コリア国際研究所
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2008年北朝鮮国内情勢概況

2008.12.26
コリア国際研究所所長 朴斗鎮

 2008年の北朝鮮情勢で、最も注目すべきことは、金正日総書記の健康悪化であった。今年8月中旬以降、北朝鮮はこの事態の収拾に多くの力を費やした。また「敵国通商法の解除」と「テロ支援国家指定解除」の目標は達成したものの、新年3紙共同社説で掲げた「共和国創建 60周年を迎える今年を祖国の歴史に刻む歴史的転換の年として輝かそう」という目標はほとんど達成できなかった。中心課題に掲げた経済再建は今年も果たせないままだ。特にアメリカ発の金融恐慌は北朝鮮経済に大きな打撃を与えている。

1、金正日健康悪化で権力構造に変動の予兆

 9月9日、北朝鮮建国60年の閲兵式で、正規軍のパレードが取りやめとなり、金正日国防委員長が初めて姿を見せなかった。この異例の事態をふまえて、韓国をはじめとした各国は分析を急いだが、その後8月中旬に心臓疾患から来る脳障害(脳卒中)であったことが明らかとなった。
  10月に金委員長を治療するため北朝鮮を訪れた神経外科の専門医フランソワ・グザビエ・ルー氏は、フランスの日刊紙「フィガロ」とのインタビューで、「金正日総書記は脳出血を起こしたが、手術は受けておらず、回復しつつある」と語った。ただこの発言は金委員長の健康回復を裏付けるため、北朝鮮側の働きかけで行なったとの見方もある。
  北朝鮮報道機関は,10月上旬以降,金正日総書記の「サッカー観戦」や「軍部隊視察」、地方現地指導、観劇などを写真を添えて矢継ぎ早に報じ、その「健在ぶり」をアピールしたが、完全に健康が回復したかどうかは分からない。
  脱北者によって組織された「NK知識人連帯(11月24日創立総会)」の季刊誌「北朝鮮の社会」創刊号は、金委員長健康悪化の噂が北朝鮮社会に拡散していることを明らかにした。噂を沈静化させるために北朝鮮当局は各単位で講演会を繰り広げたが、むしろ逆効果であったようだ。
  この講演では、住民の間で金正日の病気に関するデマがたくさん出回っているということが指摘され、「これは党の周りに鉄壁に団結したわれわれの一致団結を破壊するための、敵の策動」と宣伝した。そして「このようなデマは、まったく根拠がないものであるから、その出所を必ず明らかにしなければならない」と強調し、「これはデマではあるが、もし類似したことがあっても絶対に動搖してはならず、永遠に党だけを信じて従うという確固とした革命の気風を確立しなければならない」と念を押したという。
  この季刊誌によれば、こうした講演会の後、むしろ金正日重病説が急速に拡散し始めたという。高位幹部の間では金正日重病説はほとんど公認の事実として広まっており、幹部と関係がある人を通じて一般の住民にも急速に広まっているとのことだ。

 再浮上する後継者問題

 今回の事態は、金正日委員長の健康が回復したとしても内外に与える影響は大きい。
  まず、金委員長の統治能力の低下が避けられないことである。
  北朝鮮のような王朝的独裁国家では、指導者の健康問題は直接権力構造に反映する。金委員長が「脳卒中」で倒れていたのであればなおさらだ。いつまた突発的に発病するか分からない。今後は次期権力に注目が集まることとなり、金委員長の求心力が弱まるのは避けられない。それはそのまま統治体制の弱体化につながっていく。
  次期権力に注目が集まることから凍結されていた「後継者論議」が再び活発化する可能性がある。
  高英姫死亡後、金正哲後継が不透明となり、金正男派の巻き返しが起こる中で、内部の対立を恐れた金委員長は、「後継者論議」を封印してきたが、その歯止めが利かなくなる可能性がある。これは一つ間違えば内部権力抗争につながる。
  混乱して後継者がなかなか決まらない場合には、「集団指導体制」が取り沙汰されるが、そうした場合でも軍部などの体制ではなく、「金一族」内の誰かを前面に出し、その支持勢力が後押しする体制となる可能性が高い。「金一族」であれば、金日成から受け継いだ血統や革命伝統を説明できるからだ。また「金一族」のほとんどが権力中枢に配置されているため、権力の空白も起こりにくい。北朝鮮が金日成を「始祖」とする国となっていることを忘れてはならない。

 後継体制を支える勢力―朝鮮労働党

 共産主義を目指す国家における主導勢力は党である。北朝鮮も一応そうした部類に属する国家であるため朝鮮労働党が中心勢力となる。軍にたいする統制も党が行なう。中国においても軍にたいする統帥権は、中国共産党中央軍事委員会が掌握している。北朝鮮においても同じ構造である。
  では後継者を支える党勢力の中心は誰なのか。現在のところ明確な情報はない。しかし最近、さまざまなルートで浮上してきているのが、再復活した張成沢党行政部長である。金委員長健康悪化後の内部引き締めと統制で張成沢部長が先頭に立っているという。現地に企業を持つ在日朝鮮人有力者からの情報によってもそれが確認されている。一時は組織部第一副部長の李済綱(リ・ジェガン)に抑えられているとの情報があったが、再び勢力を盛り返しているらしい。
  金正日後の後継勢力について取り沙汰される中で、北朝鮮が「先軍政治」を敷いていることから、軍部が主導権を握るとか、軍がクーデターを起こすのではないかと分析する人がいるが、それは北朝鮮の政治システムをよく知らない人たちが主張していることだ。
  北朝鮮には「軍部」などという「独自勢力」は存在しない。軍のトップはすべて政治的能力に欠けており、金正日の指示通り動くしか能のない高齢の人たちだ。また各部隊には、総政治局のもとに朝鮮労働党組織指導部が統制する政治参謀が配置され、また監視網として保衛部の組織も張りめぐらされている。いかに軍首脳といえども、思い通りに軍隊を動かせないようになっている。
  軍隊を指揮する参謀本部と軍の党組織を掌握する総政治局、それに軍内部の監視を担う保衛部は、それぞれ縦割りとなっており横の連携は遮断されている。それは1990年代初の旧ソ連の「フルンゼ軍官学校」卒業生たちの「クーデター未遂事件」や、1996年に起こった「第6軍団反乱事件」の教訓から金委員長が講じた措置である。
  また、「国防委員会」に軍人が多数占めていることで「軍の台頭」を語る人達がいるが、「国防委員会」は、金委員長が国家主席の名称を父親とだけ結びつるために、主席職の実権と統帥権を自分に移す目的で作ったものである。それゆえ金正日以外の何人(なんぴと)も政治権限を持たない。また国防委員会の人事権は朝鮮労働党が握っている。その党の総書記も金正日である。
  「国防委員会」はまた、党組織のような下部組織を持っていないため、党の総書記である金正日と結びついてのみ機能が発揮できる。したがって軍部というならば金正日その人が軍部なのだ。
  ただ政治力を兼ね備えた卓越した軍人が登場すればその軍人が党の後押しを受け後継者となることはありえる。しかし現在北朝鮮にはそのような軍人は存在しない。こうしたことを勘案したとき、軍による急変事態は起こりえないといえる。もしも軍に異変が起これば、北朝鮮の命脈を握っている中国も座視しないであろう。

2、緩む統治体制
 
  2008年3紙共同社説は具体的課題で何よりもまず「先軍朝鮮の第一国力である政治思想的威力をいっそう高くとどろかせなければならない」と強調した。これは北朝鮮社会に思想的緩みが広がっているということを示唆するものだ。しかし外貨でなければならない金正日の統治資金は、世界経済危機の影響を受け大きく減少している。統治資金の減少は体制の緩みにもつながるが、それは市場をはじめとした物流にも現われている。だから今、北朝鮮当局は市場に対する統制を強めているのである。また韓国からのテロ要員逮捕云々も統治体制の緩みを引き締めようとする動きにほかならない。

 統治資金の欠乏

 金正日政権にとって一番重要なのは北朝鮮の国民経済の成長ではなく「政権維持費用の確保」だ。この費用は、外貨でなければならない。米国のサブプライムローンに端を発した世界金融危機と南北関係の冷却化は、金正日統治体制に深刻な打撃を与えている。
  統治体制を維持するには、まず金正日国防委員長周辺に布陣した党と軍の 200人位の最側近グループを管理する費用が必要だ。また労動党や保衛部と保安省の人員を現水準で維持しなければ統治体制がもたない。その費用は年間おおよそ5億ドルと見られるが、いまこの調逹に大きな支障が生じている。
  北朝鮮はこれまで、この5億ドル相当をミサイル販売と麻薬・偽装紙幤・偽造タバコなどの不法輸出で稼いでいた。ところが現在 PSI(大量破壊兵器拡散防止構想) などによってミサイル密売がままならず、2005年 9月のバンコ・デルタ・アジア問題などで不法資金の調達もままならなくなった。
  それで金正日委員長は現金確保のために「金剛山観光」に加えて、韓国の人々がバスに乗って市内観光をする開城観光までやり始めた。しかし、李明博政権が「太陽政策」に距離を置き金正日政権の思い通りにならないため、「金剛山観光」に続きこの事業も12月1日から全面遮断した。北朝鮮の対韓国強硬策によって韓国政府と民間の両方から調達してきた北朝鮮の外貨収入も減少することとなった。
  次に軍事部門である。軍隊の維持は、外国からの援助と国内生産物でしのぐとしても、核やミサイルなどの兵器の生産は外貨なしでは維持できない。米国のCIAは、北朝鮮の推定軍事費を年間50億ドル(1ドル=120円)程度と見ているが、そのうち30億ドル程度を核・ミサイルに集中配分している。また、石油も外貨なしでは調達できない。石油の一部は6ヵ国協議での非核化プロセスの「行動対行動」で手に入れているものの、それだけで十分でないのは明らかだ。この30億ドルの調達を金正日委員長はこれまで、韓国から5億ドル、ファンドなどの資金運用や在外公館からの送金で10億ドル、あとは第一次産品の輸出などで調達してきたと推察される。いまこの一次産品輸出での資金調達が商品価格の下落によって大きな打撃を受けている。

 市場の影響拡大

 統治資金の不足は統治体制の緩みにつながっている。そうしたことから北朝鮮は「市場」の拡大を恐れ、これまで強めてきた統制を一段と強めようとしている。
  「市場」の拡大は度重なる「検閲」にも関わらず2008年もコントロールできなかった。こうしたことから北朝鮮内閣は、2009年1月から毎月1日に、1日だけ市場を開くようにするという指示文を下した。その理由について指示文では「商売で生計を立てる人民が秩序を乱し得るという点を考慮して、統制と法規定を強化し、中央党の決定に挑戦したり回避する現象が起きないようにしなければならない」と記述したと、対北朝鮮人権団体である「よき友」が、会報の「今日の北朝鮮ニース」248号(12月6日)で伝えた。
  この措置の背景について北朝鮮政府は、平壌市の工場労働者を対象にした講演会で、「2009年2月からは国内経済が活性化して、全ての品物の値段が今よりずっと安くなり、経済が成長して、われわれ全ての暮らし向きが良くなるので、これ以上商売しなくても良いから」と語ったという。
  また、「商売を出来なくする国家の措置を十分に理解して、勤労者たちは無駄な問題提起や不満を言わないようにして欲しい」としながら、「清津(チョンジン)市の例のような事件(数千人の女性商人が市場の統制に集団で抗議)が起こってはならない」と強調したという。「よき友」の会報は、平壌のある幹部の言葉を引用しながら、今回の措置は「(商売)年齢を制限した段階から、もう一段階強化したものである。今後、市場を完全に無くしたいというのが、中央党の意向」と紹介した。
  北朝鮮政府は、平壌市を今回の措置のテスト地域に指定して、11月10日から全区域で毎月10日、1カ月に1回だけ市場を開くようにしている。
  北朝鮮政府は物流を国営商店に戻すために2002年にも「7・1措置」を実施したが、食糧をはじめとした生活必需品の供給が追いつかず、ハイパーインフレを引き起こして失敗した。その後も何とか配給制を復活させ物流を統制下に置こうとしたが、いずれも失敗している。今回の措置も北朝鮮政府の思い通りに行くかどうかは分からない。
北朝鮮当局の引き締めはこの外、「韓流ブーム」によるCDやDVDの流入にも向けられ、密貿易にも厳しい取締りが加えられている。

3、計画通り進まない経済再建

 北朝鮮は、年初の「新年3紙共同社説」において、故金日成主席の誕生100周年となる2012年までに「強盛大国の大門を開く」との目標を打ち出し、「経済強国建設のための総攻撃戦」を展開し、産業基盤となる電力、石炭、金属、鉄道部門に国家予算を重点的に配分して、9月9日までに何らかの成果を出すために力を注いできた。
  また外資の導入にもチャレンジし、再度の携帯電話事業を立ち上げやインターネット網の拡充にも着手しようとしている。しかし2008年度経済は依然として停滞しており目標からは程遠い。この停滞には、世界経済危機の影響だけでなく、日本の経済制裁や韓国との対立も影響している。

 若干の前進、しかし目標からは程遠い

 北朝鮮内閣機関紙の民主朝鮮(7月19日付)によると、北朝鮮の上半期の発電量は昨年同期に比べ117%、石炭生産量は107%、鉄道貨物輸送量は103%それぞれ増加したほか、圧延鋼材の生産量は2.5倍となったという。予算収入は計画比107.6%、前年同期比で116.3%となり、予算支出も計画の116.5%を執行したことも明らかにされた。また、下半期の経済計画遂行に向けた課題と方法については、電力生産の正常化と石炭生産の拡大、製鉄や製鋼所の近代化、鉄道輸送の統一管理と列車運行の安全保障、主要化学製品の生産計画遂行などが提示された。
  しかし、下半期に襲ってきた世界経済恐慌が、どのような影響を及ぼしたかについては定かでない。一次産品市況の急落と中朝貿易の急減などによって、下半期計画の下方修正が相次いだことは想像に難くない。
  食糧生産も改善したが、しかし依然として食糧不足は続いている。
  2007年の水害による減産や韓国の食糧支援中断、国際的な食糧価格上昇などによって、平壌でも一時食糧配給の中断が伝えられたが、今年は増産だったようだ。
  韓国農村振興庁は12月18日、今年の北朝鮮の気象や病害虫の発生状況、肥料など農業資材の供給事情を総合的に分析した結果、北朝鮮の今年の穀物生産量は、昨年の401万トンに比べ30万トン(7.5%)ほど多い431万トンになると推定されると明らかにした。
  コメは、肥料不足と生育初期の水不足があったものの、後半は日照量が十分で台風など気象災害も少なく、収穫量は昨年に比べ33万トンほど多い186万トンになると推定した。トウモロコシは、生育初期の日照りのため、昨年から5万トン減の154万トンを収穫することになりそうだとし、豆類の生産量は16万トン、ジャガイモ類は51万トン、麦類は24万トンになるとみている。
  しかし慢性的食糧難の解決からは程遠い。世界食糧計画(WFP)と国際連合食糧農業機関(FAO)は12月8日、「北朝鮮の今年の穀物生産量は421万トンで穀物輸入分の50万トンを考慮しても、2009年10月までに83万6000トンが不足する」と明らかにした。

 外資導入にチャレンジ、成果は未知数

 北朝鮮は外国からの投資を誘致するために2006年の「外国人投資法」を改正して合弁・合資企業の外国人持分を最大85%まで認めた。また北朝鮮は去る 12月2日にはシンガポールと「投資奨励と保護に関する協定」を調印した。外資を導入して地下資源埋蔵地を捜し出すことで、外貨事情を改善しようとしているのだ。
  北朝鮮に投資している外資は、いまのところ中国資本が圧倒的だ。だが、イタリアとシンガポール、香港、エジプトなどの国々の投資も徐々に増加している。特に中東国家の進出が活発だが、エジプトのオラスコム(OCI)をはじめクウェートとサウジアラビアも積極的に進出を図っているという。クウェートは北朝鮮の下水道開発事業に2000万ドルを借款形態で投資した。
  北朝鮮に進出した外国企業の中では、エジプトでホテルと建設、アルジェリアなど北アフリカと中東で通信業をしているこのオラスコム(OCI)が最も活発に動いている。OCIは1989年以後、工事が中断し、放置されてきた103階建ての柳京(ユギョン)ホテル再工事のほか、昨年7月、平壌の祥原(サンウォン)セメント工場に1億5000万ドルを投資した。その対価としてOCIは祥原工場の持分50%を取得した。代わりに祥原工場はこの資金で設備を現代化し、生産能力を拡充している。
  今年の1月にはOCIの子会社であるオラスコムテレコムが北朝鮮の第3世代移動通信事業権を獲得した。このシステムは広帯域符号分割多重接続(WCDMA)方式だ。これから3年間、4億ドルをインフラ構築に使うという。事業権有効期間は25年となっている。サービス開始に関する行事が12月15日に執り行われた。
  しかし、北朝鮮はこれまでも携帯電話事業を開始しながら、2004年4月の龍川駅での列車爆破事件などが起こると中断している。中継基地不足だけでなく、外部からの情報を遮断しながらの通信網拡大がうまくいくかどうかは未知数だ。
  北朝鮮はまた、金総書記の指示で2002年に取りまとめられた「インターネット開放ロードマップ(工程表)」に従い、早ければ2009年にも特殊機関や許可された個人を対象にインターネットサービスが始まる見通しだという。北朝鮮の共産大学で電子計算機講座(コンピューター工学科)の教授を務め、2004年に脱北した「NK知識人連帯」の金代表(現在は京畿大教授、北朝鮮研究所研究委員などとして活動)が明らかにした。
  だが北朝鮮の電力事情が改善しない限りインターネットの安定的稼動は難しい。電圧が一定しないとコンピューターが正常に稼動しないからだ。北朝鮮では電圧が一定でないために一般病院で心電図が使えない。また頻繁に起こる停電もコンピューターにとっては大敵だ。ソフトをいくら開発しても北朝鮮の電力事情が改善されない限り、情報統制問題をさし置いても特殊機関以外でのインターネットの普及は難しい。
  外資導入にチャレンジしはじめたが、北朝鮮の外資導入はベトナムなどに比べれば依然として不十分だ。社会主義国家であるベトナムが2006年誘致した外資は23億ドルだった。北朝鮮の20倍に達する。自立的民族経済にこだわるあまり、外国資本が求める資源開発独占権について明確な政策を出せないでいるのがネックとなっている。

4、北朝鮮経済の前途は依然として厳しい

 こうした北朝鮮の努力にも関わらず、北朝鮮経済が来年に成長に向かうという兆候は見られない。
  それは第一に北朝鮮の収入源である一次産品の価格が下落しているためだ。
  2009年から本格化する世界不況は、その価格を一層下落させると思われる。事実、亜鉛一つとっても価格上昇時の月間輸出額が1000万ドルにまで迫ったが、10月現在の価格が 30% 以上下落し、600万ドル水準にまで落ち込んだ。石炭、亜鉛、鉄鉱石、ニッケルなどは北朝鮮全体輸出量の半分以上を占めており、この主要輸出品の価格が下がれば、北朝鮮の経済は大きな打撃を受ける。
  二番目は港湾、通信、電力、道路など社会間接資本の整備がなされていないことだ。
  このため外国企業が入ってきても思い通りの企業活動が行えない。また携帯電話などに対する情報統制も企業活動を大きく妨げる。こうしたことから、まだ本格的な外資導入は望めない。
  最近シンガポール、エジプト、中国、ヨーロッパの多くの国々が対北朝鮮投資に向かっているが、大部分限定的で小規模であるうえに、道路と電力がきわめて脆弱なため、進出企業は多くの困難を味わっている。したがって事業が始まっても、それが成功するかどうかは分からない。
  三番目の問題は北朝鮮の閉鎖的経済政策である。北朝鮮は今もなお自立的民族経済という閉鎖的経済論に固執し、市場経済を統制しようとしている。
  特に金正日総書記の健康悪化の中で、北朝鮮は統制経済に後戻りし始めている。貿易商人を取り締まり、企業改革措置を取り消し、北朝鮮住民のささやかな自耕地まで統制している。労働新聞は12月17日、アメリカから始まった世界金融危機に対して「米ドルによる金融支配体系が崩壊しており、金融の多極化時代が到来」していることを意味すると主張し、「民族経済の自立性」強化の重要性と外国資本導入の危険性を再び強調した。
  こうした考えでは、テロ支援国指定から解除されたといっても、実際に北朝鮮に国際資本の投資が行われるかは不透明だ。それは「テロ支援国家指定解除」がなされたにも関わらず、ロンドン金融市場での北朝鮮債権の1ドル額面の値段が、三ヶ月前までの25セントから12セントに暴落したことに示された。
  自力更生の精神論だけでは北朝鮮経済は再生しない。また「開城工団」に対する強権措置に見られるように、いつでも自分の都合で契約を無視していては、世界の資本は北朝鮮には向かわない。改革開放のみが北朝鮮経済を再生できるのだ。しかしそれは金正日政権の終焉を意味する。

以上

 
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