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2012年北朝鮮3紙共同社説−金正日賞賛と遺訓の強調

コリア国際研究所所長 朴斗鎮
2012.1.8

 金正日総書記の急死(2011・12・17)を受け注目されていた北朝鮮の「3紙共同社説」(労働新聞、朝鮮人民軍、青年前衛)「偉大な金正日同志の遺訓を奉じ、2012年を強盛復興の全盛期が開かれる誇りに満ちた勝利の年に輝かそう」は、金正日の偉大さと遺訓政治を強調し、強盛国家実現と金正恩中心の団結を呼びかけた。金正日の遺訓を強調するために、金正日を金日成と対等かそれ以上に描写するという「異常さ」まで見せた。しかしその内容は、これまでに見られない上滑りで貧弱なものであった。総論的主張に終始したため、分析に値する具体的内容はほとんどなかった。今回のように何のビジョンも提示しない新年共同社説は極めて珍しい。それは、そのまま北朝鮮新体制(金正恩体制)の実情を示している。
 この空虚な共同社説を「貫徹しよう」との決起集会が、金日成広場で3日に行なわれ雪の中で市民約10万人が動員された。崔永林首相や、平壌市の党責任書記を兼務する文景徳党書記も出席。「敬愛する金正恩同志を首班とする党中央委員会を死守しよう」「人民生活向上」といったスローガンが会場に登場した。集会後、参加者はスローガンや宣伝画を掲げ市内を行進した。

1、「金総書記の遺訓」と金正恩中心の団結を

 今年の新年共同社説の最大の特徴は、見出しに「偉大な金正日同志の遺訓を奉じ・・・」とあるように、故金正日総書記の遺訓を強調しているところにある。「遺訓」という表現は計10回登場し、故金日成主席死亡後の最初の新年共同社説(1995年1月1日付)の4回を大きく上回った。しかし「遺訓」の具体的内容が何であるかは示されていない。
 そして「金正恩同志は永遠なる団結の中心」と主張するなど、「団結」という言葉を9回使用した。これも昨年の4回を2倍以上も上回る回数だ。金正日の遺訓と金正恩を中心とした団結の強調、これが今年の共同社説のすべてといっても過言ではない。団結の強調は、粛清の予兆でもある。

金日成を越えた金正日への賞賛

 血統により権力の正統性を確保することが既成事実化された北朝鮮ではあるが、新年共同社説の題名で死亡した父親の名と遺訓を強調したのは異例だ。これは金日成死亡の際にもなかったことである。
 そればかりではない。金正日の死を金日成の死よりも上位に置き「昨年私たちが全く思いがけなく偉大な金正日同志と永訣(永遠の別れ)することになったのは 5千年民族史で最大の損失でありわが党と人民の最大の悲しみだった」とし、金正日の死亡を金日成の死亡より大きな損失、かつ大きな悲しみであると表現した。今回の共同社説では金正日に対する賞賛は計57回に及んだが、1995年に金日成の死亡後初めて発表された新年共同社説では金日成に対する賞賛は計15回に過ぎなかった。
 また「偉大な金正日同志が導くことで、首領様(金日成)が創始なさった不滅の主体思想,先軍思想が自主時代の指導思想として光を放つことができ、白頭の革命伝統がしっかりと擁護固守され、わが党と軍隊の威力,国の国力が最上の境地に上り、半万年(5000年)の歴史でこれまでにない民族繁栄の大全盛期が開かれた」と金正日時代が金日成時代よりも豊かになり大全盛期が開かれたと賞賛した。この表現も金正日の業績が金日成のそれを越えたとするものだ。しかしそれは事実と全く異なる。
 金日成時代にはそれでも餓死者はいなかった。北朝鮮を物乞いする水準にまで転落させ、飢餓が蔓延する国へと変えたのは金正日の「先軍政治」だった。この事実に目をつぶり金正日の統治期間を「5千年の歴史の中でかつてない民族繁栄の大全盛期」と称賛する異常さには返す言葉もない。そして「金日成朝鮮」は「金正日朝鮮」に置き換えられ、金日成の名前は「民族」とだけ結びつけ格下げされた。

金正恩中心の団結を強調

 このように金日成を越える水準で金正日を偶像化するのは結局、「敬愛する金正恩同志は偉大なる金正日同志そのもの」と持ち上げ、金正恩が金日成を越える偉大な人物のように描写し、そのぜい弱な統治力を補強しようとするものであることは言うまでもない。
 共同社説は、「わが党と人民の最高領導者金正恩同志は、先軍朝鮮の勝利と光栄の旗印であり永遠の団結の中心である。敬愛する金正恩同志はすなわち偉大な金正日同志だ。全党、全軍、全人民が城塞、盾となって金正恩同志を決死擁護し、偉大な党に従い永遠に一筋を貫く透徹した信念を持たなければならない。困難な時であればあるほど領導者と歩調を合わせて行く真実の人間、領導者の意図を輝かしく実現するために走ってまた走る真の同志とならなければならない」と金正恩中心の団結を呼びかけた。この訴えには何か悲壮な響きさえ漂っている。

2、「軽工業」「人民生活」は昨年の40回から8回に急減

 共同社説は昨年に続き「強盛国家建設の主攻撃戦線である軽工業部門と農業部門で咸南の大革新の炎がより激しく燃えるようにしなければならない」と人民生活向上に力を注ぐことを力説している。しかし昨年の成果や具体的内容は示されなかった。ただ金正日の指導と献身により、2011年が強盛大国建設への大革新・大飛躍となった「勝利の年」だと自賛しただけだ。
 共同社説では、「今日の党組織の戦闘力と労働者の革命性は、食糧問題を解決する中で検証される」と幹部たちに責任を押し付け脅迫する一方で、他方ではすでに数年前から金正日が住民らに約束してきた「強盛大国」という用語を「強盛国家」「強盛復興」という言葉に格下げする姑息な手法まで見せた。
 そのためか、今回の新年共同社説では故金正日総書記の遺訓事業となる「強盛大国建設」に関連する「軽工業」と「人民生活」に対する内容は大幅に減った。昨年の社説では「今年は軽工業が総攻撃戦の主攻戦線(主力戦線)」とした上で、「軽工業」は21回、「人民生活」は19回登場したが、今年は「軽工業」は5回、「人民生活」は3回に減った。
 そうした中で「ハムナム(咸南=咸鏡南道の略)の火」を強調し自立的経済を強調したが、これは改革開放は行なわないとの意思表示と思える。「ハムナムの火」とは、一昨年故金日成主席時代に独自開発したという合成繊維「ビナロン」の工場を16年ぶりに再稼動したことを指すのだが、この「業績」が昨年の一大成果として宣伝されている。

3、内部統制の強化と先軍路線継承を強調

 中朝国境を介し、携帯電話を使った情報流出(内部との通話の多くは中朝国境地帯を通じ、中国キャリアーの携帯通信網を利用して行われる)や韓国ドラマなど海外情報の流入も増加の一途だが、これを反映するように共同社説では「帝国主義の思想・文化浸透を粉砕し異色な生活風潮を根絶する」との主張がなされた。
 金正日死亡の哀悼期間、通話状態は以前と大きな変化はなかったが、金正恩体制の発足後北朝鮮内部との通話がさらに難しくなった。平安北道新義州付近では、以前から北朝鮮当局の妨害電波のために通話が難しかったが、北部地方は大きな問題がなかった。しかし、今年に入ってから通話が途切れる現象が多発し、繋がらない場合も多い。北朝鮮の家族と定期的に電話をしてきた脱北者たちも、最近は通話がつながりにくいと述べている。
 咸鏡北道の消息筋も「脱北者を無条件で射殺せよとの指示が下され、人々は電話を避けている」と述べ、当分は電話をかけないでほしいと頼んだ。白頭の血統、金正日の遺訓を掲げ、統治基盤の安定化を図っている金正恩としては、権力の正統性と恥部が明るみに出る外部情報の流入が頭痛の種となっているようだ(デイリーNK2012-01-03)。
 内部統制を強化する一方で、共同社説は先軍路線の堅持を強調し、引き続き国防力の強化を主張した。そして「人民軍隊は先軍革命の柱、主力軍であり、強盛国家建設の突撃隊」であると位置づけ、金正恩体制においても軍中心の政治を展開することを明確にした。こうした先軍路線の継承は、核兵器を絶対手放さないとの路線継承を意味するものであり、その確固たる意思表示でもある。

4、韓国への非難さらに強く

 北朝鮮は昨年の12月30日、国防委員会声明で「李明博(イ・ミョンバク)逆徒は相手にしない」と表明し、今回の新年共同社説でも金正日の告別式に公式弔問団を派遣しなかったという理由で、李明博政権を「逆族一味」「審判対象」として非難した。2010年は哨戒艦「天安」爆沈事件や延坪島砲撃事件などで南北関係が最悪の状況にあったが、それでも北朝鮮は昨年の新年共同社説で「(南北)対話と協力事業は積極的に推進しなければならない」と主張していた。それに比べ、今年は正反対の内容になったと言える。
 共同社説はまた、4年ぶりに「米帝侵略軍を南朝鮮から撤収させねばならない」という主張も掲げた。この主張は米国に対する牽制でもあるが、李明博政権が米国の隷属政権だという韓国内従北主義者らの主張に油を注ぎ、それを煽り立てようとするところに主なねらいがある。
 韓国での総選挙(4月)、大統領選挙(12月)などの主要政治イベントを控えている。北朝鮮は李明博政権との対立点をより明確にし、野党勢力を後押して再び太陽政策政権を登場させようとしているのだ。
 共同社説はこれと関連し、10・4宣言5周年を強調、「南朝鮮では、外部勢力と結託し民族の利益を売り飛ばす事大売国策動を断固粉砕するための、大衆闘争の炎を激しく燃え上がらせなければならない」と主張した。金永南(キムヨンナム)最高人民会議常任委員長も、金正日の葬儀に参列した金大中前大統領の李姫鎬(イ・ヒホ)夫人との面談で、6・15宣言と10.4宣言の履行を強調している。
 この共同社説に対して李明博大統領は1月2日、国政運営の方向性を示す新年特別演説で、南北関係について「最も重要なのは朝鮮半島の平和と安定だ。われわれは機会の窓を開けている」と強調した。
 李大統領は、「北朝鮮が誠意を見せれば、朝鮮半島に新時代が来るだろう」とする一方、軍事的挑発を行った場合は「強力に対応する」とも語った。李大統領は、北朝鮮の核問題については、「今年は転機が訪れると期待している」とした上で、北朝鮮が核関連活動を停止すれば、すぐに6カ国協議を再開すると明言した。
 南北対話を呼び掛けたこの李大統領演説に対して、北朝鮮の対韓国窓口機関、祖国平和統一委員会のウェブサイト「わが民族同士」は、1月3日付で李明博・韓国大統領の新年演説を非難し、李政権に「これ以上、期待も望みもしない」とする記事を掲載した。
 記事は演説に対する韓国野党の主張を紹介する形で「これまでと全く変化がない」「深い絶望感だけが残った」と強調し、李政権を「相手にしない」としてきた北朝鮮の姿勢に変わりがないことを示し韓国世論の分裂を煽った。
 4日には、金正日総書記死去後の韓国側の対応を非難する「詳報」も発表した。詳報は金総書記の死去を受け、韓国軍が警戒レベルを引き上げたり、韓国政府が弔問を制限したりしたことなどを細かく挙げ、李明博大統領を名指しで批判。「犯した罪悪の代価がどれほど大きいか、身震いするような体験をすることになる」と脅迫した。
 共同社説に従い朝鮮総連もこの主張に合流し、一斉に李明博大統領糾弾を開始した。

5、対米交渉には前向き?

 共同社説は核問題や米朝関係については全く触れなかった。この点も注意深く見守っていく必要がある。故金総書記路線を継承する以上、昨年末までに米国側に示したとされる濃縮ウラン活動の暫時中断など、米朝関係改善を目指す方針を引き継いでいくものとみられるが、もう少し様子を見る必要がある。
 朝鮮総連の機関紙、朝鮮新報は「新年共同社説」について、北朝鮮が米朝関係に対して2012年までの目標を設定しているとする一方で、在韓米軍撤退を主張したことについては、「今後、朝米が進める非核化交渉の方向と内容を示唆したもの」と意味の分からない解説を行なった。文面から推察するに、米朝対話の過程で朝鮮半島の平和体制問題を協議し、在韓米軍撤退問題を提起する可能性を示唆したものと受け取れるが、もしもそうだとしたら米朝対話の進展は期待できないだろう。
 また、今年は関係国の政権移行期にあたり国際環境の激動が予想されるとした上で、「攻勢をかけて主導権を握らなければならない」と北朝鮮が対外的に外交攻勢に出るとの見通しを示したが、「韓国を叩き米国とは対話をにおわす」というこれまで使い古した「通米封南」の手法をぶり返すならば、それも期待はずれとなるに違いない。

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 北朝鮮が共同社説で金正日の遺訓に従って行動すると公言した以上、当分は北朝鮮情勢に変化を望むことは出来ない。むしろ今は、金正恩体制が直面するあらゆる状況に備え、多様な北朝鮮戦略を準備しなければならない時だ。金正恩が韓国への憎悪心で戦車部隊を訪問したとしたら今後の挑発行動にも注意を払う必要がある。今年は、米韓が大統領選挙を迎え日本でも選挙の可能性が高まっている。関係国が権力異動期を迎えているだけにこれまでにも増して米韓日の緊密な協力・連携が求められる。

以上

 
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