韓国大統領選で安哲秀(アン・チョルス)元ソウル大教授は11月24日、文在寅(ムン・ジェイン)候補との一本化交渉が難航する中、急遽大統領候補辞退を発表した。21日の文候補とのテレビ討論で政治経験
の未熟さが露出し文候補に遅れを取ったからだとの観測もある。
朝鮮日報、メディアリサーチが辞任直後に行った世論調査では、安元候補支持層の20.5%が与党セヌリ党の朴槿恵(パク・クネ)候補支持に廻り、21.4%が浮動層となったことが分かった。
安元候補の出馬取りやめを受け、文候補は候補一本化による相乗効果を最大化しようとしたが、思惑通りにはなっていないようだ。世論は今回の状況を候補一本化ではなく、安元候補の「退場」と受け止めた格好だ。
韓国大統領選の候補者登録は26日、締め切られた。中央選挙管理委員会によると、大統領選の候補者登録には、与党・セヌリ党の朴槿恵(パク・クネ、60)候補や最大野党・民主統合党の文在寅(ムン・ジェイン、
59)候補、統合進歩党の李正姫(イ・ジョンヒ、42)候補のほか、パク・ジョンソン(84)、キム・ソヨン(女、42)カン・ジヨン(63)、キム・スンジャ(女、63)の無所属候補ら計7人が届け出た。候補者は200
7年の前回選挙より5人減った。
韓国の選挙は記号式で行う。議席数により、1番は154席のセヌリ党の朴候補、2番は127席の民主統合党の文候補、3番は6席の李候補となっている。4番から7番は無所属候補。
1、安哲秀候補辞退の影響
各メィデアの調査を総合すると安元候補の支持層の6割が文候補支持に回り、2割は浮動層(支持候補なし、分からない、無回答)となり、2割が朴候補を支持する結果となった。候補一本化前に実施された世論調
査に基づけば、安元候補の支持層のうち20%程度が朴候補支持または浮動層に、70−80%が文候補支持に回ると見られていたが、実際には安元候補支持層で文候補支持に廻らない人が予想の2倍となった。
安元候補の支持票が動いた結果、文候補の支持率は以前より20ポイント弱、朴候補の支持率は7ポイント弱上昇した。浮動層は安元候補の出馬取りやめ前の9%台から取りやめ後には16%台へと約7ポイントも増
加した。
少なかった一本化効果
メディアリサーチの調査で「安元候補が出馬を取りやめる前には誰を支持していたか」と尋ねた結果、朴候補は36.7%、安元候補は32.4%、文候補は21.4%だった。文候補と安元候補の支持率を単純に
合計すると53.8%となり、朴候補を17.1ポイント上回る。
しかし、安元候補の出馬取りやめで、選挙戦が一騎打ちとなった結果、支持率は朴候補が48.0%、文候補が43.3%となり朴候補が4.7ポイントリードとなった。文候補の支持率は安元候補と文候補の合計支
持率に比べ10.5ポイントも減少した。一方、朴候補の支持率は6.8ポイント上昇した(朝鮮日報)。
11月26日(JTBC・リアルメーターは27日)に発表された報道・世論調査機関による朴・文候補調査結果は次の通りであった。
JTBC・リアルメーター(27日): 朴槿恵候補 46.2% 文在寅候補 46.2%
東亜日報 : 朴槿恵候補 45.2% 文在寅候補 41.8%(他候補除外)
朝鮮日報 : 朴槿恵候補 48.0% 文在寅候補 43.3%
中央日報 : 朴槿恵候補 46.6% 文在寅候補 41.1%
事実上の野党統一候補となった文候補が安元候補の出馬取りやめで支持率を伸ばせなかったのは、安元候補の支持層、中道層の多くが今回の候補一本化を党内選挙や譲歩による「正常な一本化プロセス」とは見ていないためとみられる。
韓国社会世論研究所のユン・ヒウン調査分析室長は「有権者は一本化ではなく『安哲秀の退場』と受け止めている」と述べた。文候補サイドはこれまで「美しい一本化」を図るとしてきたが、結果的に安元候補が一方的に出馬取りやめを余儀なくされ、支持者が失望したことが調査結果に表れた。リサーチ&リサーチのペ・ジョンチャン・リサーチ本部長は「候補者が一本化されても支持層の一本化を成し遂げられず、安元候補の支持層が浮動層となった」と指摘した(朝鮮日報2012・11・26)。
また野党による一本化の選挙戦略が1年あまりも続き、少々食傷気味になっていたことも関係している。2007年選挙時には盧武鉉候補と鄭夢準候補との一本化ドラマが盧武鉉政権誕生をもたらしたが、今回国民は冷静に対処している。
そればかりか安元候補支持者の中には「経験不足の安候補が老練な民主党候補に飲み込まれた」との考えがある。一本化過程で見せた文候補の手法に対する批判が根強く残っているということだ。その他、安候補に対する失望も一本化効果を減退させる要因となっている。
2、朴・文両候補の強みと弱み
朴槿恵候補と文在寅候補の強みと弱みはどこにあるのか?この点について東亜日報と世論調査機関による調査結果は次のように示した。
朴候補の最大の強みは外交安保分野。
外交安保がうまくやれる候補として応答者の48.3%が朴候補を、36.4%が文候補を挙げた。文候補を支持すると明らかにした応答者の中で20%は朴候補が文候補より外交安保が得意だと答えた。
経済成長分野も朴候補が有利な分野だと示された。
経済成長をうまくやれる候補として朴候補が47.8%、文候補が33.9%だった。文候補支持者の18.3%も文候補より朴候補が経済成長をうまくやるだろうと答えた。経済成長に敏感な大学生層では49.0%が朴候補を、39.6%が文候補を経済成長の適任者に挙げた。文候補が雇用創出を第1公約に打ち出したが有権者たちに十分な信頼を与えることができていないようだ。
一方、社会統合分野では文候補が有利と出た。
応答者の45.6%は文候補が朴候補より社会統合をうまくやるだろうと答えた。
朴候補がうまくやるとの回答は38.6%だった。朴候補も国民大統合を核心価値に掲げて湖南(全羅道)出身人士を積極的に迎えたが、有権者たちに強い印象を植えつけられなかったようだ。朴候補が一般支持率で文候補を大きく上回った釜山-蔚山-慶尚南道地域でも社会統合課題では△朴候補47.0% △文候補43.6%と大きな差がなかった。
政治刷新と経済民主化の課題では両候補の間で格差はほとんどなかった。二人の候補がともに政治刷新と経済民主化に力を入れたためと思われる
3、勝者はどちらに?
東亜日報とチャンネルAが11月24日リサーチ&リサーチ(R&R)に依頼した世論調査によると両候補の支持層は次のように現れた。
性別支持率では男性が△文候補46.7% △朴候補41.9%で文候補が4.8%ポイント優勢だった。しかし女性では△朴候補48.4% △文候補37.0%で朴候補の支持率が11.4%ポイント高かった。これは朴候補が打ち出した「女性大統領論」が女性有権者の期待と合致した結果と見られる。実際「女性大統領論に対してどう思うのか」との質問に女性の62.7%が共感すると答えた。男性の中でも共感するという回答は 50.4%と過半数を越えている。
特に20代女性でも共感するという回答が49.6%を占め、共感しないという回答(48.1%)よりも多かった。共感するとの回答は △30代女性51.7% △40代女性61.4% △50代女性75.1%△60代以上女性73.1%と年齢が高いほど高くなった。
年令別支持率では、相変らず20、30代は文候補、50、60代は朴候補の支持率が強く出た。社会の要に当たる40代では朴候補と文候補の支持率はそれぞれ44.1%、42.1%と拮抗した。現在のところ世代別支持率と投票率を勘案すれば朴候補が優勢な状況だ。文候補は20、30代を投票場にどのように向かわせるかが課題となる。朴候補にとっては40代にどれだけ食い込むかが最大のカギとなる。
地域別支持率を見ると、ソウルでは朴候補と文候補の支持率がそれぞれ43.6%、43.0%でほぼ同率となっている。大統領選挙勝利のバロメーターである忠清道でも △朴候補45.0% △文候補44.6%と接戦を繰り広げている。
今年の大統領選挙における最重要地域である釜山-蔚山-慶尚南道では、朴候補が53.1%と文候補(34.3%)を18.8%ポイント引き離している。しかし朴候補の支持率は、この地域で最小60%以上得票すれば勝利するという「60%ジンクス」には及んでいない。ちなみ2002年大統領選挙当時、盧武鉉(ノ・ムヒョン)前大統領は釜山で29.9%、蔚山で35.3%、慶南で27.1%を得票した。
こうして見ると、現在のところ、わずかではあるが朴候補がリードしているようだ。このまま推移すれば朴槿恵候補が勝利する可能性が高い。世論調査でも50%以上の有権者がそう考えている。
しかし、韓国の選挙は「風」が大きく影響を与える。大きな風は「スキャンダル」と「北風(北朝鮮の介入)」だ。「北風」については、北朝鮮が「朴候補が大統領になれば戦争だ」と騒いでいるが、以前ほど大きな影響はないだろう。もちろん「延坪島攻撃」のような挑発があれば別だが。
変数は「スキャンダル」と安元候補の動向だ。
朴候補には以前から取り沙汰されている「プイル奨学会」の後身の「正修奨学会問題」がある。父親の朴元大統領時代、釜山の実業家から奪ったと噂されている問題である。
文在寅候補にも大きな火種がある。2007年の南北首脳会談で、当時の盧武鉉大統領が金正日総書記に「NLL」を放棄する」との「約束」を行なったとする「疑惑」である。文候補は大統領秘書室長としてこの会談に陪席している。
こうした両候補の問題点が再沸騰すれば、直前に世論の批判を強く受けた側が不利となるだろう。
あと残るポイントは、投票率であるが、若年層の投票率が予想以上に伸びれば文候補に有利となる。そのカギを握るのは候補辞退した安元候補の動向だ。
11月27日から両候補とも本格的遊説に入ったが、どちらにせよ勝負は僅差でつくことになるだろう。
以上