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【孫光柱コラム】
統一に寄与する北韓人権法の制定を急ごう

2012.7.17
デイリーNK 統一戦略研究所所長 孫光柱

 大韓民国の対北韓政策の最終目標は何か?それは 「統一」である。
 「統一」と言うのは、手短に言って "韓半島に住んでいる 7千5百万南北住民たちが、窮極的に自由民主主義という同一の体制で共に幸せに生きて行くこと"である。
 統一を成し遂げなければ南と北は常に争うようになる。故黄長Y(ファン・ジャンヨプ)先生は "一国家の中でも統治権をめぐって与党、野党が必死に戦うのに、ましてや分断された民族が民族全体の統治権をめぐってどうして争わないだろうか?統一が成し遂げられてこそ民族内部の争いも終わるのだ"と言ったことがある。理解しやすくて明快な話だ。
 そのため「統一」を他の言葉で表現すれば、'韓半島の平和が完成された状態'といえる。5年がかかっても、50年がかかっても統一が達成されて初めて韓半島に平和がもたらされる。それまでは韓半島で不安定な緊張状態と緩和状態が繰り返されるだけだ。
 言い換えれば、いくら '強固な韓半島平和体制'だと言っても、南北が同一の体制で統一されない限り、平和は '言葉' または '文書'に過ぎないだけで、'現実での平和'の獲得は困難である。'言葉'と '文書'には実体がない。言葉の原料は '空気'であり、'文書'の原料は 'パルプ'だ。
 空気とパルプがどうして7500万南北住民の生とその実存的存在をすべて担保することができるのか?
 それゆえ '先非核−後平和交渉'でも、'非核・平和交渉同時進行'でも窮極的に南北が同一体制を志向しなければ、平和も統一も実現しない。
 南北が志向する同一体制というのは、人類社会発展の方向である自由、人権、民主主義以外にはない。一言で言えば、北韓体制が、その進歩の速度が早かろうが遅かろうが、自由民主主義の方向に向かってこそ南北の統一問題も現実的説得力を持つようになる。
 7月 10日、朴槿恵(パク・グネ)候補は 18代大統領選挙出馬宣言において "統一を準備しなければならない"と言及した。昨年 8月に 'フォーリンアフェアーズ'に寄稿した内容では「統一」が抜けていたが、今回は、経済民主化、雇用、福祉のアジェンダに押されはしたものの、「統一」が言及されている。これは対北韓政策の目標と方向が定まったことを意味する。
 しかし、朴槿恵候補の '新しい韓半島'には対北韓統一政策の 1)哲学とビジョン 2)政策課題 3)遂行戦略などに対する具体的な内容が公開されていない。今後この部分がどのように表現または補完されるのか、もう少し時間をかけて見なければならないようだ。そしてまた、大統領選挙出馬宣言には韓半島の北 2400万兄弟たちに対する言及が全くなされれていないことも気がかりだ。こうしたことから、朴候補側の対北韓統一政策理論家たちの '韓半島アジェンダに対する均衡感覚'は正確に読みとりにくく、何か不透明な感じがする。
 大韓民国の対北韓政策の大きな方向は 1)北韓政権が軍事挑発できないように明確に抑止(deterrence)するとともに2)南北+国際協力で北韓を改革開放に向かわせ3) 南北間の経済 ・政治 ・社会文化各分野での格差を減らして行くことだ。すなわち、"北韓 2400万住民を改革開放→自由民主主義体制に移行する生活に慣れさせながら統一すること"である。もちろん急変事態発生の場合は、別途の韓半島安定化プロセスが必要となるのは言うまでもない。
 このような過程こそが、それが順調に移行されるか否かにかかわらず、多くの国民が望む合理的な統一プロセスであることだけは間違いない。ただその過程で具体的な対北韓戦略や南北協力、国際協力、統一の諸段階などに対しては意見が違うこともありえるし、またそうした多様な意見は民主主義社会の生命力の源泉でもある。
 北韓社会の自由民主主義体制への移行が南北韓統一の大きな方向だということに同意するならば、対北韓戦略や統一の段階などに紆余曲折があったとしても、民主的手続きによって国民的合意を形成して行くことができる。
 現在韓国社会では '国民統合'が非常に重要なアジェンダとなっているが、筆者は国民的合意導出の重要な先例として、与・野党合意による '北韓人権法制定'に大きな期待をかけている。いかなる理由で言い訳をしても、北韓2400万住民たちの第1当事者である 5000万大韓民国国民が、いまだに '北韓人権法'を制定できないでいることは話にならない。
 過去10余年の間、アメリカと日本が制定し、UN、ヨーロッパ議会でも持続的に北朝鮮人権決議案が提出されている状況で、金大中(キム・デジュン)、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政府は "北政権を刺激する"と言う理由で反対した。最近では "北韓人権法はビラ支援法"というとんでもない論理で反対している人たちがいる。
 このような理不尽な政治的論理で北韓人権法制定に反対しながら '進歩' を云々して国民を欺くことはゆるされることではない。また内容もよく分からないのに政治家たちに'詭弁'を提供している一部'専門家'たちを見るにつけ、条理をわきまえず正義をなくした過去のナチ時代におけるヨーロッパ知識人たちを見ているようでまことに残念である。
 将来、北韓人権法制定に反対する人々の息子、娘、孫、孫娘たちがインターネットを駆使するようになれば、今の記録と発言をありのまま知るようになるはずだが、その時になって、お父さん、お爺さんは、どうして北韓人権法に反対したのですか?と聞かれればどう答えるのか?
 その時になって "あ、あの時、実は北韓の人権問題が深刻だということは分かっていたが、'保守の馬鹿ども'が制定しようと言うので、アジェンダでの主導権を奪われまいと心配だったので、あらゆる口実を作って反対した"と答えるのだろうか?それとも、"政治と言うのは交渉だが、あの時は北韓3代世襲独裁政権が北韓人権法制定を嫌がったので反対した"と言うのだろうか?そういった答えで孫、孫娘たちが "あ、そうだったのですか。それは本当に良かったですね"と言いながら拍手してくれると思っているのだろうか?
 北韓人権法案に問題があればお互いに討論をして直せば良い事だ。問題は "あえて相手を利することはない"という理解しがたい理由で足払いをかけることは、理念や政治的志向をさておいても、人間として卑劣な行為ではないだろうか。
 北韓人権法が制定されるといっても北韓住民たちの人権が一夜にしてよくなると期待する人々はいない。大韓民国の人権水準に到達することなどはさらさら考えづらい。まずは北韓の住民たちが、生活のための職業選択とそのための最小限の旅行の自由、出身成分による差別の廃止、'3代滅族' などの連座制の改善、10大原則の廃止、国連の政治犯収容所に対する接近ぐらいは漸次的に可能にならなければならないということだ。
 たとえ北韓人権法が制定されたとしても、このような基本的な問題を解決するまでにはどれだけ多くの時間がかかるかわからない。しかし、私たちが北韓人権法すら制定することができなければ、韓国社会で北韓問題に対する最小限の社会的認識の土台さえ形成することはできないだろう。この体たらくで後に北朝鮮の兄弟たちにどのような顔をして会えるのだろうか?
 北韓の <朝鮮語大辞典>における '人権' 項目には "人権はあらゆる搾取と抑圧が清算されて人民が国の主人となった社会主義制度でのみ徹底的に保障される"と説明されている。'人権'に対する旧共産圏政治宣伝(propaganda)の文言がそっくりそのまま剥製化されて残っているのだ。
 しかし北韓の現実は "3大世襲政権があらゆる搾取と抑圧"をおこなっており、'10大原則'によって意識が奴隷化された住民たちはこれを "清算"する術をもたないことを示している。ではどのようにすればよいのか?外部世界が手伝う方法しかないのである。その外部世界の第1当事者が大韓民国国民なのに、今韓国社会は北韓人権問題に対して話にならない非合理的態度を見せているのだ。
 大韓民国政府が憲法上自国民である北韓住民の人権問題を取り上げることは当然の事だ。ヒラリークリントンは他国である中国へ行っても人権問題を指摘する。人権は国境も、人種も、民族も超越する問題であるからだ。人権とは、本質的に、人間が人類史を形成する長期にわたって、社会共同体内部で累積的に進化させてきた '良心の領域'に属することがらだからだ。
 しかし南北韓の現実は韓国政府が直接 "北韓の人権を改善せよ"と言えば北韓政権が食って掛かるようになっている。それゆえ民間団体と国際人権団体が、直接、それも大きな声で "北韓人権"を主張する方が良い。
 こうした脈絡で論理的に見るならば、一部政治家たちが国会で北朝鮮人権法制定に反対することは、市民社会団体と国際人権団体の首を根を抑えようとすることと同じである。だから北韓人権法に反対する国会議員は政治生命は長く持たない。民間を弾圧する国会議員の政治生命が長続きするわけがないのである。
 中国で 100日以上拘禁された金永煥(キム・ヨンファン)さんたちが間もなく釈放されるという。
 今回の事件は韓国社会内部での北韓人権法制定をめぐる一つの象徴的モメンタムとなるだろう。
 筆者は金永煥さんたちの中国拘禁事件が、韓国社会内部で与・野党、保守―進歩を越えた北韓人権法制定での国民統合成就の重要な推進力となってくれればと願っている。
 北韓人権運動が大韓民国の法律的土台の上で、より堂々と、より活発に展開されるのか、それとも政治的論理を振り回す者たちによって再び挫折させられるのか、それはわが社会の成熟度と努力にかかっている。
 帰国する金さんたちに対して、各政党と市民社会陣営がいかなる反応を見せるかを注視していきたい。

*題名は当研究所が付けたもの

以上

 
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