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金正恩を試す米国の軍事圧力

コリア国際研究所 朴斗鎮
2019.11.12

目次
1、米、「北朝鮮の怒り関係ない」韓米連合訓練を行う
2、最大規模で行われた2017年のビジラントエース訓練
3、米国が、米韓連合空軍演習を強行する狙い

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 10月のストックホルム米朝実務者協議決裂後、米朝協議は再び膠着状態に入っただけでなく対立が強まる様相を見せている。
 国防総省は11月7日(現地時間)、来年度の最優先課題をまとめた報告書「2020会計年度国防総省最優先運営課題」で、10の課題の中で最初に「中国、ロシア、イラン、北朝鮮への対応」を挙げた。特に北朝鮮の弾道ミサイルおよび核兵器技術の追求と兵器能力の増強が、東アジアでの脅威を越えて米本土に対する潜在的で直接的な脅威に進化したと診断した。
 北朝鮮が今年6月を基準に20~30個の核弾頭を保有し、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発などを含め活発に兵器を拡大しているとした上で、北朝鮮が国際制裁を避けて不法な利益を得ており、サイバー攻撃などが北朝鮮の外貨稼ぎの主な手段になっていると付け加えた。

1、米、「北朝鮮の怒り関係ない」韓米連合訓練を行う

1)北朝鮮巡回大使「忍耐力は限界点に近づいている」

 北朝鮮外務省巡回大使のクォン・ジョングン氏は6日、次のような談話を発表した。
 「最近、米国防総省はシンガポール朝米首脳会談以後、中止すると公約した南朝鮮軍との連合空中訓練を12月に再開するための手順を踏んでいると公式に発表した。
 ストックホルム朝米実務協商が物別れに終わった時から1カ月目に米国が連合空中訓練計画を発表したのは、われわれに対する対決宣言にしか他に解釈のしようがない。
 朝米関係の展望を巡って全世界が懸念している今のような鋭敏な時期に、われわれに反対する戦争演習を公然と繰り広げようとしている米国の行為は、世界の平和と安全を破壊する張本人、軍事的力を問題解決の万能の手段とする覇権主義国家としての自分らの本性を再び赤裸々にさらけ出すだけである。
 米国の無分別な軍事的狂気は、だんだん消えていく朝米対話の火種に水を差し、朝鮮半島と地域の対決雰囲気を高調させる極めて挑発的で危険極まりない行為である。
 訓練の名称を変えるからといって、戦争演習の侵略的性格が変わると考える人はこの世にいない。
 われわれはすでに、合同軍事演習が朝米関係の進展を阻み、われわれが先に講じた重大措置を再考する方向に進ませかねないということについて一度ならずも強調した。
 われわれの忍耐力は限界点に近づいており、われわれは決して米国の無謀な軍事的動きを腕をこまぬいて傍観しないであろう」。
 しかし、米国はこれを一蹴し軍事的圧力強化に乗り出している。

2)米国防総省「我々は北朝鮮の怒りによって訓練の規模を調整しない」

 ゴールドフェイン米空軍参謀総長は10月6日(現地時間)、米国空軍協会(AFA)の懇談会で、昨年実施しなかった大規模な韓米連合空中訓練「ビジラントエース(Vigilant ACE)」を今年12月には連合飛行訓練(Combined Flying Training Event)という名称で再開すると語った。昨年は取り消した韓米連合空中訓練を今年実施することについて「我々が現在直面している環境が要求するため」と述べた。北朝鮮外務省のクォン・ジョングン巡回大使が「我々に対する対決宣言であり座視しない」と非難した後に出てきた発言だ。
 RFAによると、ゴールドフェイン空軍参謀総長は「ハリス駐韓米国大使とエイブラムス在韓米軍司令官、ウィルスバック第7空軍司令官が韓米空中訓練についてよく議論している。「韓米連合訓練を続けるかどうかは、常にハリス大使と意思疎通をする米政府の最終決定にかかっている」とし、「彼らが(今回)下した決定は、我々が現在直面している環境が、韓国の同僚と協力を続けて訓練を維持することを要求しているということ」と話した。
 ゴールドフェイン参謀総長はまた「米軍は機会があるたびに連合訓練の継続を強調するが、外交領域では訓練をしないのが良い決定である場合もある」とした。「このため過去に訓練をしなかったこともある」とも話した。
 米国防総省のイーストバーン報道官も「我々は北朝鮮の怒りによって訓練の規模を調整しない」と述べた。イーストバーン報道官は北朝鮮のクォン・ジョングン巡回大使の非難に関する中央日報の質問に対し「我々は北朝鮮の怒りによって訓練の規模を調整したり訓練したりはしない」と一蹴した。そして「連合空中訓練のような我々の訓練は、外交官に北朝鮮と開かれた対話の空間を作りながらも両国軍の準備態勢を保障し、韓米連合作戦で相互運用性(interoperability)を向上させるためのものだ」と説明した(中央日報日本語版2019.11.07 )。

3)米韓連合飛行訓練は縮小して実施

 国防総省は11月7日(現地時間)、今月中旬に予定された韓米連合飛行訓練は従来の「ビジラントエース」より縮小した範囲で実施されると明らかにした。昨年と同様、ビジラントエースという名前を使わず、規模も縮小する方式で実施されるということだ。
 ウィリアム・バーン合同参謀副参謀長は同日、記者会見で、「兵力と戦闘機の数を具体的に明らかにしないが、ビジラントエース演習より縮小した範囲」とし、「ただし、この演習は態勢を保証する韓国と米国空軍の条件は満たすだろう」と説明した。また、「最も重要なことは、今夜にも戦うことができる態勢を維持することだ」とし、「1年前、私たちは(米朝交渉など)韓半島の環境に基づいて(ビジラントエース)演習を中止したが、今年は合同演習を実施する」と確認した(東亜日報2019・11・9)
 しかし韓国軍関係者は「韓米両国はビジラントエースという名称をもう使用しないことにしたため、ビジラントエースを中断したのは事実であり、その代わり新しく調整された規模の連合飛行訓練をするというのが正確」と話した。続いて「韓米両国が名称を調整し、各自の計画に基づいて規模を減らして個別訓練を実施するものの、連合演習の効果を達成するようにした」と説明した。
 米国は韓米連合訓練であることを強調したが、韓国側は依然として韓米空軍独自訓練の性格を強調した。その一方で「必要な場合、大隊級以下の小規模な連合飛行訓練を併行することもある」と余地を残した(中央日報日本語版2019・11・5)。
 韓国軍は、金正恩第一主義を続ける文大統領の意向に沿って、「各自の計画に基づいて」などと米軍との連合作戦を隠そうとしているが、それが金正恩に通じるわけがない。

2、最大規模で行われた2017年のビジラントエース訓練

 「ビジラントエース」訓練は2015年から実施された米韓の合同空軍作戦計画訓練だ。この訓練では、米韓が動員するすべての航空機に番号をつけて、各飛行機がどのような武装をしてどの目標をどのように攻撃するかが決められている。また攻撃を終えて帰ってくると再び任務を受けて繰り返し攻撃に出撃する訓練だ。この作戦は北朝鮮軍のレーダー、地対空ミサイルなどの防空網を一切遮断し、北朝鮮軍を無力化し、最後に金正恩を除去する作戦訓練だが、この訓練はそのまま実戦に突入できる。
 2017年の「ビジラント・エース」は最大規模で実施された。12月月4日から8日まで米第7空軍の主管のもとに行われた。米韓の8カ所の空軍基地から260機余りの航空機が投入され、700の標的に昼夜を問わず1日3回標的に仕立てた攻撃目標を壊滅する演習を行った。在日米軍基地からも参加した。
 この演習はそれまでのような防御型訓練ではなく攻撃型の戦時作戦訓練として行われた。訓練は北朝鮮の首脳部の破壊、弾道ミサイルの移動式発射台や南北軍事境界線付近の野砲やロケット砲の破壊手順の確認などが主要目的だった。
 この訓練には米韓合わせて当初は230機の予定だったが、11月29日の北朝鮮による「火星15型」発射実験を受けて2016年の演習よりも60機も増やされ、最新鋭の爆撃機、各種戦闘機、偵察機、電子戦機が投入された。
 演習に投入された航空機は、B1-B戦略爆撃機2機、ステルス戦闘機F-22ラプター6機、F-35A(陸軍)6機、F-35B(垂直発進・海兵隊)12機、F15、F16、F18戦闘機、電子妨害機EA-18グラウラー、早期管制警戒機E3セントリー、爆撃作戦中の司令塔電子偵察機のE8ジョイントスター、空中空油機KC135、対戦車戦闘機A-10などだった。それにNGM88ミサイルにJDAM爆弾が付け加えられた。
 ステルス戦闘機24機は一個大隊規模で、この規模で米韓合同軍事演習に投入されたのは初めてだった。マッハ2.5のF22が6機も朝鮮半島で展開するのも初めてで、F22とF35などステルス戦闘機を訓練目的で朝鮮半島に同時に出撃させるのも初めてのことだった。
 B-1Bは最大速度がマッハ1.25で戦略爆撃機の中では最も早い。核兵器は搭載してないが、在来式兵器で数百km離れた場所から北朝鮮の核心施設を精密打撃ができる。バンカーバスター2基と地下施設を貫通する空対地巡航ミサイル24基など60トンに達する兵器を搭載できる。
 E3セントリーは監視・探知・追跡・指揮統制する早期管制警戒機、E8ジョイントスターは爆撃作戦中の司令塔で北朝鮮軍の動向を上空から監視して敵のレーダーの位置を特定し、敵の動きをいち早く米韓軍に伝え、司令塔の役割を果たす電子偵察機。これらが上空から監視・指揮し攻撃目標を精密に打撃する。
 万が一戦車部隊が大挙出てきたらA-10戦闘機が叩くことになる。A-10戦闘機はイラク軍の戦車部隊を壊滅させたことで有名だ。F15、F16、F18戦闘機も誘導して壊滅する。
 こうした260機の航空機が各々のターゲットに向かって昼夜一日3回出撃し、北朝鮮の目標物七〇〇ケ所の核・ミサイル基地と首脳部を72時間以内に壊滅させるのがこの訓練のおおよそのストーリーだ。
 2017年の訓練で特徴的な点は、何よりも電子妨害機EA-18グラウラーが6機も投入されたことだ。3機でも十分なのに異例にも6機が投入された。これで北朝鮮軍は電波を撹乱され演習の期間中完全に目と耳がふさがれた。韓国でどのような演習が行われているかは韓国のメディアの報道で知るしかなかった。このEA-18グラウラーが北朝鮮軍の目と耳がふさげば、ステルス機能のない韓国戦闘機も思うがまま北朝鮮の防空網を突破し侵入できる状態となる。
 こうした猛烈な軍事演習を前にして金正恩は両江道に避難した。白頭山頂上で写した写真が12月9日に労働新聞に掲載され、登頂が8日とされる報道があったが、三池淵(サムジヨン)一帯が完全封鎖されたのはそれよりも5日前の3日から5日までだった。また金正日死去6周年にあたる17日、錦繡山太陽宮殿に一人で参拝したのも、米軍の斬首作戦を恐れて幹部たちと参拝時間をずらしたためだと思われている。

3、米国が米韓連合飛行訓練を強行する狙い

 今回の訓練は名前を変え規模を縮小して実施されるが、それでも金正恩には脅威だ。訓練の途中からでも実戦に突入できるからだ。米国が韓国の反対を押し切り米韓連合訓練に踏み切ったのは、金正恩が今年中は待つとした言葉を受けて、彼の正しい選択を促すために強力な圧力を加えた上で回答を待とうというものだ。
 そのために演習は例年よりも前倒しされ11月中旬からの実施となった。この演習に対して北朝鮮がいかなる反応を見せるかを見るためだ。もしも金正恩が挑発に出てくれば、いくらトランプ大統領が金正恩に甘いからと言っても第3回米朝首脳会談の開催は難しくなるだろう。
 折しもトランプ大統領の婿であり、ホワイトハウス上級顧問のジャレッド・クシュナー氏が、伝記作家のダグ・ウィード氏に北朝鮮の金正恩国務委員長がトランプ大統領に送った親書を見せながら「核は彼の唯一の安全保障手段だ」と話したのも意味深長だ。金正恩委員長が昨年3月、中国の習近平国家主席との首脳会談など公式発言で「非核化が祖父・金日成主席と父・金正日総書記の遺訓」と話したが、トランプ大統領との親書を通じては「父親の金正日が安保のために核を絶対に手放すなという遺訓を残した」という。
 ウィード氏はこのような内容を11月26日に出版されるInside Trump’s White House(トランプのホワイトハウスの中で)』に記した。ワシントン・タイムズは22日(現地時間)、同著の要約文を入手・紹介しながら、トランプ大統領の対北朝鮮外交が特に多く扱われていると伝えた。
 今金正恩は再び米国の軍事的圧力の前で試されている。金正恩が譲歩し中国を孤立させるトランプ戦略に歩み寄れば、トランプ政権は「核の凍結」で関係改善に進む可能性はあるが、あくまで中国との同盟に活路を見出し核武力の強化に執着すれば、弾劾に直面しているトランプ大統領が、米国で高まる対北朝鮮強硬論の気流に乗って、再び強硬路線に復帰するかも知れない。

以上

 
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