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北朝鮮による核戦争挑発の狙い

コリア国際研究所所長 朴斗鎮

2013.4.22

 金正恩第1書記は3月の1カ月間、停戦協定の破棄、“核で火の海”などの脅迫を行い3月30日には「南北は戦争状態」と宣言した。そして4月に入っては開城工業団地への入境制限に続き北朝鮮労働者の引き上げ、平壌駐在の大使館と国際機構に退去を勧告、ソウルの外国人と外国企業および外国機関の退去まで促した。
 北朝鮮は外に向けて正に戦争勃発前夜という危機感を作り上げているのだが、このところの北朝鮮国内では一時高まった緊張が緩和される状況が作り出されている、。
 そうした中で北朝鮮は16日、朝鮮人民軍最高司令部は韓国政府に送る「最後通牒状」を発表し、「傀儡(かいらい)当局者が心から対話と交渉を望むならば、これまで敢行したすべての反共和国敵対行為を謝罪し、全面中止するという実践的な意志を全同胞の前に示さなければならない」と迫った。
 これは4月15日に故金日成主席の誕生記念日を民族最大の慶事として祝う中、韓国の保守団体がソウルの中心地で金正恩第1書記らの写真をつけた人形を燃やすパフォーマンスを行ったことに対する対抗措置のようだ(聯合ニュース2013/04/16)。
 3月5日に「休戦協定の白紙化」を宣言し3月30日には「南北は戦争状態」と宣言した朝鮮人民軍最高司令部が、4月16日になって、「これから戦争するぞ」という「最後通牒状」を送るというのはどう考えてもおかしな話である。
 こうしてみると今回の核戦争挑発の主な狙いは、どうやら祖父や父に比肩しうる権威の構築に利用することにあるようだ。「首領独裁制」という特異な政治形態をとる北朝鮮では、首領(最高権力者)の絶対的権威確立が生命線となるからだ。

1、対米核戦争「心理戦」で金正恩の偉大性を演出

 経済再生でつまずいた幼く業績のない金正恩第1書記は、奇跡的に成功した長距離ミサイル(ロケット)の発射と核の小型化を狙った核実験の成功(?)を最大限に活用して、自己の権力絶対化を促進しようとしている。“言葉爆弾”は核爆弾級だが、言葉を後押しするほどの実質的行動がほとんどないのもそのためだ。見せるための動きは一部あるが、大規模な軍事挑発を準備する動きはほとんどない。
 この作業で最も手っ取り早く効果的なのは、「核戦争を挑んできた米帝を撃退し勝利した」とのストーリーを捏造し宣伝することである。北朝鮮国内ではいま、こうしたストーリーでの宣伝が連日行なわれている。
 労働新聞は、金正恩第1書記就任を記念して4月11日に掲載した「社説」で金正恩を次のように賞賛した。
 「領導者の偉大性は、活動年数や職責で決まるものではない。領導者としての資質と実力で評価される」
 「元帥の政治的決断力、革命的原則性は千万軍民に必勝の信念を与えてくれる源泉であり、敵のあらゆる軍事経済的圧殺策動を水の泡にする鉄槌である」
 「金正恩同志は過ぐる1年の間に普通の政治家が数年、数十年かけても成し遂げられなかった巨大な業績を積み上げた」
 「これほど短い期間に世界の民心を掴み国際社会に巨大な影響力を行使する社会主義政治指導者を歴史は知らない」。
 また14日掲載した正論では「前代未聞の対決戦でわれわれが主導権を握り、敵はうろたえている」とした上で「白頭の天出名将の千里慧眼の叡智と無比の胆力、鋼鉄の気質がこの地と全世界を震撼させている」「断固たる決断がいつ、どんな方法で実行されるか、敵は予測できないし、その結果の災いを想像することさえできない」と主張し、「敵には死が待つ恐怖の春だ。われわれには災いを福に変えた勝利者の春だ」と「勝利宣言」した。
 こうした論調からもうかがえるように、今回の「核戦争挑発」の直接的狙いは、米国をすぐさま交渉の場に引き出すことではなく、金正恩の「偉大性」を宣伝してその体制を固め、今後繰り広げられる「対米交渉」での主導権確保にあったようだ。

偉大性宣伝のキーワードは「度胸」と「軍事の天才」

 北朝鮮の宣伝部門はこの間、「偉大な指導者金正恩」を定着させ、一人立ちした「首領独裁制」を早期に機能させるためのプロパガンダを集中的に行なった。
 労働新聞が今年に入って最も強調しているのは「敬愛する金正恩元帥同志」の「度胸」と「軍事的リーダーシップ」である。
 北朝鮮が好戦的な態度を見せ始めたのは、年末の「光明星3号」ロケット発射に対して国連安全保障理事会が制裁決議を採択した後からだ。1月25日付の労働新聞1面トップ記事は「国の自主権を守るための全面対決戦に乗り出す」と題した国防委員会の声明だった。
 ここから金正恩は各種軍事行動の先頭に立ち始めた。1月27日付の労働新聞1面は「金正恩国家安全および対外部門幹部協議会指導」を、2月3日付は「金正恩党中央軍事委員会拡大会議指導」を報道した。この席で北朝鮮は3度目の核実験を決めたようだ。労働新聞は13日付で前日に3度目の核実験を行なった事実を報道した。
 続いて北朝鮮は定例大規模軍事演習に入ったが、労働新聞はこの時から金正恩が軍行事に参加した内容を集中的に報道し始めた。21、22、23、26日に相次いで軍部隊訪問と軍事演習「指導」を報道した。
 3月4日付2面に掲載された「金正恩の板門店訪問」記事では、金正恩の「度胸」を繰り返し強調した。「敵と銃口を向け合っている激戦前夜の最前線である板門店に、それも明るい昼間に、敬愛する元帥様が来られるとは、いったい誰が思っていただろうか」といった具合だ。
 この記事は、昨年8月に西海(ソヘ、黄海)の延坪島(ヨンピョンド)と向き合う長在島と茂島を訪問したエピソードなどを入れ、1年間に金正恩が見せた「度胸」を最大限に「称賛」している。
 金正恩はこの記事が出た3日後、長在島と茂島をまた訪問した。3月8日付の労働新聞は1面全体でこの事実を報道し、2面には橋もない島に小舟に乗って到着した金正恩を軍人が熱烈に歓迎する姿の写真が載せられた。またも“度胸”を見せつけたのだ。
 3月12日付にはペクリョン島向かいの月乃島を訪問した内容、14日付にはペクリョン島と大延坪島を狙った砲射撃訓練の指導、21日付に巡航ミサイル迎撃訓練の指導、23・24・25日付に軍部隊訪問、27日付に東海岸上陸訓練の指導などが続いた。
 29日付は、この日未明、金正恩が作戦会議を招集し、米国本土とハワイ・グアムと韓国米軍基地を打撃できるよう待機状態に入ることを指示したとする報道だった。金正恩が国の運命を左右する決断を下したとする記事だった。
 こうした一連の記事では、金正恩が「度胸」を示して先頭に立ち、米国の軍事的圧力に真っ向から立ち向かうというイメージづくりに焦点が合わせられている。
 しかし4月1日の最高人民会議出席以後、金正恩は2週間姿を見せなかった。「核戦争」プロパガンダで米韓日のメディアを「乗っ取り」、「タフな金正恩」を世界に十分宣伝できたと考えたからであろうか?それとも朝鮮半島上空に現れた核弾頭搭載可能なB52およびB2ステルス爆撃機やF22ステルス戦闘機に恐れをなしたためだろうか?

2、核戦争「心理戦」のもう一つの狙い-対米交渉力の極大化

 韓国の朴槿恵大統領は4月11日、青瓦台(大統領府)で行われた与党議員らと会合で北朝鮮のメガトン級の「心理戦」に耐え切れず「北朝鮮と対話する」との考えを示した。自らが掲げた対話や人道支援を通じ南北の信頼構築を目指す「朝鮮半島信頼プロセス」について、「必ずスタートさせなければならない。状況が難しくても『プロセス』であるため、常に進められる」と説明した。
 しかし北朝鮮はこれを拒否する姿勢を示し、南北対話の早期開催は難くなった。北朝鮮の対韓国窓口機関「祖国平和統一委員会」の報道官は14日、朝鮮中央通信記者の質問に答える形で、韓国政府の提案について「開城工業団地を危機に陥れた犯罪的行為の尾を切り落とし、対決的姿勢を隠すためのずる賢い術策だ」と非難した。報道官は「北侵戦争演習と同族対決謀略策動にしがみついてきた者たちが謝罪や責任について一言も言及せずに対話を提案したことはあまりにも恥知らずな行為だ」とした上で、提案の内容も「中身がない」と主張した。また、「北南対話は遊びではなく、言い争いの場でもない。南朝鮮(韓国)当局が真の対話の意志があるのなら根本的な対決姿勢を捨てることが先だ」と強調した。
 こうした中で米国もケリー国務長官を韓国、中国、日本に送り、対話に向けた連携を話し合った。
 まず米韓両政府は13日未明、前日の外相会談を受けて声明を発表し、北朝鮮が非核化を履行するなど「正しい選択」をすれば、米朝や日朝間の国交正常化に向けた対話などを進めるとした2005年9月の6カ国協議の共同声明を履行する用意があると表明した。
 ケリー米国務長官は13日には北京入りし、習近平国家主席や李克強首相、王毅外相らと相次いで会談、北朝鮮の挑発行動を抑え込み、朝鮮半島の非核化を目指すことで一致を見た。ケリー氏は習指導部に対し、北朝鮮への一層の説得を要請、中国の影響力に期待を示した。
 その後14日、日本にも訪問し安倍晋三首相、岸田文雄外相と会談、「非核化のための対話」が原則であることを再確認し、東アジア歴訪を締めくくった。
 しかし北朝鮮外務省は4月16日、ケリー米国務長官が訪問先の日中韓3か国で北朝鮮に対話を促したことについて、「米国による核の脅威を抑えることができるだけの十分な核抑止力を備えた段階に至って、(対話は)初めて可能だ」との報道官談話を発表した。談話は「対話に反対はしない」としながらも、「核を振りかざした相手との屈辱的な交渉テーブルにはつかない」とし、米国などに核保有国としての同等な立場での交渉を求めた。
 続いて北朝鮮の国防委員会は18日の政策局声明で、「(韓国と米国が)本当に対話と交渉と望むなら、全ての挑発行為を直ちに中止し、全面謝罪すべきだ」と主張し、そのためには▽昨年12月の長距離弾道ミサイル発射を巡る制裁決議の撤回▽米韓の合同軍事演習(訓練)の永久的な中止▽戦略爆撃機など「核戦争手段」の韓国などからの撤収―の三つを求めた。このような対話の条件は米韓日が到底受け入れられるものではない。
 この一連の主張を見ても現在北朝鮮が対話を急いでいないことが分かる。今回の戦争挑発は金正恩の絶対的権威を高めることと、対米交渉力を極限にまで高めることが最大の狙いだったからである。
 北朝鮮は今後「平和」を人質にしてその都度「核戦争か平和か」の2者択一を迫り、挑発を波状的に繰り返してくるだろう。米国に対しては核保有国であることを認めさせ「平和協定締結」を求める外交を展開し、韓国に対しては「後戻りできない太陽政策」を本格的に求めてくるにちがいない。長距離弾道ミサイルと小型化した核を持ったことで時間は自分たちに味方していると「確信」するからだ。

*          *          *

 北朝鮮は「核戦争」を叫び、「停戦協定の白紙化」「火の海」「無慈悲な懲罰」「戦争状態」「最後通牒」などの「言葉爆弾」と「映像爆弾」を米韓日に浴びせてきた。そして「異例な場面」を見せつけることでそれが「本気」であると思い込ませようとした。
 米韓日は、「万が一」を危機管理するために金正恩の「核戦争心理戦」に付き合わされた。しかし任意の時刻に戦争が起こるとあれだけ騒ぎながら、いままでのところ北朝鮮は韓米日に一発の銃弾も撃っていない。
 この「核戦争心理戦」によって金正恩の名前は世界中に知れ渡り、北朝鮮国民には、米帝を打ち破ったタフで豪胆で世界が恐れる「偉大な指導者」のイメージが焼き付いた。
 「核戦争心理戦」のお先棒を担がされ、すわ「第2次朝鮮戦争」だの「米朝全面核戦争」だのと騒いだのは、韓国、日本の一部「テレビメディア」であり、日本で先頭に立って扇動したのは「北朝鮮問題の第一人者」などと持ち上げられている評論家であった。
 とはいえ、北朝鮮の挑発が終わったわけではない。主導権を取り交渉力を高めるために中距離弾道ミサイル「ムスダン」を発射してくる可能性は依然として残っている。韓米日は、今後とも冷静に対処して、北朝鮮の挑発にはいかなる対価も与えないとの断固たる立場で結束するとともに、中国を巻き込んで金正恩体制の暴走を押さえ込んでいかなければならない。

以上

 
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