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主導権掌握に失敗した李明博政権

2010.7.17
コリア国際研究所所長 朴斗鎮

 国連安全保障理事会は7月9日午前に公式会合を開き、韓国哨戒艦「天安」沈没を招いた攻撃を非難する議長声明を、わずか9分で、討議もしないまま全会一致で採択した。安保理の討議は6月4日に韓国政府が正式に問題提起してから35日で幕を下ろした。
 議長声明は11項目(資料参照)からなり、安保理議長国ナイジェリアのオグ大使が朗読した。
 声明は、2010年3月26日に「天安」の沈没と、これに伴う悲劇的な46人の人命損失を招いた攻撃を非難し、韓国主導の下、米国、英国、カナダ、オーストラリア、スエーデンの5カ国が参加した「民間・軍合同調査団」が「天安」沈没の責任が北朝鮮にあると結論付けた調査結果にかんがみ、深い懸念を表明するとした。
 そうした脈絡で声明は、哨戒艦が攻撃(attack)を受けたという点を明示し、このような行為を非難(condemn)するとともに、韓国に対する追加攻撃や敵対行為などの再発防止の重要性を強調した。また、今回の事件の責任者に対し、適切で平和的な措置が取られるよう促すとし、今後韓国と地域に対するこのような攻撃や敵対行為を防止することが重要だと強調した。
 声明は韓国が示した抑制を歓迎し、朝鮮半島や北東アジア全体で平和と安定を維持する重要性を強調するとした。また朝鮮戦争休戦協定の完全な順守を促し、紛争の回避と状況悪化の防止を目的に、適切なルートを通じ直接対話と交渉を可能な限り速やかに再開するため、平和的手段として朝鮮半島の懸案解決を奨励すると明らかにした。
 しかし、北朝鮮を名指しする表現や文言は最終的に盛り込まれなかった。また、「天安」沈没に関連がないと主張する北朝鮮の反応、その他関連国の反応に留意するとした。
 公式会合には韓国の朴仁国(パク・イングク)大使は出席したが、北朝鮮の申善虎(シン・ソンホ)国連大使の姿はなかった。しかし、申大使は公式会合が終了してから約1時間後に会見場に現れ、「安保理は今回の事件に対し公正な判断を下すことに失敗した。(今回の事件で)休戦協定自体が不安だということが明らかになったため、6カ国協議を通じ、これに関連する論議を行うべきだ」と述べた。(聯合ニュース2010/07/10 )。

1、北朝鮮を追い詰められなかった李政権

 韓国政府は7月9日、交通商部報道官名義の声明を出し、安保理が「天安」沈没の責任は北朝鮮にあると結論付けた韓国合同調査団の調査結果にかんがみ、深い懸念を表明し、非難するとした議長声明を全会一致で採択したことを歓迎すると述べた。
 北朝鮮は今後、韓国に対するいかなる挑発も許されないという国際社会の強い立場を重く受け止めなければならないと強調し、朝鮮半島の平和と安定を阻害する挑発と行動をせず、「天安」沈没事件について明確かつ率直に過ちを認め謝罪し、国際社会の前で責任ある姿勢を取るよう促した。
 今回の議長声明については、「国際社会が声をひとつに北朝鮮の『天安』攻撃を非難し、韓国へのさらなる挑発を防ぐ重要性を強調したという点で、大きな意味がある」と評価。安保理理事国の協力と支持に謝意を表明した。
 また、「天安」事件対処の過程で合同調査団に参加した米国、スウェーデン、英国、カナダ、オーストラリアを含め、韓国政府の立場を支持したすべての友好国と国際機関に謝意を表するとした。
 では北朝鮮を犯人と名指ししなかったこの声明を韓国政府が評価した点はどこにあるのか?
 それはまず、「糾弾(condemn)」という単語が使われたことだ。この単語は安保理声明で、相手を最も強く非難する際に使用する表現だ。これよりも弱いものとしては、「慨嘆(deplore)」「憂慮(concern)」などの表現が用いられる。「糾弾」という表現を用いるよう主張する韓国の要求に、中国が反発したが、議長声明には結局、この単語が含まれた。
 そして特に「攻撃(attack)」という単語が使われたことを重要視した。「事件(incidence)」という中立的な単語に比べ強い表現であるだけでなく、攻撃という単語が使われたことによって、天安艦が外部攻撃による沈没だということが認定された。これは内部陰謀説を主張する北朝鮮や韓国の親北朝鮮勢力の主張を退けたものとして重要な意味を持つ。
 韓国国内の「天安艦陰謀論者」たちの主張はいずれも、「天安艦は座礁して二つに割れた」「天安艦内部で爆発が起こった」といったものだ。ところが中国もロシアも、「天安艦は攻撃を受けた」という結論には同意したのである。つまり、北朝鮮を擁護するこれらの国々さえも、「韓国陰謀論」の側には立っていないということだ。
 今回の安保理の説明は「人命が失われた攻撃を糾弾」→「事件の責任者に対する適切な措置を要求」→「北朝鮮に責任があるという合同調査団の調査結果を引用」→「『天安』の沈没を招いた攻撃を糾弾」などの脈絡を通じて、間接的に北朝鮮を非難している。しかしG8の声明のように、「韓国に対するいかなる攻撃や敵対的な脅しも慎むことを北朝鮮に要求する」というような一つの文章で北朝鮮に対する要求を直接的に表現した部分がない。そのため、安保理声明はG8のそれよりも弱いと見ることができるばかりか、北朝鮮がこの声明を逆利用する余地を残すことになった。

2、主導権掌握に失敗した李明博政権

 今回の議長声明最大の争点は言うまでもなく、北朝鮮をどれだけ直接的な糾弾対象として言及するかということにあった。しかし「北朝鮮による犯行」という文言は結局使われなかった。ここに李明博政権の国内外における力の限界が見られる。
 李明博政権が今回、「天安艦沈没は北朝鮮による犯行」という国連安保理の「お墨付き」を取り付けていれば、北朝鮮の「戦争瀬戸際政策」を封じ込め、南北関係の主導権を完全掌握できる絶好のチャンスであった。しかしそれは実現しなかった。
 実現できなかった要因としては
 @6・2地方選挙で敗北し、国論の統一を図れなかったこと。
 A韓国軍の行政化(サラリーマン化)と綱紀の乱れによって軍内部の規律が緩んでいたこと。
 Bそのことによって、参与連帯をはじめとした親北朝鮮勢力に「謀略説」を流すスキを与えたこと。
 などがあげられる。

 外交は言うまでもなく内政の延長である。国内が分裂して成果を収められるわけがない。

@国論を統一できなかった李政権

 韓国国会は6月29日、海軍哨戒艦沈没事件に関連し、与党ハンナラ党が提出した対北朝鮮非難決議案を、賛成163、反対70で可決した。
 決議案は、「北朝鮮の魚雷攻撃は明白な侵略行為で、容認できない。北朝鮮の軍事挑発行為を強く糾弾する」と明記。北朝鮮に、責任者の処罰や賠償、再発防止を約束するよう求めた(読売新聞、2010年6月29日)。しかし民主党をはじめとした野党は最後まで北朝鮮を名指しすることに反対した。
 李明博政権は6・2地方選挙で野党に惨敗しただけでなく、韓国国会における「北朝鮮糾弾決議」すら全会一致を勝ち取れなかったのである。国家安保にかかわる決議案が全会一致とはならず多数の反対票を出したことは、北朝鮮の対韓国攻勢や「狂牛病デマ」を流した参与連帯などの「かく乱工作」に力を与える結果をもたらした。

A軍の行政化と綱紀の乱れをチェックできていなかった李政権

 李明博政権は国防の要である韓国軍の行政化と綱紀の乱れをチェックしないまま対北朝鮮政策を遂行していた。
 軍当局は、海軍哨戒艦「天安艦」沈没が発生した3月26日夜の緊急状況を遅れて報告しただけでなく、現場の重要な判断を歪曲・削除し、上部に報告した。このことが監査院の監査結果で確認された。また北朝鮮の潜水艇を鳥の群れと修正し虚偽報告していたことも明らかとなった(国防長官は否定)
 そればかりか、軍・民合同調査団の記者会見で示した北朝鮮魚雷の図面が当該魚雷の図面ではなかった(とり違いの単純ミス)ことも判明した。こうしたミスが「韓国謀略説」を後押ししたことは言うまでもない。
 また軍の少将が北朝鮮に軍事機密を売り渡していることも明らかになった。韓国軍当局は6月9日、韓国の元情報機関員(56)が北朝鮮工作員に軍事機密情報「作戦計画5027」の一部を流していた事件と関連して、現役の韓国軍少将を国家保安法違反の疑いで逮捕した。
 こうした軍の乱れが「油断」をもたらし「天安艦撃沈」につながったことは言うまでもない。
 韓国国防部は14日、京畿道平沢の第2艦隊司令部で金泰栄(キム・テヨン)国防長官をはじめ、幹部や指揮官ら293人が出席する中、今年上半期の全軍主要指揮官会議を開催した。国防部ではなく、部隊で全軍主要指揮官会議が開催されるのは初めてで、軍関係者は「今回、第2艦隊司令部で会議が開催されたのは、哨戒艦『天安』沈没事件に対する軍の強い覚悟を示すためだ」と説明した。
 金長官は訓示で、「天安問題で軍への信頼は低下し、内部では自責の念と共に、部隊や階級間での不協和の露呈など、軍は"総体的危機"に直面している」と述べた。さらに金長官は「きょう、この場に集まった理由は、国民の不安と心配、さらには天安問題がもたらした危機を正しく認識し、第2の創軍を行うという覚悟をもって、国民が願う新たな軍へと生まれ変わる決意を確認し合うためだ」と強調した。
 金長官は「われわれは敵が挑発してくる可能性を予測できたにもかかわらず、結果的に奇襲攻撃を許してしまった。この警戒の緩みは、長官を含む全員の責任であることを痛切に反省しなければならない」「とりわけ早期の対応が未熟で、これに伴う危機管理の穴は、われわれ全員が反省すべき痛恨のミスだ」と述べた。
 金長官はさらに、「調査結果については世界の多くの国々が認めている。しかしこれを信用せずに、ウソと詭弁(きべん)で真実を歪曲(わいきょく)する勢力も存在していることは、非常に残念で嘆くべきことだ」「軍への監査結果に伴う措置を推進する過程で、特定の個人が悔しい思いをすることがないよう、明確な検証過程を経て、正しい方向で処理していきたい」と指摘した(朝鮮日報2010/07/15)。

B親北朝鮮勢力にかく乱された李政権

 李明博政権は、6・2地方選挙の惨敗によって親北勢力にかく乱された。6.2 地方選挙で「戦争か平和か」という根拠のない 2分法的煽動、「与党が勝利すれば戦争になる」などとするデマが選挙状況に影響を与え野党に勝利をもたらした。この選挙後、中国はその外交を明確に自国の国益に合致する北朝鮮寄りに転換した。
 親北朝鮮勢力の代表的人物である白楽晴(ペク・ナクチョン、71、平安南道出身、ソウル大名誉教授)は、6・2選挙での野党勝利を「太陽政策」へと引き戻す歴史的転換点になると位置づけ、これで親北勢力は一息ついた(プレイシアン)と語った。そして対北朝鮮宥和政策こそが韓国民主化闘争の継承であるとの詭弁でもって親北朝鮮勢力を駆り立てている。
 こうした主張を「大儀名分」に「参与連帯(「参与民主社会と人権のための市民連帯」−狂牛病デマを流した団体)や「進歩連帯」(不法に北朝鮮入りし韓国政府を非難した韓・サンヨル牧師が常任顧問)などが「市民運動」を装って、「天安艦沈没は李明博政権の謀略だ」とのプロパガンダを流し続けた。民主党の「崔文洵(チェ・ムンスン)議員」などによる「デマ騒動」はこの動きに拍車をかけた。これは5月29日に出された「金正日指令」(自由アジア放送)に歩調をあわせたものである。
 こうした国内での「反乱」によって、李明博政権が、対中・対ロ外交で弾みをつけることができなかったのはいうまでもない。
 特に参与連帯の「安保理書簡送付事件」(6月11日)以後 中・ロは「韓国内部にも調査結果に疑問が提起されている … 国内でもできていない合意を外国に要求するのは不適切だ」と主張して、北朝鮮非難決議に同意しない動きを強めた。この動きに京郷新聞、ハンギョレ新聞、プレイシアン、オーマイニュースなど左派系マスメディアが同調した。

3、安保理声明逆利用に出てきた北朝鮮

 今回の安保理議長声明採択過程で中国は、これまでの二面的行動をかなぐり捨て、自国の国益を守るために北朝鮮擁護を鮮明にした。その結果、議長声明には北朝鮮の主張を反映し、「留意する(take note)」という表現まで挿入された。
 この「留意する」との表現は、特別な意味を持つ文言ではなかったが、北朝鮮側に議長声明を利用する余地を残した。それは北朝鮮の申善虎(シン・ソンホ)国連大使が、記者団に対し「(安保理声明の内容を)素晴らしい外交的勝利と見なしている」と話した(ロイター2010・7・9)ことからも明らかだ。
 北朝鮮外務省報道官は10日、朝鮮中央通信記者の質問に答え、「天安艦事件は最初から国連の持ち込む必要もなく、北南間で解決するべきだった」と語り、天安艦攻撃を糾弾する国連安全保障理事会の議長声明について、「われわれは議長声明が『朝鮮半島の懸案問題を適切なチャンネルを通じて、直接対話と交渉を再開し、平和的に解決することを奨励した』ことに留意する」とし、「平等な6カ国協議を通じて、平和協定締結と非核化を実現するための努力を一貫して傾けていく」と述べた。
 また「朝鮮半島での衝突とそれの拡大を防ぐことについての議長声明が出た。したがって、敵対勢力がそれに逆行する武力示威や制裁といった挑発にこだわり続けるなら、われわれの強力な物理的対応を免れことはできないだろう」と威嚇した。
 このような反応は、天安艦撃沈によって一定の成果(韓国民に対する戦争の恐怖注入、6・2地方選挙における野党の勝利など)を収めた北朝鮮が、早期に天安艦問題を締めくくり、6ヵ国協議再開を名分に、次の目標である「停戦協定の平和協定への転換」交渉へとシフトしてきたことを示すものだ。
 これに対して韓国政府高官は11日、「北朝鮮は先に天安艦事件に対して謝罪もしくは過ちを認めて、非核化への意志を示してこそ6ヵ国協議の再開が可能だ」と述べ、6ヵ国協議再開に先立って天安艦事件の解決が先決であるという基調を再確認した。
 このような南北間の対応の違いは、今回の議長声明の曖昧さがもたらしたものだ。

 議長声明の第10項「安保理は、…直接対話と交渉をできる限り早急に再開するため、…韓半島の懸案を解決することを勧奨する」となっているが、この内容を韓国は「対話と交渉のためには、懸案(天安艦事件)問題の解決が先決だ」と解釈し、北朝鮮は「対話と交渉を通じて懸案問題を解決すべきだ」(東亜日報2010 ・7・12)と自分に都合のよい解釈をしている。
 この状況は、あの6カ国協議合意文のやり取りにそっくりである。

*         *         *

 北朝鮮は韓国が要求した「明確かつ率直に過ちを認め謝罪し、国際社会の前で責任ある姿勢を取る」という基本的責任をまったく履行していないため、このまま6カ国協議を再開する場合、李大統領としては、大きな政治的負担を負わざるを得ない。韓国の将兵46人の犠牲を紙1枚の安保理議長声明と交換していいのかという批判が起こることは十分に考えられる。
 また6カ国協議が再開された場合、国際社会による北朝鮮への圧力が弱まるのは避けられず、北朝鮮が韓国に対して下手に出る可能性はさらに小さくなる。これまで通り北朝鮮は制裁を避けるために、中国の後押しを受けた上で米国との対話の雰囲気を高め、その一方で韓国に対しては強硬な態度を取るだろう。そうなった場合、南北関係は今後も行き詰まりから脱却できない。
 北朝鮮の6カ国協議再開戦術にどう対応するのか。李明博政権の対応しだいでは南北関係の主導権が再び北朝鮮に握られる可能性が出てきた。

[資料]
<国連安全保障理事会議長声明の全文>


 国連安全保障理事会は9日、韓国海軍哨戒艦「天安」沈没事件をめぐり公式会合を開き、「天安」沈没を招いた攻撃を糾弾する議長声明を全会一致で採択した。議長声明の全文は次の通り。

1、国連安全保障理事会は2010年6月4日付の韓国国連大使名義の安保理議長あての書簡(S/2010/281)および2010年6月8日付の北朝鮮国連大使名義の安保理議長あての書簡( S/2010/294)に留意する。

2、安保理は2010年3月26日に韓国海軍哨戒艦「天安」の沈没と、これに伴う悲劇的な46人の人命損失を招いた攻撃を非難する。

3、安保理はこのような事件が地域の平和と安全を脅かすと規定する。

4、安保理は人命損失と負傷を非難し、犠牲者と遺族、そして韓国の国民と政府に対し深い慰労と哀悼を表し、国連憲章およびその他すべての国際法関連規定に基づき、この問題の平和的解決に向け、今回の事件の責任者に対し適切で平和的な措置が取られるよう促す。

5、安保理は、韓国主導の下、5カ国が参加した「民間・軍合同調査団」が北朝鮮に「天安」沈没の責任があると結論付けた調査結果にかんがみ、深い懸念を表明する。

6、安保理は、今回の事件と関連がないと主張する北朝鮮の反応、そしてその他関連国の反応に留意する。

7、従って、安保理は「天安」沈没を招いた攻撃を非難する。

8、安保理は今後、韓国または域内への攻撃や敵対行為を防止する重要性を強調する。

9、安保理は韓国が示した抑制を歓迎し、朝鮮半島や北東アジア全体で平和と安定を維持する重要性を強調する。

10、安保理は朝鮮戦争休戦協定の完全な順守を促し、紛争の回避と状況悪化の防止を目的に、適切なルートを通じ直接対話と交渉を可能な限り速やかに再開するため、平和的手段として朝鮮半島の懸案解決を奨励する。

11、安保理はすべての国連加盟国が国連憲章の目的と原則を支持する重要性を再確認する。

【2010・7・9聯合ニュース】

 
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