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「米・朝接近」に戸惑う北朝鮮核心階層

コリア国際研究所 北朝鮮研究室

2007.9.25

 9月19日から開催が予定されていた6カ国協議が南北首脳会談と同じく急きょ延期された。韓国の連合通信は中国が北朝鮮に提供することになっている重油5万トンの輸送が遅れていることが理由であると報道したが、当研究所が得た直近の北朝鮮内部情報によればそれだけの理由ではないようだ。急激な米朝接近で北朝鮮国民だけでなく、幹部さえもついていけなくて戸惑っているのだという。
 北朝鮮の内部情報、特に権力層内部の情報が取りにくい状況のもとで、ともすれば北朝鮮が確固たる戦術を持って動いているように分析しがちだが現実はそうでない。北朝鮮首脳部が意図したとおり事態は進んでいない。日本がブッシュの路線転換に戸惑ったように北朝鮮内部も核実験後の急速な米朝接近に戸惑いを見せている。特に頭の固い軍部がそうだ。
 北朝鮮国民は情報閉鎖の中で、半世紀もの間、米帝(米国)打倒の教育と戦争危機の宣伝を受けてきた。突然の融和ムードや平和体制になじまないのは当然といえば当然である。

 1、平和体制への移行は北朝鮮にとって両刃の刃

 いま米朝融和の流れの中で、テロ国家指定解除だけではなく、米朝国交正常化までも視野に入れた交渉が続けられている。金正日は先軍政治の勝利と叫ぶかもしれないが、すでに北朝鮮は右向け右で動く社会ではなくなっている。
 特に2002年の7・1措置以後、配給制度が廃止されたことによって拡大した市場(いちば)経済や、テゴリ(権力者と結びついた商人)勢力の拡大、そして貧富の差の増大は権力上層部と庶民の乖離を広げ、権力層内部の利権争いも促進した。
 また、中朝国境から物資と共に流入した西側情報、特には「韓流ドラマ」の浸透は、北朝鮮の「プロパガンダ文化」を駆逐している。これは日本で起こった「韓流ブーム」が朝鮮総連コミュニティーの「北朝鮮式文化」を駆逐したことと似ているが、その影響の大きさと深さは比べ物にならない。
 こうした変化が進む一方で、「情報閉鎖」の中でひたすら「米帝打倒、先軍政治万歳」を叩き込まれて「戦うこと」しか教えられなかった変化のない集団も厳然と存在する。百数十万の軍隊集団がその典型だ。この集団は生産的労働から遊離されたまま世界の情報からも孤立した状態で存在している。平和体制への移行はこうした集団に混乱をもたらすだろう。それは北朝鮮社会の複合的アンバランスを促進し、金正日への求心力をいっそう低下させるに違いない。

 2、階層分化の拡大は複雑な利害の対立をもたらしている

 北朝鮮におけるここ数年のルールなき市場経済の拡大は階層分化を促進した。国民はおおむね6つの層に再編されたという。
 第一の層は金正日を中心にした最高権力層だ。この階層は金正日の統治資金、韓国から入って来る各種の支援、そして住民に対する搾取で暮らしている。
 第二番目の層は外貨稼ぎ分野に携わる権力階層だ。稼いだ外貨の一部は金正日政権に捧げて富を蓄積しながら暮らしている。
 第三番目の層は市場(いちば)と中国との取り引きでお金をためた階層だ。彼らはロシアのマフィアのように、‘暴力’と‘お金’を利用して、市場をはじめとする各地域の商圏を掌握している。
 第四番目の層は配給で暮らす階層だ。中、上層にあたる人々は全体の住民の約20~30%を占めていると推定される。
 第五番目の層は個人の土地と市場での取り引きに頼って生活している庶民だ。全体の住民の約60%以上を占めているという。自らの労働でその日暮らしをしている。
 最後の層は、労働能力がないお年寄りや障害者、浮浪児、都市への流入者、病気を煩っている人などの最下層だ。
 こうした階層分化で最も目立つのが第五番目の階層だ。彼らは金正日政権に対する依存から脱して、自らの力で暮らし始めた階層であり、その規模も住民の60%以上を占める。
 この階層分化はここ10年間に起こったものだ。それは@配給制度の崩壊A完全雇用制度の崩壊B無償義務教育の崩壊C無料医療制度の崩壊など社会主義諸施策の崩壊がもたらした結果だ。また社会主義計画経済の崩壊がそれを加速させた。
 新たな階層分化を他の角度から眺めると、情報に接する階層と接しない階層、軍部を中心とした変化しない階層と自力で生活する変化する階層に分けることが出来る。それは融和的政策で利益を得る階層と緊張激化によって利益を得る階層としても分けることが出来る。
 北朝鮮の政策が、一貫性を持たなくなったのは、外部からの圧力によってこうした内部の諸階層が様々な「化学反応」を起こすからである。
 最近北朝鮮から相反する情報が流れてくるのはこうしたことが原因と思われる。したがって情報の「採用」には注意が必要だ。数年前の「北朝鮮常識」は通用しなくなっている。

 3、金正日体制は緊張緩和にはなじまない

 北朝鮮が「マルクス・レーニン主義」や「主体思想」といった理念の「洗脳」と食糧の「配給」によって社会統制を行なっていた時代は過ぎ去った。先軍政治という「軍国主義」をもたらしたことがその証だ。
 この先軍政治の弱点は、緊張緩和を生存条件に出来ないことだ。この政治システムは、ただただ戦争の危機と外敵への警戒心を煽り、暴力と命令で住民を統制するシステムだ。そこには未来を展望する「説得」も「教育」も存在しない。金正日はこうした政治を少なくとも10年以上行なってきた。
 いま南北首脳会談を前に「平和協定」や「平和体制」が取り沙汰されているが、この方向に進んだ時、韓国での安保意識や安保態勢に否定的な影響をもたらすことは間違いないが、より大きな影響を受けるのは軍国主義が支配する北朝鮮側であると思われる。過去のように統制と結束が磐石であれば平和攻勢も北朝鮮に有利に働くが今はそうでない。
 北朝鮮は、1972年の南北共同声明や1994年の「ジュネーブ枠組み合意」、2000年の「南北共同宣言」の時のように各種形態の住民教育を通じて、平和ムードのリアクションを吸収しようとするが、現在の北朝鮮は既にそうした変動に対応する能力を喪失している。
 金正日政権は、太陽政策を逆利用しながら、北朝鮮住民と軍人に対して、引き続き米国に対する敵愾心や南北の対決意識を維持させようと努力するだろうが、そのやり方が「狼少年」状態になっているため効果を発揮することはできないだろう。またすでにそれが機能するシステムも麻痺している。
 30年前の韓国にとって「平和統一」など平和攻勢は体制の危機を呼び起こすものであった。しかし現在は反対に金正日にとって厄介な問題となっている。先軍政治と平和は二律背反である。また金正日政権は平和ムードの中でまともに経済を運営したこともない。平和ムードが定着した時、国力のすべてを注いで作り上げた「核とミサイル」は倉庫でほこりをかぶることになる。
 南北首脳会談や6ヵ国協議で北朝鮮が揺れ動くのは、平和ムードの定着に対する処方箋がないからだろう。金正日の思考能力までも疑われる様々な健康不安説が流れるのもこうした北朝鮮のジレンマが反映した結果に違いない。

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