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建国60周年パレード欠席で金正日の統治力にかげり

コリア国際研究所所長 朴斗鎮

2008.9.15

 9月9日、北朝鮮建国60年の閲兵式で、正規軍のパレードが取りやめとなり、金正日国防委員長が初めて姿を見せなかった。この異例の事態をふまえて、韓国をはじめとした各国は分析を急いでいる。
 
1、パレード欠席の二つの見方

 金委員長の建国記念日での軍事パレード欠席については、大きく分けて二つの見方がある。
  その一つは、米国を圧迫する対米戦術の一環という見方だ。
  これまで金委員長は、国際社会の関心を高めるために、何度もサプライズショーを見せてきた。 金委員長が閲兵式に欠席することで、外部の視線を集中させた後、膠着している「核検証問題」で対米強硬措置に出る可能性があるという見方だ。 06年7月にミサイルを発射した直後、金国防委員長は40日間以上も姿を現さず、同年10月に核実験を強行していることなどが、この説の背景にある。
  しかしこの説は、今のところ説得力に欠ける。なぜならば、今回の事態は内外で金正日政権に対する不安を呼び起こしているからだ。「奇策」を弄したとすれば、メリットよりもデメリットの方が大きい。
  もう一つの見方は、病気による欠席というものだ。
  その根拠として指摘されているのは
@今年の年初から最大の行事として位置づけ、60年に一回しかない節目の行事である建国60周年パレードを金正日委員長が欠席するというのは、彼が健康であれば考えられない異常事態だ(1992年の軍事パレード以降、金委員長はこれまでこの種の行事は一度も欠席したことがなかった)。そのパレードも民兵(労農赤衛隊)だけに縮小され(正規軍は午前中に解散)、始まりが午後5時という異例の時刻だった。
A8月15日以降の行動が報道されていない。
B昨年5月に心臓冠動脈手術を行なった。父親の金日成も心臓病の発作で死亡した。糖尿病の持病も持っている。
C8月22日ごろに外国の医師団が北朝鮮に入ったという情報がある。
D事前に中国の特使を断った。今回北朝鮮を訪れた祝賀団も、民間団体が中心だった。
  以上が金委員長「病気説」の根拠とされている内容であるが、韓国政府も、金委員長パレード欠席の事態を受けて9日深夜に緊急の「国家安全保障会議」を開き、対応を協議した。さまざまな状況から見て韓国政府は健康に異変があった可能性が高いと判断した。米国の情報筋も同様の判断をしている。
  韓国国家情報院は10日の「国会情報委員会」で、北朝鮮の金正日国防委員長の健康状態と関連し、先月14日以降に循環器系に異常が生じ手術を受けたが、現在は好転した状態だと報告した。病名については、金成浩(キム・ソンホ)国家情報院長が「脳卒中または脳いっ血とみられるが、特定は困難な状態」と述べた。手術は外国人医療陣が行ったとされる。韓国情報筋は、8月末に中国から西洋医5人が北朝鮮入りした情報を入手していたという。
  AP通信も9日、米情報当局者の話として、北朝鮮の金委員長が脳卒中を起こし、重体となっている可能性があると伝えた。金委員長が約1カ月、公の場に姿を現さなかったため、米情報機関は北朝鮮国内の状況について注視していたという。
  韓米の反応や分析、それにさまざまな状況から見ても、金委員長が健康を害してパレード参加を見合わせたという見方が妥当なようだ。しかし病状がどの程度なのかについては、さまざまな観測が飛び交っている。だがそれらの情報は、どれをとっても確認されたものではない。

2、異常事態の背景

 今回の事態が、新たな「奇策」の準備であれ、「病気」によるものであれ、その背景には、現在金正日政権を取り巻く不利な状況が関係していると考えられる。
  金正日政権は、今年の三紙共同社説で、9月9日までに「テロ支援国家指定解除」と「日本の制裁解除」、それに李明博政権の「軟化」を実現すると見込んだ上で、今年を「祖国の歴史に刻む歴史的転換の年」と宣言していた(2008年1月10日付「にんじん」を5年先に吊るした2008年北朝鮮「共同社説」参照、)。
  7月下旬に北朝鮮が朝鮮総連に与えた内部講演資料「新しい転換的局面を迎えた朝鮮半島情勢について」ではそのことがいっそう明確に示されている。
  この資料では、6月26日にブッシュ政権が「テロ支援国指定解除」に着手したことと、1953年の停戦協定以来続いてきた「敵性国家貿易法」が解除したことを「ブッシュ政権の降伏」と位置づけたうえで、
1、敬愛する将軍さまの偉大な先軍領導と卓越した対米戦略、
2、朝鮮に対する「テロ支援国名簿削除」と「敵性国貿易法」適用終了措置が持つ意義、
3、今後の展望、
むすびと続けている。
  2の項目では、米国の敗北と李明博政権の対北朝鮮政策の破綻を指摘したうえで、特に日本の「孤立」を強調して、「米国の制裁解除によって、安倍政権下で強行されてきた制裁措置が崩れ、強硬一辺倒政策は事実上完全に破綻し、安倍をはじめとした極右勢力は、深大な打撃を受けている」と主張した。そして、この流れの中で「福田政権は制裁解除の意思を表明し、朝日対話を懇願した」としている。
  3の項目では「核検証」を北朝鮮の一方的武装解除につながる「検証」ではなく、「全朝鮮半島の非核化を検証する体制の樹立」と主張し、その実現のために6カ国協議参加国すべてが「行動対行動」の原則を守らなければならないとし、すでにその方向で事態が進む展望が開けたと記している。
  そして「むすび」では、その結果として、諸外国の企業が北朝鮮にどっと押し寄せ、今後は外資の導入も思い通りとなり、対外経済は飛躍的に発展することが約束されていると宣伝した。
  しかし、この「勝利宣言」は、9月9日までにはどれも実現させることが出来なかった。
  それは@米国の「テロ支援国指定解除」が延期され、A日本の世論が経済制裁解除を許さなかったため、「対日勝利宣言」がお預けとなり、B韓国では金剛山での「観光客射殺事件」と、特には「元正花スパイ事件」で、韓国国民の対北朝鮮感情を悪化させ、C特には、北京オリンピック直後に中国の胡錦濤主席が韓国を訪れ、「韓中FTA協定」までも論議した(もしもこれが成立するようなことにでもなれば、金正日政権は非常に苦しい立場に立たされる)ことに示された。
  「脳卒中」で倒れたとしたら、思い通りに行かないこうした「ストレス」がきっかけになったことも考えられる。どちらにせよ、金委員長が建国60周年の閲兵式に出席できなかったことで、北朝鮮内外に重大な不安と懸念を抱かせたことは間違いない。この事態は、今後北朝鮮情勢を大きく変える可能性を孕(はら)んでいる。

3、今回の事態が与える影響

 今回の事態は、金委員長が健康な姿を見せ、「病気説」が完全に払拭されない限り、またパレード欠席の理由が納得のいくかたちで説明されない限り、その衝撃を収拾することは出来ない。それは北朝鮮の政治構造に大きな変化を与えるだろう。

後継者問題で内部抗争表面化か

 今回の事態の影響でまず考えられるのは、金委員長の統治力の低下である。北朝鮮のような王朝的独裁国家では、指導者の健康問題は直接権力構造に反映する。金委員長が「脳卒中」という病気で倒れていたのであればなおさらだ。いつまた突発的に発病するか分からない。今後は次期権力に注目が集まることは避けられない。これはそのまま金委員長の統治力低下につながる。
  このことから凍結されていた「後継者論議」が再び活発化する可能性がある。
  高英姫死亡後、金正哲後継説が不透明となり、金正男派の巻き返しが起こっているとの情報がある中で、内部の対立を恐れた金委員長は、「後継者論議」を封印してきたと言われるが、その歯止めが利かなくなる可能性がある。これは一つ間違えば一族内部の権力抗争につながる。
  混乱して後継者がなかなか決まらない場合には、集団指導体制も取り沙汰されるが、そうした場合でも軍部などの体制ではなく、「金一族」内の「集団指導体制」となる可能性が高い。「金一族」であれば、金日成から受け継いだ血統や革命伝統を説明できる。また「金一族」のほとんどが党や軍の権力中枢に配置されているため、権力の空白も起こりにくい。

軍の集団指導や独走がありえるのか

 北朝鮮が「先軍政治」を行っているため、この政治システムをそのまま軍部と結び付け、「軍部の暴走」とか「軍部の集団指導体制」とかをさかんに主張する人たちがいるが、それは北朝鮮をあまりにも知らないことからなされている主張である。
  北朝鮮には「軍部」などという「独自勢力」は存在しない。軍の首脳はすべて政治的能力に欠けており、金正日の指示通り動くしか能のない高齢の人たちだ。また各部隊には、朝鮮労働党の政治参謀が配置され、金正日の監視網も張りめぐらされている。いかに軍首脳といえども、思い通りに軍隊を動かせないようになっている。それは過去の旧ソ連の「フルンゼ軍官学校」卒業生たちの「クーデター未遂事件」や「第6軍団反乱事件」から教訓を得たものである。
  また、「国防委員会」に軍人が多数占めていることで「軍の台頭」を語る人達がいるが、「国防委員会」は、金委員長が国家主席の名称を父親とだけ結びつるために、主席職の実権と統帥権を自分に移す目的で作ったものである。それゆえ金正日以外の何人(なんぴと)も政治権限を持たない。
  「国防委員会」はまた、党組織のような下部組織を持っていないため、党の総書記である金正日と結びついてのみ機能が発揮できる。したがって軍部というならば金正日その人が軍部なのだ。
  こうしたことを勘案したとき、軍による急変事態は起こりえないといえる。もしも軍に異変が起これば、北朝鮮の命脈を握っている中国が座視しないであろう。軍、軍とはやし立てる時間があるならば、まずは金正日の動静を正しく把握し、今後表面化してくる後継者問題を含めた金一族内の権力構造の変化に焦点を当てて分析を強化していくべきだろう。

当面予想される6ヵ国協議の停滞

 6ヵ国協議の当初のスケジュールでは、米朝双方が最後の綱引きを行い、9月中の「妥協」が予想されてきたが、金委員長の健康不安説によって、先行きが不透明になった。
  8月下旬、米国側は、北朝鮮側に核検証手続きに関する新しい草案を提示していた。しかし北朝鮮が全く回答を示さず、交渉が事実上中断していることが分かった。
  12日にこの事実を明らかにした米政府高官によると、国務省のソン・キム6か国協議担当特使が8月22日、ニューヨークで北朝鮮当局者と会談し、新草案を手渡したという。高官は新草案の中身を明らかにしなかったが、7月に提示した旧草案から、核物質のサンプル採取やすべての核関連施設を立ち入り対象とすることの文言を一部修正したとみられる(2008年9月14日03時07分 読売新聞)。しかし、北朝鮮当局からはその後、直接の回答が一切ない異例の状態が続いているというのだ。金委員長の健康不安が事実であれば、北朝鮮側も「柔軟な決断」を下しにくい状況となっていることは十分に考えられる。
  事実を明らかにした米政府高官も「(回答がない理由は)金正日総書記の病気を排除できない」として、北朝鮮担当者が、金委員長から新草案に対する回答の指示を受けられない状況にある可能性を指摘した。しかしこうした状況が続けば、任期切れの近づくブッシュ政権が「テロ支援国解除」を次期政権に引き継ぐ可能性もある。
  日朝交渉も、福田首相の突然の辞任によって、対北朝鮮強硬派の麻生幹事長が総理になる可能性が高まり不透明な状態となっている。また新総理が誕生したとしても、すぐさま解散・総選挙に突入すると見られているために、日朝交渉の進展は、衆議院選挙後に新内閣が発足するまでは難しいと予測される。
  韓国政府も、金剛山観光客射殺事件や元正花スパイ事件で、国民の対北朝鮮感情が悪化しているために、軽々しい妥協は行なわない姿勢を見せている。
  このように各国の複雑な政治状況と金正日健康悪化説が重なってきたことから、6ヵ国協議の停滞が長期化する懸念が強まっている。
  どちらにせよ、10月10日の朝鮮労働党創建日までには、事態の推移が見えてくるはずだ。

以上

 
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