目次
1、韓国の現状を認識していない独善演説
2、平和が定着したとのウソ演説
3、「平和経済」という詭弁演説
4、「北朝鮮よりも強力な防衛力がある」という誤認演説
5、南北の統一した経済こそ日本を追い越すとの「幻想」演説
------
韓国は8月15日、日本植民地からの解放74周年を迎えた。ソウル都心で保守-と左派従北団体がおのおの「光復節集会」を開いた。保守団体は3ヶ所で「太極旗連合集会」を開き「文在寅打倒」のスローガンを叫んだ(主催者側発表20万人)。夜になって開かれた左派従北集会(主催者側発表10万人)では「自由韓国党解体」「南北共同宣言の履行」「NO安倍」などのスローガンが掲げられた。
「光復」という言葉は、植民地からの解放を意味するだけではない。主権の回復をも含むものだ。韓国の主権と領土が回復されたのは、米占領軍の軍政後、国連監視下での国会議員選挙(1948年5月10日)を経て1948年8月15日に「大韓民国」が建国されてからだ。したがって「光復節」はこれまで1945年の解放と1948年の建国両方の8月15日を記念する日として祝ってきたのである。
ところが、記念式典(天安=チョンアン独立記念館)での文在寅大統領演説では、日本の敗戦で得た「解放」には言及したが、「大韓民国建国」については一言も触れなかった。文大統領はこの建国を「親日派集団」による建国であると見ているために意図的に言及しなかったと見られる。この歴史観こそが文大統領を「金正恩第一主義」に走らせ、反日に向かわせる根となっている。したがって文政権下の「反日」を保守政権下の「反日」と同じ次元で捉え対処すれば大きな間違いを犯すことになる。
1、韓国の現状を認識していない独善演説
文大統領はこの歴史観で「北朝鮮第一主義」理念に凝り固まり金正恩の代弁人と言われながら、米国や日本だけでなく世界の民主主義国家から孤立し、韓国経済を窮地に落としめている。彼が言う『誰も揺るがすことができない国』ではなく、『誰もが揺るがすことができる国』にしてしまった。それにも関わらずそれを批判する人たちに対して「理念にとらわれて自ら孤立しないでいただきたい」と演説した。
自分が孤立しているのを棚に上げて相手に大口を叩く、これこそが「賊反荷杖」(チョッパンハジャン=開き直って大口をたたく)そのものである。これまでも文大統領は、「賊反荷杖」の詭弁とポプュリズムで国民を欺瞞してきたが、今回の演説内容はその典型であったと言える。
意外なことに「文在寅8・15演説」に対して北朝鮮が即刻痛烈に批判した。祖国平和統一委員会は16日、「泰山鳴動して鼠(ねずみ)一匹という言葉がある。まさに南朝鮮当局者の“光復節慶祝の辞”というものを指してそうだと言える」とした上で、「島国一族(日本)から受けるさげすみをすすぐためのはっきりした対策や、つぶれていく経済状況を打開するこれといった方案もなしに弁舌を振るったのだから、“むなしい慶祝の辞”“精神スローガンの羅列”という評価を受けて当然である」と批判し「部下らが書いてくれたものをそのまま読み下す南朝鮮当局者がとても笑わせる人であることだけは間違いない」と文大統領をこき下ろした。
2、平和が定着したとのウソ演説
文大統領は演説で「誰も揺るがすことのできない国」を造るため「新しい韓半島」を目指すとして、第一に、責任ある経済大国として自由貿易の秩序を守り、東アジアの平等な協力を引き出す。第二に、大陸と海洋を問わず平和と繁栄を先導する橋梁国家になる。第三に、平和により繁栄を実現する平和経済を構築し、統一によって独立を完成していく、と3つの目標を提案した。
この提案のすべてが具体的裏付けのないものであるが、特に三つ目の提案内容は荒唐無稽な主張であった
文大統領は三つ目の提案の冒頭で「南北と米国は、この1年8ヶ月間、対話の局面を続けました。最近北韓による数回の懸念すべき行動にもかかわらず対話ムードが揺らいでいないことこそ、政府が進めてきた韓半島平和プロセスの大きな成果であります。一度の北韓の挑発により韓半島が揺さぶられたこれまでの状況とは大きく様変わりしています。 依然として対立を煽る勢力が国内外に少なからず存在しますが、わが国民の平和への切実な願望に支えられ、ここまで辿り着くことができました」と、手前勝手な解釈で成果を作り上げた。
この演説に対しても北朝鮮は噛み付いた。
「南朝鮮当局者は、北朝鮮の数回にわたる“懸念すべき行動”にもかかわらず対話の雰囲気が揺れなかっただの、北朝鮮の“挑発”一回で朝鮮半島が揺れ動いていた以前の状況とは変わっただのなどと言って“光復節”とは縁のない妄言を並べ立てた。南朝鮮当局者の言葉通りなら、彼らが対話の雰囲気を維持して北南協力を通じた平和経済を建設し、朝鮮半島の平和体制を構築するために努力しているということだが、ゆでた牛の頭も仰天大笑いする話だ」と痛烈に批判した。
そして「南朝鮮当局が今回の合同軍事演習が終わった後、何の計算もなしに季節が変わるように自然と対話の局面が訪れると妄想しながら今後の朝米対話から漁夫の利を得ようと首を長くしてのぞいているが、そのような不実な未練はあらかじめ諦める方がよかろう。今後分かるだろうが、われわれは南朝鮮当局者らとこれ以上言うこともなく、再び対座する考えもない」と文大統領を切り捨てた。
第3者が取り上げて内容を批判するまでもない。対話相手の北朝鮮が文大統領の自慢した「成果」を真っ向から「ウソ」と否定したのである。
3、「平和経済」という詭弁演説
文大統領は「この危機を乗り越えれば韓半島の非核化がより一層近付き、南北関係も大きく前進するはずです。経済協力が加速し、平和経済が始まれば、いずれ自ずと統一は目の前の現実になると思います」と演説した。
しかし平和経済の中身が、北朝鮮の首領独裁式経済との折衷なのか、中国式社会主義市場経済なのか、自由主義市場経済なのか、明確に示さなかった。ただ「平和」という耳障りの良い言葉で国民を「妄想」の世界に引き込もうとする「呪術」のような演説だった。
平和経済のプロセスについては、「韓半島の完全なる非核化を土台に、北韓が核ではなく経済と繁栄を選ぶよう対話と協力を続けていくことから始まる」と主張したが、ここでも相変わらず「北朝鮮の完全な非核化」ではなく、北朝鮮が主張する「韓(朝鮮)半島の完全なる非核化」との用語を使った。また圧力と対話から「圧力」を除き、圧力抜きの「対話」を続けることが「平和経済構築」の始まりだとした。これは北朝鮮が「非核化対話」に応じてさえいれば経済支援を行うということである。
文大統領はまた、「民族経済の均衡発展による共同発展」で平和経済を作り上げていく」としたが、これは「北朝鮮の連邦制統一案」の中に出てくる文言と同じだ。ここでも「民族経済」がいかなる内容の経済なのかを説明していない。ただ北朝鮮と経済協力することを「民族経済」としているのであれば、それは北朝鮮の「民族どうし戦略」に協力することになるだけだ。もしも「民族経済」が北朝鮮の首領経済と韓国の自由主義市場経済を一つにするという意味であれば、それは水と油を結びつけようとするとんでもない妄想だ。こうした言い回しを詭弁という。
文大統領は北朝鮮の現状を「北韓(北朝鮮も経済建設総路線へと国家政策を切り替え、市場経済の導入が行われている」との演説も行った。しかし北朝鮮には市場経済を導入する政策自体がない。
北朝鮮が今行っている経済政策は、社会主義的経済崩壊による絶対的供給不足の中で、若干の統制緩和を行って住民に自助努力で生きるように仕向け、そこからの利益で金正恩の統治資金を捻出しようとする新たな収奪政策だ。資金のあるトンジュ(金主)に経営参加させてそこから得た利益と市場(チャンマダン)から徴収する利用税、そして仮想通貨強奪など様々な不正収益で生き延びようとしている。決して市場経済を導入しているのではないのだ。
また北朝鮮は、文大統領が指摘するように経済建設総路線へと国家政策を切り替えてもいない。それは、米朝非核化協議が続く中でも引き続き核弾道を増やし、5月以降には新型短距離ミサイルとロケット砲の発射を続けていることからも明らかだ。北朝鮮は16日早朝にもミサイル2発を発射して文在寅の演説をあざ笑った。
4、「北朝鮮よりも強力な防衛力がある」という誤認演説
文在寅は「北韓はミサイルを打ち上げるのに平和経済を語るのか、と反論する人たちがいます。しかし、われわれはあちらより強力な防衛力を保有しています」と演説したがこれも根拠のない話だ。
北朝鮮は、5月4日と9日、7月25日と31日、8月2日と6日、10日には場所を変えながら短距離弾道ミサイルを発射した。そして16日の早朝にもミサイルを発射した。韓国軍の発表では高度30キロ・飛距離230キロ、速度マッハ6.1だったという。江原道・通川の北方から日本海上に向けて発射したと見られる。5月以降これまで発射されたものは、いずれ固体燃料で奇襲的発射可能な新型ミサイルだ。
北朝鮮はすでに新型偏心弾道短距離ミサイル(イスカンダル型)KN―23(長さ7.3m、射程690余km、高度50―60km)、新型大口径誘導ロケット(放射砲:口径400mm、射程距離250余km、高度30km)、新型戦術地対地ミサイル(射程距離400km、高度48km、速度マッハ6.1以上、落下する際数百個の子弾放出)などを完成させたようだ。そして今SLBM3発搭載可能で排水量2000t以上の潜水艦(直径7m、長さ70―80m)を完成させようとしている。
これで、スカッドミサイルに長距離砲と240mmロケット砲を組み合わせた従来の通常兵器による北韓国攻撃の体制は、完全に新しい攻撃態勢に移行する。したがって北朝鮮の旧兵器に対応して構築された韓国防衛「3軸体制」の要である「キルチェーン」(相手が攻撃態勢に入った瞬間壊滅する体制)は無力化されたと言っても過言ではない。そこに核兵器がにらみを利かしている。それなのに文大統領は「われわれはあちらより強力な防衛力を保有しています」と呑気なことを言って国民を騙している。
この北朝鮮の新たな攻撃武器に対しては、駐韓米軍すらも対応が十分でないとして、米国陸軍はイスラエルの「アイアンドーム」購入に踏み切ったと言われている。
5、南北の統一した経済こそ日本を追い越すとの「幻想」演説
文大統領は、「われわれの力で分断を乗り越え、平和と統一へ進む道こそ、責任ある経済大国への近道となります。われわれが日本を追い越す道であり、日本を東アジア協力の秩序へと導く道です」との幻想を国民にふりまいた。
そして「南北の能力を合わせれば、それぞれの体制を維持しながらも8千万人規模の単一市場を生み出すことができます。韓半島が統一を果たすことになれば、世界第6位圏の経済大国になるとの見通しを示しています。2050年頃には国民所得7万~8万ドル時代を達成できるという国内外の研究結果も出ています」と大ぼらも吹いた。
これは荒唐無稽な幻想である。人口が増えれば市場が拡大し生産も増大すると単純計算している。生産は市場が拡大してこそ増大するが、拡大する市場規模は人口だけで決まるものではない。人口と購買力によって決まるものだ。いくら人口が多くとも国民の購買力が低下すれば市場は拡大しない。資本主義市場経済を経ないまま最貧国となった北朝鮮と世界12位の韓国経済が何の前提もなしに統合すれば、一人当たり国民所得は当然縮小することになる。また価値観の違いから社会も混乱するだろう。世界第6位圏の経済大国どころか反対に現在の経済力すら失う可能性さえある。
数字をあげて検討するまでもない。自由民主主義の価値観でほぼ統一され、法に基づく市場経済が盤石に根をおろし、先進技術に基づく世界第3位の経済大国日本を、南北の統一だけで追い越すなどとする発想は幻想以外の何物でもない。
以上