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今週のニュース

2009年上半期の北朝鮮情勢概況
―経済動向を中心に―

コリア国際研究所 北朝鮮研究室

2009.8.4

 2009年の北朝鮮情勢は、金正日の健康悪化が起点となって展開されている。それは2012年までに政治・軍事・経済強国を達成するとする「公約」と「金正日の寿命」との狭間で、後継体制の問題とも絡んで、一種の「焦り」ともとれる「短兵急」な国内外政策として現われた。

1、「通米封南政策」の破綻と国際的孤立の深化

 年初からいっそう露骨化した韓国に対する戦争脅迫、オバマ訪朝を催促した長距離弾道ミサイルの試射(4月5日)、その思惑が外れたことによる6カ国協議の離脱宣言と第二回目の核実験(5月25日)、そして韓国のPSI参加と米・日の行動を牽制する中・短距離ミサイルの連射(7月4日)など、北朝鮮はこれまでには見られない「強硬策一辺倒」の動きで一貫した。しかしこれに対して米国や韓国は引き続き「無視と制裁」の姿勢を貫いた。
  その結果、対米対話の道は閉ざされ、米国と韓国を分断する「通米封南政策」は失敗し、国連の新たな対北朝鮮制裁決議1874をもたらすこととなった。
  国連決議1874の採択には、それまで消極的だったロシアが積極的に同意したことで、国際的非難を恐れた中国も同意せざるを得なかった。特に6ヵ国協議からの離脱宣言は中国のメンツを潰すものとなり、中・朝間にいっそうの隙間風を送り込むこととなった。
  そればかりか、北朝鮮は国連に謝罪を求めるという「暴挙」に出ることで、非同盟諸国や東南アジア諸国からの孤立も鮮明にした。7月16日にエジプトで開かれた非同盟諸国会議(NAM)首脳会議で採択された共同宣言には「6カ国協議反対」や「米国批判」など、北朝鮮が当初意図していた内容は含まれなかった。それだけではない。過去34年間にわたり南北統一などに関連し、北朝鮮の主張が盛り込まれたいわゆる「朝鮮半島条項」も削除された。
  7月22日から2日間タイのプーケットで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)でも、各国は北朝鮮の核実験とミサイル発射に「重大な懸念」を表明、6者協議の早期再開を促した。北朝鮮は非難を恐れてか、この会議には大使級の人物(朴根光=パク・クングァン元ナミビア大使)を団長とする北朝鮮代表団しか送っていない。  
  しかし主催国のタイが各国の意見をまとめ最終採択した39項目からなる議長声明は、北朝鮮の核実験を糾弾する内容を盛り込む一方で、北朝鮮の主張の多くも反映しており今後に問題点を残した。
  国際的孤立が深まる中で、思うような資金調達も出来ず、貿易の拡大も望めないことから北朝鮮の国内経済は、「大躍進」どころか「小躍進」すら起こっていない。

2、起こる気配のない大高揚

 今年の北朝鮮3紙共同社説は「新たな革命的大高揚の時代がわれわれの前に開かれている。先軍朝鮮の歴史とともに末長く輝く昨年の12月24日、金正日同志がチョンリマの故郷である降仙(カンソン)の地に新たな革命的大高揚の火を点じたことは、金日成同志がチョンリマ運動の偉大な発端を開いた1956年12月の時と同じように、わが党と革命発展の一大転換期をもたらした特筆すべき出来事である。ここには、戦後の廃墟のなかからチョンリマ大高揚によって厳しい難局を打開し、自主、自立、自衛の強国へと飛躍した当時の精神、当時の気迫をもって世紀を先取りして疾風のごとく走りつづけ、先軍によって尊厳ある祖国の青空のもとに民族万代の繁栄を保証する社会主義の強盛大国を打ち立てて次代に引き継がせようというわが党の不動の意志がこもっている」と主張した。
  そして2009年を「2009年は、党の呼びかけ通り全人民的な総攻勢によって強盛大国建設の各部門で歴史的な飛躍を遂げるべき新たな革命的大高揚の年である」と位置づけた。
  しかし7ヶ月が過ぎた現在、強盛大国建設の各部門で「大高揚」が起こっている気配はない。

150日間戦闘に対する住民の不満

 北朝鮮は長距離弾道ミサイルの発射(4月5日)によって国際社会からの制裁が本格化したのを受け、経済的苦境の打開と内部統制の強化を狙って「150日戦闘(9月16日まで)」に打って出た。朝鮮労働党機関紙「労働新聞」の社説(5月4日)を通じ、国民総動員態勢を図っている。
  北朝鮮で期間を区切り生産や建設の目標達成を促す経済運営方式は「速度戦」と呼ばれており、これまで1970年代の「70日戦闘」「100日戦闘」や80年代の「200日戦闘」などが代表的だ。最近では、2005年の朝鮮労働党創建60周年を前にした「100日戦闘」がある。
  この社説以降、北朝鮮のすべてのメディアは「戦闘」のアピールに力を入れている。「核兵器よりもさらに強力な一心団結の威力を示せ」(労働新聞5月7日付)、「食糧問題の解決に向けた決定的な転換をもたらす」(同11日付)、「労働党の歴史における特筆すべき大変革」(12日の朝鮮中央放送)といった報道が相次いだ。また、朝鮮中央テレビは毎日、労働者などの組織が決意集会を開く場面を放送している。
  150日戦闘の実態について北朝鮮の内部消息筋は最近、デイリーNKとの通話で「労働党中央委員会から150日戦闘の指示が伝わった4月以降、各種の建設などへの努力動員が更に増えて、これに対する社会の統制が継続して強化されている」と述べ、「住民の恨みが高まるだけで、全社会的に生産力が高まっている雰囲気は感じられない」と話した。
  この消息筋はまた「保安員たちの取り締まりが強化されただけでなく、主にリュックサックを背負って移動する人に対する検問や女性のズボンを取り締まる監視隊の数が増えた」と述べ、「市場の周辺では、アパートの下で商売をしている人に対する私服保衛員の取り締まりの回数が増えて厳しくなった」と明らかにした。そして「平壌のピョンチョン区域の10号警戒所(保衛部所属)の警務(憲兵)たちは、以前と同じく、(通行証を持たないで)市民証だけを持っていても通過させているが、一般の人の包みを捜索するなど、取り締まりが強化されている」と付け足した。
  消息筋は一方で、「人民に対して100日戦闘に関する教育はなかったが、150日戦闘の後に100日戦闘が継続して行われるといううわさがある」と言い、「現在、全国的に行われている慈江道ヒチョン市の発電所の建設事業に動員されるなど、各種の努力動員が続くだろう」と話した(デイリーNK 企画室 [2009-06-17 16:39 ])。

市場の閉鎖は実行できず

 こうした統制が強化されているものの市場は完全に閉鎖されていない状況だという。
  農民市場に転換するための措置の一環として、ピョンソン市場が一時的に閉鎖されたとの報道(2日)があり、デイリーNKが緊急取材したが、当局は農民市場への転換を推進しているものの、平壌(ピョンソンやカンドンを含む)や会寧、恵山、茂山、新義州などの代表的な市場ではそのまま運営させていることが分かった。
  北朝鮮政府は2009年1月から、「総合市場」を農産物中心の10日市場である「農民市場」に転換するという布告文を出した。だが住民たちが反発したため、6ヶ月間実施を留保した。しかし6ヶ月過ぎた現在も市場閉鎖措置には何の進展も見られず、市場は正常に運営されているという。農民市場への転換は難しいと予想される(デイリーNK2009-07-11 09:18 )。

強まる富裕層たたき

 国家総動員体制が強化される中で「富裕層たたき」が本格化している。
  国防委員会は最近、「社会に根深く浸透した資本主義的な要素を根こそぎ抜き取ろう」という指示を出し、違法な手段で大金を稼いだ富裕層に対する監察を行っている。北朝鮮情勢に詳しい消息筋によると、今回の監察は、朝鮮労働党中央委員会の高級幹部を最高責任者とし、国家安全保衛部や検察などの権力機関が一体となって、全国を巡回して行っているという。
  最近韓国へ入国した脱北者によると、今回の措置は昨年中ごろ、咸鏡北道清津市で初めて行われた「非社会主義検閲」で、人民警備隊傘下のナムガン販売所のホン少将の自宅から200万ドル(現在のレートで1億9000万円)が発見されたことがきっかけとなった。ホン少将はこの莫大(ばくだい)な金を国家に寄付するという条件でいったんは釈放されることが決まったものの、保衛部の調査の結果、「敵線」(敵対国の情報機関)から資金が流れていたことが確認され、結局処刑された。この事件をきっかけに、富裕層に対する監察が始まったという。
  取得した経緯が分からない資産があると、無条件で保衛部へ連行され、「敵線」からの資金かどうかについての取り調べを受けるという。その結果、「敵線」からの資金であることが分かれば、地位を問わず処刑される。北朝鮮で億万長者が最も多い平壌を皮切りに、これまでに清津や新義州で監察が行われたが、4月には新義州だけで3人が処刑され、約10人が強制収容所へ送られた。
  監察団は住民からの情報提供を基に監察を行うという手法を取っている。自宅にフィットネス設備やサウナがあったり、愛人がいたり、あるいは水やコメ以外のすべての食糧を外国産のものでまかなっていたりする者が監察の対象になっているという(朝鮮日報2009/05/31 10:34:21)。

依然として続く北朝鮮の電力不足と食糧不足

 英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)が3月16日に報じたところによると、西欧諸国の駐韓大使館が開催した北朝鮮関連会議において、国際エネルギー問題の専門家や西欧外交官らは、北朝鮮の電力不足が飢餓や金正日総書記の健康問題と同等レベルで北朝鮮体制を脅かしていると指摘した。
  洪水による石炭鉱山の浸水、水力発電所不足、原油輸入の減少に伴い、衛星から所々に見られる北朝鮮の明るい地点も、次第に維持が困難となっている。
  1992年から北朝鮮のエネルギープロジェクトに関与している米シンクタンク、ノーチラス研究所は、北朝鮮のエネルギー需要が1999年の1300ペタジュールから2005年は500ペタジュールに減少したと明らかにした。1ペタジュールは原油約2万3885トンの熱量に相当する。こうしたエネルギー需要の減少は、北朝鮮の産業施設崩壊を意味するとの説明している。2005年以降は電力生産がやや回復したものの、災害を防ぐには不十分だという。
  北朝鮮ではエネルギー生産の70%を石炭が占めるが、鉱山の6割が洪水で浸水し、技術不足から採掘困難に陥っている。こうした問題は暖房や調理用燃料の不足でドミノ現象を誘発している。
  同研究所のピーター・ヘイズ所長は「農村地域の住民は生存のためもがき苦しんでいる。農村住民が燃料に使うため伐採を続け、山林は荒廃した」と述べた。
  また、昨年まで平壌駐在英国大使を務めたジョン・エベラード氏は、北朝鮮に新たに建設された水力発電所を視察したところ、1938年製のスウェーデン製タービンが装着されていたと紹介した(聯合通信2009/03/16 18:38 )。
  一方食糧面では昨年472万トンの食糧が生産されたものと推算されている(韓国政府は430万トンと推定)。これは2007年401万トンより71万トン増えたもので、韓国の情報当局は今年、北朝鮮の食糧難が例年よりは緩和されたものと分析した(中央日報2009.07.20 07:38:45)。しかし今年の弾道ミサイル発射や核実験によって国際社会の対北支援が断たれ、対北制裁が強化される中、洪水まで発生した可能性があり、来年には北朝鮮の食糧難がさらに厳しくなるというのが大方の見方だ。

対外貿易の縮小

 米カリフォルア大学サンディエゴ校のステファン・ハガード氏は「(北朝鮮貿易は)金剛山や開城での関係が悪化する韓国相手のみならず、中国との間でも減少している」と指摘したが、 北朝鮮にとって最大の貿易相手国である中国も、2009年1─4月は総輸出入額が3.7%減少した。
  丹東市のトレーダーによると、北朝鮮の通貨ウォンは、昨年の1人民元=約400ウォンから現在は同550ウォン前後に下落、対米ドルでは1米ドル=約3200ウォンから同約4000ウォンに下落しているという。
  北朝鮮ウォンの下落は同国製品が輸出競争力を持つことにもなるが、疲弊した経済環境下では、海外で売れるような製品はほとんど生産されていない。ある中国人ビジネスマンは「原材料以外で彼らが作るものには何も興味がない」と語る。
  北朝鮮からの石炭出荷は3月と4月に急増し、鉄鉱石価格などの下落を相殺した。丹東市の住民は「ウォンで決済する人はおらず、大量の米ドルが流通している」と語っている(6月19日15時38分配信 ロイター)。
  また中国の黒龍江新聞も2009年7月10日付で、5月末現在、延辺朝鮮族自治州の対外貿易輸出入が40%減少したと伝える中で、対北朝鮮貿易も40%ほど急落したと伝えた。

進まない北朝鮮投資

 北朝鮮が携帯電話を利用したインターネットサービスを最近になり開始したと北朝鮮の祖国平和統一委員会のインターネットサイトが5月21日に明らかにした。
  委員会のサイト「わが民族同士」はこの日、「共和国(北朝鮮)の消息をいつどこでも見たいという使用者の希望により携帯電話用ウェブページをこのほど新たに開設した。民族和解協議会が運営する『黎明』の編集部が作った」と伝えた。また、「『黎明』の携帯電話用ホームページでは毎日報道される朝鮮中央通信社の重要ニュースをはじめ、平壌(ピョンヤン)の消息を見ることができる」と説明している。北朝鮮は海外へのインターネット接続は遮断したまま金日成総合大学など機関別にホームページを製作し遠隔教育などに活用している(中央日報2009.05.22 08:03:16)。
  一方昨年12月にエジプトのオラスコムの投資により映像通話が可能な移動通信サービスも開始している。北朝鮮は2004年4月に竜川(ヨンチョン)駅爆発事故以降、携帯電話の使用を禁止していたが、盗聴システムを構築したことにより携帯電話の解禁に踏み切った
  オラスコムを引き込むことで外国投資を促進しようとしたが、国連制裁1874が決議されたことなどによって今年に入っての外国からの大口投資はいまだに実現していない。

3、韓国開発研究院(KDI)は金日成死去以来の苦境と指摘

 韓国開発研究院(KDI)はこのほど作成した「2009年上半期の北朝鮮経済動向報告書」で、ことし北朝鮮は、1994年の金日成主席死亡当時に匹敵するほど最悪の苦境に置かれていると分析した。そして核問題を解決しなければ、下半期に経済事情はさらに悪化すると予測している。
  報告書は、北朝鮮核問題について、過去には核無能力化が焦点だったが、今は核保有国としての地位を主張する北朝鮮とこれを容認しない5カ国の立場が正面衝突した状況で、突破口を見出すことはより難しいと指摘した。北朝鮮が核問題を国内政治目的に利用したことも、問題解決をより難しくする要因として挙げた。
  特に、金正日総書記の健康悪化による権力継承問題、核問題による国際社会の対北朝鮮制裁、南北関係の冷え込みなどで、北朝鮮経済は上半期だけでなく、下半期にも非常に厳しい局面に置かれると懸念した。
  現在、北朝鮮経済にとって最も直接的な打撃は、国際社会の対北朝鮮経済制裁措置であり、そのことから冷え込んだ南北関係の商品交易や委託加工にも相当の影響を及ぼしていると述べている。
  報告書は上半期の北朝鮮経済最大の特徴として、北朝鮮当局の経済運用の保守化と経済の二極化を挙げた。
  北朝鮮当局は「千里馬精神」や「150日戦闘」など過去の集団主義強制努力動員キャンペーンを再開することで住民統制力を強化し、動員できる内部資源規模の極大化を図っていると分析した。これを通じ、当局は平壌市街地の再開発など建設分野と農業分野に集中したが、事実上、経済効果はなかったと批判した。
  平壌のメディアは上半期の産業活動は大変良好だと発表し、北朝鮮訪問者らも景気低迷の兆候は見られなかったと話しているが、これについては、北朝鮮当局が人為的に国内計画部門に相当規模の資源を投入し、景気低迷を一時的に防いだためだと説明した。
  また、北朝鮮住民は実質購買力の低下で生活必需品を買うことができず、穀物をはじめ主要商品の市場価格が値下がりする奇妙な現象が発生していると説明した。昨年以降の平壌と平壌以外の地域の二極化現象も、改善の兆しが見えないと分析した(聯合通信7月17日10時44分配信)。

以上

 
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