黄長Y元書記、北朝鮮の偽造紙幣、麻薬問題を語る
−北朝鮮の非道徳性を暴き、中国を北朝鮮から引き離すことが重要―
2006.12.25
2006年の北朝鮮情勢は、アメリカの「北朝鮮不法資金取締り」(2005年9月、バンコ・デルタ・アジアの北朝鮮口座凍結)強化で展開し、北朝鮮の「核実験(10月9日)で新たな局面を迎えたと言っても過言ではない。こうした中で北朝鮮核開発には「不法な外貨稼ぎ」が密接に関わっていたことが明らかになりつつある。だからこそ北朝鮮は執拗に「金融取り締まり」の解除をアメリカに迫っているのである。
このような今年の北朝鮮情勢を振り返る意味でも、黄長Y元書記が今年1月に行ったテレビ朝日とのインタビュー「北朝鮮による偽造紙幣、麻薬問題を語る」の内容は重要だ。
黄元書記はこの中で、北朝鮮の「犯罪体質」を強く批判しただけでなく、この犯罪性を徹底的に追及し、この犯罪行為が中国に対する圧力となるように、「中国自身が道徳的な責任感を感じて金正日を遠ざける」そういう風な契機とすることが最も重要な戦略的な視点だと指摘した。
北朝鮮核問題の解決のカギが中国にあると言うことは、今回の第5回第二段階「六カ国協議」を見ても明らかだ。中国が北朝鮮との同盟を維持する限り北朝鮮核問題は解決しないだろう。
犯罪国家北朝鮮との「同盟」の不当性をつくことで、中国から北朝鮮を切り離す重要な契機となるとの指摘は、今後の一つの方向性を示唆している。以下でその全文を紹介する。
1、偽造紙幣問題は、経済的圧迫ではなく犯罪国家として追及すべき
Q.米国の北朝鮮に対する偽造紙幣取締りをどう評価しますか?
A.アメリカが、この問題をいわゆる「経済制裁」としての効果だけを求めるのであればそれはダメだと思います。それを通じて、北朝鮮政権の非民主主義的で犯罪的な正体を明らかにして、国際世論を喚起すること、そうしてこそこの措置の意義が高まると思うのです。
Q.アメリカのこの金融取締りによって、金正日政権が弱体化すると考えてよいのでしょうか。
A.この問題を経済的問題としてだけ取り上げるのであれば、それは金正日に痛手を負わせても大きな影響を与えることは出来ないでしょう。中国が経済支援すれば、効果があがらないからです。
そうではなくこれを機会に、世界的な世論を喚起し、この犯罪行為が中国に対する圧力となるように、「中国自身が道徳的な責任感を感じて金正日を遠ざける」そういう風な契機とすることが最も重要な戦略的な視点だと考えています。
Q.世論の高まりで、北朝鮮に圧力を加えるだけでなく、その後ろ盾である中国にも圧力をかけると・・・
A.それが必要です。今、最も重要なのは、金正日政権を除去することです。それに対して決定的な力を持っているのは中国政府です。中国政府を動かすには道徳的な、政治道徳的な圧力が最も効果的です。だから日本人民にも、道徳的圧力の意義を認識させ、アメリカ人民にも、そういう角度で認識させる必要があると思うのです。
Q.北朝鮮は、中国に対して、偽札や麻薬は、一部の人がやっているのだと言っているのですが・・・
A.一部の人ですって?北朝鮮は、中国のように大国ではありません。北朝鮮は一分の隙もない徹底的に組織化された独裁国家です。その中で、一部の人が紙幣を偽造するとか、麻薬を製造するとか、それは絶対に有り得ないことです。そういうふうな資金も持っている人もいないし、そういう技術を持っている人もいません。だから、こうしたことを政府の許可もなく、金正日の許可もなしに行うことは絶対にできません。このことをまずしっかりと頭に叩き込まなければなりません。強いていうならば、北朝鮮には政府というものすらありません。金正日がすべてです。だから金正日の指示以外には何もできないのです。偽造紙幣を一部の人が作るなどとはとんでもない話です。
Q.北朝鮮が、偽ドル紙幣を作り始めたのはいつ頃からでしょうか?
A.それは、よくわからないですね。
Q.アメリカ政府は、20年前からやっていると言っているのですが
A.可能性があります。
Q.それは主にドルですか?
A.それはわかりません。しかし最も必要なのはドルでしょう。
Q.それは専用の施設で作るわけですね。
A.そうでしょう。しかし私はそれを見たことがありません。
Q.偽札はどのようなところで管理するのですか。
A.私も正確なことはわかりません。ただはっきりといえるのは、金正日の直接指示なしには絶対に有り得ないということです。またそれを管理している部署があるとすればそれは「書記室」以外にはないでしょう。しかし、書記室は、政策問題に対しては一切介入できません。書記室は、紙幣を偽造するとか、麻薬を製造するといったことを指示・管理し、また、金正日の日常生活に必要なさまざまなものを調達しています。
Q.海外にある北朝鮮の大使館、あるいは外交官が、偽札を使ったということで捕まるケースがありますが・・・
A.私はよく知りません。ただ外国にある大使館というのは、そういう問題に対して全権を持っています。だから、例えば麻薬を販売するとか、そういうことは命令一つで実行に移します。
Q.外交官の仕事の一つになっているのですか。
A.そうです。そうでないと、大使館の建物とかの維持費用を調達することが出来ないのです。
Q.そういうものは、本国からの送金で維持するのではないのですか?
A.送金する能力がありません。ごく一部だけは送金するけれども。だから、そういう非合法的な方法で彼ら自身が調達するより他の方法がないです。
Q.海外にある大使館、外交官も、その国の法律を守らなければならないのではないですか。
A.だから、彼らは、それを騙すために、大きな努力を払っています。しかし、そうしていても捕まることが度々あります。
Q.可哀想ですね。
A.そうです。それはとても可哀想なことです。名前は忘れたけれども、書記の一人であったある人は、ロシアで捕まったことがあります。彼は、以前私が担当している国際部の副部長をした人です。彼も、麻薬販売とかそういうことを専門にしていました。そういうことをして捕まったのです。全力を挙げて彼を救出しましたが。
2、麻薬の製造も国家ぐるみで行っている
Q.紙幣の偽造の他に、麻薬の製造も国家ぐるみで行っていると聞いていますが。
A.そう、これは国家幹部の中では、公然とやっています。この件については、相当大きな会議で直接金日成が指示しました。80年代だったと思います。アヘン栽培を道単位で公然とやっています。
Q.それは国家の最高意志決定機関というようなところで、決めるのですか?
A.いや、決めるのではありません。ただ指示するだけです。最高指導者がただ命令を下すだけです。例えば、あまりにも大きな面積に植えれば、空中撮影で発覚するから小規模で栽培するようになどと指示します。
Q.最高指導者が指示するのですか?
A.そうですよ。それを悪いと考える人は一人もいません。今、国家で外貨が必要だから、そういうことをやるんだと。それで済みます。
Q.アヘンを植える目的は、何ですか?
A.外貨を獲得するためです。それを売って。しかし、初めは、黒い固まりをそのまま売りました。しかし、それはあまり高く売れない。それで、精製する工場を建てました。私が聞いたところでは、ハムンにそういうような工場を建てたといいます。初めはそれが、国際的な水準とならなかった。だから高く売れなかった。しかし、だんだんとその技術が向上して、外国の麻薬と区別できないようにまでなったと聞きました。
Q.どのように販売するのですか?
A.それは軍隊主導のもとに秘密ルートで販売されています。そしてタイとか色んなところで売り捌きます。国際的な監視強化によって東南アジアなどが難しいとなると、海軍を使って海上で取り引きをするともあると聞きました。
Q.そういう不正取引の利益は、国家予算の中で、どのくらいの非常を占めているのですか?
A.それはわかりません。度々繰り返しますが、それが問題ではなくて、その犯罪行為が問題なのです。北朝鮮でそれが当然のこととして認められているということ、それを世界の人びとが知ることが大事なのです。そしてそれを通じて金正日政権の正体を正確に把握することが重要なのです。北朝鮮には西側諸国で言う国家などありません。金正日が国家です。金正日の指示なしには、絶対に出来ないのです。北朝鮮では同窓会すら組織できません。個人とかグループがこうした犯罪を犯すことは絶対にありません。
3、北朝鮮から中国を引き離す妙策は、金正日の非道徳性を暴き世論喚起すること
Q.どうして、北朝鮮が非道徳的な社会、国になったのでしょうか?
A.それは、絶対的な独裁の結果でしょう。彼はいっさい道徳的なことを無視します。金正日が、軍隊を掌握してからは道徳的な教育をするのではなく、ただ金正日のために死ななければならないという教育だけをしてきました。だから、泥棒をすることも、何も悪く思わなくなったのです。
私が、大学の総長をしていたはじめの頃には、軍隊から除隊した学生はとても行儀が良くて道徳的にも健全でした。ところが、私が党中央委員会の書記をしている時、それは80年代だったのですが、大学に行って1ヶ月間哲学部の授業をしました。その時除隊した学生達が道徳的に破綻した人たちだということを知りました。 例えば、女学生を平気で殴ったり泥棒を平然と行ったりしていました。だから、金正日の命令があれば、偽札を作ったり麻薬を作ることを躊躇しません。
そういう国家だということを、日本人だけではなく世界の人たちが知ることが大事なのです。そして北朝鮮の非道徳性を非難する世界の世論が高まれば、それは中国に対しても大きな影響を与えます。「なぜ中国は北朝鮮のような犯罪集団と同盟関係を維持しているのか」という世論が高まれば、それは中国に対するとても痛い批判になります。中国は共産党の一党独裁と言うけれども、大国であるだけに国民の世論を無視することは出来ません。中国政府が恐れているのは、13億の国民が共産党政府を支持するか否かという問題です。もし中国が世界の世論から孤立することになれば、政権の維持に大きな障害がもたらされます。
軍事的圧力や経済的制裁も必要だが、国際世論を喚起して、道徳的に孤立させること、それが北朝鮮から中国を引き離す最も効果的な方法です。
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