【コラム】手の内が丸見えの金正日弔問団 北朝鮮の対応に変化なし
孫光柱デイリーNK編集局長
2009.8.21
金己男(キム・ギナム)朝鮮労動党書記を団長とした北朝鮮弔問団が21日ソウルに到着した。李明博政権出帆後における北朝鮮当局者の訪問は初めてだ。
北朝鮮が、正確には金正日が送って来た弔問団の目的については、韓国国民は大体分かっている。一言でいって、韓国政府の対北朝鮮政策を「6・15」、「10・4」 宣言路線に、言い換えれば「太陽政策」に引き戻し、再び韓国内部の対立を誘発させようというもので、過去10余年間一貫して行なってきた対南戦略戦術の一環だ。そこには韓米同盟を弱化させようとする多くの浅知慧が込められている。
今回の弔問団派遣も、クリントン元米大統領の訪朝から始まった金正日の「対外宥和攻勢」の延長線上にある。
金正日は米女性記者2人を解放しながら、クリントン元大統領に対北朝鮮敵視政策をしないでほしいと「お願い」をしたようだ。そればかりか国連駐在北朝鮮代表部金明吉(キム・ミョンギル)公使を、知北派といわれるビル・リチャードソン・ニューメキシコ知事に送り、米朝二国間対話を頼み込ませたが、むだ骨だったようだ。それでも金正日はオバマ大統領のズボン裾をつかもうと必死だ。米国をはじめとした国連会員諸国の制裁から脱しようともがいているのだ。
ところが変なことに、金正日は韓国側に対しては一つも態度を変化させていない。手が見え見えの囲碁を今度もやっている。金正日は玄貞恩(ヒョン・ジョンウン)現代グループ会長を「利用」して 5項目に合意した。金正日は、朴ワンジャさん射殺事件には頬かむりしながら、「6・15」、「10・4」宣言に戻るように韓国政府を圧迫し、民間企業と韓国政府を逆さまにして、またもや「南・南対立」を誘発するための見え透いた手を打とうとしている。玄会長は玄会長で、現代グループを助けたい一心から、政府がすべきことまで「やらかして」北朝鮮との合意をもち帰って来たようだ。
韓米の離間を図る金正日の姿は哀れでさえある。朝鮮中央通信は、現代グループとアジア・太平洋平和委員会の共同報道文を夜明けの4時頃に報道した。北朝鮮の夜明け4時頃といえば、米国では午前、午後の時間帯、言い換えれば丁度ニュース報道の時間帯だ。これは米国を意識した報道であったことは間違いない。国連の対北朝鮮制裁を忠実に履行してきたオバマ政権は、韓国が北朝鮮にドルを与えるという観光再開の報道に、たぶん「これは一体何の話か?」という反応を見せたはずだ。
金正日のこのようなやり方は、2000年に金大中元大統領を平壌順安空港に出迎えた金正日が、素早く金元大統領を自分の乗用車に乗せて百花園招待所まで走った場面をそのまま連想させる。金正日のそうした「ショー」は米国に見せるための行動だ。「私たちは今、わが民族どうしで話す」と米国にプロパガンダするためのものである。
今回の金大中元大統領弔問団の訪問も、大きくは韓米離間策の一環であり、韓国の内部対立誘発を狙ったものであり、李明博政権を圧迫するためのものだ。金正日は、相変わらず「通米封南」を追及している。北朝鮮の「通米封南」は一種の対韓国戦略戦術の「DNA」 のようになっていると見れば間違いない。
韓国政府がこうした戦術の本質を理解しているだろうとの前提で、今回の弔問団問題に関して、一つ二つ釘を刺しておきたいことがある。
第一に、今回の弔問団を「私設弔問団」と規定して、政府は公式的協議や対話に応ずる必要がないということだ。政府が弔問団と公式に会おうとするならば、まずは朴ワンジャさん、開城工団のユさん抑留など、正常または通常の南北関係を害した行為に対しての謝罪を受けてから考慮すればよい。
第二に、政府が非公式的にでも会う必要があったら、金己男や金養健より職責が低い情報機関関係者が会った方がよい。それは「あなた方が韓国へ来たので身辺の安全は保障するが、しかし大韓民国政府は北朝鮮の非人道的行為に怒っている状態」という事実を明確に伝達する必要があるからだ。
第三に、もし今後の対北朝鮮戦略のために、統一部長官が必ず会わなければならない状況であるなら、統一部長官が金己男書記と金養健部長に謝罪を求めている姿を言論公開することも一つの方法となる。
しかし基本的には、今回の弔問団を「私設弔問団」と規定して、政府はそれに相応する行動をとった方がよいだろう。現在コーナーに追い込まれているのは、国際社会の制裁を受けている金正日政権であって、大韓民国政府ではない。今は米国含めた国連会員諸国が対北朝鮮制裁をしている局面である。
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