【コラム】中国にとっての「6ヵ国協議」と中朝同盟
コリア国際研究所所長 朴斗鎮
2009.10.23
10月10日に行なわれた中韓日3ヵ国首脳会談は、われわれに貴重な結論をもたらした。それは中国が北朝鮮の核放棄も金正日体制の崩壊も望んでいないことを明確にしたことである。今回の会談での温家宝発言は、これまで一部で喧伝された「中朝矛盾拡大論」が明らかに間違いだったことを示した。
北朝鮮が今年5月に行った2度目の核実験以降、韓日米の一部専門家の間では、北朝鮮の無謀な行動が中国の指導者を激怒させ、中国内でも北朝鮮政策を深刻に見直しはじめているという説が広がった。
中国の一部専門家すらそうした説を裏付ける分析を出した。北朝鮮が、今年4月に長距離弾道ミサイル(北朝鮮は人工衛星と主張)を発射した後、中国の胡錦濤・国家主席が直接北朝鮮に自制を注文したにもかかわらず、5月、核実験に踏み切ることで中国の体面を汚し、これを受け、中国の北朝鮮への対応がより強硬になっているという内容だった。しかしこうした諸説は温家宝首相の訪朝を通じていずれも虚説だったことが分かった。
一部で流された「中朝矛盾拡大論」は、中朝間の矛盾を過大評価する反面中朝同盟の役割を過小評価することによって、中国の「本心」を覆い隠す役割を果たしてきた。その結果、中国に国際社会と北朝鮮を使い分ける二面的行動を許すことになったのである。
中国の国益は北朝鮮の核廃棄ではなく、中朝同盟の維持
中韓日3ヵ国首脳会談における温家宝発言は、中国が6ヵ国協議にいかなる役割を付与しているかを明確にした。
中国にとっての6ヵ国協議は、北朝鮮の核を放棄させるためではない。それは北朝鮮の核廃棄を願う米国、韓国、日本に過大な期待を抱かせ、中国に対する依存度を高めさせることにねらいがある。そのため中国は国連では北朝鮮の制裁に賛成しながらも裏では北朝鮮に援助を与え、金正日の核の脅威を持続させている。このような中国のもくろみはこれまで思惑どおり進んでおり、その結果いまもなお米国、韓国、日本は中国に期待を寄せ続けている。
今回も中国は「米朝対話が開かれれば、内容にかかわらず北朝鮮は6カ国協議に復帰する」との「感触」を関係国に伝えた。その根拠としてあげているのは、米国が「米朝対話に出席すること自体が、北朝鮮の復帰への意欲を裏付ける」からというあいまいなものだった。最も期待された6カ国協議復帰を確信させる金正日国防委員長の発言は紹介しなかった。
温家宝発言はまた、中朝同盟が維持される限り中国は北朝鮮に対して影響力を行使することができないということも明確にした。
中国がもしも影響力を行使することができるのなら今回の訪朝でもう少し毅然とした対応ができたはずだ。中朝同盟が維持される限り、そこに中国の外交安保上の国益が存在する限り、中国は北朝鮮の核に対するいかなる影響力も行使できないということがはっきりした。金正日が核の放棄と中国式改革解放要求を拒否できるのは、中国がそれを北朝鮮に要求できないということをよく分かっているからである。
中国は非核化のため北朝鮮体制を揺さぶるだけの圧力や制裁を加える意向が全くない。国連安保理決議の可決に加わったのも、米国と国際社会を意識したジェスチャーにすぎなかったのである。
中朝同盟を弱体化させなければ北朝鮮の核問題は解決しない
前段でも指摘したように、安保戦略から見た時、中国が北朝鮮の味方だということは明白だ。まずは中朝同盟を崩さない限り、6ヵ国協議で米国が北朝鮮の核廃棄をいくら追求しても金正日は決して核武装をあきらめないだろう。
安保戦略上、北東アジアで朝鮮半島がいかなる役割を果たしているかについてもう一度冷静に考える必要がある。冷静に眺めれば中国が北朝鮮を手放さない理由がはっきりと見えるはずだ。中国が台湾を手中に収めていない状況で、韓米同盟軍が鴨緑江(アムノッカン)と豆満江(トゥマンガン)まで進出した場合、自国の運命がどうなっていくかを中国はよく知っている。朝鮮戦争(1950〜53)に介入したのもそのためだった。
こうした中国の戦略的利益を考えた時、北朝鮮にいくらかの経済援助を提供し北朝鮮の崩壊を防ぐことは中国にとって安い経費である。そこから起こる国際社会からの非難は、大国化した中国にとって大したことではない。
だからと言って中国は、韓国の一部専門家が懸念する「金正日政権崩壊後、北朝鮮を直接統治する」ことも願っていない。自国内のチベット、ウイグル自治区を統治する問題だけでも精一杯だからだ。領有権を主張する台湾との統一も実現されていない状況で、北朝鮮を引き受け、あえて韓国と国際社会の指弾をかぶるメリットはどこにもない。 北朝鮮国民の抵抗や経済再建に費やされる天文学的な投資費用を考えた時なおさらその動機は薄れる。
結局中国の立場からみれば、朝鮮半島の現状維持が最も国益に合致するということだ。北朝鮮の核は米朝が対立している限り中国にとって脅威とはならない。むしろ朝鮮半島の分断状況に北朝鮮の核が加われば、米韓日に対する外交的優位も維持できる。「費用対効果」を考えれば、現状維持のための北朝鮮援助は全く損のない投資といえる。
現状の北東アジアでは、北朝鮮の核が加わることによって中国・北朝鮮と韓・米・日・台湾の間に勢力のバランスが取られている。韓中間の貿易がいくら増え、域内の経済的統合が促されているとしても、地政学に基づく勢力のバランスを壊すことはできない状況となっている。そして現在の勢力バランスが維持される限り、中国は安心して経済成長に専念できる。
北朝鮮の核問題を解決するには、こうした勢力バランスを破らなければならない。すなわち中国が北朝鮮の核問題解決に乗り出すことが利益と感じるようにしなければならないということだ。
中国が北朝鮮との同盟に不利益を感じた時中朝同盟は弱体化する。中朝同盟が弱体化すれば北朝鮮に対する国際的制裁ははじめて決定的効果を発揮し、北朝鮮は核の放棄へと向かわざるをえなくなる。
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