コリア国際研究所
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金正日「訪中」で大騒ぎする韓日メディア

2010.4.10
コリア国際研究所所長 朴斗鎮

 3月末から韓日のメディアは、「金正日訪中」予測の記事を毎日のように取り上げた。それに油を注ぐように韓国政府当局者も「訪中間近」などとする情報を流した。金正日が訪中すれば東アジア情勢が一変するかのような騒ぎようである。
  韓日のメディアが騒ぎ立てるほど「金正日訪中」が大事件なのだろうか?「金正日訪中」によって北朝鮮の核放棄が決まるのなら「大騒ぎ」することも分かるが、せいぜいが「6ヵ国協議」に復帰するかどうかぐらいの話である。「金正日訪中」を騒げば騒ぐほど、これまでと同じように金正日の罠にはまっていく。 
  近々に金正日訪中があるとしてもその目的は明白である。仲介者中国の外交的地位を高めながら金正日自身の価値を高め「6ヵ国協議復帰」などという使い古された交渉手段で中国から経済援助を取り付け、国連の制裁解除と米韓日などからの支援を手にしてデノミ失敗の穴埋めを行ない、2012年の強盛大国実現と後継体制の確立を円滑に進めようというものだ。
  にも関わらず、韓日のメディアは金正日訪中の価値を高める片棒を担いで大騒ぎしている。韓国の大統領府までが憶測・予測情報を流し金正日の「策略」を助けている。

1、金正日訪中の価値を高める韓日の報道

 金正日訪中については昨年12月22日、読売新聞の「金正日総書記が、来年1月〜2月前半の間に訪中し、胡錦濤国家主席らと会談するとの見方が強まっている」との記事がきっかけで注目されはじめた。続けて朝日新聞も昨年の12月31日に「北朝鮮の金正日総書記が来月にも中国を訪問する可能性が強まっている」と報道した。
  そうした中で今年の2月23日に金英日党国際部長が訪中したことから、「金総書記の訪中の最終調整が目的ではないか」との観測が広まった。韓国の「東亜日報」は3月2日付で金総書紀が「後継者の3男、ジョンウンと一緒に3月25日から4月5日の間に中国を非公式訪問する」などと報道した。
  今年の3月に入って「金正日訪中」報道に火がついた。それに関する韓日メディアによる主な報道は次のとおりだ。

聯合ニュース

 「金総書記、25〜30日訪中の可能性高い」外交筋 (2010/03/17)
  金総書記4月初旬に訪中の可能性、政府中核当局者 (2010/03/31)
  金総書記訪中間近か、中国内各地で兆候の情報 (2010/04/01 09:52)
  「金総書記、早ければあすにも中国入り」消息筋 (2010/04/01 14:53)
  金総書記、特別列車で中国到着か (2010/04/03)

朝鮮日報

 金正日総書記の訪中説強まる、先発隊が到着か (2010/04/01)
  金総書記訪中説、ビッグディールの可能性 (2010/04/02)

中央日報

 米国務次官補、金正日の訪中を示唆 (2010.03.24)
  「金正日総書記、来月初めに中国訪問」 (2010.03.26)
  「金正日総書記、早ければ今日にも訪中」 (2010.04.01)
  北京対北ライン、携帯電話消して一斉に姿見せず (2010.04.02)
  金正日総書記訪中の兆しはあるが… (2010.04.03)
  金正日、訪中を延期? 動きを隠す煙幕? (2010.04.05)

東亜日報

 金総書記、5回目の訪中は「外資誘致」が目的か (2010.04.02)
  訪中説の金総書記がまだ平壌に…なぜ? (2010.04.05)

朝日新聞

 金総書記、1月にも訪中か ジョンウン氏の同行焦点 (2009.12.31)
  「金総書記、近く訪中の可能性高い」韓国政府報道官 (2010.03.31)
  金総書記の訪中「4月末の可能性」韓国情報機関トップ (2010.04.07)

読売新聞

 金総書記、1〜2日にも訪中か (2010.04.01)
  金総書記、特別列車で中国到着か…聯合ニュース (2010.040.3)
  金総書記訪中の兆候?確認と米国務次官補 (2010.04.04)

産経新聞

 金総書記、一両日中にも訪中か 経済支援目的? 6カ国復帰? 3男同行? (2010.04.01)
  金総書記の訪中「可能性大」 韓国報道官が会見 (2010.04.01)
  金総書記訪中「兆候ある」 (2010.04.04)

毎日新聞

 北朝鮮:金総書記、訪中秒読み? 「先発隊出発、国境は厳戒」−−聯合ニュース (2010.04.01)
  北朝鮮:金総書記の訪中、今月後半以降か (2010.04.08)

 この報道状況を見ると今年に入っての火付け役は、北朝鮮のプロパガンダにいつも敏感に反応する「聯合ニュース」が先導しているようだ。韓国の一部報道機関は北朝鮮の謀略情報に犯されている可能性がある。
  こうした新聞報道に乗っかってフィバーしていたのが「北朝鮮問題評論家」の辺真一氏だ。彼は金正日訪中を待ち焦がれるかのように、3月末から連日自身のブログに「金正日訪中予測」を書き綴った。4月1日付「金正日訪中はゲンを担いで4月2日か」とのブログでは、金正日が9の数字を好むとして、足せば9になる「2010年4月2日に訪中する」などと占い師のような予測まで立てた。
  一部マスコミと評論家が無責任な情報を垂れ流す背景には、北朝鮮報道が誤報であっても厳しいペナルティが課せられないことが大いに関係している。だがより深刻なのは、そうした報道姿勢が金正日の演出に利用されているということに気がついていないことだ。
  冷戦時代の米CIAとソ連KGBの戦いを描いた「CIA・ザ・カンパニー」という米国のドラマを最近見たが、そこで印象的だったのはKGB長官の「西側は考えることが好きだから」という台詞だった。この意味するところは「西側(自由民主主義国)に思わせぶりな謀略情報を一つ流しておくと勝手に食いつき、いくつもの『謀略情報』を自ら作り出してばら撒いてくれる」と言うことだ。いま韓日の一部マスコミは北朝鮮側情報機関から見れば、まさに「考えることが好きな集団」となっている。

2、金正日訪中報道に油を注いだ韓国大統領府のお粗末

 韓国大統領府の報道官は3月31日の記者会見で、金正日の訪中について、「可能性が高いとみて、注視している」と述べ「金総書記はまもなく訪中する」との事実上の発表を行った。しかし、金総書記は今なお中国へは出発していない。金総書記の訪中について、韓国の大統領府がなぜこのような拙速な発表しなければならなかったのか理解に苦しむ。  
  訪中情報が間違いのないものだとしても、訪中後に外交通商部が記者会見する形を取って発表しても十分であった。あえて大統領府が発表した意図は何だったのだろう。韓国大統領府も一部マスコミと同じように「特ダネ競争」に勝ちたかったのだろうか。このように軽率に動くから、北朝鮮と境を接する中国・丹東地域の動きをまるでスポーツ中継でもするかのように報じるメディアが続出するのだ。
  こうした韓国とは対照的に金正日訪中について米国政府は慎重さを堅持している。キャンベル米国務次官補(東アジア・太平洋担当)は3月3日、金正日訪中について、中朝国境付近での準備作業ともとれる動きを米国が確認していると認めた上で「兆候はあるが、それ以上のことは分からない」と述べ、正確な予測は不可能との見方を示した。
  こうした米国政府の対応は国務省内でも一貫しているようだ。朝鮮日報はコラムでその様子について次のように報道した。「米国務省の担当記者たちは、最近相次いで金総書記が訪中する可能性について同省に質問した。そのたびに米当局者から返ってくる回答は退屈なほどだった。『金総書記が中国を訪問したら、北朝鮮の核開発計画に対する懸念について話し合うことを希望する』。こうした原則論的な発言ばかりを繰り返していた。一方、オバマ政権の当局者たちは、匿名でも金総書記の『訪中が迫っている』ということは口にしなかった」(朝鮮日報2010・4・8)。
  韓国政府の情報に対する甘さは「天安艦」沈没事件をめぐる情報漏洩にも現われている。「天安艦」沈没事件を通して韓国国防部はメディアの執拗な情報公開要求と歪曲された世論に対応しようと、重要な軍事機密を流出させる愚を犯した。 政界をはじめとする一部のネットユーザーは悪性デマの流布をはじめ、国民世論を糊塗する宣伝・扇動を行ったが、政府はきちんと措置を取れなかった。 この2つは軍事的レベルの脆弱点を露出しただけでなく、韓国の国家安保を根本から瓦解させうる重大な問題である。韓国大統領府も国防部もこれでは北朝鮮との情報戦で勝ち目はない。

3、金正日の妖術に踊らされてはならない

 先日、米ワシントンを訪問した黄長Y(ファン・ジャンヨプ)朝鮮労働党元書記は講演で、「金正日と何かをしようとするのは、火と戦うことではなく、火の影と戦うことだ」と指摘した。金正日の戦術とその行動を分析する上で示唆に富む発言だ。
  このことは金正日訪中に関しても当てはまる。多くのマスコミが金正日訪中を騒げば騒ぐほど「火の影と戦わせようとする」金正日の術数にはまるのだ。その背景には「金正日が訪中すれば何かしらの戦略的決断を行うのではないか」との実体のない期待があるのだが、その期待こそが「火の影」と戦わせる結果をもたらすのである。
  しかし、これまでの訪中を見ても分かるように「変化しない」のが金正日だ。変化しないのに変化すると思い込ませるのが金正日の「妖術」であるが、金正日はこの妖術を使い「中国のような改革開放を決断するのでは」「6ヵ国協議に復帰して核の放棄に同意するのでは」などとする「期待」をふりまいてきた。そして韓国をはじめとした6ヵ国協議参加国から多大な援助をせしめてきたのである。
  もう一つの「火の影」は中国の仲介に対する期待だ。これに対しても黄元書記は「北朝鮮と中国が同盟関係を維持する限り、中国に仲裁役を期待するのは幻想」だと指摘した。この指摘も肝に銘じるべきだ。
  東アジアにとって、金総書記の動向が重要なのは事実だ。しかし、金総書記が中国へ行くたびに、「戦略的大転換があるのでは」といった憶測や期待が飛び交うが、その後実質的に北朝鮮が変化したケースは一度もない。変化といえば、北朝鮮が核爆弾を手にしたことぐらいだ。この教訓をしっかりとふまえなければならない。
  金総書記の一挙手一投足を注視するにしても、冷静さを保ち過剰反応してはならない。東アジアの安保があたかも一独裁者にかかっているかのように印象付けることは、「妖術」の効き目を促進するだけだ。

 
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