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北朝鮮の要求に屈したブッシュ政権

コリア国際研究所所長 朴斗鎮

2008.10.18

 北朝鮮核プログラムの検証問題でもたついていた米朝協議は、10月初のヒル次官補の訪朝後、北朝鮮の主張が大きく認められる形で決着した。米国務省のマコーマック報道官は11日午前(日本時間12日未明)、緊急記者会見を開き、ライス国務長官が北朝鮮に対するテロ支援国家指定を解除したと発表した。大韓航空機爆破事件の翌年(1988年)、北朝鮮をテロ支援国として指定してから20年9カ月目となる。
  これに対して北朝鮮の外務省報道官も12日、朝鮮中央通信を通じて、米国が北朝鮮へのテロ支援国家指定を解除したことについて「歓迎する」とした上で、「われわれも行動対行動の原則で寧辺の核施設の無能力化を再開し、米国と国際原子力機関(IAEA)の監視要員の任務遂行を再び許可することにした」と表明した。
  北朝鮮と米国が核検証で合意したことから、6カ国協議が24、25両日に北京で開かれる「アジア欧州会議(ASEM)首脳会議」を前後し開催される見通しだと、韓国政府筋が13日に伝えた。
 
1、合意内容

 指定解除に踏み切る根拠となった今回の合意は、未申告施設に対する立ち入り調査などについて米国側の要求を受け入れた形を取ってはいるが、それを実施するには双方の合意が必要となっており、実質的には北朝鮮に拒否権が与えられている。
  3ページにわたると言われる合意議定書の詳細は明らかではないが、関係筋によると核兵器の原料になるプルトニウムの生産実態の検証を最優先し、北朝鮮の核申告に記載された施設約15カ所だけを当面の対象とするとみられる。第2次核危機の発端である高濃縮ウラン計画や核兵器に直接関連する施設はいずれも未申告だが、北朝鮮は検証を拒むことが可能だ。シリアなどへの核技術移転問題も対象外で、将来的に北朝鮮が検証を受け入れる可能性は極めて低い。
  核爆弾の原料であるプルトニウムの抽出量を検証するために不可欠なサンプル採取についても、米国務省は「合意した」としているが、「国際標準」での実施は、北朝鮮の強い反発を受けてあいまいになった模様だ。核完全廃棄に不可欠な核兵器製造・貯蔵施設、核爆弾の数量、核実験施設などの検証も明確でない。
  下院外交委員会共和党筆頭理事のロスレイティネン議員は、北朝鮮には核計画放棄の合意を履行する意思はないことは明白だとして、「決定を強く批判する」との声明を出した。
  黄長Y朝鮮労働党元書記もこれまで、「北朝鮮の核放棄は絶対にない。金正日の後継者も絶対に放棄しない。それなのに核放棄させるといって騒いでいる。そこに神経を使っても仕方ないことなのに交渉している。愚鈍なことだ」と米国の政策を批判してきた。

2、合意の背景

 完全な検証の原則を守るといっていたブッシュ政権は、金正日健康悪化で守勢に立たされていた北朝鮮にまたもや譲歩し、助け舟を出す結果となった。
  ブッシュ政権は、核申告の内容で議会や世論から「弱腰」との批判を受けたため、検証問題では「国際基準の検証」を掲げ、未申告施設も含めて厳格な検証を行う方針を打ち出すなど、当初の姿勢を一部軌道修正した形を取っていた。しかし、北朝鮮が核施設の無能力化作業を停止したうえで、9月下旬に寧辺(ヨンビョン)の再処理施設でプルトニウムの再抽出の動きをみせると、またもや動揺し大幅譲歩に転じた。
  今回の妥協について、ブッシュ政権は6ヵ国協議の枠組み維持を名分にしているが、イラク戦争の失敗とサブプライムローンによる金融危機の深刻化で焦りに拍車がかかり、大統領の任期内に、なんとしてでも9・19共同声明履行のための2段階措置である核不能化までは進展させたいという思惑が強く働いたことは明白だ。またこの譲歩の裏には、核の不拡散に目標を下げたブッシュ政権が、金正日健康悪化でぐらつく北朝鮮政権の安定を願った意図もちらつく。
  北朝鮮側も▽寧辺(ニョンビョン)の核施設団地からサンプルを採取する▽同サンプルを国外に持ち出して調査するなど、一定部分を譲って条件を受け入れ、交渉局面への復帰を選んだのは、ブッシュ政権の任期内に「テロ支援国指定解除」という成果を獲得できるラストチャンスと見なしたからだと思われる。
  われわれは、検証問題が決着するとしたら米国の譲歩がある時だと分析していたが、危惧していた通りの結果となった。

3、引き続き残る米国の北朝鮮に対する制裁措置

 指定解除で一部の経済制裁は撤廃されるが、核実験実施などを根拠とした同種の制裁は依然として科されており、指定解除は米朝関係改善の「象徴」としての意味合いにとどまるとの見方もある。
  「テロ支援国家指定解除」で解除される制裁は、武器輸出統制法、輸出管理法、国際金融機関法、対外援助法、敵性国家交易法などであるが、2006年10月9日の北朝鮮の核装置爆発実験、核拡散活動、人権侵害などに関する制裁は別途の法や規制に基づき引き続き残される。
  今後も残る有効な対北朝鮮制裁として▼北朝鮮・イラン・シリア拡散禁止法(2000年)▼ミサイル関連制裁▼WMD(大量破壊兵器)拡散関連者の資産凍結などを盛り込んだ行政命令12938と13382▼人身売買被害者保護法(TVPA)上の3級(最低レベル)指定に基づく制裁▼外国支援法などに規定された人権侵害による制裁▼国際宗教自由法の「特に懸念のある国」指定に基づく制裁▼国連安全保障理事会の制裁決議1718号▼核実験国への防衛産業物資販売を禁じるグレン修正条項、などがある。
  また、ブッシュ大統領は同日に行政命令を通じ、今後も維持される貿易関連の対北朝鮮制裁を具体的に示した。行政命令によると、2000年6月16日から遮断されてき北朝鮮国籍者の全財産(3200万ドル)と財産上の諸権利は今後も遮断され、北朝鮮に振り替え、支払い、輸出はできない。あわせて、米国の国民や永住権保持者、米国の法に規定されたすべての団体は、北朝鮮に船舶を登録したり北朝鮮の国旗を掲げて運航する権限を取得できない。
  それ以外にも北朝鮮が共産国家と指定されているため「外国支援法620条」によって人道支援以外の援助は受けられず、輸出入銀行法(1945年)によっても取引禁止国家に指定されている。

4、韓国、日本の反応と両国に対する影響

 テロ支援国家指定解除は、韓国と日本の対北朝鮮政策に大きな影響を及ぼすと見られる。

強まる「通米封南政策」

 6カ国協議韓国首席代表の金塾朝鮮半島平和交渉本部長は12日に記者会見を開き、核検証体制に関する米朝協議の結果、米国が北朝鮮のテロ支援国家指定を解除したことについて、「政府は6カ国協議が正常軌道に復帰し究極的に核廃棄につながる契機ができたものと評価し、これを歓迎する」と述べた。また、近く6カ国協議が開催されることに期待を示した。
  金本部長は、未申告施設に対する検証を北朝鮮との合意の上で実施することにした点が不十分との指摘があることに関し、「これまで国際的に実施されてきた検証は、国際原子力機関(IAEA)の強制査察ではない以上、査察対象国の協力が必要となっている」と答え、現実的に北朝鮮の協力は欠かせないという一般的な内容だと説明した。検証活動の進み具合については、すべて北朝鮮がどの程度協力するかにかかっているとし、北朝鮮の協力を促すとともに、韓国も努力すると述べた。
  しかし、韓国政権内部における不満は強い。朝鮮日報は次のように報じている。
  「韓国政府内部でも、うかつなテロ支援国指定解除に懸念の声が多く、立場の整理には相当の困難が伴うとみられる。政府消息筋は『北朝鮮がテロ支援国リストに載ったのは1987年の大韓航空機爆破事件がきっかけだったが、韓国政府は北朝鮮からの謝罪がない状態でテロ支援国解除を受け入れるべきではないとの意見が多かった』と述べた。与党ハンナラ党、保守系野党の自由先進党などからは12日、「北朝鮮の謝罪や遺憾表明が先だ」と反発の声が相次いだ。
  また、米国による度重なる譲歩に対しても批判的な見方が出た。核施設に対する検証合意で米国が「国際的基準」をあきらめ、大幅に譲歩したのは原則を逸脱したものだと受け止められているためだ。韓国政府高官は『今回の米朝合意は今年4月に(分離申告案で合意した)シンガポールでの米朝協議のようにデリケートな問題をすべて先送りした弥縫(びほう)策だ』と述べた。また、李明博新政権の発足とともに対北朝鮮路線を大幅に修正したにもかかわらず、北朝鮮核問題に対する政策はこのままでは盧武鉉政権の基調と変わらないとの指摘もあるという。韓国政府による立場の整理が終わるまで外交・安保当局者に異例の徹底したかん口令が敷かれたことも政府内部の意見対立を念頭に置いたためだ」(朝鮮日報2008・10・13)。
  北朝鮮は今後、韓国に対する「通米封南政策」をさらに強め、南北関係膠着の責任を李明博政権に転嫁することで、「6・15共同宣言」の全面的受け入れと「10・4首脳宣言」の履行を強く迫ってくるだろう。
  北朝鮮の労働新聞は16日、「論評員の論説」を発表し、「(李明博政権が)我々の尊厳を傷つけ、無分別な反共和国対決の道に進み続けるなら、我々はやむをえず南北関係の全面遮断を含め、重大決断を下さざるを得ない」と李明博政権非難の度数を高めている。こうした北朝鮮の動きに歩調を合わせる形で、盧武鉉前大統領と金大中元大統領も李明博政権に対する批判を強め始めた。
  李明博政権としても「テロ支援国家指定解除」による「北朝鮮の非核化」の進展に合わせて、北朝鮮支援を行うとしていることから、今後「10・4首脳宣言」に対する対応を迫られることとなるだろう。

日本の政権交代を狙う北朝鮮

 麻生首相は12日、米国が北朝鮮に対するテロ支援国家指定を解除したことについて「北朝鮮の非核化には検証を実質的にやれる枠組みづくりが一番。それを取るために米国は解除を利用した。一つの方法だ」と理解を示した。しかし、蚊帳の外に置かれた日本外交のダメージは決して小さくない。
  河村建夫官房長官は12日、「拉致問題が置き去りになってはいけないとの強い思いがある。日本の拉致問題に対する政策は解除によって一歩も後退することはない」と強調し、拉致問題再調査の早期開始を強く迫る考えを示したが、対北朝鮮交渉で大きなカードをなくしたことは確かだ。
  今後日本政府が、拉致と核の2つの問題をめぐり、正念場を迎えることは間違いないだろう。この問題で、北朝鮮に対して毅然とした対応が出来なければ、麻生政権の支持率は急落するものと思われる。
  北朝鮮は速くも17日、「労働新聞」で、「軍国主義頭目の間抜けな企み」との個人筆名の論評を掲載し、麻生内閣を、過去の夢である「大東亜共栄圏」を今なお追い求めていると非難した。この非難の背景には、日本の政権交代を促進し、日朝交渉を有利に進めようとする思惑がある。
  イラク戦争のツケをまわされ、サブプライム損失の尻ふきをさせられ、今また拉致問題を置き去りにされた日本政府は、対北朝鮮政策で米国との同盟の意味を問い直さなければならない局面に来ている。

以上

 
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