北朝鮮は6ヵ国協議を離脱するのか
コリア国際研究所所長 朴斗鎮
2009.5.11
北朝鮮の朝鮮中央通信が5月2日に報じたところによると、北朝鮮の朴義春(パク・ウィチュン)外相は4月29日にキューバで開かれた非同盟諸国会議閣僚会議での演説で、6カ国協議不参加の立場を重ねて明らかにしながら、「強力な戦争抑止力」確保に努めると主張した。
朴外相は北朝鮮の長距離弾道ミサイル発射を非難した国連安全保障理事会の議長声明に言及し、これは安保理が国際法の上に君臨する強権と専横の道具に転落したことを示すとした。さらに「米国とその追従勢力が、朝鮮半島非核化に向けた6カ国協議共同声明の相互尊重と平等の精神を否定しようと乗り出した以上、6カ国協議はもはや存在することができなくなった」と強調した。そして安保理の強権行為に6カ国協議参加国が直接または間接的に加担した事実は、6カ国協議が北朝鮮の武装解除と屈服だけを狙う場に変わったことをはっきりと示していると述べた。その上で、「こうした協議には二度と、絶対に参加せず、6カ国協議のいかなる合意にもこれ以上拘束されないというのが政府の確固不動の決心であり立場」と明らかにした。
6ヵ国協議についてここまで言い切ったのは始めてである。これまではせいぜい「無期延期」を主張する程度であった。外務省声明だけでなく外相までもが国際会議の席上でここまで発言した以上、北朝鮮は後に引かないと思われる。北朝鮮はよほどのことがない限り6カ国協議から離脱するだろう。
では北朝鮮が国連安全保障理事会の議長声明を口実に、6ヵ国協議から離脱すると表明した背景には何があるのか。
1)それはまず6ヵ国協議での力関係の変化がある。
6ヵ国協議は、韓国に李明博政権が登場し、太陽政策を否定したことによって米韓日の連携が強化された。その結果6ヵ国協議内の力関係は変化した。
盧武鉉大統領時代、彼は「バランサーの役割を果たす」として機会あるごとに北朝鮮の代弁を行った。例えば北朝鮮の核開発に対してもインターネットニュースメディアと会見(2007年2月27日)で、「相手からの脅威に対応するため、脅かされないよう交渉するためなどの目的で核兵器を開発することはあり得る」との認識を示した。
また、米国のヒル国務次官補は、その功名心から、機会あるごとに北朝鮮と妥協し内外から厳しい批判を受けた。ちなみに彼の別名は「キム・ジョンヒル」であった。金正日に妥協を重ねたことを皮肉って人々が付けた「別名」だ。
この盧武鉉とヒルの存在こそが北朝鮮を6ヵ国協議にとどまらせた大きな要因であった。彼らによって6ヵ国協議は「3対3の構図」すら維持できず、4対2(米国・日本対他の4ヶ国)となり、ヒル次官補の親北朝鮮行動で米国と日本の連携すらもたびたび脅かされた。
しかし、韓国に李明博政権が登場することで太陽政策が否定され、米韓・韓日関係が改善された。米韓日の連携が強固になることで、6カ国の構図が「3対3」から中国をも引き寄せる3.5対2.5ぐらいに変化した。このことを如実に示したのが今回の安保理議長声明の採択であり、それに告ぐ北朝鮮企業3社に対する資産凍結措置であった。
北朝鮮が「米国とその追従勢力」と指弾した中には、中国とロシアも含まれている。北朝鮮のこの両国に対する「不信」、特には中国に対する不信を強めている。このことも6ヵ国協議離脱の要因となっていることは否定できない。
1月23日行った王家瑞中国共産党対外連絡部長との会談で金総書記は「朝鮮半島の非核化に努力し、関係各国と平和的に協議することを望んでいる」と述べていた。さらに「朝鮮半島の緊張は望んでいない。中国と協調して6カ国協議を進展させたい」と非核化プロセスを推進する意向も明らかにしていた。今回見せた「6ヵ国協議離脱」声明とは180度違った見解を示していたのだ。この変化を見ても中国の行動が与えた影響の大きさが分かる。
2)次に6ヵ国協議では2012年以前に米朝国交正常化が実現できないとの判断がある。
金正日政権にとって2012年の「強盛大国実現公約」は、政権の命運を左右する問題となっている。特に金正日の健康悪化でその実現は失敗を許されない状況となった。
核保有国の確立と経済の再生を二本柱とする「強盛大国」の実現で決定的なのは経済の再生である。それは米朝国交正常化なくしてはありえない。米朝が国交を正常化したとしても、北朝鮮経済が3年間で回復することは考えられないが、とりあえずは外資の導入は進められる。それによって国民を欺瞞することは可能だ。
しかし6ヵ国協議を通じての米朝国交正常化交渉では間に合わなくなった。米国との直接交渉に切り替えない限り時間が間に合わないのである。
3)そして6ヵ国協議で得るものはほとんど得たとの判断がある。
北朝鮮が6カ国協議で協議に応じたのは、核の廃棄ではなく「核の凍結」または「核の無力化」と言う名目の「寧辺核施設」の一時的解体であった。それで取れるものをすべて取ろうとしたのである。この「核の凍結戦術」でこの間に6ヵ国協議を餌に北朝鮮が得た食糧、エネルギーなどの物資と韓国などからせしめた資金は莫大だ。そればかりかBDA資金凍結の解除、テロ支援国家指定解除と敵性国家貿易法解除を米国からもぎ取った。
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北朝鮮は、国連安全保障理事会が「議長声明」を採択したことに対して謝罪しない限り、6ヵ国協議の離脱だけでなく、核開発の再開と第2次核実験、長距離弾道ミサイルの発射、軽水炉建設と濃縮ウランの生産まで実施するとしている。
これまで北朝鮮は一度にカードを見せずサラミ戦術を取った。米国や韓国が対価を準備する時間を与えたのだ。しかし今回は違う。ペースが速やすぎる。北朝鮮のもくろみは、核武装の強化を最優先させ、米国に核保有国と認めさせた上で、多者であれ米朝であれ朝鮮半島非核化のための6カ国協議ではなく、「核軍縮交渉」を行おうというものだ。
しかしこれが北朝鮮の思惑通り進むかどうかはわからない。この強硬策には盧武鉉後を誤算した背景と共通点があるからだ。それは、政策決定システムの硬直化と金正日の焦りだ。これは金正日の健康悪化と関係している。
北朝鮮の強硬策に対してオバマ政権が譲歩の姿勢を見せず、「制裁と無視」の政策を続けるならば、金正日政権はその強硬策の重みに耐えかねて自滅の道を歩む可能性が高い。そして、それは「後継者争い」を引き金に加速されるだろう。
2月19日、クリントン長官がインドネシアからソウルへ向かう政府専用機の機中で記者たちと懇談し、異例にも「北朝鮮の指導者たちの状況は不透明だ」として、「米国は北朝鮮で近いうちに、金正日総書記の後継者問題をめぐって危機が発生する可能性があるとみており、そのことについて懸念している」と述べたことが示唆的だ。
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