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北朝鮮労働党の「唯一領導体系確立の10大原則」について

コリア国際研究所 朴斗鎮
2013.9.17

 北朝鮮は最近、党規約や憲法の上に君臨する金日成絶対化の「戒律」であった「党の唯一思想体系確立の10大原則」(1974年2月)を金正恩時代に合わせて改訂し、「党の唯一領導体系確立の10大原則」として内部発表した。
 北朝鮮全国民はいま、この「党の唯一領導体系確立の10大原則」を一字一句間違えずに暗記するために苦闘している。
 今回の改定では、用語だけでなくその内容においても注目すべき変化が目に付く。
 以下ではその主要項目を紹介し、用語と内容におけるいくつかの特徴を見てみる。

1、新たな「10大原則」で変化した主な用語(太字部分が変化した部分)

1)表題と序文での変化

 表題が(旧)「党の唯一思想体系確立の十大原則」から(新)「党の唯一領導体系確立の十大原則」に変わった。
 序文では、金日成の抗日武装闘争の記述が省かれ、すべての業績が金日成と金正日によるものと書き換えられた。そして、金日成と金正日の領導のもとに北朝鮮が一心団結し、「核武力を中枢とする無敵の軍事力としっかりとした自立的経済をもつ社会主義強国として威力をとどろかせた」と核武力を明記したのが特徴的だ。

2)10大原則表現の変化

第1条
(旧)
 偉大な首領金日成同志の革命思想によって全社会を一色化するために身を捧げて闘わなければならない。

(新)
 全社会を金日成-金正日主義化するために身を捧げて闘わなければならない。

第2条
(旧)
 偉大な首領金日成同志を忠誠をもって仰ぎ奉じなければならない。

(新)
 偉大な金日成同志と金正日同志をわが党と人民の永遠の首領として、チュチェ(主体)の太陽として高く奉じなければならない。

第3条
(旧)
 偉大な首領金日成同志の権威を絶対化しなければならない。

(新)
 偉大な金日成同志と金正日同志の権威、党の権威を絶対化し決死擁護しなければならない。

第4条
(旧)
 偉大な首領金日成同志の革命思想を信念とし、首領の教示を信条化しなければならない。

(新)
 偉大な金日成同志と金正日同志の革命思想とその具現である党の路線と政策で徹底的に武装しなければならない。

第5条
(旧)
 偉大な首領金日成同志の教示を執行するにおいて、無条件性の原則を徹底して守らなければならない。

(新)
 偉大な金日成同志と金正日同志の遺訓、党の路線と方針貫徹で無条件性の原則を徹底して守らなければならない。

第6条
(旧)
 偉大な首領金日成同志を中心とする全党の思想意思的統一と革命的団結を強化しなければならない。

(新)
領導者(筆者注:金正恩のこと)を中心とする全党の思想意思統一と革命的団結をあらゆる面で強化しなければならない。

第7条
(旧)
 偉大な首領金日成同志に学び、共産主義風貌と革命的活動方法、人民的活動作風をもたなければならない。

(新)
 偉大な金日成同志と金正日同志に学び、高尚な精神道徳的風貌と革命的活動方法、人民的活動作風をもたなければならない。

第8条
(旧)
 偉大な首領金日成同志から授かった政治的生命を大切に守り、首領の大きな政治的信任と配慮に対して高い政治的自覚と技術による忠誠をもって報いなければならない。

(新)
 党と首領が下さった政治的生命を大切に守り、党の信任と配慮に対して高い政治的自覚と活動実績で報いなければならない。

第9条
(旧)
 偉大な首領金日成同志の唯一的領導のもとに、全党、全国家、全軍が一つとなって動く、強い組織規律を打ち立てなければならない。

(新)
 党の唯一領導のもとに全党、全国家、全人民が一つとなって動く、強い組織規律を打ち立てなければならない。

第10条
(旧)
 偉大な首領金日成同志が開拓された革命偉業を、代を継いで最後まで継承し完成しなければならない。

(新)
 偉大な首領・金日成同志が開拓され、金日成同志と金正日同志がおし進めてきたチュチェ(主体)革命偉業、先軍革命偉業を代を継いで最後まで継承完成しなければならない。

2、「党の唯一領導体系確立の10大原則」でのいくつかの特徴

1)まず目に付くのが「党の唯一思想体系確立」を「党の唯一領導体系確立」と改めていることである。

 北朝鮮で使われてきた旧「10大原則」での「党の唯一思想体系」という用語の意味は、金日成の思想を絶対化し、その思想をすべての国民の行動規範とすることで金日成絶対化をはかったものであった。もちろんそこには金日成を唯一中心として団結行動することも含まれていたが、表題では思想の側面が強調された。この段階では「3代世襲」は考慮されていない。
 だが、金正恩時代になって金王朝は、金正恩を含めた3代世襲絶対化の「戒律」を明記する必要にに迫られた。しかし、金日成と金正日を同格にするだけでも大きな負担があるのに、ましてや、これといった業績もなく「独自の思想」も提起していない金正恩第1書記まで同格に並べて固有名詞で絶対化するには無理があった。そこで唯一思想を「金日成・金正日主義」として両者を同格で「神格化」し、金正恩第1書記の絶対化は、「党」「領導者」という表現形式を取って領導の唯一中心に位置付けることで絶対化したと思われる。それは、金正日総書記が後継者となった直後に彼を「党中央」と表現したことに似ている。
 こうして「領導体系」という用語の中に「思想体系」をも含める形で「10大原則」に改訂することで3代世襲を絶対化したのであろう。
 最近の中心スローガン「偉大な金正恩同志を領導の中心、団結の中心として高く奉じよう」は、この新たな10大原則に基づくものである。

2)次に目に付くのが「金日成・金正日主義」という用語である。

 この用語はすでに改訂された党規約や憲法の中では使われている。しかし、党規約と憲法の上に君臨する「絶対戒律」には反映されていなかった。今回改定することで「10大原則」「党規約」「憲法」の中に明記され一体化が確立した。これによって金正日は金日成と同格の「神」となったのである。そこには金正恩の父への思いが祖父への思いより勝っているという「情緒」が示されている。ある意味で金日成は「神」ではあるものの「象徴的神」として祭り上げられ、実質的神は「先軍思想」を打ち出し北朝鮮の基本政治形態を「先軍政治」とした金正日総書記としたということだ。序文で抗日武装闘争の業績が省略されたのもそうした事と関係しているかも知れない。

3)3番目に目を引くのが、「絶対戒律」の中に、金日成・金正日の権威や遺訓と党の権威や政策が結びつけられていることである。

 「金日成同志の唯一的領導のもとに」を「党の唯一領導のもとに」と改め(第9条)、実践で最も重要な「無条件性の原則」(第5条)でも「偉大な金日成同志と金正日同志の遺訓、党の路線と方針貫徹で無条件性の原則を徹底して守らなければならない」としている。
 党への言及はそれだけでなく、金日成・金正日の権威(錦壽山太陽宮殿を含む)決死擁護と共に党の権威決死擁護(第3条)を謳うなどいたるところで金日成・金正日と結び付け強調されている。これは、1)で指摘したように「党」という表現で金第一書記を絶対化しているからだと思われるが、金正恩氏の固有名詞が使われていないことから、厳密に解釈すると、金日成・金正日を絶対化する指導者であれば金第1書記以外の指導者でも適用できる内容となっている。この点は気になるところだ。この面については今後一層の分析が必要であろう。
 「党」の強調では、金第一書記絶対化のほか、「党」の復活、特には「党主導の先軍政治」推進との意味も読み取れる。

4)最後に注目されるのが「共産主義」との用語がなくなった(第7条)ことである。

 これは従来から叫ばれてきた「ウリ式社会主義」の実現、すなわち「全社会の金日成-金正日主義化」(第1条)が「共産主義」に代わって朝鮮労働党の最高綱領となったことを意味する。7条だけでなく序文をはじめ他の項目の細目説明でも、金日成思想と結び付けていた共産主義という概念は完全に消し去られている。これで北朝鮮は無階級社会をめざす古典的社会主義・共産主義から名実共に決別したことになる。

以上

 
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