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今週のニュース

北朝鮮は米国の先制攻撃に全面戦争で応じられるのか

コリア国際研究所所長 朴斗鎮

2017.4.18

 米国の先制攻撃に対して、はたして北朝鮮は全面戦争で答える能力があるのであろうか? 結論的に言って金正恩が誤判すれば反撃に出るかも知れないが、現在の北朝鮮にはその能力はない。
 いま日本メデイア、特にはテレビメディアでは、米朝軍事衝突に対する危険性を毎日のように報道しながら、米国が先制攻撃すれば、それがそのまま全面戦争につながり、韓国ばかりか日本にも破滅的被害が及ぶと喧伝している。あたかも北朝鮮の「脅迫宣伝」に同調しているかのようだ。
 だが米国が先制攻撃を行った場合、北朝鮮が全面戦争に出られるのかどうかについての具体的検証はほとんどなされていない。ニクシュ氏が強調した「トランプ政権が米側の軍事攻撃が必ずしも全面戦争にはつながらないという認識を強め始めたようだ」との点についての分析がなされていないのである。ここ20年間の北朝鮮の核・ミサイル技術の向上については強調されるのであるが、その間の米国の軍事技術向上と新兵器の能力についてはほとんど分析されていない。またこの間に変化した北朝鮮の内情についても分析されていない。
 当研究所が得た内部情報では「北朝鮮内部はいま戦争ができる状態ではない。米国から先制攻撃を受けても反撃できないであろう」とのことだった。
 以下ではこの情報をもとに、北朝鮮が全面戦争に出られないいくつかの要因をあげてみる。

1)反撃の要である「一心団結」はすでに崩れている

 金日成時代、少なくとも金正日時代までは、指導者を中心とする団結があったために、米国が攻撃を加えてきたら全面戦争で反撃する能力はあった。その典型的な例が「1968年の米偵察艦「プエブロ号拿捕事件」に絡む米朝一触即発事態であった。
 この時元山沖に空母エンタープライズをはじめとする米国第7艦隊が集結し、韓国軍と駐韓米軍は臨戦体制に入った。そして金日成は「報復には報復で、全面戦争には全面戦争で」と豪語した。結局米国側はプエブロ号船長が謝罪文を書くことで船長以下の乗員全員が釈放された。しかしプエブロ号は没収された。その後「プエブロ号」の電子装備は旧ソ連のスカッドミサイルと交換され、その後の北朝鮮ミサイル開発の元手となった。
 もちろんこの北朝鮮の強気の背景には「一心団結」だけでなく、中・ソのバックとベトナム戦争での米国の苦戦があったことは言うまでもない。
 この時とは反対に北朝鮮の金日成が「遺憾の意」を表明して矛を収めたことがある。
 それは1976年8月18日に起こった軍事境界線共同警備区域(JSA)での「ポプラの木伐採事件」である。共同警備区域内に植えられていたポプラ並木の一本を剪定しようとした、韓国軍兵士と韓国人作業者と国連軍の1国であるアメリカ陸軍工兵隊に対して朝鮮人民軍将兵が攻撃を行い、2名のアメリカ陸軍士官を殺害、数名の韓国軍兵士が負傷した。この時に米韓軍は兵力を動員し全面戦争直前までいった。平壌の住民80万人が疎開し、それによって北朝鮮の人材配置のバランスが崩れたと言われている。この時はまだ社会主義体制を守ろうとする「一心団結」と中ソとの軍事同盟が維持されていたが、北朝鮮に名分がなかったのと米韓軍が「本気度」を示したために北朝鮮側が降りたのである。
 しかし、金正恩時代に入って北朝鮮は、配給制はすでに崩壊し、思想による団結もなくなり、「恐怖」と「お金」が支配する「格差社会」「賄賂社会」となった。義理の叔父の張成沢をはじめとする金正恩の側近は次々と粛清され、体制の守護を担う金元弘国家保衛相まで力をそがれた。そして金正恩は実兄の金正男まで暗殺した。過去の「一心団結は」はもうない。あるのは「面従腹背」だ。
 また貧富の格差が広がる中で平壌と地方、富裕層と貧困層、老幹部と若手などの溝が深まり対立が深まった。そして「市場経済」で生活する人々の心は金正恩から離れて久しい。こうした北朝鮮社会の変化を促進させているのはおびただしい外部からの情報流入だ。韓流ドラマをほとんどの人たちが見ており、話し方まで韓国式になっている。
 こうした中で一般の一部国民は「外から一撃を加えてくれればこの体制を壊し、身分制度から抜け出せるのに」と語っているという。未遂ではあるが金正恩暗殺計画まで発生しているという。この状況での平壌防衛は困難だと見てか、現在北朝鮮は「不純思想」に侵された60万人の平壌住民を地方に強制移住させようとしているらしい(中央日報日本語版2017年04月11日)。

2)一般兵士は戦える状況ではない

 大部分の一般兵士は栄養失調で戦える状態ではない。兵士は入隊すると戦闘訓練ではなくまず「盗み」から覚えなくてはならないという。わずかばかりの食糧配給まで上官がくすねるからだ。
 また下級兵士に対する「しごき」も半端ではない。そうしたことから下級兵士の上官に対する恨みは累積している。国家保衛省幹部は、「戦争が起これば敵に銃を向ける前に上官に銃を向けるだろう」と語った。
 戦える兵力は、ミサイル・ロケット部隊、特殊部隊20万のうちの5万名、サイバー部隊など比較的に好待遇を受けている部隊の兵士たちだけだという。

3)通常兵器は使い物にならないし、それを動かす油もない

 通常兵器はほとんど使い物にならないだけでなくそれらを動かす油もない。ポンコツの戦闘機や潜水艦はすべて「神風特攻隊」、「人間魚雷」用として使われるという。
 ただ脅威となるのは最近開発されたという「ロケット砲」だ。このロケット砲がどれだけあるかは分からないが、ミサイルとは異なり低空を飛んでくるので一斉射撃されれば防ぎようがない。通常兵器で米韓軍が最も脅威と考えているのはこのロケット砲だが、しかしこれも地上に出なければ発射できない。米韓軍はその時に一気に掃討する作戦を立てているというが、韓国側に相当な被害を与えるだろう。

4)米国本土を打撃する長距離弾道ミサイルはまだ完成していない

 何よりも米本土まで届く核ミサイルがまだ完成していない。完成していれば実験を繰り返す必要がない。これが先制攻撃に反撃できない最大の要因だ。もちろん潜水艦から発射するSLBMも完成していない。そして実践で使えるSLBM用の潜水艦もまだ建造されていない。

5)長期戦に耐えうる財政的基盤がない

 北朝鮮はその財政状況から見て1週間で韓国全土を占領する「短期電撃戦」を想定している。しかしこれはほとんど「自己満足」の作戦計画だ。米韓軍に前線のロケット部隊を壊滅させられ、同時に平壌を焦土化されればそこですべてが終わる。ある北朝鮮軍の脱北者は、金正日だけが突出しているのと同じく、平壌だけが突出しているのでそこが焦土化した時点ですべてがマヒ状態に陥るとしている。

*          *          *

 北朝鮮の核ミサイル技術については過少評価してはいけないが、通常兵器と兵士の士気については過大評価してもいけない。特に住民の忠誠度低下は想像以上に深刻化している。
 また米国は、すでに核爆弾の所在をはじめ、その製造拠点の詳細まで把握している可能性もあり、それらを一気に壊滅させる可能性がある。北朝鮮の核ミサイル技術の進化については多く語られているが、米国の武器進化については未知の部分が多い。北朝鮮が長距離核弾道ミサイルを進化させている間、米国の軍事力と軍事技術も恐るべき発展を遂げた(例えばMOAB爆弾で軍事境界線沿いに配置された長距離砲やロケット砲部隊の兵士を一瞬の内に窒息死させる)。米国は、北朝鮮からの全面的反撃を抑止する攻撃力をすでに構築したと思われる。そればかりか金正恩の動線など「斬首作戦」を実行するための相当精密な北朝鮮情報を保持している可能性が高い。
 こうしたことを勘案すると、北朝鮮は少なくとも韓米合同軍事演習の期間は、核実験もICBMの発射も行わず、次の機会をうかがうだろう。また米国もすぐに軍事行動に移るのではなく、一坦中国に対北朝鮮説得を任せその本気度をうかがうだろう。米軍の軍事オプションが考えられるのはその結果次第だ。

以上

 
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