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今週のニュース

「金正恩式独裁」で崩れゆく権力基盤

コリア国際研究所所長 朴斗鎮

2014.5.7

 北朝鮮では、張成沢粛清処刑の余波がいまも収まっていない。張成沢人脈の摘発と、めまぐるしい人事異動は続いている。そればかりか外交の閉塞と外貨の枯渇、遅々として進まない経済改革などどれ一つとして安定に向かっているシグナルはない。
 そうした中で金正恩第1書記は、「自分色」を出すために権力のバックボーンである「白頭の血統」にまで手をつけ金慶喜との関係まで悪化させている。またこれ見よがしの崔龍海の降格人事で抗日パルチザンの流れまで軽んじる行動に出た。恐怖政治を強化する一方で自分が依って立つ権力基盤までも弱体化させているのである。
 「白頭の血統」が色褪せれば北朝鮮の首領独裁権力の正統性維持は難しい。彼はそれを知ってか知らずか、一人独裁体制を急ぐあまり意のままに動く幹部で周辺を固めようとしている。妹・与正登場の次が黄炳瑞の登場である。

1、姿を消した「白頭の血統」金慶喜

 金慶喜は、張成沢と共に金正恩の後見人として金正恩体制強化の役割を果しながら「白頭の血統」の継承者として金正恩政権の「血の正統性」を支えてきた。しかし、張成沢粛清後は姿を現していない。姿を現していないだけでなく、役職から退た気配もある。彼女が主に主管してきた 軽工業部門が大きく再編されていることがそれを示している。
 まず、4月9日に開かれた最高人民会議では軽工業省が廃止された。また金慶喜が担当していたとみられる党の役職でも後任が決まったようだ。新たな党書記として呉秀容(オ・スヨン)が、部長に安正秀(アン・ジョンス)が就任した。2人の担当は不明だが経済分野とみられている。この人事が軽工業部門に属する紡績工場の従業員寮完工式(5月3日)の報道で明らかにされたことも意味深長だ。
 呉氏については4月9日の最高人民会議(国会)で予算委員長に選任されたばかりで兼務とみられる。ラヂオプレスによると、安氏は今年1月まで、内閣の軽工業相の肩書で北朝鮮メディアに登場していた。
 では、金慶喜が表舞台に登場しなくなった背景にはなにがあるのか?
 考えられるその第一は、張成沢粛清とのからみである。
 金慶喜は、張成沢と共に金正恩の後見人として役割を果しながら、主に軽工業部門を担当してきた。左遷された朴奉珠現首相を党の軽工業部長に引き上げたのも彼女だと言われている。朴奉珠は党軽工業部長として経済改革にも携わってきたが、昨年3月の党政治局会議で党政治局委員として首相に抜擢された。
 この軽工業部門の傘下には、さまざまなサービス企業体が網羅されている。例えば中国資本との合弁で作られた高級鉄板焼きで有名な「ヘダンファ(はまなす)館」などがそれある。金正恩政権となって以降、平壌市内に姿を現した飲食店などはほとんどが軽工業部の管轄下にあった。軽工業部傘下の「人民奉仕総局」が管理していたのだが、外国資本との合弁が多いために張成沢人脈とも重なっていた。しかし「人民奉仕総局」の責任者は張成沢人脈であったために今回粛清された。
 他方張成沢処刑を許した「夫殺し」の汚名のために、大衆の面前に出られなくなったか、または自ら出るのを辞退しているのではないかとの観測もある。
 その第二は、金慶喜と金正男との関係である。
 金正男は金正日と成恵琳の長男として生まれた。金正男は、金正日による略奪婚の結果生まれた子供であったために、その存在は金日成には知らされず、いわゆる「日陰者」として育てられた。その過程で金慶喜が深く関わったことはいうまでもない。また成恵琳が高英姫との葛藤の中で精神的疾患に悩まされることになり、金正男に対する金慶喜の愛情が深まったとも言われている。
 そうしたことから、金慶喜は金正恩が後継者となり金正男が遠ざけられる中でも、金正男に対する資金供給を行なっていたといわれている。シンガポールなどで金正男と会っていたとの情報もある。こうしたことが今回の張成沢粛清がらみで問題となった可能性は否定できない。
 その第三は、金正恩が権力の味をしめる中で、金慶喜をも疎ましくなったことだ。
 一説によると、2008年8月に金正日が脳溢血で倒れた時、急きょ金正恩を後継者にするための家族会議が持たれたのであるが、そこで金慶喜が「若すぎる」として積極的に賛成しなかったとの情報がある。これは伝聞・噂の類であるが、2008年以降に高位脱北者がもたらした情報であるため、ある程度の信憑性は認められる。
 こうしたことが、金正恩の心の底に遺恨として残り、ある種「報復」という形で、今回の張成沢粛清をキッカケに金慶喜から権力を奪い取ったという見方もできる。
 その第四は、重病に冒されていることである。
 金慶喜がアルコール中毒に冒され、家系がらみの心臓疾患を抱えているというのは定説となっている。事実この十数年の間に金慶喜は一回りも二回りも小さくなっている。重病だとの説が説得力をもつ所以だ。
 金慶喜が表舞台に登場しなくなった背景としては、以上の4つが複合的に重なったことも考えられる。

2、辱められた「革命伝統」崔龍海

 北朝鮮の朝鮮中央通信は4月27日、労働党の中央軍事委員会(中央軍事委)拡大会議が開かれたと伝えた。中央軍事委は3月17日にも開かれており、1カ月半の間隔での開催は極めて異例だ。同通信は今回の会議で「組織(人事)問題」が話し合われたとしている。
 この会議で、金正恩第1書記は軍内の「政治事業」を強調したという。自身に対する忠誠度教育が足りないと言及したのだろう。軍で政治的綱紀問題を担当してきたのは崔龍海元総政治局長だった。
 崔龍海は先月11日、最高人民会議の出席者と記念写真を撮影して以降、公の場から姿を消していた。4月15日に平壌で開かれた「第1回飛行士大会」や25日の朝鮮人民軍創建82周年記念行事にも出席しなかった。軍内序列トップが軍の創建記念日に姿を見せなかったのは異常である。崔龍海が姿を見せない理由をめぐっては、病気説と失脚説がささやかれていたが、わかってみれば軍に対する政治事業を問題視された「降格」であった。
 崔氏の動向は5月2日に行われた元山の松濤園(ソンドウォン)国際少年団野営所(キャンプ場)竣工式で明確となった。除幕と完工の辞を述べた際、党秘書(書記)と紹介された。その序列は黄炳瑞、金己男、崔泰福に次ぐものであった。この序列と軍服を脱いだ姿から推察すると、人民軍総政治局長だけでなく政治局常務委員の肩書も外されたに違いない。残る党中央軍事委員会副委員長と国防委員会副委員長については今のところ明確ではないが、多分外されたと思われる。
 この降格理由として考えられるのは、過去の張成沢との関係、軍の財政確保と政治教育不足。軍内部の不満などがあげられるが、ナンバー2は必要ないとの金正恩の強いメッセージが込められている可能性が高い。抗日パルチザンの「血統」を引くものであっても金正恩の一人独裁に障害となればいつでも除去するとの強いメーセージを送ることで求心力を高めようとしているのであろう。
 この崔龍海降格は、労働党組織指導部の軍担当第1副部長の黄炳瑞(ファン・ビョンソ)が進めたとされている。崔竜海の不適切な言動を金正恩に報告し、金正恩に降格を決意させたらしい。これと関連しては、最近金正恩が、前方軍部隊の戦闘態勢能力に対し「問題がある」として崔龍海を公開叱責したという情報もある。
 朝鮮中央通信は4月26日、金正恩が朝鮮人民軍第681軍部隊の砲撃・射撃演習を視察し、「部隊の戦闘準備がよくできていない。部隊の党委員会が党の政治事業を実行できていない」と批判したと報じた。軍部隊別に置かれる党委員会を管轄しているのが総政治局長だった崔龍海だ。この記事は、崔龍海降格の理由説明であったようだ。

*4月26日の朝鮮中央通信によると、北朝鮮の金正恩第1書記は砲兵の射撃訓練を視察し、「反米対決戦を目前に控えた今、戦闘準備より重要なことはない」と強調、緊張感が足りないと部隊関係者を叱責した。視察日は不明。
金第1書記は、訓練で兵士が迅速に行動しなかったと指摘し「この部隊の指揮官の心は戦場から離れているようだ」と叱った。また、兵士がビジネスなど訓練以外の業務に動員されている実態を指摘し「生活改善のために副業もしなければならないが、常に戦闘準備を優先させなければならない」と訴えた(共同)。

 抗日武装闘争の革命伝統を誇る家系といえども金正恩式独裁の前では顔色を失う状況となってきた。

3、登場した金正恩の忠臣?黄炳瑞

 北朝鮮の朝鮮中央通信は4月28日、朝鮮労働党の黄炳瑞・組織指導部第1副部長に、朝鮮人民軍次帥の称号が授与されたと報じた。また5・1節慶祝の労働者の宴会で祝賀挨拶に立った黄炳瑞は人民軍総政治局長と紹介された。
 定かではないが、黄炳瑞は昨年12月、張成沢処刑を主導したといわれている。今回の崔龍海降格をも主導したとしたら金正日時代の重鎮二人を粛清・降格させたことになる。黄炳瑞の出身地や正確な年齢は判明していない。中国メディアは黄炳瑞が65歳だと報じたが、韓国統一部が発行した「北朝鮮主要人士人物情報」によると、1940年年生まれ(74歳)となっている。
 黄炳瑞は2010年9月の朝鮮労働党第2回大会で人民軍中将(韓国軍の少将に相当)、2011年3月に上将(同中将に相当)へとスピード出世していたが、今年の4月15日第1回飛行士大会で大将への昇進が確認されている。そして直近の中央軍事委員会拡大会議で次帥に昇進した。昨年は金正恩第1書記の公開活動への随行頻度が崔龍海氏に次ぐ2位だったが、今年に入ってからはトップとなっている。黄炳瑞はこの間、党においても組織指導部副部長から組織指導部第1副部長に昇進していた。
 黄炳瑞の登場は、白頭の血統色を薄めさせてでも、金正恩色を前面に出そうとする象徴的現象だ。これで金正恩の周りは、金正日時代にはほとんど名前が知られていなかった黄炳瑞、李永吉、張正男、などが固めることになった。今後黄炳瑞は超高速出世に報いるために軍内で金正恩絶対化を強力に推し進めるだろう。しかしこうした人事で金正恩政権が強固になる保証はない。
 黄炳瑞の登場は、張成沢粛清で後見人体制から離脱した金正恩の金正日離れを内外に示した象徴的人事であるといえる。この人事が吉と出るか凶と出るかは分からない。だが金正恩政治の2年間を振り返ると凶と出る可能性が高い。特定の人物が高速出世を果たすとき、その反対でそれを阻止しようとする力が作動するのは政治力学の常である。正恩の母親高英姫にかわいがられたという黄炳瑞の登場は、金正恩政権の落日を示す悪しき「星」となる可能性が高い。

 

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 恐怖政治と人事権乱用で求心力を高めようとしている金正恩第1書記であるが、彼を取り巻く環境に好転の兆しはない。こうした中で盛んに第4回核実験が騒がれている。金正恩は核実験強行に突破口を見つけようとするのだろうか。
 核実験を強行すれば中国との関係が一層悪化するに違いない。また国連安保理制裁が一層強化され米朝対話も遠のくだろう。やっと再開にこぎつけた日朝交渉も再度凍結されることになる。もちろん韓国との関係も前進せず、金剛山観光の再開や「5・24措置」の解除もなくなる。
 第4回核実験の強行は、間違いなく金正恩政権の首を絞めることになるのだが、それでも北朝鮮は核実験を強行するのだろうか?過去のパターンでは推し量れないのが金正恩政権だ。金正恩第1書記は義理の叔父まで平然と殺す人物である。何があってもおかしくない。常人では彼の思考と行動を分析するのは難しい。

以上

 
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