室でついたかもしれない。しかし重要なのはこれがワシントン内部で宥和派の立場を弱めるきっかけを提供したということだ。
HEU 疑惑に関しては明らかな事実と推定で結論付けている内容とがある。明らかな事実はパキスタンのカーン博士が北朝鮮に遠心分離機 12~20個を提供したこと、また2002年 6月頃北朝鮮がロシアから 150トンの遠心分離機外部容器を輸入したということだ。
 ここで重要なことはロシアから輸入したアルミニウム鋼管の寸法と素材がカーン博士が北朝鮮に提供した P2 改良型遠心分離機の外部容器とが正確に一致するという点だ。150トン規模は遠心分離機 2600余個を作ることができる量だ。その他にヨーロッパのウラン濃縮コンソーシアムであるユレンコ社から 22トンの遠心分離機外部容器を導入しようとして押収された事実もある。これが米国の「不信」を取り除けなくした内容だ。
 しかし武器用のウラン高濃縮のためにはアルミニウム鋼管だけでは実現しない。この外にも様々な設備と部品、資材が必要だ。この点については北朝鮮が安定化直流供給装置をタイで輸入しようとしたが失敗した事例はあるものの、北朝鮮が実際に他の部品を輸入した証拠は捜せないでいる。ここから先は今のところ推定の段階である。このことから北朝鮮がUEPを試みた状況はあるが、脅威の水準ではないのではという見解が出てくる。
 前者の見解に立てば「不信」が募るが、後者の見解だと目をつぶることが出来る。功名心にはやるヒル国務次官補は、外交成果を焦るあまり後者の見解に立ったと思われる。
 こうした疑惑が解明されていないことから米朝交渉がこう着状態に入っているが、そこで北朝鮮はまたもや「行動対行動の原則」を持ち出した。「核不能化」が約束どおり履行されているのに「テロ支援国解除」を含めた米国の対応措置が取られていないと米国に責任を押し付け始めたのだ。二国間協議の弱点である「見解の相違」をいつものように利用してきたのである。
 北朝鮮外務省の代弁人は去る1月4日、「われわれは既に、去年の11月に核申告書を作成し、その内容を米国側に知らせており、米国側が申告書の内容をもう少し協議しようと言ってきたので協議も充分に進行した」と主張した。 「核プログラムの完全申告問題」は終わったとの見解だ。
 しかしブッシュ政権は北朝鮮の主張に合わせて不完全な申告内容のまま妥協するわけにはいかない。このハードルを越えれば国交正常化が「行動対行動」の対象となるからだ。そのため昨年末には確認のため大統領の親書まで北朝鮮側に手渡している。

再び危機局面を迎えるのか

 仲裁力が弱まった中国に加え、ブッシュ政権も任期末に入り交渉力は低下している。また大統領選挙局面にも入っている。
 韓国も変わった。李明博次期政権は、北朝鮮に有利な「太陽政策」の見直しを進め、米韓日協調強化の方向で動いている。北朝鮮核問題も「先核放棄後支援」に変わった。そして何よりも外交の枠の中で北朝鮮と関係を結ぼうとしている。これは韓国政権が北朝鮮核問題解決で前政権のような独立変数ではなくなり、同盟国と歩調を合わせる従属変数になることを意味する。韓国大統領選挙以後ワシントンのネオコンが声を高め始めたことはこうした状況の変化と関係している。
 米国の交渉力が弱化し、韓国が北朝鮮に距離を置き、中国の仲裁的役割が低下すれば、こう着局面から脱することは難しくなるが、重要なことは時間があまり残されていないことだ。
 ブッシュ政権が外交的リーダーシップを発揮することができるのは後わずかである。今後数ヶ月の機会を逃したら、次期政権の対北朝鮮政策が出るまでこう着状態は長期化する。
 ここで北朝鮮はどのような選択をしてくるだろうか?これまでならばすでに対立を強める方向で動いていたはずだ。しかし今回はネオコンを非難するが交渉自体を壊そうとはしていない。そして核の不能化過程は続けている。
 北朝鮮にもこれまでのパターンで動けない状況が生まれたのだ。
中国が距離を置き、韓国が「民族共助路線」から離れようとしている今、米朝交渉を壊してしまえばいつ修復できるか分らない不安が北朝鮮にも付きまとう。また食糧事情も苦しい。韓国からの援助なしではまたもや飢餓が発生する可能性もある。経済再生の見込みもほとんどない。だからこそ新年3紙共同社説で目標(にんじん)を5年後にずらした。
 ベトナムとの関係など新しい対外関係拡大で目先を変え「改革開放」をアピールして外国投資を呼び込もうとしているが。金正日国防委員長が「改革開放」に向かわないことは昨年の南北首脳会談や新年3紙共同社説で表明済みだ。しかし改革開放につながらない特区方式で投資するのは太陽政策を推進した韓国の金大中・盧武鉉政権だけだろう。羅津・先峰の失敗を誰が繰り返そうとするだろうか。またベトナムと手を結んでも外資は出てこない。所詮米朝関係の改善が前提となる。
 こうしてみると金正日政権にも金大中・盧武鉉政権の時のように簡単に交渉を決裂させられない事情が生まれている。北朝鮮にも時間的余裕がないのだ。交渉を引き延ばしたからといって有利になる保障もなし、とかいって「核プログラムの申告」を米国の言うとおりにすれば体制維持に影響が出る。金正日はこの10年間に経験しなかった悩ましい判断を迫られている。

    こう着状態はいずれ解けるだろう。しかしそれは大きく見ると二つの方向しかない。どちらかの言い分が通って米朝宥和が再び再開されるか、決裂して再び対立の方向に動くかである。米国の政権交代を待つ可能性もあるがそれは今のところ次善の策と思われる。時間は金正日政権に不利に作用し始めているからだ。そのほか「第2回核実験」という手もあるが、しかし中国のオリンピックを控えてそれをぶち壊すような極端な政策は取れないだろう。これまでのサイクルとしては対立の方向だが現在の状況は過去とは違う。後は金正日国防委員長の胸三寸にかかっている。
 
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