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改革解放を拒否し続ける北朝鮮

コリア国際研究所 朴斗鎮
2012.10.26

 最近、10月16日付の労働新聞社説「未踏の雪道突破精神で創造し勝利しよう」で、先軍政治を再確認し「改革開放」を否定する金正恩第1書記の次のような発言が伝えられた。
 「われわれが進むべき道は明らかだ。われわれは今まで歩んできた道を変わりなく進んでいかなければならない。その道程でわずかな脱線もあってはならない」と強調したのがそれだ。この発言が、何時どこでどのような背景のもとにで語られたものかは今のところ明確ではない。
 また社説では、金正恩時代の精神を「未踏の雪道突破精神」(생눈길을 헤치는 정신)と規定し、金正日時代の「苦難の行軍」精神と気質で「未踏の雪道」を突破していかなければならないとして、それとの連続性を強調した。そして、「偉大な大元帥様たち(金日成・金正日)が切り開いてくださった自主の道、先軍の道、社会主義の道に沿って真っ直ぐに進むことに、われわれの革命の百年大計の戦略があり、終局的勝利がある」と主張した。
 「未踏の雪道突破精神」の核について、社説では、「首領決死擁護であり、その威力の源泉は一致団結と銃台にある」とし、全党,全軍,全国民が敬愛する金正恩同志の周りに団結、また団結して、銃台を強く握り締め進撃路を切り開いて行かなければならないと強調している。
 この発言は、1994年7月の金日成死去直後、米韓日当局の北朝鮮改革開放期待に対して、金正日が『私に変化を期待するな』『私の思想は赤い』と言及した状況と似ている。
 そしてこの発言は、内閣を経済司令塔とした経済再生策、平壌リニュアールや遊園地・民俗村建設などの娯楽施設の充実、新しい商業施設、モランボン楽団での欧米音楽導入、妻と手をつないで登場するスタイルなどと結びつけ、「北朝鮮は改革開放に向かうのではないか」「(この状況は)対北朝鮮政策を和解と協力の構図」に転換する必要がある背景だ(中央日報日本語版 3月6日)」などと主張していた韓日メディアと一部専門家の「願望的分析」に一撃を食らわした形となった。
 これとともに社説で注目すべきは、「私たち活動家は未踏の雪道を切り開く斥候兵とならなければならない」とする金正恩発言を紹介しながら、その役割を果たすには、「1970年代、党の基礎構築時期における活動家たちの模範を学ばなければならない」としていることだ。学ぶべき活動家の手本を1970年代にまでさかのぼって求めているところに北朝鮮の幹部水準の低さと体制の苦しさが現れている。

1、北朝鮮は一貫して改革解放を否定してきた

 北朝鮮は過去から現在に至るまで、市場経済の利用による実利獲得を目指したことはあっても、市場経済の本格的導入による「改革開放」を目指したことは一度もない。
 金正恩体制になってもこの姿勢は変わっていない
 最近も、北朝鮮の祖国平和統一委員会スポークスマンは「最近、南朝鮮(韓国)の専門家が『政策の変化の兆し』『改革、開放』だのと騒いでいるが、それを期待するのは愚かな妄想にすぎない」と強調した。
 同スポークスマンは「金正恩第1書記に全世界の耳目が集中し、南朝鮮各界の敬慕の念が高まっていることを恐れて、誤った印象をつくろうとすることに醜悪な目標がある」と非難した(朝鮮中央通信7月29日)。
 このような見解は、今年に入っても機会あるごとに表明されている。
 それは「日朝友好京都ネット」の訪朝団(4月28日~5月3日)に対しても示された。この訪朝団に参加したあるメンバーは「向こうの学者たちの話から、北朝鮮が市場経済の導入を拒否し、計画経済の復活に強くこだわっているという、私にとって今回の訪朝での最重要の発見を得ることはできた」と語っている。
 また「朝鮮問題懇話会」訪朝団(9月8日~15日)メンバーが持ち帰った北朝鮮社会科学院経済研究所教授李基成氏の発言録でも同じ趣旨の主張がなされた。
 李基成氏は「6・28経済措置」などについての質問に対して次のように答えた。
 「外国の方は日付などの数字遊びが好きなようだ。われわれには、公式にそのような措置が出されたとの通達も来ていないし、個人的にも全く聞いていない。・・・
 社会主義の原則を守りながら最大の実利を得られるような管理方法を常に研究している。この場合の実利とは、改革・開放といったものではなく、国の発展、人民生活の向上に役立つものという意味だ」
(週刊東洋経済2012年10月6日号)
 この発言があったからといって、「6・28経済措置」などの動きが全くなかったとは言い切れない(伏せている場合もある)が、少なくともそうした動きが「改革開放」を目指したものでないことだけは確かなようだ。
 韓日の専門家やメディアは、北朝鮮の「改革解放」を望むあまり、ともすれば「願望的分析」に落ちいりやすいが、金正恩体制出帆後においても目先の「変化」に惑わされていることが多い。金正恩スタイルの「変化」をみて、あたかも北朝鮮が「集団指導体制」に移行し「改革開放に舵を切る」かのごとく早とちりし、期待している人たちもいる。
 しかし「集団指導体制」と「改革開放」は金正日の遺訓によって固く禁じられているだけでなく、金正恩自身もそれが金王朝体制の崩壊をもたらすということぐらいは知っている。いま目にしている北朝鮮の「変化」は、金正恩体制の未熟さを覆い隠し、人民の不満をそらすためのものであり、皮相的なものと見るのが妥当であろう。
 北朝鮮が必死に模索している経済再生策は、「改革解放」ではない。「首領独裁体制」を維持したまま、周囲を取り巻く「市場経済」環境に適応させることであり、それを活用していかにして実利を追求するかであって、市場経済そのものの導入ではない。むしろ力を蓄え計画経済に戻すことが目論まれている。しかし、こうした目論みは失敗を余儀なくされるに違いない。
 現存する「闇市」や「市場(チャンマダン)システム」は、北朝鮮側から見れば供給不足を補うための「必要悪」であり、路線としてその拡大を奨励するものではない。これまで、実施されてきた「7・1措置」や「デノミ」などは、すべて本質的には「改革開放」とは逆の「計画経済」に引き戻すための段階的措置であった。それが失敗したのはいうまでもなく、時代の流れと経済法則を無視したためである。

2、北朝鮮の市場経済利用策―「経済特区方式」

 北朝鮮の経済改革すなわち「市場経済利用策」は「経済特区政策」に集約される。限定された地域を北朝鮮住民から隔離し、当局の統制の下で「資本」の運営と管理を行い、利潤(外貨)を得ることが目的である。周辺諸国がすべて市場経済化され、経済のグローバル化が拡大する中で、「首領独裁社会―われわれ式社会主義」を維持しながら外貨を得る方法は、偽造紙幣などの不正な方法を除くと「経済特区方式」による外資導入と輸出以外にない。しかし輸出品は兵器輸出を除くと鉱物資源や労働力に限られている。継続的循環的に利潤を出し続けるには、隔離した地域で外国資本と自国の労働力及び土地を結び付ける「特区方式」しかないのである。
 この点について上述の李基成氏は次のように語っている。
 「自国内の経済特区には、それぞれの法律が制定され、適用される。これまでの“合営法”のようなやり方での運営を、これらの地区では求められていない。
 だからといって、市場経済の原理が全面的に適用されると思っては困る。市場経済的なやり方は導入されうるが、経済区内は北朝鮮の主権が行使される。企業などの資産や利潤は十分に保障されるが、体制に反動的な思想が入ってしまうような企業は受け入れられない」

 この特区方式のモデルは「開城工団」や「金剛山観光特区」方式である。そこでは北朝鮮の主権が行使され、反北朝鮮的な言動や行動は一切許されない。自分たちに不利益だと判断したときはいつでもその資産を接収し、投資した企業を追放する。
 またこの方式では、北朝鮮政府は、個人が工場と契約することを禁じている。北朝鮮の労働者が得た所得は全て国家に入れなければならず、国家が各個人に再配分する方式なのだ。これは社会主義計画経済に固執することを意味する。資本主義の価値観では「国家によるピンハネ」であるが、北朝鮮の価値観では「国家として当然の役割」ということになる。しかしこうした方式は、同族である韓国だから許された方式だ。諸外国に通用するものではない。
 8月の張成沢訪中時、中国側は北朝鮮側のこうした「経済特区方式」に難色を示し、改善を求めた。北朝鮮方式では民間投資が期待できないからだ。

3、中国首相が提示した対北朝鮮投資での5項目の要求

 中国の温家宝首相は8月17日、北朝鮮の張成沢国防委員会副委員長と北京で会談し、北朝鮮に対して中朝経済協力の活性化に向けた5項目の改善を求めた。それは「開城工団」など、韓国との経済特区方式のような恣意的な権力の介入を排除し、「法」と「市場原理」に基づく経済環境の整備を要求したものであった。温家宝首相が求めた5項目の改善策は次のようなものであったと言われている。

(1)法的環境の改善

 中国国営の新華社通信によると、温首相はまず、張成沢氏に法律面での改善を要求した。これは北朝鮮に投資した資金が回収できなくなるなど、さまざまな不利益を受ける中国企業が急増していることが背景にあるとみられる。中朝関係筋は「中国企業は北朝鮮との商業上の紛争が起きても、それを解決する法律が北朝鮮には無い点を指摘してきた。温首相による言及はこの点を意識したものだ」と述べた。
 こうした事例の一つとしては、中国500大企業に数えられる西洋集団が、2006年に北朝鮮の甕津鉱山に2億4000万元(現在のレートで約30億円)を投資したものの、一銭も資金を回収できないまま、現地から追放された事実がある。
 また最盛時200を数えた在日朝鮮人の合弁企業は、ことごとく失敗するか北朝鮮側に接収された。韓国も金剛山に投資した現代グループが資産を接収され1400億円に上る損害を受けている。

(2)地方政府との協力強化

 第2の要求事項は「関連地域間の連携と協力強化」だ。中朝関係筋は「関連地域」という表現を「北朝鮮と中国双方の地方政府」という意味だと指摘する。北朝鮮の地方政府の官僚から、手続きを急ぐためとの名目で賄賂を要求される中国企業が少なくないからだ。同筋は「ひそかに企業のカネを巻き上げることなく、地方政府間で当初合意した通りにやろう」という意図だと説明した。
 韓国統一部(省に相当)の関係者は「中国中央政府による『思い切った投資の確約』を求めてきた北朝鮮に対し、『中央政府は投資しない。地方政府同士でやれ』というメッセージにも聞こえる」と話した。

(3)土地・税金に市場システムの適用を

 温首相から張成沢氏への第3の要求は「市場システムを適用し、土地・税金分野で良好な条件を整えよ」という内容だった。これは不明朗な名目での税金、土地使用料に対する不満とみられる。北朝鮮は昨年9月、中国企業の「西洋集団」に突然、土地賃貸料、工場用水使用料、資源税の負担を要求し、同社が拒否すると一方的に投資契約を破棄した。
 開城工団でも最近の8月2日、北朝鮮は韓国企業の納税方法を定めた細則を事前協議なしに改定し、韓国側に伝えた。北朝鮮の税務当局が、韓国企業の「過少申告」を認定した場合、過少分の最高200倍の罰金を科し、8年前の操業開始時まで遡及(そきゅう)適用される。この規定を受け入れない場合は「製造品の団地外への搬出を禁止する」と主張しているという。

(4)企業の困難解決支援を

 温首相は第4の要求として「投資企業のために、実際の問題や悩みを解決すること」を挙げた。韓国政府の関係者は「温首相が先に言及した法律、地方政府、土地・税金問題のほか、中国企業が北朝鮮で直面し得るあらゆる商業上の紛争を当局レベルで解決する意思を示すよう北朝鮮に求めたものだ」と分析した。

(5)税関・品質管理の改善

 温首相は最後に税関、品質管理サービスについても改善を求めた。韓国統一部の当局者は「開城工業団地の操業当初から、韓国が北朝鮮に要求し続けたことだ」と述べた。北朝鮮は税関問題について、北朝鮮で生産された製品の全量検査にこだわっている。同当局者は「通関方式はサンプル調査が国際標準だ。全量検査を行う場合、通関が大変遅れ、全体の生産性が低下する」と指摘した。品質管理についても、同当局者は「社会主義に慣れた北朝鮮の労働者は、割当量を達成することだけを考え、品質は眼中にない。北朝鮮の労働者を雇用したことのある中国企業も同じ考えではないか」と推測した。

 韓国政府の関係者は「結局はこれら5項目が画期的に改善されない限り、本格的な対北朝鮮投資は困難だという意味だ。張成沢氏の訪中は、中国の北朝鮮に対する不信感を再確認するきっかけになったはずだ」と述べた。一方北朝鮮メディアは、温首相による5項目の要求については一切報じていない(朝鮮日報日本語版2012年 8月20日)。

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 北朝鮮と中国との「経済特区事業」はこれからだ。しかし以上の5項目を受け入れた場合、管理は北朝鮮の思い通りにできなくなる。「主権行使」が制限されることになるのだ。そうなれば「体制に反動的な思想が入ってしまうような企業」の排除が難しくなる。中国との経済協力なくして北朝鮮経済の再生が難しい中で、この問題を北朝鮮どう解いていくのか興味深い。
 また国内に目を転じれば、供給不足が続く限り「市場(チャンマダン)経済」は存在し続ける。この流れが「市場原理」的中国経済と結びつけば、北朝鮮の経済政策は、再び葛藤と混乱に向かわざるをえない。
 こうしてみると北朝鮮の改革開放は、外部からの市場経済原理及び住民の命綱である「市場(チャンマダン)経済」と北朝鮮権力との戦いの行方によって決まるといってもよいだろう。中国のような上からの政策的「改革開放路線」は望むべくもないということだ。「首領独裁」と先軍路線を維持したままの「経済再生」は「奇跡」を起こさないかぎり無理だといえよう。
 今回の「未踏の雪道突破精神」の呼びかけは、そのことをふまえた上での新たな引き締め策の始まりかも知れない。

以上

 
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