コリア国際研究所
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米国はまたもや金正日に塩を送るのか

2009.9.19
コリア国際研究所所長 朴斗鎮

 オバマ政権は、「6ヵ国協議の中での米朝二国間協議」というハードルを下げ、「6ヵ国協議のための二国間協議」に舵を切った。
  クローリー米国務次官補は9月11日の記者会見で、北朝鮮を6か国協議に復帰させる目的で、同国と直接対話を行う用意があると言明した。次官補は米朝協議の狙いについて、「北朝鮮に6か国協議のプロセスへの復帰を説得し、非核化に向けて断固とした一歩を踏み出すことだ」と述べ、6か国協議を再開させた上で、北朝鮮の核放棄を明記した2005年の共同声明を改めて確認すると強調した。
  開催地や日程は未定だが、平壌や北京などの観測が流れている。9月下旬にニューヨークで開かれる国連総会で、関係国の首脳による協議が行われる可能性があり、その結果を踏まえて最終的に判断する見通しだ。ボズワース米政府特別代表(北朝鮮担当)は今月、中国、韓国、日本を訪問した際、米朝協議の開催で各国の了解を得たと見られている。
  この発表に対して米ABC放送は、「対北朝鮮政策のギアを入れ替えた」と評価し、CNN放送は「バラク・オバマ政府が劇的な政策転換を通じて、北朝鮮を6者協議体制に復帰させるために、北朝鮮との直接対話を持つ意向を明らかにした」と伝えた。
  中国も積極的にこの動きに歩調を合わせている。中国の胡錦濤国家主席の特使として北朝鮮を訪問した戴秉国国務委員(副首相級)が16日、平壌で北朝鮮の姜錫柱第1外務次官と会談したのを皮切りに、金永南常任委員長とも会談し、最後に金正日国防委員長と会談した(18日)。戴国務委員は、胡国家主席の親書を金総書記に渡した。金委員長はこの席で二国間協議と多国間協議(6ヵ国協議ではない)通じた問題解決について語ったと伝えられている。
  多国間協議を餌にして二国間協議へと米国を誘い込む金正日の狙いは明白だ。劣勢から抜け出すために、自らが進んで対話姿勢を演出することによって時間を稼ぎ、アフガン情勢の事態悪化を待とうとしているのである。アフガン情勢が悪化すれば、来年の米中間選挙前に、再びミサイル発射と核実験でオバマ政権を揺さぶり、2006年10月以降ブッシュ政権が進んだ道を再びたどらせようとしている。
  北朝鮮が進めているこうした戦術の背景について、李明博大統領は次のように指摘した。
  「北朝鮮は今、危機感を持っている。その危機から抜け出すために米国、韓国、日本に対して融和な態度を示しているが、今の時点では北朝鮮に、核の放棄に向けた信頼できる態度や兆候は見られない」「北朝鮮は今も経済支援を受ける一方で、核問題についてはただ時間を引き延ばし、既成事実化しようとしているようだ。そのため今後は、この問題についても6カ国協議参加国が心を一つとし、一致した戦略で北朝鮮に対し、核を放棄させるための努力を重ねなければならない(15日に行われたインタビューで)」(朝鮮日報2009・9・16)。
 
1、クリントン訪朝は、2007年ベルリン会談の再現だった?

 オバマ政権が北朝鮮を6カ国協議に復帰させるために、2国間対話をすると発表したことについて、米国のウォールストリートジャーナル(WSJ)は9月15日、『金、再び勝利を手にした』という社説を掲げ、オバマ政権が6カ国協議を復活させるために北朝鮮と2国間対話を行うと発表したことは、米国の対北朝鮮政策を自ら貶(おと)しめたも同然と主張し非難した。ワシントンポスト紙も同日、『今がオバマ政権の対イラン、対北朝鮮政策がテストされる時』という分析記事で、米国の国会議員はオバマ大統領の対北政策に反対する意見を明らかにしていると伝えた。
  オバマ政権にしてみれば、金正日が直接クリントン元米大統領を呼び、積極的に米朝対話を呼びかけた事実を無視出来ないという事情もあるだろう。対話の要請を拒否すれば、北朝鮮がさらに態度を硬化させて核実験を続けることも考えられ、その責任を負うことの負担も感じたに違いない。「北朝鮮はあらゆる経路を通じて対話の再開を要請している。これを無条件に拒絶するのは決して望ましいことではない」これがオバマ政権の判断と思われる。そこには、このところのオバマ政権に対する支持率の低下(50%に低下)も影響を与えている。
  このオバマ政権の動きに対して朝鮮日報顧問の金大中氏は「コラム」で次のように厳しく批判した。
  『米国営短波ラジオ局「ボイス・オブ・アメリカ」は12日、「北朝鮮側に拘束された米国人女性記者二人の解放ため、平壌を訪れたクリントン氏が金正日総書記と面会した際、ボズワース特別代表(北朝鮮政策担当)の訪朝を仲介した」と報じた。これをみると、クリントン氏は「手ぶら」で訪朝したのではなく、金総書記もタダで記者の引き渡しに応じたわけではなさそうだ。「記者解放と米朝直接接触は別問題」「オバマ大統領の対北姿勢は断固たるもの」と宣伝されていたのは、いわゆる「ショー」だったのだ』(朝鮮日報2009・9・14)。
  この分析どおりだとしたら、クリントン訪朝は2007年1月のベルリンでの「ヒル―金桂寛会談」の焼き直しだったということになる。

2、過去との違いを強調するオバマ政権

 こうした厳しい批判の目を意識してか、オバマ政権は米朝2国間協議が「6ヵ国協議」に呼び戻すためのものであると必死に説明している。オバマ政権は▲北朝鮮による核武装は決して容認しない▲6カ国協議を通じて北朝鮮の非核化を引き出すという原則について本質的に変化はない、などと強調している。
  米国務省のケリー報道官は9月14日の会見で、「われわれは6カ国協議の脈絡の外では、北朝鮮との間でいかなる実質的な2国間対話も行わないという点を明らかにし続けてきた」と述べ、米国の目的は、北朝鮮を6カ国協議とその流れに復帰させることだとした。これは、6カ国協議に復帰するよう北朝鮮を説得する以外には実質的な核議論を進めないという点を重ねて強調したものと受け止められている。
  ケリー報道官はまた、北朝鮮政策担当のボズワース特別代表と6カ国協議米国首席代表のソン・キム担当特使がアジア3カ国を訪れ、カウンターパートとの間で北朝鮮を6カ国協議に復帰させるさまざまな方策を話し合ったと紹介した。そのうちの一つが、ボズワース特別代表に対する北朝鮮の訪問招請問題だと明らかにした。訪朝招請がいつあったのかを問われると、「かなり最近にあった」と答えた。ただ、ボズワース特別代表の平壌訪問を受け入れるかどうかについてはまだ決定していないと伝えた(聯合ニュース2009・09・15 )。
  しかし、オバマ政権がこの招請を受け入れることはほぼ間違いないだろう。
  現在進められようとしている米朝二国間対話は以前とは異なるというのがオバマ政権の立場だが、その根拠としてあげているのは次の2点である。
  第一点は「対話」と「制裁」が並行しているという点だ。

  この点について韓国政府の当局者は13日、「過去には“対話の始まり”がそのまま“制裁の中断”を意味したが、今は米国が、中身のある非核化が担保されない限り制裁を続ける、という点を明言している」と米国の主張を代弁した。
  これは、北朝鮮による1回目の核実験(2006年10月)後に採択された安保理の対北朝鮮制裁決議(1718号)は、2007年1月の米朝のベルリン会談などによってうやむやになったが、しかし北朝鮮による2回目の核実験(2009年5月)後に採択された安保理決議1874号は、今までのところ国際協調によって決議の内容通りに実行されているということを指すものである。韓国政府関係者は「これまで国際社会に徹底した制裁を強調してきた当事者が米国なのに、対話を始めるからといってこれを覆すことはできない。対話を担当するボスワース(対北政策特別代表)とは別に、制裁だけを24時間考えるゴールドバーグ(対北制裁調整官)が動いているのも、こうした状況を反映したもの」と「楽観論」を付け加えているが本音は不安を隠せない。
  第二点は、今回の米朝対話が6カ国協議の枠内で進められ、その焦点も北朝鮮を6カ国協議に復帰させることに限定されているとの点だ。
  以前の米朝対話が事実上6カ国協議で扱いにくい問題を事前に調整し、前進させる役割を担い、6カ国協議はその後を追う格好になりがちだったのと比較される部分だ。韓国政府関係者は「“米朝対話が6カ国協議の代替物になってはいけない”という関連国の懸念を、米国もよく分かっている」と話した(朝鮮日報2009・9・14)。
  オバマ政権は、このように従来との違いを強調して今回の米朝二国間協議を正当化しようとしている。しかし、北朝鮮核問題で6ヵ国協議以外の妙案を見出せない米国が、6ヵ国協議を人質にした北朝鮮の策略にはまらないとの保障はどこにもない。
 
3、不安を隠しきれない韓国

 クリントン訪朝以降、北朝鮮は米朝二国間協議の障害を取り除くための「一歩後退戦術」を駆使している。韓国からの見返りも無しで南北関係改善を主導し、強硬路線をちらつかせながらも対話に重点を置く路線へと転換させた。これまでの北朝鮮には見られなかった戦術だ。それだけ北朝鮮が追い詰められたともいえるが、このような目先の「譲歩」は、米朝二国間協議によって十分に取り返せると打算しているフシもある。
  北朝鮮と米国の2国間接触による米朝関係の変化の兆しに、韓国政府が警戒感を示しているのはこのためだ。核問題に対する北朝鮮の態度変化がないにもかかわらず、米朝接触だけで何か解決されるという「誤った信号」を北朝鮮に伝える恐れがあると憂慮しているのだ。また一方では、韓国政府が、米朝関係進展の過程で疎外されることを懸念する声もなくない。特に、「2週間内に決定する」という米国の発表は、韓国政府の予想よりも早かったようだ。
  事実最近、韓米間では米国と多少かみ合わない場面が見られた。スティーブン・ボズワース北朝鮮政策特別代表が韓国訪問を終えて日本に向かった直後の6日、韓国政府当局者は、「まだ米朝間で接触する状況ではない」と話した。しかし、ボズワース特別代表は8日、日本で「今後数週間、ワシントンで(訪朝)問題が検討されるだろう」と明らかにし、韓国当局者らは面目を失った(東亜日報2009・9・14)。
  このため、一部では、米朝関係の気流変化の可能性をめぐり、対策づくりが必要だという指摘も出ている。韓国政府のある当局者は、「米国が、自国内のスケジュールと必要性によって対北朝鮮政策を推進しているため、北朝鮮に対する制裁をめぐる認識の違いが生じる可能性への対策を講じ、韓米協力を堅固にしなければならない」と強調した。
  こうした韓国の警戒感は、自由先進党の李会昌(イ・フェチャン)総裁の発言によって明確に示された。
  李総裁は17日に国会で開かれた最高委員の党5役連席会議で、「オバマ政権が、同じ民主党政府だったクリントン政府の時と同じような朝鮮半島問題に対する視覚を持っていたら、これは非常に懸念されること」と述べた。李総裁は「米国はもちろん、これ(両者会談)は北朝鮮を6カ国協議のテーブルに引き入れるためのものだと言っているが、見掛け上米国が再び、北朝鮮の金正日の瀬戸際戦術や脅迫戦術に頭を下げたと見られることは否認できない」と語った。
  また、「クリントン政権の対北政策は、初期には強硬な姿勢を取っていたが融和的な姿勢に変わり、にんじんを与えれば解決できるという安易な考えで軽水炉を提供するジュネーブ協定まで結んだが、北朝鮮が核兵器を完成する結果をもたらした」と米国の対北朝鮮政策を批判した。
  そして、「オバマ政権もクリントン時代のそうした対北朝鮮認識を受け継いで、鞭よりはにんじんだけで問題を解決して、外交の実績をあげることができると思ったとしたら、非常に不幸なことが再び起きる可能性がある」と憂慮した。
  李総裁は、「韓国政府の役割が非常に重要」と述べ、「韓米関係においては、対北問題に関して米国の戦略と方向について通報を受けてついていくやり方ではなく、積極的に朝鮮半島の問題と対北朝鮮政策に関する戦略について、米国と互いに議論して共同で樹立していく積極的で能動的な外交姿勢が必要」と強調した。
  また、「朝鮮半島問題と北朝鮮の核問題を中国抜きに考えることができない状況」と述べ、“対中外交においても、積極的に状況を展開する積極外交、能動的な外交が必要」と付け加えた(デイリーNK2009・9・17)。
  米国の対北朝鮮政策に対する韓国保守層の「不信」は根強い。クリントン、ブッシュ政権の16年間、米国が北朝鮮に煮え湯を飲まされ続けたからだ。北朝鮮政策での米国に対する不信は日本の中にも根強くある。この「不信」を生み出す根底には米国の国益優先主義が横たわっている。
  もうそろそろ米国の国益に追随する対北朝鮮政策から韓日両国は脱しなければならない。そうしてこそ北朝鮮問題のカギを握る米韓日の真の民主主義同盟が強化される。

 
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