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北朝鮮のミサイル発射予告、その狙いと特徴

コリア国際研究所 朴斗鎮
2012.12.4

 北朝鮮の朝鮮宇宙空間技術委員会の報道官は12月1日、「地球観測衛星」(「光明星-3」号-2号機)を10日から22日の間に、平安北道鉄山郡東倉里の「西海衛星発射場」から打ち上げるとの談話を発表した。
 談話で北朝鮮は、「偉大な領導者金正日同志の遺訓を高く奉じて、我が国では自らの力と技術で製作した実用衛星を打ち上げる」としながら、「今回の衛星打ち上げは強盛国家建設に拍車をかけているわが人民を力強くするもので、わが共和国の平和的宇宙利用技術を新たな段階に引き上げる重要な契機になるだろう」と主張した。しかし、この人工衛星の打ち上げが、その内容において長距離ミサイル発射実験であることはいうまでもない。
 また談話では「今回も国際的な規定や慣例を円満に守る」と強調した。国際社会ではロケットなどを打ち上げる際、関連国に事前通告することが義務付けられているが、上空を通過するか、または影響を及ぼすと予想される日本やフィリピン、中国などの関連国に対してはすでに通告したことが2日明らかになった。韓国政府当局が2日に発表した情報によると発射される時間帯は午前7時から正午になる。ミサイルの1段目は韓国西側の黄海、2段目はフィリピン東部沖への落下が予想されるという。
 国際民間航空機関(ICAO)は3日、発射計画について、北朝鮮から1日付で事前通告があったことを明らかにした。国際海事機関(IMO)も3日、北朝鮮が通告してきた「衛星」ロケットの1段目と2段目、「衛星」保護カバー(フェアリング)の落下予定海域を明らかにした。
 1段目の落下が予想されるのは、韓国・全羅北道扶安郡から西に約140キロ離れた海域という。フェアリングは韓国・済州島の西約88キロ、2段目はフィリピンの東136キロの海域とされる。
 北朝鮮は、2009年4月のミサイル発射実験から、宇宙開発のための「地球観測衛星ロケット」の発射だとの論理で正当化をはかっている。宇宙条約が国連安保理決議には拘束されないという主張だ。しかし宇宙条約も「平和利用」が前提となっており、国連憲章に基づく条約だ。国連憲章に基づいて活動する国連安保理決議に違反してもよいとする解釈は成り立たない。
 だが北朝鮮は今回も前回同様この論理でごり押しするに違いない。「ロケットの発射は米国がモラトリアムを求める長距離弾道ミサイル発射ではないと言い張り、ミサイル発射を“国連安全保障理事会の決議違反”などとする国際社会の非難警告に対しては、「これは反朝鮮圧殺政策の典型的な発露で、われわれの平和的宇宙利用の権利を否定し、自主権を侵害しようとする卑劣な行為(朝鮮中央通信2012年3月18日論評)などと主張するだろう

1、打ち上げ予告の背景

 核兵器とともに先軍路線の核心であり、金正日総書記の遺訓でもある「長距離弾道ミサイル」の発射は、前回、内外に大宣伝したにもかかわらず「大失敗」に終わった。その結果2012年に「強盛大国の大門を開く」としていた金正恩体制に与えたダメージは計り知れない。政治思想・軍事強国は達成されたので、経済強国を達成すれば「強盛大国」が実現するとしていた北朝鮮は、軍事強国すら未完成であることをさらけ出してしまったからだ。
 「米本土に到達するミサイルさえ成功すれば、米国はすり寄ってくる」「2・29合意が破綻したとしても、もっと大きな獲物が手に入る」ともくろんでいた金正恩指導部に大きなショックをもたらしたことは言うまでもない。
 この失敗によって、金正恩の李英鎬元総参謀長に対する「疑心」が生まれ始めた。それでなくとも、「軍歴のない崔龍海を軍のトップに据えたことに不満を抱いている」との「情報」を得ていた金正恩は、ロケット発射の技術的原因と政治的原因を究明する中で、ミサイル開発に大きく関与し影響力を持っていた砲術のエキスパート李英鎬の「怠慢」を確信するようになった。
 あれだけの大きな失敗に対して、「ロケット発射は失敗することもある」として「責任追及」を見合わせる甘い北朝鮮ではない。必ず責任を取らせるのが北朝鮮の体制である。公式には発表されていないが、李英鎬の粛清はこの失敗と深く関係していたとの情報もある。全世界の前で赤恥をかかされたこの「不忠」ほど金正恩に対する「不忠」はないからだ。いま、伝えられている李英鎬に対する「不正、派閥の形成」などの罪名は表向きのものでありすべてではない。真の原因は「ミサイル発射の失敗」であったと考えられる。
 失敗の技術的究明と政治的背景を一段落させた金正恩は、国民の負担も考えずに、年二回の発射というこれまで例のない強行日程を組んだ。それは金正日の一周忌という政治イベントともに、①米でオバマ政権が再任②中国での習近平政権誕生③韓国での大統領選突入という政治的タイミングをはずしたくなかったためだと思われる。
 米国、中国、韓国の新政権との交渉、特には米国との交渉で主導権を取るには、なんとしてでも今年中に長距離ミサイルの発射を成功させておきたかったのだろう。

2、その狙い

1)なんとしてでも成し遂げたい米国に到達するミサイルの開発

 いま北朝鮮が金正恩体制安定のために中長期的最重要課題として注力しているのが米国との「平和協定」の締結である。平和協定締結を勝ち取るための必要条件は、韓国政権を「太陽政策政権」に変えることであり、十分条件は米国にその必要性を痛感させ応じさせることである。そのための道具が「米国に到達するミサイル(ICBM)」の開発と誇示なのだ。今回の韓国大統領選挙で文在寅候補が「朝鮮半島平和構想」を打ち出し、北朝鮮の「核放棄」を前提としない「平和協定の締結」を主張するのはこうした脈絡に呼応したものである。
 再選されたオバマ政権を揺さぶり「平和協定」さえ成就させれば北朝鮮に対する投資環境は整い、経済再生は実現できると読んでいる。そうなれば金正恩体制は安泰となる。
 平和協定締結の次の段階は、在韓米軍撤退→米韓軍事同盟破棄へと移り、「我が民族同士」をスローガンに北朝鮮主導の「連邦制統一」へと進むことである。それが実現できれば朝鮮半島を手中に収める事ができ金王朝は磐石となる。
 長距離ミサイル(ICBM)開発のための実験は、目先の一時的米朝関係改善や日朝関係改善とは取り替えることが出来ない北朝鮮の核心的利益なのである。

2)4月の失敗で失墜した威信の回復と求心力強化

 金正恩第1書記は、4月の党代表者会と最高人民会議で党と政府の最高位に就任し7月には共和国元帥となり、すべての権力を掌握したかに見えるが、その内実は厳しいものがある。金正恩体制にとっての当面の最重要課題は、金正恩の権威を高め、体制の安定を確固たるものにすることである。
 金正恩の権威が磐石でないのはこれといった業績がないことと関係している。
 権威は業績の裏打ちがあってこそ確固たるものとなる。この業績作りのため、金正恩はルンラ遊園地をはじめとするさまざまな娯楽施設や倉田(チャンジョン)通りのヘマジ(太陽迎え)食堂をはじめとしたサービス施設、それに倉田通りの40階建てアパートなど可視的展示物を完成させ、新しい文化の創造として「モランボン楽団」を登場させた。また先代(金正日)を金日成と肩を並ばせるために莫大な費用をかけて銅像作りにも励んだ。
 しかし、「モランボン楽団」と金正日の銅像以外の創造物は、そのほとんどが金正日時代に計画され着手されたものであり、金正恩の業績とは言いづらい。
 そして、母親の革命的血統を示せないでいることも権威確立を弱いものとしている。父方の革命血統は示せても母方高ヨンヒの血筋は伏せたままである。金正日の場合は後継者として決定した直後から母親金貞淑の偶像化を展開した。
 また、金正恩は、先代金正日が「金日成主義」を宣布し、形の上だけでも理論らしいものを誇示したのに対し、何ら理論的業績を示すことが出来ないでいる。
 そればかりか急ごしらえで「首領」となったために彼の認知度不足も権威作りの障害となっている。
 そのため金正恩はいま、認知度を上げることに血眼となっている。今年に党代表者会をはじめ少年団大会や青年軍人大会、母親大会など各階層の大会を平壌で開き認知度を上げようとしたのもそのためだ。もちろんそこには、リニュアールされた平壌を観覧させ「人民の指導者」像を作り出そうとする思惑も潜んでいる。
 しかし他方、体制を磐石にするための統制強化も強行している。最近、警察の「分駐所代表会議」と「司法検察職員大会」を開き「「騒動、動乱を起こすため悪辣に策動する不純な敵対分子、刀を隠し持ち時期を待ち構える者をことごとく捜し出し、容赦なく踏み潰さなければならない」との激を飛ばした。
 金正恩体制が磐石でないことは、金正恩体制出帆以後、北朝鮮軍部要人に対する解任・降格が頻繁に行なわれていることを見ても明らかである。金正日葬儀時に霊柩車を守っていた軍人4人はすべて粛清か更迭された。
 李英鎬解任以後、総参謀長に上がった玄ヨンチョルも先月、副元帥から大将に降格させられた。偵察総局長金ヨンチョルも大将から上将(または、中将)に降格させられ、作戦局長である崔プイルも大将から一階級降格させられた。

3)韓国大統領選への揺さぶり

 発射予告期間の19日に韓国では大統領選が行われる。韓国では対北朝鮮政策よりも国民経済が選挙の争点となっているが、金正恩体制にとっては誰が大統領になるかによってその命運が大きく左右される。何らかの影響を及ぼそうとするのは当然だ。
 韓国に影響を及ぼすにはいつものように「戦争か平和か」と迫るのが一番だが、それにはミサイル発射を成功させることが最も効果的だ。
 北朝鮮は4月11日の韓国総選挙前にもミサイル発射を予告し、4月13日に「光明星3号」を打ち上げた。しかし、この時はむしろ対北警戒心が高まり、保守陣営に有利に作用した。だが、2010年3月の哨戒艦撃沈事件を受けた6月の統一地方選では、戦争脅迫が効果を収め左派野党が大勝している。
 こうした北朝鮮の思惑は、長距離ロケット発射計画を発表した直後に、韓国与党セヌリ党の朴槿恵(パク・クネ)大統領候補に今後の南北関係政策に関する明確な立場を示すよう公開質問(12月1日)を行ったことに示された。
 北朝鮮の対韓国窓口機関、祖国平和統一委員会の書記局は公開質問状で、「セヌリ党候補の朴槿恵は対北朝鮮政策で矛盾する公約を掲げている。北朝鮮政策に関する基本立場や今後北南(南北)関係を実際にどのようにしていくのかを明確にすることを求める」とした。
 祖国平和統一委は七つの質問で、朴氏の「核廃棄先決」は李明博(イ・ミョンバク)政権の「非核・開放3000」政策と変わらず、その延長にすぎないと主張し、北朝鮮人権法推進を非難した。
 また、「南北関係の改善と対話、平和を望むなら、これからでも李政権と決別し、彼とは差別化された北朝鮮政策公約を表明する意志はないのか」と質問した。。
 北朝鮮はこれまでも、朴氏が当選すれば「(南北は)戦争状態に陥る」として、文氏の当選を願う姿勢を露骨に示してきたが、今回もミサイル発射とからめて脅しをかけている。

3、特徴

1)年間2回の長距離弾道ミサイル発射

 年間2回の長距離弾道ミサイル発射は過去に例がない。一回発射するのに数億ドルかかるとされるミサイルを年2回発射するのは、よほどの覚悟であると思われる。失敗すればそのダメージは倍返しとなるだろう。それを覚悟での強行なのだが、よほどの自信があるか、よほど切羽詰っているかのどちらかでる。

2)発射時期と長い予告期間

 発射時期を気候的に適しているとは思われない12月とし、予告期間も13日と前回よりも長く取っていることも特徴の一つだ。4月の予告期間は、4月12~16日の5日間だった。
 予告期間を長く取ったのは、前回失敗の教訓なのか、もしくは気象条件を考慮してのことなのかは分からない。多分その両方を考慮した結果と思われる。

3)対外宣伝―記者招待は発表されていない

 前回は3月17日に「朝鮮宇宙空間技術委員会は、他国の権威ある宇宙科学技術部門の専門家と記者を招請して西海衛星発射場と衛星管制総合指揮所などを参観させ、地球観測衛星「光明星3号」の打ち上げの実況を見せることになる」と大見得を切った(朝鮮中央通信)が、前回に懲りてか今回は今のところそういった報道はない。 今回は以前のように失敗しても「成功」と言えるような体制をとっているからかもしれない。

4)イランと連携?

 東京新聞は2日、両国関係に詳しい外交筋が明らかにしたとして、イランが国防軍需省の技術者らでつくる代表団を10月下旬から北朝鮮に常駐させ始めたと報道した。
 同筋によると、代表団は同省の技術者やコンピューター専門家、関連企業の関係者ら4人だとし、ミサイルや核開発分野での協力強化が目的だと指摘している(東京2012年12月2日 02時10分)。

4、各国の反応

米国政府

 1日の公式発表の前に発射の事前通告を受けていた米国は、1日、国務省のヌーランド報道官が声明を出し、北朝鮮のミサイル発射予告について「地域の平和と安全を脅かす極めて挑発的な行為だ」と述べ、撤回を要求した。
 声明は、核兵器と長距離弾道ミサイルの開発は「北朝鮮をより一層孤立させ、疲弊させるだけだ」と指摘。国連決議を順守するよう求めた。(時事2012/12/02-00:54)

韓国政府

 韓国政府は1日、「国際社会の警告にもかかわらず、北朝鮮が10~22日の間に再び実用衛星名目の長距離ミサイルの発射を敢行しようとすることに深刻な懸念を表明する」と北朝鮮に発射計画の撤回を求めた。
 韓国政府はこの日、外交通商部の趙泰永(チョ・テヨン)報道官名義の論評で、「これは国際社会の懸念と警告を無視した厳重な挑発であり、国際社会全体に対する挑発」と糾弾した。また、4月の長距離ミサイル発射で国連安全保障理事会が議長声明を通じ、「これ以上の挑発があってはならない」と警告したにもかかわらず、再び発射を計画していると非難。北朝鮮に安保理決議の順守を促した。
 一方、外交通商部は北朝鮮のミサイル発射計画発表を受け、24時間非常勤務体制を稼動している(聯合ニュース2012/12/01 22:44)。

日本政府

 4日公示の衆院選を前に野田首相は1日夜、北朝鮮のミサイル発射計画を受けて首相公邸で関係閣僚会議を開き、5、6両日に北京で予定していた北朝鮮との外務省局長級協議の延期を決めたと発表した。また森本敏防衛相は1日夜、ミサイル発射に備えて自衛隊に破壊措置準備命令を出した。
 野田首相は情報収集と分析に万全を期すよう関係省庁に指示した。そのうえで「米韓中ロなど関係諸国と連携し、北朝鮮が発射しないよう強く自制を求める」との方針を発表した。
 首相はミサイルの国内落下も念頭に「不測の事態に備えるなど国民の安心、安全の確保に万全を期す」ことも指示した(朝日2012・12・2)。

中国政府

 中国国営通信、新華社と国営中央テレビは1日、朝鮮中央通信の報道を引用する形で、北朝鮮が同日、人工衛星打ち上げを予告したことを速報した。
 中国政府は北朝鮮が長距離弾道ミサイルの発射計画を発表した翌日に当たる2日午後になってようやく「北朝鮮の衛星発射計画に懸念を表明する」との立場を示した。中国は北朝鮮に引き続き自制を求めるとともに、日本や米国、韓国にも冷静な対応を呼び掛けていくとみられる。
 北朝鮮のミサイル発射予告が、30日に中国共産党政治局員級として初めて訪朝した全国人民代表大会(全人代=国会)の李建国常務委員会副委員長が金正恩第1書記と会談した翌日だけに、中国としては“メンツ”を潰された格好となった。今後習政権がどのような判断を下すか注目される。

国連

 国連のネザーキー事務総長報道官は3日、北朝鮮が衛星と主張する長距離弾道ミサイル発射を予告したことに対し潘基文事務総長が自制を求めていることを明らかにした。
 潘氏は北朝鮮が4月にミサイルを発射した際の声明で「国際社会の一致した姿勢に反し遺憾だ。安全保障理事会決議に直接違反する」と指摘しており、ネザーキー氏はこれを引用して今回も同じ立場だと述べた。
 4月の声明で潘氏は北朝鮮に対し、近隣諸国の信頼を得るとともに国民生活の改善に努め、さらなる挑発行為はしないことも求めている。(共同)
 国連安全保障理事会は、発射予告の2日前(11月29日)、北朝鮮による長距離弾道ミサイル発射の兆候に対する強い懸念を示していた。安保理傘下の北朝鮮制裁委員会で議長を務めるポルトガルのカブラル国連大使は同日、記者団に対し「ミサイル発射の強行は決して適切ではないという点で全ての理事国が一致している」と述べた。
 カブラル大使は、ミサイル発射実験に関する具体的な情報の有無について「懸念があることだけは間違いない」と語った。

*          *          *

 権力掌握が完全でない金正恩にとって今回のミサイル発射は絶好の業績作りの場である。これを成功させれば、その業績は完全に金正恩の業績となる。失敗を成功に導いた先軍霊将として内外に誇示できる。そこに韓国大統領選挙での野党勝利が重なれば鬼に金棒だ。金正恩は体制安定のためにいっそう大きな「賭け」に出てきたようだ。

以上

 
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