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「朝鮮半島の非核化」をやっと理解したトランプ

コリア国際研究所 朴斗鎮
2019.3.29

目次
1、アンドリュー金が明かした「朝鮮半島非核化」概念での米朝対立
2、「朝鮮半島非核化」概念を「核軍縮」に変えていた北朝鮮
3、「朝鮮半島の非核化」に欺瞞された「6・12米朝共同声明」
4、ハノイ会談での「朝鮮半島の非核化」トリックの破たん
5、ポンペオ氏、金正恩と文在寅政権の詐欺行為に怒り

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 筆者は、米朝首脳会談や南北首脳会談で北朝鮮が使っている「朝鮮(韓)半島の非核化」の用語が、「北朝鮮の非核化」ではなく、実質的には「米朝核軍縮要求」であるとたびたび断言し、次のように指摘した。
 「シンガポール米朝共同声明で“北朝鮮の非核化”ではなく“朝鮮半島の非核化”と記されたが、トランプ大統領はその区別もせずに用語を使っているようだ。北朝鮮問題に経験がないので用語を厳密に吟味して使っていないかもしれないが、今後この用語の解釈問題が浮上することは間違いない」(日本戦略研究フォーラム季報VOL.77、2,018年7月)
 最近「ハノイ米朝首脳会談」決裂のいきさつを語ったアンドリュー金・前米国中央情報局(CIA)コリアミッションセンター長の講演の中で、それが明確となった。

1、アンドリュー金が明かした「朝鮮半島非核化」概念での米朝対立

 アンドリュー金・前米国中央情報局(CIA)コリアミッションセンター長は、3月20日、ソウルで開かれたスタンフォード大学同門招待非公開講演で、「北朝鮮が主張する“朝鮮半島の非核化”と米国の非核化の概念が大きく異なっていた。特に、北朝鮮はグアム、ハワイなど米国内の戦略資産をなくさねばならないと主張した」と明らかし、「北朝鮮は明確な非核化の定義は拒否し、事実上米国の韓国に対する核の傘除去とインド太平洋司令部の無力化を要求した」と述べたという
 金前センター長は、「北朝鮮側は、B-2爆撃機をはじめ、戦力の不均衡を作り出す戦略資産の朝鮮(韓)半島への展開だけでなく、米国内にある(朝鮮半島展開が可能な)武器も取り除かなければならないと、シンガポール会談の時から主張してきた」と語り、特に重要な問題である非核化については、ハノイ首脳会談の直前まで具体的な話をしなかったと打ち明けた。
 そして「米国側が非核化を言及するたび金赫哲(ギム・ヒョクチョル)対米特別代表をはじめとする北朝鮮実務交渉団は、“国務委員長同志(金正恩)が来るまで待ってくれ”と先送りし、“非核化”という言葉自体を使用することができなかっただけでなく、金赫哲が“寧辺以外の核施設についても初めて聞く話”と話した」と明らかにした(東亜日報韓国語版2019-03-22参照)。
 金前センター長は昨年末に辞任したが、シンガポールでの第1回米朝首脳会談実現のために動いた人物で、今でもマイクポンペイオ国務長官の非公式諮問機関で活動しながら、スティーブンビー・ガン対北朝鮮政策特別代表に頻繁に助言している。

2、「朝鮮半島非核化」概念を「核軍縮」に変えていた北朝鮮

 「朝鮮半島の非核化」という用語が登場したのは、韓国の鄭元植国務総理と北朝鮮の延亨黙 政務院総理の間で1992年1月20日に締結され2月19日に発効した「朝鮮半島の非核化に関する南北共同宣言」であった。
 この宣言は「南と北は、韓(朝鮮)半島を非核化することによって核戦争の危険を除去し、わが国の平和と平和統一に有利な条件と環境を醸成し、アジアと世界の平和と安全に貢献するために、次のように宣言する」として次のように取り決めた。
 1.南と北は、核兵器の実験、製造、生産、搬入、保有、貯蔵、配備、使用をしない。
 2.南と北は、核エネルギーを平和的目的にだけ利用する。
 3.南と北は、核再処理施設とウラン濃縮施設を保有しない。
 4.南と北は、韓半島の非核化を検証するために、相手側が選定して双方が合意する対象に対して、南北核統制共同委員会が規定する手続きと方法で査察を実施する。
 5.南と北は、この共同宣言の履行のために、共同宣言発効後1カ月以内に、南北核統制共同委員会を構成・運営する。
 6.この共同宣言は、南と北がそれぞれ発効に必要な手続きを経て、その文書を交換した日から効力を発生する。
 *その後北朝鮮の核開発によってこの宣言は有名無実化された。しかし韓国政府は今もって破棄していない。
 この時点では、韓国にも米国の戦術核が配備されていたために、「朝鮮半島の非核化」を南北の非核化としてとらえることに矛盾はなかった。
 しかしこの宣言後、韓国に配備されていた米軍の戦術核はすべて撤収されたために「朝鮮半島の非核化」は北朝鮮の非核化を残すのみとなった。それゆえ「朝鮮半島の非核化」は「北朝鮮の非核化」を意味する用語として使われたのである。
 その後の2003年からの六カ国協議(2008年12月の首席代表会合を最後に中断)でも使われたが、「朝鮮半島の非核化」は「北朝鮮の非核化」を意味するものとして理解された。北朝鮮もそれに異議を唱えなかった。それは協議の合意文書を読めば一目瞭然だ。だからこそ「北朝鮮非核化」の対価としては、対北朝鮮経済支援や対北朝鮮不可侵及び米朝国交正常化などが協議され、米国の核や核の傘問題は一切言及されなかったのである。
 ところが北朝鮮は2016年の朝鮮労働党7回大会直後になって、この「朝鮮半島非核化」の意味を根本的に変更した。そこには弾道ミサイル(ICBMを除く)と核の小型化をほぼ手中に収めた北朝鮮が、核保有国として米国に対峙しようとする魂胆があった。
 「朝鮮労働党第7回大会決定書」は「核兵器の小型化、多種化を高い水準で実現し、核戦力を質・量的に強化して『東方の核大国』に輝かせていく」と記した。そして2016年7月6日に北朝鮮政府は声明を出し「朝鮮半島の非核化」を次のように規定した。
 (1)韓国にあるアメリカの核兵器をすべて公開し(2)韓国からすべての核兵器とその基地を撤廃して検証し(3)朝鮮半島とその周辺に核兵器をふたたび展開せず(4)北朝鮮に核の脅威を与えたり使用したりしないことを確約し(5)在韓米軍の撤退を宣言すれば、北朝鮮もそれに見合った行動を取る。

 こうして北朝鮮は、六カ国協議まで使われていた「朝鮮半島の非核化=北朝鮮の非核化」という既定の概念とは根本的に異なる「朝鮮半島の非核化=米国との核軍縮」との意味に変えた。
 しかし、トランプ政権はこの「変化」を知らなかったのか、文在寅大統領の「金正恩は北朝鮮の非核化を決意した」との嘘言に騙されたのかは分からないが、「朝鮮半島非核化」の内容を吟味もせずシンガポール首脳会談に臨んだ。

3、「朝鮮半島の非核化」に欺瞞された「6・12米朝共同声明」

 2018年6月のシンガポール米朝首脳会談当時トランプ大統領は、「朝鮮半島非核化」を「北朝鮮の非核化」と思い込み首脳会談に臨んだようだ。それはハノイ会談時のような「非核化定義」の論争をしていなかったことからも伺えるが、発表された「共同声明」を見ても明らかである。
 シンガポール「6・12米朝共同声明」の記述構成は、1)新たな米朝関係の構築、すなわち米国がいわゆる「対北朝鮮敵視政策」を撤回(米韓合同軍事訓練の中断、対北戦略資産展開禁止、核の傘提供の禁止等)して、2)朝鮮半島での恒久的で安定的な平和体制の構築(終戦宣言、平和協定の締結)するようになれば、3)「朝鮮半島の完全な非核化に向け取り組む」となっている。これは会談の前日に北朝鮮の労働新聞が報道した「先体制保障後非核化」の論理構成そのままだ。
 その内容では、声明で最重要事項とならなければならない北朝鮮のCVID(完全かつ検証可能で不可逆的な核廃棄: Complete Verifiable and Irreversible Dismantlement))が、「朝鮮半島の完全な非核化」との用語に置きかえられた。ポンペオ米国務長官がこの会談前日(11日)夕の記者会見で、「CVID」が米国にとって「受け入れ可能な唯一の結果だ」と述べていたことを考えると、完全に骨抜きされた声明だった。この声明は、米国に核保有を認めさせたまま、制裁を解除させ不可侵保障と関係の正常化を取り付けようとする金正恩の思惑通りの声明となったといっても過言ではない。
 合意を焦ったのか、準備が粗雑だったか、文在寅に騙されたのかは分からないが、トランプ大統領が手にしたものは、その非核化の内容も、具体的な範囲も、工程も、時期も明記されない「朝鮮半島の完全な非核化に向け取り組む」との欺瞞的「南北板門店宣言」(2,018年4月27日)の焼き直しに過ぎなかった。
 トランプ大統領は、たびたび過去の政権の対北朝鮮非核化政策を批判し、25年間北朝鮮に騙され続けたと主張してきたが、シンガポール共同声明の内容は、ブッシュ政権時代に取り交わされた2005年9月の「六カ国協議での合意」よりも後退しており、1992年2月19日発効の「南北間の和解と不可侵および交流協力に関する合意書」よりも遥かに具体性に欠けていた。
 トランプ大統領が、「すべてのオプションがテーブルの上にある」との対北朝鮮圧迫政策で追い詰めていたために、厳しい交渉を行うものと期待を寄せていたが、蓋をあけてみると単なるショー、それも自身のための政治ショーで終わっていた。ショックを受けたのは筆者だけではあるまい。
 トランプに一杯食わした金正恩と文在寅は、この共同声明を利用して、一気に南北連邦制へとコマを進めた。2018年9月には平壌で「9・19南北平壌宣言」と「板門店宣言履行のための軍事分野合意書」を採択し「事実上の終戦宣言」などと言っては米国を怒らせ韓米同盟を揺さぶり続けた。

4、ハノイでの「朝鮮半島の非核化」トリックの破たん

 その後、シンガポール米朝会談に対しての専門家や米国の議会からの危惧や批判もあり、トランプ政権は一定の慎重さを取り戻した。ポンペオ国務長官、ボルトン安保担当大統領補佐官、ビーガン北朝鮮担当特別代表などの政府当局者たちは、金正恩の「非核化意思」に疑念を持ち「朝鮮半島の非核化」の中身が何であるかを追求した。
 米国側の慎重姿勢に対して北朝鮮側も警戒を高めた。昨年11月5日の「ポンペオー金英哲会談延期」申し入れ後、米国側が示した強硬姿勢への転換姿勢を見た北朝鮮は、シンガポール会談後取っていた「じらし戦術」をやめ、トランプ大統領の独断に期待をかけ、「米朝首脳会談」に応じる姿勢を示した。
 そうした中で昨年の12月1日、トランプ米大統領は、今年の1月か2月に金正恩国務委員長との2回目首脳会談を行うとの見通しを明かした。しかしその一方で12月10日には朝鮮労働党の崔竜海副委員長、朴光浩副委員長、チョン・ギョンテク国家保衛相の3人を人権侵害や検閲に関与したとして制裁対象に指定し、制裁圧力も強めた。
 一方北朝鮮側はこれを受け12月20日、朝鮮中央通信の論評を通じて「朝鮮半島の非核化」定義を再び行い、非核化は「米国の核兵器を含めた侵攻軍が配備されている韓国と北朝鮮の双方が含まれる」とし、「したがって、朝鮮半島の非核化とは、南北朝鮮の両地域と、朝鮮半島を標的にできる周辺地域から、核の脅威をすべて取り除くことを意味する」と主張して「朝鮮半島の非核化」は「北朝鮮の非核化」ではないとの本音を公然化させた。第2回米朝会談で本格的な「米朝核軍縮」を同時並行的段階的に進めようとしたのである。
 しかし、この目論見は、米国の閣僚陣に見破られ、「非核化」の定義だけでなく予想もしなかった秘密核施設の証拠まで突きつけられて破綻した。

5、ポンペオ氏、金正恩と文在寅政権の詐欺行為に怒り

 ポンペオ国務長官は昨年12月、ブッシュ元大統領の葬儀に参列した政府関係者と会った席で、「非核化問題で金正恩氏は『嘘つき』だ。信じられない人物」と話したと東亜日報が複数の外交筋を引用し報道した。
 ポンペオ氏は、「我々が『ボトムアップ』(実務ラインで合意してトップで決定)しようとしても、金正恩氏は首脳間のトップダウン方式で会ってショーだけをしようとする。それが非核化協議を台無しにした」という趣旨の話をしたという。
 またポンペオ氏はその後、韓国政府関係者と電話で韓国国家安全保障室長の鄭義溶(チョン・イヨン)についても言及し、やはり「嘘つき」と表現したという。鄭氏が昨年訪朝し、金正恩氏が非核化の意思があるとホワイトハウスに伝えたが、北朝鮮側は非核化措置を履行せず、時間を引っ張ったため、「鄭氏のメッセージが嘘ではないか」と不満を吐露したとみられる(東亜日報日本語版2019・3・26)。
 その間、文在寅政権は、一貫して「朝鮮半島の完全な非核化」と「北朝鮮核のCVID((完全かつ検証可能で不可逆的な核廃棄))は同じ意味などと主張し米国と国際社会を欺瞞してきたが、ハノイ会談でその「嘘」が完全に暴露された

以上

 
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